第3話 診断結果

待っている間も、ほとんどパン目当てのホームレスは何人も来ていた、検査を素直に受ける人がほとんどだがたまにいる「パンをさっさとよこせ」と言う人の対応をしているスタッフを見ていると内田は1人大変だなと思って見ていた

彼も、少し前までサラリーマンとして働いていたパソコンや書類関係の事務仕事をしていたがなかなか上手くいかない日々が続いていた。大学を出て新卒で入社し2年目の夏、仕事の流れや内容をなかなか理解出来ない彼に同僚や社員は見切りをつけ始めていた。そんな空気が耐えられなかった、内田は昔から他人の視線や評価を人一倍敏感に感じてしまうのだ。そして視線が彼を蝕み動きと思考を制限し成長を妨げて、さらに周りの目は厳しくなるという負のループにハマり彼は、耐えれずこの冬退社、、彼は働けなくなったこれが彼が死のうとした直近の理由でもあった

しばらくすると、内田は1人スタッフに呼び出され奥へと案内された

スタッフについて行きしばらくドアの並んだ廊下を歩いているとスタッフがドアの前に立ち止まりノックを3度叩き、「内田様をお連れしました」と言うと「お入りください」と中から聞こえた、それを聞きそのスタッフはドアを開け「どうぞ」と内田に中に入るように促した、彼が中に入ると、スタッフは一緒に入らずドアを閉め業務に戻って行った

部屋は少し広く、目の前に机と椅子が置いてあり机の反対には男が2人女が1人計3人が座っていた。そして、机の向こうには何故かカーテンで向こう側が見えないように目隠しをしていた

そして、カーテンの端、壁際でスーツを着た1人の男が立っていたあの公園で内田に案内の紙を渡したあの男である

「どうぞ、おかけください」

そう言われて内田は、目の前の椅子に座った

「お若いですね、今日は健康診断を受けていただきありがとうございました。私は今回の検査の担当医の森と申します」

それを聞いて内田は、少し会釈をすると向こうも軽く返した

「さて、早速本題に入ろうと思うのですがその前に彼から聞きました昨日自殺をしようとしていたとか?」

「あ、、はい、そうですね、、」

内田は言葉に詰まっていた

「無理に話さなくても大丈夫ですよ、人生色々ありますよね、それでは本題なのですがもしそのお命不要なのでしたら我々に売って頂くことは可能でございますか?

医者がこんな事を言うのもおかしな話ですよねハハハ。」

突然の話と医者の笑い声に内田は目を丸くしていた。命を売る?その言葉を聞いて壁際に立っているスーツの男に言われた事を思い出していた「もし、トップの成績を取ることが出来たら楽に死ねるんですよいかかです?」の言葉

「あの、どういう事ですか?死ぬんですか?僕」

「混乱するのも分かります。そうですねなんと言いますかうーん、、」

医者が説明に詰まっていると隣りの男が話し始めた

「それについては、私から説明しましょう。

初めまして、私はこの健康診断の主催者である井川光一(いかわこうちい)と言います。

実は本日このようなイベントをした理由は全て私達の娘の為なのですよ、、

私達の娘は、いま難病にかかっており治すには心臓と腎臓を移植するしか無いとこちらの先生から言われたのです。しかし、少子高齢化の進む日本ではなかなか移植に使える臓器が無く、このままでは手遅れになってしまうと思い今回ドナーを探すと言う目的でこのような健康診断を開催させて頂きました。

内田さん、貴方の検査結果を見せて頂きましたがとても健康体で素晴らしいものでしたし何より娘との適応率も基準をクリアしていた。

お金ならいくらでも払います!その他ご要望があれば出来る限りお答えいたします!どうか、どうか私たちの娘を救ってはいただけないでしょうか!?」

内田は混乱していた、とりあえず少しでも落ち着こうと情報の整理を始めた。

とりあえず、昨日スーツの男が言っていた事それは心臓と腎臓をこの井川という人に売るという事だという事、そしておそらく目の前の男の隣にいるのは奥さんでこの2人が娘を救おうと今回の健康診断を始めたということ、そしていま自分の心臓と腎臓を売って欲しいと目の前の人達に頼まれているという事

「え、、売るってそんな事急に言われても、、」

「混乱されるのも分かります。しかし、あまり時間もありません、、おいくらなら売って頂けますか?2億ですか?3億ですか?」

「2、、億って、、」

「一般社会人の平均生涯賃金が2億と少しと言われていますから参考までに言ってみました。勿論それ以上でも出せる範囲なら必ずお支払いいたします。」

「なんで、そんな大金持ってるんですか?」

「私達は、現役の演奏家で一様、世界でも演奏する事があるくらいは有名なんですよ。また、楽器を扱うお店もしているのでそこで資金の調達をしております。」

演奏家?夫婦揃って?確かにこんな大きなイベントを開催できるだけの資金があるのだから3億くらいすぐ払えるのかもしれない、、ただ、、ただそうだったとしても、、本当に売ってしまっていいのか?いや、なぜ悩む?死にたかったのだろう?どうでも良かったのだろう?ようやく楽になれる、ようやく死ねるのになぜ迷う?

内田の頭の中は不安と恐怖と疑問と迷いでいっぱいだった

気付けば隣の奥さんも夫と一緒に頭を下げていた。その2人に押されろくに考えれなくなりとにかく帰りたいという事だけが内田の頭を支配しようとしていた時、カーテンの向こうから、「お願いします」という声が聞こえた。

「え?」と、内田がカーテンの方を見た女の子の声だった

「お父さん、私もそっちに行ってお願いしたい、行ってもいい?」

「いや、そこに居なさい大丈夫だお父さん達がお願いしておく、そこで待ってなさい」

「でも、私の事なのにいつまでもお父さんとお母さんに任せていられない、お願い!」

声的には若かった、2人の両親は見た感じ40代後半だろうか?ならばカーテンの向こうの子は10代後半くらいだろうか?

内田は、目の前の問題の大きさに耐えられず別のことで紛らわそうとしていた

「あの、娘さんってまだお若いんですかね?」

少しでも話題を変えようと内田は質問をした

「え、ええ、今年で20歳になります」

「20歳ですか、まだまだ若いですね、、あの、もし良かったらどんな方か見せてもらっても構いませんか?」

内田からその言葉を言われ、両親は困っていた、まだ移植の承諾も貰ってないのに娘にまでリスクを背負わせて見せるべきか、、しかし、こんなお願いをしていれば必然のような事、どうしたらいいのか、、2人は対応に困っていた。

「お父さん、私いいよ、そっちに行ってもいい?」

カーテンの向こうからの声に井川は、背中を押され奥さんを説得し出てくることを許可した。

壁際に立っていた男がカーテンを開けるとそこには、身長160センチほどの細身でロングの黒髪を伸ばし、自信のあるようなしっかりした目をした女の子が立っていたのであった



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