第200話 たーたま、あんと

 ミスティル抱っこのまま応接間のような部屋に案内された。

 アンゲリカさん達がまた床に座って謝罪をしようとするのでレーヴァが止める。


「まずはかしこまったり特別扱いをしないでほしい。姫は特別扱いが好きではないからね」

「しかし………」

「本人がそう望んでいるのだから普通にしていいよ」


 レーヴァの言葉を聞いて、皆さんがやっとソファに座った。


「まずは謝罪をさせてださい。先日のティアの態度が悪かったこと。本当に申し訳ない」

「ティアと俺とリーダーで罰を受けるので、どうか許してほしい」

「いえ、悪いのは私です。どうか私1人に………」

「おとって、無いよ?」

「姫は怒っていないって」


 なんでこんなに謝るんだろう?って思っているくらい忘れてたよ。

 あの時の塩対応のことかな?


「わたち、おとってない。わたった。しゃじゃい、うてゆ」

「怒っていないし、謝罪を受けるって。姫が優しくて良かったね」


 皆さんホッとした表情を浮かべる。


「もう1つ。貴女様を拠点に呼びつけたりして申し訳ありませんでした」

「んう?」


 別に気にすること無いのに。


「だいじょぶ」

「無理に来いと言われた場合はお断りしますが、主殿が受け入れる場合は問題ありません」


 私達が問題ないんだから気にしないでと言うと、アンゲリカさん達は一度頭を下げてからようやく落ち着いた表情を浮かべた。



「それより、今日は食べ物を買うんでしょ?」


 ミルニルに言われると、そうだった!と笑うアンゲリカさん。


「怪我をしたり、意識を失っていた子供達が元気になったのでポーションも必要ないし、金に多少の余裕が出来た」

「子供達に今日は戴冠式だから特別な食事だと言ってあるぜ」


 アンゲリカさんもニイナさんも嬉しそうだった。


「独り立ちした奴らにも声をかけたし、かなりの量になると思う。大丈夫だろうか?」

「それは問題ない」

「よしゃんは?」

「予算は1人3千エンくらいで……今日来るのは73人だったか?」

「だいじょぶ?」

「独立した奴らや成人した奴らも資金提供してくれることになっている。問題ねえ」


 そう?

 じゃあ端数切って、20万エンの食べ放題飲み放題にしよう。


「主が20万エンで食べ放題飲み放題にすると言っています」

「えっ、食べ放題飲み放題?そんなことをしたら赤字になるぜ」

「食べ盛りばっかりだぞ」


 お土産付きだよ。


「皆に土産もつけるそうです」

「増やしてどうするよ!」


 私達は改めて商業ギルドカードを出して見せ、優秀商だから大丈夫なんだよと説明する。

 本当は再構築と複写だから資金かかってないしね。


 念の為もう一度、他の商人達には強請らないよう徹底して欲しいとお願いする。

 アンゲリカさんはもちろんだと約束してくれた、



「あー。ティア?ティティ?大丈夫か?」


 その間もポーッと私達を見つめる2人。


「あ、あの。ごめんなさい。………眼の前に神がおわすことが信じられなくて」

「しかも神に食事を賜ることが、夢のようで」

「何故そう思う?」

「それは…私達兄妹にハイエルフの血が半分流れているからです」


 ティア・ソニアンさん達は小さい神様や精霊とともに生きるハイエルフとエルフのハーフ。

 生粋のハイエルフほどではないけれど神力を感じ取ることができるんだって。


 ティア・ソニアンさんが野営地で困惑していたのは、あの天罰の日に感じた神力と同じ力を私に感じたかららしい。



 めっちゃバレバレだったね!

 でもあまり詳しいことは言えないから、いつもの話をしておこう。



「たみしゃま、ちあう。わたち、ちゅたえゆ、神子」


 完全なる神様じゃないので嘘じゃないよ。


「お嬢は神に仕える神子だ」

御使みつかい様なのですね?」

「でも神りょ……」

「とにかくそういうことにしておいてくれ」

「は、はいっ」


 と言うことにしてもらって、食事を出す部屋に案内してもらった。



 場所は1階の食堂と、食堂の引き戸を開けると見える庭。

 庭の端には小屋が建っており、そこに臨時預かりのシスターと子供達が住んでいるんだって。


「清浄、てったい、張っていい?」

「食堂と庭にクリーン付きの結界を張っていいか?」

「ありがたいがいいのか?料金は…」


 料金は20万エンに含みますよ。

 準備をするので食堂の外で待っていてね?


 私は食堂と庭に清浄付きの結界を張った。雨や紫外線避け付き。


 鳳蝶丸達はテーブルや椅子、ビールサーバーや飲み物などを用意している。

 私は食べ物を用意するよ!


 唐揚げとアスパラの肉巻き。

 玉子サンドイッチのセット、イチゴジャムのロールサンド、白身魚フライバーガー、アクアパッツァ、海老の塩焼き、ポムイモの煮っころがし、野菜スープ、サラダバー。

 飲み物はオレンジジュース、リンゴジュース、サイダー、紅茶(温・冷)、珈琲(温・冷)。

 ビール、赤ワイン。


 もっと贅沢な料理を出せるけれど、アンゲリカさん達に見てもらって豪華になり過ぎないものにした。


「この料理も俺達にとっちゃかなりの贅沢品だけどな」

「でもこれからは、稼いだ分で多少良いものを食べさせてあげられると思う」


 うんうん。

 緊急で上級ポーションを購入する必要がなくなったもんね。



「あっ、わしゅえてた」


 目覚めたばかりの子供達に唐揚げは重いかも。

 忘れてた。


「こえ、どうじょ」

「眠っていた子達にはこちらをどうぞ、と言うことです」


 ホワイトシチューとロールパンを出す。

 食べられたら唐揚げでも良いけれど、お腹に優しいほうがいいかな?と思って。


「何から何までありがとうな」

「ん~~、いい匂い。俺達も食べていいか?」

「あい、いいよ」


 皆でお腹いっぱい食べてね。



 それからお土産もあるよ。

 一応焼き菓子セットを2人に見てもらう。


「気持ちはありがたいが、こんな贅沢品は……」


 でももう一部の子は知っているの。


 臨時屋台の話をしたら、アンゲリカさん達にビックリされた。

 屋台の手伝いの話はまだ聞いていなかったみたい。


「仕事が一段落して帰ってきた途端に神のメッセージだったから、まだ拠点の子らとゆっくり話をしてなかったんだ。世話になったな。ありがとう」

「とちやも、たしゅたいまちた」

「こちらも助かりました、ということですよ」


 もうすでに焼き菓子セットの存在を拠点の子らが知っているならば自分が買い取ると、アンゲリカさんが申し出てくれた。

 でも、これはあくまでも私からのお土産なので売らずにプレゼントです。

 ただ日持ちしないから早めに食べるよう皆に伝えてね。



 準備を進めていると拠点にいる人や子供達が寄って来る。

 その中に小さな子供の集団がいて、そばにはティティ・ソニアンさんが付き添っていた。


「この子達は、今朝まで意識が無かったり大怪我をしていた子供達なんです」


 ティティ・ソニアンさんは泣きそうな、でも嬉しそうな笑顔を浮かべている。


「よたったね」

「はいっありがとうございました」

「うんっ」


 もうティティ・ソニアンさん達に取り繕ってもバレバレなので、素直にお礼の言葉を受け取ろう。

 すると、私くらいの歳の見目麗しい赤ちゃんがヨチヨチと歩み寄ってきた。


「たーたま」


 皆さんが頭に?を浮かべている。

 でも私にはわかる。

 神様、と彼は言ったのだ。


「たーたま、あんと」


 神様、ありがとうって。


「どう、いたち、まちて」


 そして私と手を繋いだ。


 他の子とも手を繋いてテーブルに近付く。

 コンロで温めている寸胴鍋のところへ行き、まずはこれを食べてみてねと伝えた。

 皆はホワイトシチューとロールパンからだよ?大丈夫ならば色々食べてみてね。



「皆、席についたか?飲み物は行き渡っているか?……よし。今朝話した通り、今日は戴冠式という特別な日なので俺達も祝うことにした。今日はごちそうだ。皆、腹いっぱい食べてくれ。今回料理を提供してくだすったのは、商人のサクラフブキさん達だ。特別に豪華な食事を用意してくだすったのでまずは感謝を」


 アンゲリカさんの横に立っている私達に皆さんが頭を下げた。


「今回の奇跡で子供達の怪我が治った。俺等にとっては何よりの喜びだ。皆で祝おう!」



 わあ!



 皆さん盛り上がって拍手した。


「日々の幸福を神に感謝いたします」

「奇跡を起こしてくださりありがとうございます」


 私達以外が熱心に祈りを捧げる。


「では、子供達の全快を祝して、乾杯!」

「乾ぱーい!」


 笑顔と安堵の表情。

 皆さんが楽しそうに飲み物を飲んで、食べ物を取りに行く。


 皆さんの顔を見ていると、治って良かったなあって心から思う。

 そして……地球にいた時にこの能力ちからがあったならば、父と母を治癒してあげられたのかなと心によぎる。

 今となっては詮方無いことだけれど。



 皆さん好きなように食べ始める。

 寝込んでいた子供達には、シスターがシチューをよそい食べさせていた。


「美味しい!」

「こんなの初めて!」


 口一杯に頬張る姿は幸せそうで、私も嬉しくなる。

 私が食堂やお庭を眺めていると、アンゲリカさんとニイナさんが私の隣に立った。


「こんな光景が見られることになるとは思わなかったぜ」

「ああ、本当に」


 ご飯を皆で食べられて良かったねと言うと、アンゲリカさんとニイナさんが顔をクシャッとさせ泣きそうな顔をしてから笑顔になり、大きく頷いた。




御使みつか……」

「お嬢はゆき、俺は鳳蝶丸だ」

「わたしはミスティルです」

「俺はレーヴァだよ」

「俺はミルニル」

「私はハルパ」

「色々面倒ごとがあるから名前で呼んでくれ」

「は、はい」


 ティア・ソニアンさん達は私達の存在を感じてしまうので緊張しているみたいだった。


「ゆき様の拠点はミールナイトなのですか?」

「うん…しょうね」


 定住するつもりはなかったけれど、土地を購入したのでそうなるかな?

 神々がエイエイって祝福して聖地になったから、もう手放せないしね。


「じゅっと、いない。でも土地たった」

「毎日いるわけではないが、拠点となる土地は買った」

「そうなんですね………」

「それがどうかしたか?」


 ティア・ソニアンさんとティティ・ソニアンさんは、顔を見合わせ頷き合う。


「折り入ってお話がございます」

「なあに?」

「我ら兄妹を、ゆき様と皆様のしもべにしていただけないでしょうか……」



 ん?

 うえっ、しもべ!



「私達は体も心もゆき様にお救いいただきました」

「そして優しいお心に感銘を受けたのです。お許しいただけるのならば皆様のお役に立ちたいと思っております」


 私達の存在を感じ取れるからそうなっちゃうの、かな?


「まじゅ、治しゅ、たみしゃま、ちしぇち。わたち、ちあう」


 まず、貴方達の弟さんを治したのは神様が私に命じたから。…とは言えないので、神様の奇跡で私じゃないと伝える。


「わたち、ちもべ、いなない」


 しもべになってもらうだなんて私のガラじゃないもん。

 従者と名乗っている皆のことだって、家族みたいなものだと思っているくらいだし。


 皆の通訳でそう告げると、ティア・ソニアンさん達が悲しそうな顔をする。

 そ、そんな顔しないで。


「おとももち、いいよ」


 それならせっかくだからお友達になろうよ。

 【虹の翼】のお姉さん達みたいに!


「主殿は、友達なら良いと言っています」


 ハルパ通訳で友達になりたいと伝えた。

 鳳蝶丸がそれに付け加える。


「俺達には旦那達に言えないことが多々ある。だから仲間として迎えることは出来ない。友人と名乗るのはかまわないが節度を守ってくれ。お嬢や俺達の在り方にあまり踏み込まないように頼む」

「姫が悲しんだり苦しんだりするようなことをしなければいいよ」

「主殿が何と言おうと、我らの判断で動く場合がありますので覚悟の程を」

「主に迷惑をかけないでください。そうなった場合は許しません」

「主さんは俺達が守るよ」


 皆ありがとう!



「わたち、王都、ちたや、また、たお、だしゅ」


 せっかくティカ・ソニアンちゃんの怪我が治ったんだし、私達のしもべになんてならず、皆と楽しく過ごして欲しい。

 王都に来たらまた顔を出すね。


 そう伝えると、ティティ・ソニアンさんが頷く。


「ゆき様の負担になってはいけないわ。私達は私達のすべきことをしよう」

「………そうだね。ゆき様、お騒がせいたしました。この拠点にまたぜひ遊びにいらしてください。何か困ったことがおありの時はお声がけください。我らはいつでもゆき様の味方です」


 友人と言っていただけるとは身に余る光栄。

 ですが、許されるのならば友と名乗らせていただきます。


 ティア・ソニアンさんとティティ・ソニアンさんが微笑む。


「俺も友人の中に入れてくれるか?」

「俺もな」

「うんっもちよんよ!」


 もちろんだよ!

 アンゲリカさんもニイナさんも名乗りを上げてくれた。


 ありがとう。

 お友達が増えました! 




 このあとは全員に焼き菓子セットを配り、テントに帰ることにする。

 明日は用事を済ませて、明後日の朝早く旅に出るんだ。

 今回は突っ張り棒ではなくて、最後の伝説の武器に会いに行くよっ。



 頑張るぞ。

 おーーー!

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