第199話 ジャンピング&スライディング! ON THE GROUND

 ひとしきり盛り上がったあと、新国王、王妃、教会関係者が退場し、高位の貴族から移動を始める。

 皆さん興奮冷めやらぬ様子で、治った箇所を指しながら移動していった。



 言っておかなくちゃいけないことを思い出したので、私達はシュレおじいちゃん達の後をついていくことにする。

 やがて到着した部屋は、この間来た時降りたバルコニーのある部屋だった。


 部屋には国王と王妃の他に、若い青年3人、女性1人。少年1人、少女1人、教会関係者、地位が高そうな人達、複数人の護衛が待機している。

 鳳蝶丸がシュレおじいちゃんに近付いて、伝えたいことがあると小声で告げた。


 シュレおじいちゃんが頷いて、護衛の兵士達に何があっても攻撃しないようにと告げる。そして国王ファミリーに頭を軽く下げてから私達に声をかけた。


「御使い様、どうかお姿を現してくだされ」

「教皇猊下?御使い様がどうかされましたか?」

「この部屋にいらしているのですよ」


 シュレおじいちゃん以外はハッとした表情を浮かべる。

 私達が気配完全遮断を解くと、一同がザッと膝をついて頭を垂れた。



「こにちちわあ」


 張りつめた空気にのまれ、思わず変な挨拶をしてしまう私。

 お間抜け挨拶に緊張がほぐれたのか、部屋にいる一同の肩の力が少し緩む。


「発言のお許しをいただきたく存じます」

「あい、どうじょ」

「御使い様のお目にかかり、幸甚に存じます。我が名はメルヴェイユ。この度ラ・フェリローラル王国の王と相成りました」

「あたやちい、王しゃま、おめでと」


 王様は言葉を詰まらせ、涙を溜めて深く頭を垂れた。


「神々、そして御使い様に大いなるお力をいただき我が国の憂いは晴れましょう。感謝をしてもしきれぬ思いにございます」

「良いちゅに、ちてね。だんばえ」

「良い国にして欲しいと言うことだ」

「はっ!」



 国民の皆さんがバルコニーの外で待っているだろうし、私達はそろそろお暇しなくては。その前にロッドについている魔石について話をするよ。


「しょえ、てったい、ちた」

「そのロッドに魔力を充填したうえ結界の力を付与した。王都を覆うくらいの結界が張れるので、いざと言う時に使用してくれ、と言うことだ」

「!!!」


 皆さんが驚いた表情を浮かべる。


「はちゅどうはぁ、てったいよ………」

「主殿。言ってしまうと発動してしまいますよ?」


 ハルパの手が私の口を塞いだ。

 いや、手が大きいので顔を塞がれちゃいました。


「しょうだた」


 顔がハルパの手の中だったので、声がこもっちゃったよ。



 ハルパがメモ帳とボールペンを出し私に渡す。

 ヨロヨロなぐり書きで[結界よ、我らを護り給え]を唱えると発動と、魔力が切れれば結界も消えると書くと、ハルパが私の文字の下に清書してくれた。


「これを言うと発動するそうです」

「充填、しゅゆ。またちゅたえゆ」

「魔力さえ充填出来れば、また使えるそうです」

「姫から戴冠の祝いだそうだよ」

「では、わたし達はこの辺で」


 ミスティルにサッと抱き上げられる。


「シュエ、おじいたん、とんど、おはなち、あゆ」

「ああ、そうでしたね。主が貴方に話があります。そのうち会いに行きますのでその時は時間をつくってください」

「もちろんですとも。大歓迎にございます」

「では、また」

「皆しゃん、バイバイ!」

「はい、バイバイ」


 シュレおじいちゃんが手を振る中、私達は気配完全遮断してバルコニーから空中へと移動した。




 しばらく見ていると、新国王と新王妃、その一族がバルコニーに姿を現す。

 お城の広場に集まった人々が一斉に声を上げ、拍手をし、手を振ると、王族ファミリーも晴れやかな笑顔で手を振り返していた。


 うむうむ。

 ロイヤルなファミリーを生で見るのは初めてだけれど、品がありますな。


「このあと15時からパレードだったか?」

「見に行きましょうね?主」

「うん!」

「その前に食事をしない?姫もお腹空いたろう」

「あい、おなた、しゅいた」

「俺も」

「では行きましょう、主殿。このままテントに戻りますか?」

「うん」



 飛行ひぎょうでカモフラージュテントまで戻り、気配完全遮断のままテントに入る。

 お昼はあんかけチャーハンと卵スープ。あっつあつで美味しかったよ。


 そのあと皆でお風呂に入って、イチゴミルクを飲んで、のんびり過ごす。

 少しだけどお昼寝もする。

 おやすみなさい。




「目覚めたかい?」

「んみゅ………」

「姫。取り敢えず結界3と気配完全遮断してくれるかな?あとは眠っていていいから」

「うん………」


 寝ぼけまなこで皆に結界3をかけ、自身を気配完全遮断にする。

 後はまた寝ちゃったけれど、その間に皆がパレード会場に向かってくれていた。



「姫、そろそろ時間だよ」

「今日の主さんはいつもよりおネムだね」

「お嬢は神力や魔力をいつもより沢山使っているからな」

「パレードが始まるらしいですよ、主」


 ふあっ!

 パレード!


「目だしゃめた。間に合った?」

「パレードが少し遅れたみたいです。まだ始まっていませんから安心してください」


 パレードが遅れた理由は、皆が一斉に完治して騒ぎになったから。


 原因は私だった!

 良いことだから許してね。



 遠くからファンファーレが聞こえる。

 たぶん馬車が出発したんだね?


 西門メイン通りは沢山の人で溢れかえり、皆キラキラとした笑顔で馬車が通るのを待っていた。


 私達は飛行ひぎょうで少し上を飛んでいる。

 このまま俯瞰で見るつもりです。



 しばらく待つと、カッポカッポという軽やかな馬の蹄の音が聞こえて来た。


「あ、お馬しゃん」


 まずは黒馬に乗った近衛兵達の姿が見える。

 次に歩兵。次はまた黒馬の騎兵隊。

 その後ろには白馬の騎兵隊。


「たっといい!ちえい!」


 格好いいね!綺麗ね!

 【幼児の気持ち】爆上がり中です。



 そしていよいよ王族の馬車がやって来る。

 豪奢では無いけれど白くて華やかな屋根のない馬車に国王と王妃が乗り、手を振っていた。


 その後ろの馬車にはあの部屋にいた青年達が乗っている。デビュタント前の女性や子供はパレードに参加しないらしく、乗っていなかった。


 気配完全遮断中なので気が付いてもらえないけれど、思わず私も手を振っちゃった。



「たのちたった」


 日本でも戴冠式は遠い世界の事柄だった。

 テレビの中継だって仕事中だと見られないし、ダイジェストを夜のニュースで観るくらいしかない。

 今回は厳かで神聖なる戴冠式が自分の目で見られたし、ワクワクと楽しかったよ。

 あ、もちろんパレードも!




「あっ!」

「ん?どうした?」

「たたち、もん、ジユド、どっち?」

「あ…………」


 【堅き門】が話していたギルドってどちらのことを指しているんだろう?

 冒険者ギルドに拠点の場所を教えるよう受付に言っておくって言われたけれど、冒険者ギルドって2箇所あるよね?どちらで聞けばいいの?


「彼女達が東門へ続く道の北門寄りで屋台を出していましたし、北門支部でいいんじゃないですか?」

「うん。まずは聞いてみて、ダメなら南門に行こ」


 ハルパとミルニルの意見で北門支部の受付に確認した。

 思っていたよりあっさり教えてもらえたので、今は【堅き門】の拠点に向かって歩く。道すがらにあちらこちらから腰が治った、肩が治った、傷が癒えたと言う声が聞こえてくる。


 皆さん嬉しそう。

 神様達の指示以外で大規模な治癒はしないけれど、こうして喜んでいる姿を見ると私も嬉しくなっちゃうよ。


 あっ!

 ミールナイトの治癒した皆さんに資金を返さなくちゃ。

 だって、少し待てば今日無料で全快したんだもんね?

 欲しい物を買ったら数時間後にセールで値下げしてたって、悲しかった思い出がある。

 もちろんその時お店に文句なんて言ってないよ?


 とにかく、後日ビョークギルマスに相談してみよう。




「ここか?」


 少しして、屋敷よりもちょっと倉庫っぽい?古い建物に到着。

 ここが【堅き門】の拠点みたい。


「こんにちは。シャクヤフブチ、いいましゅ。アンデイタ、しゃん、会いに、ちまちた」


 門に立っている青年に声をかける。


「あっ!こんにちは。リーダーから聞いてる!ちょっと待っ………」



 ダアン!!



 うえぇっ!!



 門の青年が建物に入ろうとすると扉が勢いよく開き、ティア・ソニアンさんと美しい女性が走って来た。そして私に向かって見事なまでの、華麗なるジャンピング&スライディング土下座を披露。


 固まる私達。

 固まるたまたま通りかかった人々。


 映画や漫画だったら1カメ2カメ3カメのカットが入ったに違いない。



「この度はありがとうございました!心より感謝いたします!ありがとうございました!」

「うえっ?」


 ティア・ソニアンさんが土に額を押し付けながらお礼を言った。


「そして、先日は失礼な態度を取り本当に申し訳ございません!戒めを受ける所存にございます!」

「兄が失礼な態度をとり、申し訳ございませんでした!わたくしも共に戒めを受けとうございますっ!」



 あわわわわ!



 私がアタフタしていると、鳳蝶丸がズイッと前に出る。


「とにかく立ち上がってくれ。悪目立ちしているぞ」


 ティア・ソニアンさん達がハッとした表情を浮かべ私達を見つめた。

 2人の額からパラパラと土が落ちるのがちょっと面白かった。

 って思ってごめんなさい。



 バアン!!!



 ふあっ!



 そこにアンゲリカさんとニイナさんが、どうしたティア、ティティ!と叫びながら扉を飛び出してくる。そして私達の存在に気付き更に大声をあげる。


「貴女様はあぁぁっ!」


 彼らもジャンピング&スライディング土下座しそうだったので、鳳蝶丸が急いで手で制す。


「お嬢は怒っていないから謝罪は不要だ」

「だが、しかし………」

「反対に凄く目立って困っているんだが」


 うおおぉ!スマン!

 慌ててアンゲリカさん達がティア・ソニアンさん達を立ち上がらせた。


「と、とにかく、入ってくれくださいませぃっ」


 言葉が変になっているアンゲリカさん。

 固まって見ていた人々から笑いがおこる。


 ねえ、早く建物に入ろうよ。

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