第197話 戴冠式とカチンコと

 翌日目覚めるとテントの自分の部屋だった。

 そばにいた鳳蝶丸におはようの挨拶をして、昨日は寝ちゃってごめんなさいした。


「大丈夫だ。気にしなくていい」


 お客さんが全員帰ってから皆でテーブルや小屋を仕舞ってくれたらしい。

 清浄カードがあるからそれで全部綺麗にしてくれたって。


 いつもありがとう。

 もちろん皆にもお礼を伝えたよ。



 今日は一日お祭りを楽しもうと皆で町に繰り出す。

 噴水広場では大道芸のような催しや、北欧の音楽みたいな曲が披露されていた。


 町の人達が曲に合わせて踊り出す。

 前にミールナイトで踊った花踊り!


「ミユニユ、ハユパ、踊よう!」


 ミールナイトで踊らなかった2人を誘う。


「ええ、喜んで」

「うん、踊ろう主さん」



 まずはハルパ。

 抱っこでクルクル回りながらステップを踏む。

 女性が男性と片手を繋げたままクルリと回るところでは、高々と上げたハルパの右手に立ってクルリと回る。

 手乗り半神とは私のことナリ。


「ちゃーん!たたーい」

「姿勢が綺麗ですよ、主殿」

「ぱちぱちぱちぃ」


 手を叩いて喜んでいると、周りからどよめきが起こる。

 赤ちゃんが手の平に乗ってまっすぐ立っているから目立つよね?

 でも楽しいからいいのだ!



 次はミルニル。

 ペアが横並びに手を繋ぎステップを踏みながら前に進む踊りの時、普通に抱き上げられて進んだので私は後ろ向き。

 前が見えないからスリルがあってなかなか面白い。

 サービス?で時折クルリと回ってくれるんだけれど、ピョーンと飛びながら回るので遊具で遊んでいるみたいに面白かった。


「ピョーンちて?」

「いいよ、ピョン!」

「わあぁっ」


 私が笑っていると、表情をあまり変えないミルニルも笑顔になる。

 周りの人たちから暖かい拍手をいただきました。



 

 お昼は広場で屋台の肉串と黒パンとスープを食べる。

 別の広場で大道芸を見たり、屋台を見て廻ったり、音楽演奏を聞きながら勝手に踊ったり、すっごくすっごく楽しみました。


 途中、お姉さんに絡まれたりガラの悪い人に絡まれたりしたけれど、我が家の皆は完全スルースキルを発揮して事なきを得ました。


 あ、悪そうな冒険者風の人は何人か投げ飛ばされていたけれどね!

 ミルニルに!






 戴冠式当日となりました。


 シュレおじいちゃん情報だと10時からウルトラウス教会で戴冠式が執り行われ、12時から14時頃まで軽い祝賀パーティー、15時から町中(西門メイン通りの一部)を王族達がパレードする。

 そして休憩を挟み、18時半から豪華な晩餐会が開かれるみたい。


 シュレおじいちゃんから晩餐会に招かれたけれど、することがあるからとお断りしたよ。いきなり私みたいな子供が参加したら変に思われるし、アレヤコレヤ詮索されるのは嫌だし。

 【堅き門】の拠点に行く約束もあるしね。


 本当は晩餐会をこの目で見てみたいなって思ったのは皆にはナイショ。

 エヘヘ。


 あ、名誉のために言うけれど、シュレおじいちゃんは神子である私だから教えてくれたのであって、その他関係者以外に話をしていないからね。




 フロルフローレ様との事前打ち合わせで私達の出番は戴冠式の直後に決まっている。

 早めに待機しておこうと言うことで、まずは気配完全遮断と飛行ひぎょうでウルトラウス教会に向かった。


 現在8時。

 関係者が右往左往している。

 私達は大きなウル様像の顔近くに浮かんで待機です。


 それにしても………。

 ウル様は某指輪がマイプレッシャースの白くなった魔法使いの、眉毛で目が隠れているバージョンって感じなんだ。

 でもこの像は、眼光鋭くキリッとした若い青年像となっている。

 見たこと無いだろうから仕方ないけれど、私の知っている姿とは全然違うんだよね。



『そういう姿にもなれるんじゃよ』

『フォッフォッフォッ』

『ウインク!(スタンプ)』


 神様って何でもアリ!



 ウル様像の両脇には、少し小さいサイズの若い男女の神像。

 女性は多分ウィステイリア様?

 男性の方はわからない。この間の地鎮祭でも会っていない、と思う。


 そして男女の神像の両脇には多分フロルフローレ様、そして知らない神様の5柱の神像が鎮座されていた。


「ウユ、しゃま。ウィシュテイニアしゃま、フヨユしゃま、あとは?」

「こちらはフィンストーゼ神。ウィステイリア神の兄神様です」

「こちらはメルテール神。豊穣と土壌の神であるため、花の国と称されるラ・フェリローラル公国では信仰されていたようですよ」

「フロルフローレ神の姉神様でもある」


 ミスティルとハルパと鳳蝶丸が説明してくれた。

 メルテール様はサハラタル王国周辺の土地神様。神様ラインでやりとりはしているけれど、ちゃんと会ってご挨拶はしていないんだ。

 フィンストーゼ様やメルテール様にいつか会ってご挨拶したいな。

 またお祭りでも企画しようかな?




 私が考えごとをしているうちに、ゲストが続々と会場に入場して来る。

 一部以外席は無く、皆さん立ったまま。身分が下の人からの入場らしく、外側の後列から人が埋まって行く。


 あっ、ガグルルさん達!レーネお姉さんやミムミムお姉さんもいる。

 あの辺りは調査隊メンバーかな?当たり前だけれど、皆さん正装していて格好良い。


 ローザお姉さんだ!あの辺りは伯爵位の人達かな。

 モッカ隊長やピリカお姉さんも発見したよ。


 サバンタリア王国やロストロニアン王国の関係者もいる。

 彼らは席に座っている。他国からの要人だもんね。



 しばらくして全ての招待客が揃い、ザワザワとしていた会場が聖職関係者の合図でシンと静まり返る。

 すると入り口から祭壇へと続く道を、重そうなマントを羽織った男性と年若い青年達が歩いて来た。


 祭壇前で神像に向かって跪き、深く頭を垂れる。



『そろそろです』

『結界の力を』

『送ってください』


 フロルフローレ様から指示が来たので、天罰を下した時のように結界4(平面)の力をフロルフローレ様に送った。



 マントを羽織った男性側が立ち上がると立派な椅子が運ばれてきて、彼は従者たちに手伝われながらそこに座る。

 マントの男性が新国王なんだろう。


 新国王の準備が整うと、シュレおじいちゃんが枢機卿のおじいちゃん達や教会関係者を従えて登場。

 周りの人々は膝をつき、他国の要人達は席に座る。


 新国王と一緒にいた青年達は、立派な椅子を取り囲むように跪いた。



 シュレおじいちゃんが聖典を左手に持ち、右手を天にかざして何かを唱え始める。その祝詞はこの国の言葉とは違うように聞こえて不思議だった。


「ととば、ちあう?」


 この国の言葉と違うみたいだね?

 すっごく小さな声で鳳蝶丸に聞くと、あれは古代語だと教えてくれた。


 全知全能の神ウルトラウス神よ、この者をこの国の王と定めるのでどうかお認めください。


 と言うようなことを言っている。

 全言語習得を持っているので内容は理解できるんだ。便利!



 枢機卿のおじいちゃんが持つ器にシュレおじいちゃんが指を入れ、新国王の額につける。

 もしかして聖水?


 次に別の枢機卿のおじいちゃんが持っていた大きな水晶をシュレおじいちゃんが受け取り、祝詞を上げながら新国王に渡す。


「あれは水晶だな」


 ほうほう。


 次に別の枢機卿のおじいちゃんがシュレおじいちゃんに立派なロッドを渡し、祝詞を上げながら新国王に渡す。

 ロッドの先には大きな魔石がついていた。


「あれはブルードラゴンの魔石らしいね」

「確か初代国王がドラゴンスレイヤーだったか」


 鑑定してみると初代国王のロッドと表示され、魔石を鑑定すると確かにブルードラゴンの魔石とあった。

 結構魔力を溜められそうだけれど今は入ってないんだね?と言うと、あの大きさに魔力充填出来るのはお嬢くらいじゃないか?と言われた。


 そうかなあ?



『そろそろです』

『準備を』


 フロルフローレ様からの指示。

 いよし!ぶっつけ本番、成功しますように!



 シュレおじいちゃんが祝詞を上げながら、新国王に王冠を被せようとしている。


「汝、ラ・フェリローラル国の王たる誓いを述べよ」


 新国王が少しだけ頭を垂れた。


「我が名はメルヴェイユ・ラ・フェリローラル。ラ・フェリローラルの指導者となり、父となり、国王となり、繁栄と安寧、そして心豊かなる国へと導くことをここに誓う」

「これよりメルヴェイユ・ラ・フェリローラルはラ・フェリローラル国の国王であることをここに宣言する」



 わああああ!



 先程まで怖いほどシンと静まり返っていた会場が一斉に湧いた。

 喜び合う者。立ち上がり拍手を送る者。


 皆歓喜していた。



『力を』


 私はプロジェクターの魔力をフロルフローレ様に送る。




「子らよ」


 威厳のある低い声がラ・フェリローラル王国中に響く。

 王国の端の小さな村にまで映像は送られた。



「先代の愚行を戒めとし、良き時代を築きあげよ」



 シン…………。



 静まる会場。

 ウル様の神像の前にはプロジェクターで映写されたウル様らしき一柱の姿。


 シュレおじいちゃん達が呆けながらも跪くと、他の人々もあとに続く。

 他国の要人たちも、映像に向かって跪いた。



 実はこれ、事前に撮影した映像です。


 ウル様に扮するはハルパ。

 ウル様からこう言ってね☆と言われたセリフを、威厳タップリに読み上げております。


 撮影時、レーヴァとミルニルが扇風機を強にしてハルパのウィッグを靡かせまくりました。

 生足が魅惑の人魚姫みたいです。白いローブだけれど。


 お顔は光り輝いてハッキリとは見えない仕様です。

 鳳蝶丸がPCで凝りに凝ったエフェクトをかけました。


 微かに流れる美しいハープの調べはミスティル演奏。

 でも曲目は某ゲームの有名なテーマ曲。

 ウル様リクエストによる選曲です。



 ちなみに映像は御本人達が確かめています。

 いや、それどころか撮影に参加しております。



 カモフラージュテントを1つ出してと言われて、ミールナイトの我が土地にテントを張ったら、その中を魔改造したウル様。


 広大な空間、しかも神域になったカモフラージュテント内。

 昼とも朝焼けとも言えない何とも美しい空と、足元には雲みたいな白いスモークが漂っている空間です。



「はい、ようーい、あいっ、アァクションッ!」



 ノリノリのウル様が映画監督バリに指示を出し、カチンコを鳴らすフロルフローレ様。

 困惑するハルパ。


 あの時は、大変不思議な時間が流れておりました。



 最初ウル様みたいな白髪と眉毛とおヒゲの衣装を用意したんだけれど、ウル様から25歳くらいの青年にしてほしいとリクエストがあったので急遽変更。


 ワシだって青年の姿に変化へんげできるモン☆

 と言うことでございました。


 鳳蝶丸が、どうせエフェクトかけるからと言われ、ハルパは白いローブと白髪のみで撮影に挑んだのでした。

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