第196話 トウモロコシのチョコとアイス、好きだったんだ

「やっと手が空きました!何をすれば良いでしょうか?」

「私も手伝えます」


 フィガロギルマスとベルトルトギルド長が小屋にやって来た。

 彼らも小屋に入れるよう、結界に許可の追加をしたよ。


 それでは、まず売り子をお願いします。


 鳳蝶丸と子供達が説明しながら売り子さんを交代する。

 ミスティルが小屋の裏にテーブルと椅子を出して、そこをスタッフの休憩場所にした。


「ミシュチユ、皆に、かやあで、どうじょ、しゅゆ」

「わかりました。休憩の間、唐揚げを好きなだけ食べて良いと主から許しが出ました。飲み物も好きなだけどうぞ。ただし仕事中のお酒は禁止です」

「えっ!何個でもいいの?」

「あい」

「………食べないで持って帰るのはアリ?」

「どちて?」

「………アタシの分はウチのチビ達に食べさせたいからさ」


 手伝いに来ている子供達は、お姉さん達の言葉を聞いて手を付けず下を向いている。

 お姉さん達に言われると食べにくいよねえ?



「アンゲリカと言う人と、後日【堅き門】の拠点に行く約束をしています。唐揚げはその時に持って行きますから、今日はあなた達が食べてください」

「えっ」

「本当?」


 途端に嬉しそうにする子供達。


「食べゆ、どうじょ」

「ありがとう!いただきます!」


 子どもの中で一番年上っぽいお兄さんが唐揚げに齧り付くと、他の子供達も食べ始める。


「お、お、お、美味しい!」

「すっごく美味しい!」

「ウマウマウマウマ…」


 少ししてお姉さん達も食べ始めた。


「うんまっ!」

「美味しい!」


 お腹いっぱい食べて休んだら、外回りの子達と交代してね?



 外回りをしていた商業ギルド職員さん達も休憩してもらう。

 今度はレーヴァ、ミスティル、鳳蝶丸が外回りをし、ミルニルとハルパが戻って来て売り子を始めた。


「俺達、売り子は初めて」

「そうですね」


 2人はしばらくフィガロギルマスとベルトルトギルド長のやっていることを眺めてからサッと交代し、そつなくこなしていた。



 私はと言うと、時間停止の箱に唐揚げセットを補充しつつ、ついで(ごめんね)にラエドさん組にも唐揚げ他を補充していた。

 って、味方が10万人?

 いきなり跳ね上がり過ぎじゃない?もうすぐ決着が着きそう?


 早あ!


 そうだ!

 疲れているだろうから甘いお菓子を提供しよう。

 出来立てほやほやの焼き菓子セットなんてどう?

 ………あっ。

 体育館の半分くらいの容量にありとあらゆる物を詰めている状態で、大き目の籐バスケット入り焼き菓子セット10万個は入らないかも。


 うんと………サハラタル王国は暑いから…。

 そうだ!私が大好きだったとうきびアイス最中にしよう!それなら10万個入るよね?


 小屋の中にベビーチェアを出して座っていたんだけれど、小さなテーブルも出してお手紙を書く。


 おつ かれ!

 甘 い 冷た い  美  味し い!


 殴り書きのような字と、トウモロコシの絵(黄色と緑の棒)を描く。


 決着するまで気を引き締めて怪我しないでください。頑張っている皆さんに美味しいアイスをプレゼントします。トウモロコシ(この世界にもあると確認済)の形の皮ごと食べてね。冷たくて美味しいよ!とハルパに書いてもらい、共有に入れた。


 全部が終わったら何かお祝いしなくちゃね?




 屋台の方はますますお客さんの列が増えている。

 薄暗くなってきたし、子供達を遅くまで働かせたくないのでそろそろ閉店したいな。


 だって、元々は偽物屋台に並んでしまった人のためだもんね。


 その旨をベルトルトギルド長に伝えると、ちょっと困った表情を浮かべる。


「明日も客が来てしまいそうな勢いですが………お願いできますでしょうか?」

「悪いが今日だけにしてくれ。俺達は屋台を出しに王都へ来たわけじゃ無いしな」

「そうですか。そうですよね……」

「姫は祭りを楽しみたいもんね」

「うん」

「わかりました。本日ご協力いただけただけでもありがたいことです。明日以降もお祭りは続きますのでどうか楽しんでください」

「あいっ」



 別のメイン通りも見てみたいし、申し訳ないけれど屋台は今日だけにしてもらおう。

 客足が減ったタイミングでハルパとレーヴァが最後尾に立ち、売り切れと告げてもらうことになった。


 ミスティルには黒板看板に”売り切れ間近”と書いてもらい、小屋の裏側にテーブル4台を置いて、スタッフ専用の休憩スペースにする。


 手の空いた人は飲み物を飲んで待っていてね?




 お客様の列も無くなり、広場に座って食事をしている人だけになった。


 手元はまだ見える程度だけれど結構暗くなったので、鳳蝶丸抱っこでテーブルを周りランタンを置いていく。盗難防止の結界も忘れず張った。


 お手伝いしてくれた面々には、小屋裏側のテーブルセットで待っていてもらったよ。



「皆しゃん、おちゅたえ、しゃま、でちた」


 皆さん、お疲れ様でした。


 この後夕食にするけれど、残れますか?と聞いたら、商業ギルド職員さん達は業務に戻る予定で、【堅き門】の皆も拠点に帰るとのこと。


 じゃあ、お礼の焼き菓子セットを渡して解散にしようかな。


「こえ。ひとい、いっと。どうじょ」

「これはお嬢から手伝ってくれた皆への礼だ。1人1つずつ持ち帰ってくれ」

「えっ!い、いえ。偽物に気付かずご迷惑をおしてしまったのは我々です。申し訳が立たないので、お気持ちだけいただき、賜り物は辞退を………」


 恐縮して深々とお辞儀をするベルトルトギルド長。

 するとフィガロギルマスが割って入る。


「御使い様からの賜り物は素晴らしい品だと断言いたします。断ると後悔いたしますし、何よりも……職員達に恨まれますよ」


 ベルトルトギルド長がゴクリと喉を鳴らした。


「あの、覆して大変申し訳ございませんが、やはり賜りたいと存じます。よろしいでしょうか?」

「うん、もちよん、いいよ」


 もちろんいいよ!

 と言うことで、まずは商業ギルド職員さんと両ギルマスにも受け取ってもらう。


「たたち、もん、みなしゃん、とんど、わたしゅね」


 【堅き門】の皆には、戴冠式後に渡すね?

 お手伝いしてくれた皆だけじゃ喧嘩になりそうなので、全員にプレゼントするつもりです。



 と言うことで、【堅き門】の皆にはお給金を支給する。

 レーヴァがお姉さん達を含む全員にがま口を配った。


「こ、これは?」

「すっごい綺麗!」

「これはがま口と言って、こうやって開けると財布になるよ」



 パッチン!



 子供達とお姉さん達が恐る恐る留め金を開ける。


「こ、こんなに?!」

「えっお前も?」

「1人1万エン貰えるの?」

「姫から特別手当を許されたからね」


 お姉さん達は金額の話しをしたけれど、子供達は知らなかったみたい。

 ピョンピョン飛び跳ねながら大喜びをしていた。


「おてちゅだい、あにあと」

「こちらこそ!美味しいカラアゲ食べて、がま口貰って、お給金貰えるなんて破格過ぎる。でも、すっごく嬉しい!ありがとう」

「今回は手伝ってくれた礼であって、無償で何でもあげるわけじゃないよ」

「他の商人達に同じ待遇を強請らないように」


 それから、とフィガロギルマスが言葉を続ける。


 このような対応をする商人はほぼいない。

 いや、寧ろゆき殿達だけだと言って良い。

 だから、大人の甘い言葉に騙されてついて行ったりしないように、と。


「うん、わかってる。子供達にも言い聞かせるよ」


 お姉さん達も真剣な面持ちで頷いていた。




 では戴冠式の日にと約束して、【堅き門】の皆は帰って行く。

 商業ギルドの皆さんも業務に戻るため建物へと消えていった。


 小屋裏のテーブルを1つだけ残して片付け、私達とフィガロギルマスはここで夕食を食べることにする。


 何にしようかな?

 お昼も食べていないし、ご飯がガッツリ食べたいな。

 そうだなぁ……あ、ガーリックステーキライスにしよう。ガーリックソースはもちろんお醤油ベース!

 あとはコンソメスープとサラダで良いかな。



「ちょうはあ、ダーイッチュ、シュテーチ、ヤイシュ」


 言いにくっ!


「ガーリックステーキライス、だそうだ」

「はああぁ、良い香りですねえ」

「ニンニキュ、だいじょぶ?」

「ニンニキュ?あ、にんにくですか?大丈夫です。むしろ大好物です」


 にんにく臭くなったって大丈夫。皆で食べれば怖くないよ!

 若干1名、商業ギルドで香っちゃうかもしれないけれど、許してね?



 うんうん、美味しい!

 ガーリックバター醤油がしっかりからんだ美味しいライス。

 薄くスライスしたにんにくは香ばしく、一緒に焼いた(再構築だけど)柔らかい牛肉にかかったガーリックソース。


「永遠に食べられます」


 ほっぺに米粒をつけて、真面目に宣言するハルパが何だか可愛い。


「俺もだ。何杯でも食べられる。お嬢、おかわり」

「主さんのご飯はいつも美味しいね」

「ああ。姫の食事はどれもこれも最高に美味しいよ」

「お酒……お酒が欲しいです」


「それだっ」×6名



 ミスティルの一言で酒盛りまで始まりましたよ。

 鳳蝶丸とレーヴァとミルニルはビール。ミスティルとハルパとフィガロギルマスは赤ワイン。

 私は雰囲気を味わいたかったので、ワイナリーでつくられた高級ぶどうジュースにしちゃった。


 皆で美味しくご飯を食べて、夜も更けて。

 そのうちハルパ抱っこでウトウトして、私はそのまま眠ってしまいましたとさ。


 おやすみなさい。

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