第195話 臨時開店、桜吹雪
「私が手伝います!」
フィガロギルマスが嬉しそうに挙手をした。
忙しいのでは?と聞いたら、戴冠式に招待されミールナイトを出発。予定より早く王都に到着した。そして手持無沙汰だったので、祭り開催に忙しい商業ギルドの手伝いをしていたんだって。
それに『サクラフブキ』を手伝うことだって仕事の一環ですから喜んで!と高らかに言い放つ。
だ、大丈夫かな?
「ああ、やっと夢が叶います。前は手伝いたくとも仕事で参加出来ませんでしたから」
そういえば前にも手伝いたいって言ってくれてたよね。
本当に大丈夫ならば、お願いしちゃうよ?
私達が話していると、馬車で遊んでくれたお姉さんが話に入ってくる。
「ねえ。馬車で会ったお嬢ちゃんだよね?君達有名な商人さんだったんだ。人手が足りないって聞こえたんだけど、良かったら仲間が引き受けるよ」
「アタシ達【堅き門】ってチームに所属している冒険者なんだ」
おお!ここで遭遇とは。
彼女達は冒険者をしながら孤児院の子供達の面倒も見ているらしく、少しでも稼ぎになるなら働きたいと言う。
アンゲリカさんのチームの人だし、お願いしようかな。
「おねだい、しゅゆ。おちゅうちん、だしゅ」
「手伝いを願いたい。給金を払う」
給金は1人につき1万エンと話をしたら、そんなに貰えるの!とお姉さん達が喜んだ。
「働くっ!全力で働くよ!」
「何人くらい必要?」
「10人、くやい」
10人くらいいれば、交代で休憩も出来るよね?
「手が空いている子が沢山いるんだ。子供達に手伝わせて良い?」
「良いが体力を使うぞ。重いものを持つことになるし、おそらく多忙になる」
「ある程度大きな子に来てもらうから大丈夫」
「子供達とシスターにこの店をやってもらって、アタシ達は貴方達の店に行くよ」
お姉さん達のお店は子供達やシスター達が縫った刺繍の小物販売だから、シスターがついていれば小さい子でも大丈夫とのこと。
では正式にお願いします。
今回は子供達も来るので冒険者ギルド経由じゃなくて、直接雇用となるけど良いよね?
お姉さん達とは商業ギルド前広場で待ち合わせをして一旦解散。
私達とフィガロギルマスはそのまま歩いて広場に向かった。
「たべもにょ、前の、同じ、いい?」
「もちろんです!」
歩いている間、食べ物をどうしようと言う話になった。
ただ今日はその場で揚げたりする時間は無い。
なので唐揚げ2種とフライドポテトセット(飲み物付き)のみの販売にしようと言うことになった。
「もし貸出していただけるなら、広場にテーブルや椅子を出していただきたいのです。【堅き門】の手伝いが間に合わないと思うので、商業ギルド職員がお手伝いします」
「いしょだちい、いいの?」
忙しいのにいいの?と聞いたら、職員の数はミールナイト以上いるし、設置するだけならばそれほど時間もかからないとのことだった。
「ひよーい」
商業ギルド前はとても広かった。
ちょっぴりミラノのドゥオーモ広場を思い出したよ。
ええと、お客さん達は到着したかな?
端に並んで……あれ?さっきより列が伸びてない?
列の先端に商業ギルド職員さんがいて、何やら話し込んでいる。
まずはそこに向かおう。
「ベルトルトギルド長」
「フィガロギルド長。かの有名な『サクラフブキ』の皆様をお連れくださったそうで」
「ええ。こちらに御座します方々が『サクラフブキ』の皆様です」
「お初にお目にかかります。商業ギルド・ダマスケナ東門支部、ギルド長のベルトルト・アルマトゥーラと申します。お会いすることが許され光栄の至りに存じます」
「ベルトルトギルド長はゆき殿の事情を把握されております」
商業ギルド本部とラ・フェリローラル王国のギルド長にだけは周知いたしました。と、フィガロギルマスから説明を受ける。
「報告義務があったこと、また当ギルドがゆき殿に対し礼儀を欠いてはいけないので周知させていただきました。知っているのはギルド長、副ギルド長クラスのみです」
そうなんだね。
必要があれば伝えて良いと言ってあるので問題ないよ。
「こんにちは。場所、たいましゅ。よよちく、おねだい、しましゅ」
「場所を借りるのでよろしくお願いします、と言うことです」
「は、はいっ。存分にご活用ください」
【堅き門】のお姉さん達が来る前は商業ギルド職員さんがお手伝いしてくれることになった。
ベルトルトギルド長とフィガロギルマスは一旦ギルドに戻り、用事を済ませたらすぐ戻ってくるとのこと。
さて。じゃあ、私も準備をしなくちゃね。
お客さんを待たせていて申し訳ないから早く設置しなければ。
私が無限収納から荷物を出そうとすると、鳳蝶丸達から待ったがかかる。
品物は皆のマジックバッグに共有で入れて、私の無限収納からは直接出さないようにしてほしいと言うことだった。
私を守るためにいつもありがとう。
よろしくお願いします。
この広場は大きめの石が敷かれ、土煙も上がらないので帆布シートは無しにする。6人掛けテーブルセットやゴミ箱、食器返却箱をハルパが出し、商業ギルドの職員さん達が綺麗に並べ始めた。
レーヴァが立冬祭に使った屋台小屋を出している間、私はミルニル抱っこで会場のゴミ箱などに盗難防止の結界を張って周る。
そしてミルニルがトイレテントを女性用、男性用をそれぞれ2台ずつ出し、私が盗難防止と転倒防止用に地中まで結界を張る。その後ハルパが商業ギルド職員さんの男性と女性に来てもらい、置いてある説明書を見ながらトイレの使い方を説明した。
私とミルニルは屋台小屋に戻り、新たに結界を張り直す。
【堅き門】所属の人とフィガロギルマスの出入りOKにしなくちゃね。
ミスティルが時間停止の箱を小屋の中に設置したので共有から唐揚げセットを大量に入れておく。
鳳蝶丸はカウンターに飲み物とビールサーバー、コインケースなどを準備し、ミスティルが自立型黒板看板にチョークで『唐揚げセット(飲み物付き)600エン。エールの場合は800エン』と書いて小屋の前に立てる。
うん、準備完了!
それでは開店しましょうか。
鳳蝶丸抱っこに切り替えて、列の先頭に近付く。そして、鳳蝶丸が拡張器を出して挨拶をした。
「待たせてすまん。偽者騒ぎがあり皆に迷惑をかけた。移動などの協力に感謝する。急遽、我等『桜吹雪』が屋台を出すことになった。大人気の唐揚げだ。存分に味わってくれ」
うおおーーー!
本物が食える!
あのカラアーゲか!待ってましたっ!
「シャクヤフブチ、たいてん、でしゅ!」
まずは商業ギルド職員さん達と、ハルパ、ミルニルが列を誘導した。
食べ物が1種類しかないからか購入列は順調に進んでいる。
少しずつテーブルが埋まり始め、あちこちから美味い!また並ぶぞ!なんて声が聞こえてくる。
ワハハッと笑い声も聞こえてきて、商業ギルド前は大分賑やかになって来た。
しばらくして、先程のお姉さん達と小学生高学年くらいの男女がやって来た。
「お待たせしました!」
「アタシを含めて10人だけど、間に合いそう?」
「あい。だいじょぶ」
今回は1種類だし、窓口もそれほど難しくないと思う。
「店の手伝いなど経験者は?」
「皆、ありますっ」
「じゃあ、売り子に2人、飲み物の用意に2人雑用に1人残って」
残りはテーブルの掃除、片付けなどお願いする。
一応売る時に食器返却箱やゴミ箱の案内をしているけれど、そのまま置いていっちゃう人がいるからね。
念の為、広場を回っていると聞かれるかもしれないから【堅き門】にもトイレの使い方を覚えてもらおう。
説明は職員さんにお願いした。
諸々は皆に任せ、私は唐揚げを補充しつつ残りの準備をする。
【堅き門】に渡すお給金用和柄がま口を別柄で出し、レーヴァに大銀貨(1万エン)を1枚ずつ入れてもらった。
商業ギルド職員は、職務の一環となるし特別支給もあるので、商人側からお金を渡さなくて良いと、エレオノールさんに言われたことがある。
でも手伝ってくれた職員さん達にお礼はしたいなあ。
んーと、……焼き菓子セットならばいいかな?
消え物だし大丈夫だよね。
蓋・取っ手付き可愛い籐のバスケットを再構築します。
赤と白のギンガムチェック柄の大きな布を再構築して中に敷きます。
過去私が作ったパウンドケーキ(小)3種(プレーン・チョコマーブル・クルミ)、メープルフィナンシェ、マドレーヌ、アイスボックスクッキー(格子縞・渦巻き・お花柄)を再構築します。
赤いリボンも再構築します。
「イェーバ、おしゃえ、ちて?」
「うん?綺麗に入れればいいのかい?」
「うん」
レーヴァにお願いして籐バスケットに焼き菓子を可愛い配置で並べてもらいます。
赤いリボンを籐バスケットに結んでもらいます。
最後に「日持ちしないから1、2日で食べてね」とカードに書いてもらい、籐バスケットに入れてもらいます。
かーんせいっ。
やったあ!可愛い♪
すぐに無限収納に入れて、営業が終了したら商業ギルド職員さん達に渡そう。
子供達は【堅き門】訪問時に全員プレゼントをするからね!
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