第194話 桜吹雪がハイカラに!…ハイカラって伝わる?
通り沿いには長蛇の列が出来ていた。
近付いてみると、看板にデカデカと『ミールナイト立冬祭に出店』『大人気!シャック・ヤー・ヒュビューチ!』『他国の貴族様垂涎、キャラアーデ!』と、書かれていた。
何だかハイカラな名前になってンですけどーーー!
「シャック・ヤー・ヒュビューチ…………」
「キャラアーデ…………」
「桜吹雪と唐揚げか?」
ミスティルもレーヴァも鳳蝶丸も困惑しているよ。
出している食べ物を見てみると、見た目トルティーヤみたい?お肉を薄い生地に包んでいる感じだった。
クレープと唐揚げが混ざっている気がするよ。
真似することは問題ないし、寧ろ新しい食べ物として広めて欲しい。
でも他国の貴族様垂涎がひっかかるよ。
シャック・ヤー・ヒュビューチがミールナイト立冬祭に出店していて、他国の貴族様が本当に気に入ったなら良いんだけれど……。
グレー判定な気がする。
そして屋号が微妙に似ているのが気になる。
桜吹雪そのものを名乗っているわけじゃないので何とも言えないけれど。
すると、旅人さん達が店員さんに確認を始める。
「俺はシャクヤフブチと聞いたんだが」
「立冬祭で冒険者ギルドの敷地に出していた店かい?」
「おや、よくご存知で!冒険者ギルドの敷地に出していた屋台は私共ですよ!」
はい、真っ黒!
「他国王家の人々や、教皇様も召し上がってくださったキャラアーデはいかがですかー!」
グレーゾーンを軽く飛び越えちゃった!
キレッキレに真っ黒だよ!
これは抗議をした方が良いのかな?
何かあった時責任問題になっても困るし………。どうしたもんか。
「ちょっと。ここはウチで借りている敷地だよ!荷物を退けてってさっきから言っているよね!」
その時、隣の屋台の女性が声を張り上げた。
ん?あれ?
北門行きの馬車で遊んでくれたお姉さんだ。
「はあ、だから、我等は貴族様、教皇様御用達、シャック・ヤー・ヒュビューチですよ。あなた達は店を出すだけ無駄ですし、諦めてくださいって言っているじゃないですか」
見るとシャック・ヤー・ヒュビューチの荷物が隣の屋台の敷地に堂々と置かれている。
「ここは私らが出店費用を出して借りているんだから、あんた達の荷物を退けてって言っているの。聞こえない?」
「有名店か何か知らないけど、いい加減にしてよ!」
「はあ……ハイハイ。場所代払えばいいんでしょう?」
シャック・ヤー・ヒュビューチ側の男性が硬貨をポーンと投げ、地面にチャリンと転がった。
うがっ、ひどい!
私達を名乗っているだけではなく、態度も最悪!
お金投げるな!
拡声器を出してレーヴァに持ってもらう。
スー、ハー、
「しょのちと、にしぇもの、わゆい、ちと!」
一瞬でシーンと静かになった。
鳳蝶丸も拡声器を出して話を引き継ぐ。
「そいつらは偽物。ミールナイトの立冬祭で、冒険者ギルドの敷地内に屋台を出していたのは俺達だ」
「何だと!嘘ついてんじゃねえ!」
店員達のガラが急に悪くなる。
こちらが本性だね。
「営業妨害だ!」
「えーじょう、ぼーだい、ちみたち!」
「営業妨害は君達だ、と姫が言っているよ。ねえ、俺達の印象が悪くなるようなことをしないでくれる?」
レーヴァも参戦した。
「俺はミールナイトの立冬祭に行ったが、屋台にいたのはそこのお嬢ちゃんだったぞ」
「サクラフブーキにいた兄ちゃんはそこの綺麗な兄ちゃん達だった。間違いねえ」
「サクラフブキだと聞いたから並んだのに、偽物じゃねえか」
「そうだ、そうだ!」
中には私達のことを覚えていて証言してくれる人達も現れる。
「なっ!」
「煩い、黙れ!」
「我等が本物で、こいつらがニセモンだ!」
店員達が証言した人達に殴りかかろうとした、その時。
「問題を起こしているのはあなた達ですか?」
商業ギルドの制服を着た男性達がやって来た。
「商業ギルドの人、呼んできたよ!」
隣の屋台の仲間(馬車で遊んでくれたお姉さん)が、商業ギルドの職員さん達を呼んで来たらしい。
「違いますよ、我々は被害者です!」
「でも隣の屋台まで荷物を置いているのはあなた達ですよね?」
「あ………」
マズイ!と言う表情のシャック・ヤー・ヒュビューチの面々。
「その人ら、ミールナイトに出てた伝説の屋台を名乗ってたぞ」
「しかも王様とか、教皇様が食べたとか嘘つきやがった」
殴られそうになった人達が怒って暴露する。
「すみません、通してください。関係者です」
ん?
聞いたことある声?
「商業ギルドの者です。失礼」
人垣を掻き分けてやって来たのは、
「ヒナヨ、ギユマシュ」
「ゆき殿!」
ミールナイト商業ギルド、フィガロギルド長だった。
シャック・ヤー・ヒュビューチとかキャラアーデと聞いて何となく引っ掛かり、そして隣の屋台のお姉さんが言っていた『ミールナイトの冒険者ギルド敷地内で屋台を出したという店に迷惑をかけられている』と聞こえ、様子を見に来たらしい。
「ゆき殿、何があったんですか?」
「あのちと、うしょ、ちゅいた」
「立冬祭で冒険者ギルド敷地内に屋台を出していたと嘘をついた挙句、隣の屋台に迷惑をかけたのが許せない、と姫が言っているよ」
店名が違うから抗議してもよいものか迷っていたけれど、冒険者ギルドの敷地に出した店、他国貴族や教皇猊下が食べたと聞いて、私達の屋号を語っていると確信した。
その上、隣のお店に迷惑をかけていたため、私達の評判を貶められたと感じ抗議したと説明する。
「しょえに、しょのちと、おたね、なでた」
それにその人お金を投げたよ。
人に迷惑をかけたうえ、彼女に向けて、それもわざとお金を地面に落とし、拾わせようとするなんて悪意を感じるし、他人を馬鹿にする行為。
許せん!
「ええ、その通り。金銭を投げるなど商人としてあるまじき行為。商人の名折れです。流石ゆき殿、商人の鑑ですね!」
え?いや、何か違う。
そうじゃなくて。
お姉さん達を馬鹿にしている行為が…。
「貴方達の行動はゆき殿の言う通り、『サクラフブキ』や商人の皆さん、そして商業ギルドの評判を貶める行為です」
「また、名前の公表は無くとも、御本人の許可無く教皇猊下が食事をしたと言う嘘は見逃すことが出来ません」
「そっ、そんなこと言っていませんよう」
真っ青な顔で大汗をかきながら媚びを売るように笑顔を浮かべる店員さん。
「彼らが教皇猊下と言ったのを聞いた方」
商業ギルド職員さんが人垣に声を掛けると、あちこちから聞いたと声があがり、挙手する人達も現れる。
「隣の屋台に迷惑をかける行為は契約違反となります。戴冠式祝賀祭委員会協賛の商業ギルドとして、貴方達に罰則金を要求します。また教皇猊下ならびに他国王家の方々を宣伝に使った行為に関し事情聴取いたします。直ちに閉店の準備を。商業ギルドへ来るように」
「いっ、嫌だと言ったら?」
「その場合は衛兵を呼び連行いたします」
「…………ああ……………親父に絞られる…………」
商業ギルド職員さんが監視する中、店員さん達が諦め顔で屋台を片付け始めた。
「他に壊されたものなどはございますか?」
他の職員さんがお姉さん達に声を掛ける。
「いや、ないよ。お陰で助かりました。ありがとう」
「いえいえ。迷惑料については後日商業ギルドへいらしてください」
「わかりました」
お姉さん達の屋台前に置かれた荷物も片付けられ始めた。
良かった、良かった。
「えー………さて」
「ん?」
「この状況につきましてお願いがございます」
「あい、いいよ」
「流石ゆき殿、話が早い!」
私達が屋台を出すんでしょう?
名乗った時点で覚悟してたよ。
でも、出店の手続きしていないのに食べ物出しちゃっていいの?場所代は?
「そこは問題ございません。すぐ書類を持って来ますし、場所代は迷惑料として私が個人的にお支払いをいたします」
フィガロギルマスが申し出てくれたけれど、場所代は自分で支払うよ?
すると場所代は必要ありません、と職員さんが言ってくれた。
「並んでいるお客様がいてこのままだと混乱しますし、屋台を出していただけると我々はとても有り難いんですが………。いくらなんでも用意無しで屋台を出すことなど不可能では?」
「だいじょぶ」
「ええっ!」
ただこの大通りだと他の屋台に迷惑をかけそうと告げると、商業ギルド前の広場が予備として残っているので、そこを使ってほしいと告げられる。
「よーたい、でしゅ」
了解です。
開始は移動すればすぐ出来るよ。
せっかくここまで並んでいたのに!と怒っているお客さんもいたので、職員さん達がことの経緯と場所を変える旨を説明してくれた。
「列をそのまま崩さないでください!商業ギルド前の広場に移動します。職員が誘導するのでついて来てください!」
職員さん達がお客さんを誘導しながら広場まで案内してくれるらしい。
「こりゃ大変なことになるぞ。人手がいる。冒険者ギルドに派遣を頼む時間はあるか………」
私達はその列を見ながらどう対応しようか頭を悩ませるのだった。
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