第193話 人ってすぐナントカ饅頭とか作っちゃうよね

 北門に到着。

 馬車乗り場から大きな通りに出ると、道の向かい側にすっごく大きな建物があった。地図で確認すると、冒険者ギルド・北門支部と表示されている。


「おっちいね」

「ミールナイトよりデカいな」


 皆でギルドに向かおうとすると、さっき話していたお姉さん達に声をかけられる。


「冒険者ギルドに行くの?」

「あい」

「えっ、もしかして冒険者………なの?」


 綺羅びやかな集団だし、冒険者には見えないよね。


「野営地を借りに来ました」

「あっ、そうなんだ。総合受付に言えば案内してくれると思うよ」

「わたった。あにあと」

「どういたしまして。ちゃんとお礼ができて凄い!そして可愛い!」

「ありがとうございます。では、わたし達はこれで」


 お姉さん達が私を可愛がってくれたので、いつもより少しだけ優しい対応しているブレないミスティルであった。


「おねたん、バイバーイ」

「バイバイ」

「元気でね」


 お姉さん達とバイバイして、そのまま冒険者ギルドに向かう。

 その時、お姉さん達が少しだけ悲しそうな表情をしていることに私は気が付かなかった。




「野営地を借りたい。空いているか?」

「はい。端のほうになりますがございます」

「そこでいい」

「身分証のご提示を願います」


 鳳蝶丸が商業ギルドカードを受付の職員さんに見せる。


「優しゅっ!…………コホン。ご提示ありがとうございました」


 どこでも優秀商に驚かれるよ。そんなに珍しいのかな?

 職員さんは取り繕うに咳払いし、話を続ける。


「1日2千エンです。何日滞在なさいますか?」


 途中でチェックアウトも可能と言うことなので、2週間借りることにする。

 3万2千エンを支払って出入りに必要な許可札をもらい、冒険者ギルド所持の地図で空いている区画を教えてもらう。


「一旦外に出て右手に野営地の入場門がございます。門にいる職員に許可札をお見せください」

「わかった」



 入場門で許可札を見せ、ギルドの裏手に出る。

 そこは広大な野原で縦に仕切り用の柵があった。全体の約4分の3が冒険者側で、4分の1が一般の貸出用らしい。


 西部劇みたいなカウンタードアから入ると、手前から貸出箇所が埋まっている。何となく行商人とか移動中の家族っぽい人が多い感じ?


 移動するたびに貸出用側、冒険者側からの視線を感じるけれど気にしない。

 私達が色んな意味で目立つのはもう慣れたよ。



 広場の真ん中辺りでようやく人が切れ、案内された貸し出し場所に到着する。

 カモフラージュ用テントを出しペグ打ちをしてもらい、テントを囲う結界を張って私達以外は入れないにしておく。

 あとは転移の門戸でミールナイトのテントに繋げるよ。



 テントで少し休んでからお昼ご飯を食べることにした。


 今日のお昼はホットサンド。

 皆で好きな具を入れてホットサンドメーカーに挟んで焼くアレです。

 初心者のハルパに説明しながら、皆で楽しく焼いていく。ハルパが初めて作ったホットサンドは、ハムとチーズと卵とマヨサンドでした。


 私はナッツキャラメリゼを挟んでみたよ。

 メイプルシロップがパンに染み込んですっごく美味しかった!

 ミスティルにもう一度作ってもらって無限収納にストックしちゃった♪


 カロリー気にせず食べられるって最高!




 私がお昼寝中に、気配完全遮断と飛行ひぎょうで交代しながら見回りをしていたんだって。

 北側の森や山まで行って、脅威になりうる系魔獣を狩ってきたみたい。魔獣達が皆の気配に逃げ出しても、追いつけるもんね。


 狩った獲物は無限収納に移動してもらって、あとで整理するよ。


「ソグナトゥスの素材はポーションの素材になるから、直ぐに売らないでね」


 レーヴァにお願いされました。

 ソグナトゥスは小型の肉食恐竜に似た魔獣で、ドラゴンと同じく捨てるところが無いと言われているらしい。

 とても凶暴なので、討伐できる人間は限られるみたい。


 山の麓付近の森にいたみたいだけれど、王都近くにいるなんて…。

 世界に広く生息している魔獣で絶滅の恐れが無いため、森にいたソグナトゥスは全て狩っておいたって。

 ちょっと安心だね?






 今日はミスティルコーデのお洋服で王都観光です。


 レースやフリルが可愛い長そでの白ブラウス。紺のフリフリジャンパースカートと白いパニエ、白タイツ、赤いエナメル靴。

 髪には大きな赤いリボン。

 皆に可愛いって言ってもらいご満悦の私。


 エヘヘッ。


 日本では甘ロリっぽいフリフリのお洋服を着たことが無いし、単純に可愛いお洋服が着られて嬉しかったりする。

 クルクルッて回るとスカートが広がって楽しいね!

 1歳だからポテポテゆっくり回っているだけとも言うけれど、私は優雅に回っているつもりなのだ。

 でも嬉しすぎてはしゃいでいたら、目が回ってフラフラしちゃったよ。


「目が回っちゃったかな?さあ、姫。今日は俺が抱っこするからね」


 転ぶ前にサッと抱き上げられました。

 今日はレーヴァ抱っこでお祭り見学の模様です。




 北門辺りの道は冒険者らしき人ばかりで、お店も武具屋さん、道具屋さん、鍛冶屋さん、飲み屋さんなど厳つい店舗が多く建ち並んでいた。


 でも北門メイン通りを王都の中心に向かって歩いていると、だんだん普通の生活用品を売る店舗が増え、花飾りやお祭りの屋台が目立つようになってくる。


「お花、ちえいねえ」


 ひらりひらりと落ちてくる花弁に手を伸ばして掴もうとする。

 うーん。難しい。


「姫の御髪が花びらを捕まえたみたいだよ」


 手では掴めなかったけれど、髪の毛に付いていたみたい。

 レーヴァが手渡してくれた花びらを手の平に載せて眺めていると、風がフワリと吹いて花びらをどこかに運んで行った。




「おいちいね」

「ん。なかなかいける」


 メイン通りの噴水広場は広く、あちこちに屋台が出店していた。食事をするテーブルや椅子もあり、私達はそこで食事をしている。

 今食べているのは野菜と肉団子のスープ。野菜に甘味があってなかなか美味しい。鳳蝶丸にパンを小さく切ってもらい、スープと一緒にいただいた。



「見つかったかい?」

「いや。南側も西側にも出店していなかったよ」

「東側にもいなかったし、北側かと思ったんですけどねえ」


 隣の席は行商人らしきおじさんと、旅人らしきおじさんの集団だった。


「ミールナイトからも近いし、屋台を出店していると予想していたんですが……」

「似たようなカラアーゲの店はいくつか見つけましたよ」

「でも似て非なる品ですな」


 ん?カラアーゲ?


「はあ、何処にいるんでしょうかねえ」

「シャクヤフブチ」×全員



 エエッ!



 鳳蝶丸達もビックリした顔をしている。


「シャクヤフブチって、桜吹雪のことだよね?」


 ミルニルが小さな声で言った。


「姫が良くシャクヤフブチって言うから、多分そうだと思う」


 何だか気になって耳を澄ませる私達。



 旅人さんは、知り合いからミールナイトの立冬祭で食べた食事が恐ろしく美味かったと聞き、自分も食べてみたいと強く願っていたらしい。

 ミールナイトで出店していたのだから、王都の祭りでも出しているに違いないと期待して来たんだって。

 商人さん達はそれぞれ思惑があるらしくはっきりとは言わないけれど、食べてみたいとは思っているらしい。


 お互いに「シャクヤフブチ」という屋台を見なかったかと声を掛け合い知り合ったみたい。


 屋台は出してないよって教えたほうがいい?

 チラリと鳳蝶丸を見るとちょい渋な表情を浮かべていた。


 すると商人らしき一人が、実際に食べてみて美味しければ自商会の傘下に入ってもらうための交渉がしたいと言い始める。

 他の商人らしき人達は、いや我が商会に、自分も商会長に命令されて来たのだから声をかけるのは遠慮して欲しいと言い出した。


 あ、名乗らないほうがいいかも。

 幸い彼等は桜吹雪の容姿を知らないようだし丁度良い。


 はい、スルースキル発動!

 私達は知らんぷりしてご飯を食べ、後片付けしてから席を立った。



 更に北門メイン通りを歩いて行くと、高級品を扱うお店舗がチラホラと増え始める。

 道行く人達も少し裕福な感じになって来たよ。


 この辺りの屋台はアクセサリーや小物、布地、ドライフラワーなどちょっぴりお洒落な品で、客層も落ち着いた雰囲気。


「この広場から向こうは住宅街になりそうだね」

「ほたの、通い、行ていい?」

「もちろん」


 他の通りも見てみたいとリクエストする。

 道を少し戻って横道に入る。ここは北門メイン通りから東門メイン通りに向かう大通りで、もちろんお祭りの屋台が沢山出ていた。


「お嬢ちゃん、戴冠式の記念にどうだい?」


 街並みの小さな板絵に王都ダマスケナ『戴冠式記念』と書かれてある。


「いやいや、これはどう?アタシの手製さ」


 街並みと王都ダマスケナ『戴冠式』という文字の刺繍されたハンカチ。


「お嬢ちゃん、記念にどうだい?」


 あ!木彫りの熊!


「多分ブラウングリズリーだよ」


 木彫りの魔獣でなかなか精巧に作られている。

 後ろ足の部分には王都ダマスケナ『戴冠式記念』と彫られてあった。



 ◯◯ちゃん饅頭とか思い出しちゃう。

 なかなか商魂逞しいね。

 嫌いじゃないよ、その逞しさ。



 あちこち寄りながら街を練り歩く。


「そろそろ昼飯でも食べるか」


 大きな噴水広場にはやはりテーブル席があり、そこに座ってお昼を食べようと空いている席を探していると、先程隣にいた旅人らしき人達が近くに立っていた。


「やっと見つかったか。シャクヤフブチ」

「ああ。あの通りの屋台らしいぞ」


 ん?

 シャクヤフブチが見つかった?

 え、偽物?それとも勘違い?


 皆で顔を見合わせて頷き合い、取り敢えず行ってみることにした。

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