第192話 宇宙人再来!今度は木星人だよっ
「おっちいねえ」
夜明け前に野営地を出発して歩を進め、数時間後に王都入口の門へ到着。
今は入門の列に並んだところです。
ミールナイトも立派だったけれど、王都の城壁も城門も大きく頑丈そうだった。違いを言うならば、ミールナイトは無骨な感じで、王都はおしゃれな感じ、かな?
「時間がかかりそうだな」
「戴冠式で各地の要人も参加するからね」
「警備、厳しそう」
「夜明け前に出発して良かったですね」
鳳蝶丸とレーヴァ、ミルニル、ハルパが門を見上げて言った。
「眠そうですね?寝ていて良いですよ、主」
ミスティルが私の背中をポンポンする。
「寝にゃいの。タード、出ちて、ちまちた、………しゅゆ」
「大丈夫だ、お嬢。順番が来たら起こすから安心してくれ」
「ちまちた……、しゅゆの………………」
「姫はカード出して、門兵にお祝いに来ましたって言いたいんだよね?」
「…うん」
「大丈夫。起こすよ主さん」
「…………あい」
ミスティル抱っこで温かく、ウトウト微睡む時間の何と心地の良いことか。
私はそのまま眠ってしまうのだった。
「主、もうすぐ中に入れますよ」
揺すられて目覚めると、あと何人かで検閲窓口に到着するところだった。
「次の者、前へ!」
門兵に呼ばれて前に進む。
綺羅びやかな集団だからか最初ビックリされちゃった。
「みっ………あー。身分証明書を提示せよ」
「あいっ、どうじょ」
意気揚々と商業ギルドカードを提示する。
「こんなに小さな
黒い板に商業ギルドカードをかざすと、板が淡く光る。
「うむ。本物であるな」
全員黒い板にかざし、問題無しと判断される。
「王都に来た目的は?」
「たいたんちち、お祝い、ちまちた」
「たいちち?」
「戴冠式のお祝いに来ました」
「おまちゅい、屋台、ご飯、食べゆ」
「お祭りを見て、屋台のご飯が食べたいそうです」
門兵さんが、そうかそうかと笑顔になる。
鳳蝶丸が、祭りを見に来たこと。そして行商人としての商売を考えていると告げた。
「念の為言っておくが、今から宿は取れないぞ」
「冒険者ギルドの野営地を借りようと思っている」
「それもどうかわからないが、一番先に確認した方が良いだろう。お嬢さんもいるしな」
「わかった」
こうして門をくぐることが出来た。
「あにあと、バイバーイ」
門兵さんに手を振ると、ニコリと笑って右手を胸に当ててから小さく手を振ってくれた。
嬉しいなっ。
「わあ!」
ミールナイトも大きい町だけれど、王都は更に大きく賑やかだった。
以前来た時は空から町を見下ろしただけだから感じなかったけれど、歩きながら見上げるとなかなか迫力がある。
それに家紋入りの旗やリボン飾りが、そして何より咲き乱れる花々が町中に沢山飾られており、それはもう圧巻の一言だった。
「ちえーい!」
流石、フロルフローレ様のお膝元。飾ってある花だけではなく、道沿いにも大型プランターが設置されていて、これでもか!と言うくらいお花が咲いている。
そして戴冠式のお祝いとお祭りが開催されるからか、行き交う人の多さにビックリした。
「ちぶや、シュシュヤン、ブユ、とーしゃてん、みたいよ」
渋谷のスクランブル交差点みたい。
「お嬢、スマン。今のは文字変換されなかった」
「名称だたや、たも。だいじょぶ」
交差点の名称だから変換されないのかも。
今の発言は捨て置いてください。
「お花、ちえいねえ」
「元々ラ・フェリローラル王国は花の国と言われていて、季節ごとの花が楽しめる国だったんですよ」
ミスティル達の話だと、前々国王までは花の国だった。でも前国王になってから花の栽培農家がフェリローラル公国に追いやられ、または自主的に移動して、王都は何も無い寂しい景観になったんだって。
植物やその他生活に必要なこと以外にお金をかけることを禁じ、少額でも何かしらの名目を作って納税させ、王族一派の私腹を肥やしていたらしい。
フロルフローレ様に喧嘩を売っているよね。
何も考えてないんだろうなあ、前国王一派。
今日は綺麗なお花が沢山飾られているね。
あの混乱からそれほど期間が開いていないけれど、短期間にどうやってお花を集めたんだろう?公国からお花を持ってきたのかな?でも距離があるし萎れそうだよね?
「おそらく植物系の魔術を習得している者が、成長促進をさせたのだと思いますよ」
「しゅどい」
そういえば草花や街路樹をよく見ると、魔力の欠片が残っている。
「ほんとね」
「これからは、以前のような花が咲き乱れる国に戻るんじゃないか」
「しゅてち、なゆと良いね」
「そうだな」
鳳蝶丸達ももちろん私も。
これからどんどん素敵な国に変わって行くことを願っているよ。
「冒険者ギルドはどこだったか」
「西門にはなかったような気がするよ?」
「しばらく来ていないから忘れました」
鳳蝶丸、レーヴァ、ハルパは、王都に来たのが久しぶりすぎて忘れてしまったらしい。
「俺も忘れちゃった」
「主の地図を見せてもらえます?」
ミルニルも忘れちゃったのね。
ミスティルの言う通り、地図で確認しよう。
端っこに寄ってハルパとレーヴァにガードしてもらいながら地図を開く。
冒険者ギルドに絞って探索すると、2箇所が表示された。
「ギルドは北門と南門近くだな。北門に泊まれる広場がありそうだ」
今入ってきた西門が表門に当たるらしい。
南門は海方面に続いていて、東門はサバンタリア方面、北門方面は山と深い森があり、魔獣討伐や薬草採取などが盛んなため、北門の冒険者ギルドが大きく、そこに大きな野営地があるみたい。
それにしても………。
王都ってめちゃくちゃ大きいな。
端っこに住んでいる人と、反対側の端っこに住んでいる人とはずうーっと出会うことがなさそう。
中心の少しだけ小高い場所に建っているのがお城。裾野には貴族の屋敷や教会で、そこを城壁で囲んでいる。
そして城壁近くの中心部から商家や平民でも比較的お金持ちの家、普通の平民や店舗、店舗など何も無い外城壁近くにはスラム街もあると鳳蝶丸が説明してくれた。
そして、今いる西門から北門まではかなり距離がある。
歩いて移動すると結構時間がかかりそう。
「とりあえず北門方面に行くか」
「うん、あゆく?」
「いや、歩かないでも行ける」
「街中を走る馬車があるんですよ」
「主さん。一緒に乗ろう」
「うん!」
鳳蝶丸、ミスティル、ミルニルの話を聞いてウキウキする私。
バスみたいな感じ?
「馬車、乗ゆ!」
早く行こうと催促しつつ振り返ると、沢山の女性達に囲まれていた。
「ぴゃっ」
ナニゴト?
原因は、壁となってくれていたハルパがスタイリッシュに佇み、レーヴァが愛想良く女性達に手を振っていたかららしい。
………集まりますよねえ?
レーヴァは年齢問わず女性に優しい。
黄色い歓声が飛び交っている。
ハルパはねえ。
お姉さん達は気付いていないと思うけれど、実は目が笑っていないの。
あ、私達身内には本当の笑顔になるよ(自慢)。
雰囲気が柔らかく知的紳士、スタイルも良いので、レーヴァに負けず劣らずお姉さん達から大人気なのだ。
「では馬車乗り場に向かいましょうか」
ミスティルがそんなことお構いなしに話を続ける。
各門には「西門から北門間」や、「外門から内門間」などを往復する乗合馬車があるんだって。
「北門に向かう馬車に乗りましょう」
「うん!」
私達が馬車乗り場に向かうと、何故かお姉さん達もゾロゾロついてくる。
「あのっ、王都を案内しましょうか?」
「いいえ、私が!お祭りを一緒に廻りましょう?」
何か、見たことある光景。
…………あっ、ミールナイトで宿の従業員の女性達に絡まれたやつだ!
この世界のお嬢さん達は、逞しくて積極的だなあ。
「今回は仕事で来ているんだ。君達は俺の代わりに沢山祭りを楽しんで。ごめんね?」
バチコーン☆
キャーーー!
レーヴァのウインクが炸裂。
お姉さん達の目がハートになってヘナヘナと腰が砕けている間に、私達は北門行きの馬車に向かったのだった。
「北門行き、もうすぐ出発です。お早めにどうぞ!」
「6人だが乗れるか?」
「席はバラけますが大丈夫です。お子様の乗車賃は結構ですよ」
5人分を支払って乗車。
中はベンチのような区切りのない席になっていて、ギチギチに座れば20人くらいは乗れそう?
でも乗客の大半は冒険者で大荷物だし、大柄の男性もいるので沢山は乗れないかも。
私はミスティル抱っこで、女性冒険者に挟まれる形に座った。
「皆さん座席に座って立たないでください。それでは出発します」
馬車がゆっくり動き出した。
王都内だからかスピードはそれほど出ていない。パッカポッコという石畳を蹴る馬の軽快な足音が聞こえた。
同時にガタガタと揺れる馬車。サスペンション無しだから仕方ない。
となると、アレをやりたくなってしまう幼児の
「あ、あ、あ、あ、あ、あ、」
「舌を噛まないよう気を付けてくださいね?」
楽しくてキャッキャと笑ってしまう。
「ワ、エ、ワ、エ、ハ、モ、チュ、シェ、イ、ジ、ン、ダァ、」
宇宙人ごっこに興じる私である。
ふと気が付くと、隣のお姉さん達がクスクス笑っていた。
「フフ、可愛いね」
「お祭りに来たの?」
「あいっ、おまちゅい、ちた」
「かーわいいー!」
「お祭り楽しんでね?」
「あにあとっ」
「かんわいい!」
お姉さん達がしばらく話し相手になってくれた。
「ちっちゃいおてて」
手もにぎにぎされちゃったよ。
幌があって外が見えないからちょっぴり退屈だったけれど、お姉さん達に遊んでもらってご満悦の私でした。
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