第189話 【堅き門】の硬き表情

 まずはと言うことで簡単な紹介をすることになった。

 アンゲリカさんのパーティーは【堅き門】というランクBのパーティーで、王都には沢山の仲間がいるんだって。内容に応じて組み合わせを決め、依頼をこなしているみたい。


 【堅き門】のリーダーはアンゲリカさん。

 触る物みな傷付けそうなお兄さんはニイナさん、エルフっぽいお兄さんはティア・ソニアンさん。


 私達は鳳蝶丸が名前と職業を簡単に紹介してくれた。



「行商人、ねえ」


 ニイナさんが、胡散臭そうに私達を見る。


「何か問題でも?」


 ハルパ、目が笑ってないよ?


「アンタ達綺麗過ぎんだよ。この場所に座ってンのがそぐわないっつーか。嬢ちゃんも貴族とかどこぞの姫って方が納得出来るくらいに綺麗だし可愛いしな」


 ピクッ。

 何故か皆が反応する。



「あなた、わかっていますね。我が主は可愛いでしょう、そうでしょう」


 わーーー!

 ミスティルのスイッチが入った!



「ウチのお嬢は可愛いうえに賢いからな」


 鳳蝶丸まで!



「流石我が姫。他者から見ても美しいんだね?誰しも魅了しちゃうなんて困ったな。俺だけの姫でいてくれれば良いからさ」


 顎クイやめれ(スンッ)



「主さんは可愛くて賢くて、美味しいものを作ってくれるよ」


 ミルニル可愛いね。



「主殿は確かに可愛らしいですし、食事は天にも登りそうなほど美味しい。貴方達は幸運ですね(ドヤァ)」


 上から目線は止めなされ。



「ごめんしゃい」

「ああー。アンタも大変だな」


 ニイナさんにちょっと同情されてしまった。

 我が家ではこれが通常運転なので、こちらこそごめんなさい。


 まあ、私達が行商人なのはちょっと不思議かもしれないよね?


「ほんとに、じょうちょうにんよ」


 本当に行商人なんだよ。

 今度は自分の商業ギルドカードを提示する。


「こんなチビ助も持ってる商業ギルドカードってナンだよ」

「コイツが疑ってすまんな、嬢ちゃん。ん?優秀商?」

「俺達は全員商業ギルドカードを持っている」

「全員優秀商…………。ハァ、色んな意味で凄いな、君ら」

「ありがと」


 アンゲリカさんが眉を八の字にしている。

 ミルニルはその表情を気にすること無く、軽い感じで返答していた。



 これで私達が行商人(仮の姿)って納得してくれた?お腹が空いたからそろそろ夜ご飯にしたいんだけれど良いかなあ?

 お礼がてら、今夜は食事の提供をするよ!


「おなた、しゅいた」

「腹減ったな、お嬢。俺達はそろそろ飯にしたいんだが、旦那等はもう食ったか?」

「いや、まだだ。少し前に到着して、湯を沸かしていたところでな」


 鳳蝶丸がマジックバッグからコンロを出し、寸胴で作った豚汁を弱火にかける。そしておにぎりと角煮焼おにぎりのセット、出汁巻き卵を人数分出した。


 ミスティルが木製のお椀(大)とカトラリーセットを出すと、レーヴァがお椀(大)に豚汁をたっぷりよそう。

 ミルニルがゴミ箱を設置して、ハルパがおしぼりを用意した。


「す、凄いな」

「これは何だ?」


 ニイナさんがおにぎりを指す。


「こえ、おににに」

「オニニニ?」

「おにぎりだな。握り飯とも言う」


 鳳蝶丸が、これは米と言う穀物を炊いて、食べやすく握ったもの。腹持ちも良いし、我が家の握り飯は具も入っていて美味いぞ、と説明していた。


「これは豚汁。バイオレントホグキングの肉と野菜を……」

「ちょっと待て、バイオレントホグキングだと!!」

「そんな高級品を簡単に振る舞うヤツなんているか?」

「俺達だな」


 バイオレントホグキングは自分達で狩ったもの。気にせず食べれば良いと勧める。


「狩った………」

「狩っただと………SS級だぞ」


 ニイナさんもアンゲリカさんも呆然としていた。


「これは卵を焼いた料理だ」


 2人の喉がゴクリと鳴る。


「あとは、これだ」



 ドーーーーーン!



 皆大好き唐揚げ!

 ラエドさんと仲間達を虜にしている唐揚げ!


 屋台の時の残りだけれど、マジックバッグに入っていたから揚げたてなのだ。



「じゃあ、食べゆ。いたあち、ましゅ」

「いただきます」×5人


 私達と【堅き門】の3人に清浄をかけてから、いただきますっ。

 私はミスティルの横に座って食べさせてもらうよ。


「おいちいね」

「熱くありませんか?」

「だいじょぶ」


 まずは豚汁。

 野菜やお肉の甘味がめっちゃ美味しい。


「たやあで、おねだい、しましゅ」

「持てますか?」

「うん」


 クルコッコクイーンの唐揚げをパクリ、うーん、美味しい!

 私達がパクパク食べている間も固まっているアンゲリカさんとニイナさん。


「食べないの?熱いうちが一番美味いよ」

「ハッ!い、いただく」


 レーヴァに声をかけられてやっと動き出した。

 まずは豚汁のお椀を手に持つ。


「春とはいえ夜は肌寒いから、温かいスープはありがたいなあ、ハハハ」

「バイオレントホグキングのスープだけどな、ハハハ」



 んん!!!



 口にしてからすぐ勢いよく食べ始める。


「やべえ、美味すぎる」

「んむっ」



 ザクッ



 唐揚げを食べて固まる。


「うんむ〜」

「んむあっ」


 よく噛んで、飲み込んでから喋りましょう。


 最初はこわごわと口にしたおにぎりも美味しそうに食べる2人。

 口にあったみたいで良かった、良かった。



 と、ここまでティア・ソニアンさんがほぼ話さず、食事にも手を出していない。


「お肉、食べない?」


 もしかして菜食主義かな?


「こえ、いい?こえ?」


 ポニイモや南瓜の煮付けを出す。

 煮物ばかりじゃナンなので、野菜スープも出した。

 え?これでもダメ?果物ならいける?パレパレポウやオレンジがあるよ。



 それでも私をじっと見て動かないティア・ソニアンさん。


「おい、ティア」

「どうした?」


 仲間に呼びかけられても動こうとしない。


「ごめんな。悪いヤツじゃないんだが、事情があって警戒心が強いんだ」

「うん、いいよ」


 警戒心だけじゃ無い気がするけれど、事情があるみたいだからそっとしておく方針です。


「ご飯、仕舞う?」

「あ、ま、待ってくれ。もし可能なら俺達が食っていいか?」

「むい、ちない、いいよ」

「無理しなくて良いそうですよ」

「いや、その、凄く美味くてな。出来ればそれも食べたいんだが」


 ハルパ通訳に2人が慌てておイモさんや南瓜も食べたいと言った。


「あい、どうじょ。おたわい、いいよ」

「足りなければおかわりして良いそうです」

「良いのか?」

「うん」


 じゃあ、遠慮なく。

 ティア・ソニアンさんの分もおイモや南瓜、野菜スープも2人が全部食べたのだった。


「このイモも甘くて美味いな。何を使っているんだ?蜂蜜か?」

「ちあう。おしゃと」

「砂糖です」

「んぐっ!砂糖って、植物ダンジョンでごく稀にドロップするアレか?」


 えっ!お砂糖が落ちるダンジョンがあるの?植物ダンジョン?!行ってみたいな。

 ワクワクして皆を見たら、今度行こうな!と快諾してくれた。



「砂糖は極一部の王族しか手に入れられないって聞くが……アンタ達やっぱり!」

「いや、王族でも貴族でもない。砂糖に関しては教えられん」


 すんげえ贅沢。蜂蜜だってなかなか口に出来ないが、砂糖を口にできるとは。

 アンゲリカさんもニイナさんも嬉しそうだった。


 でも、ふと、真剣な表情を浮かべる。


「チビどもに食わせてやりてえ」

「喜ぶだろうな」


 2人がしみじみと呟く。


「これらを売ってもらうことは出来るか?値段はいくらぐらいだろうか」

「売ゆ、いいよ。おやしゅく、しゅゆ」


 売りますよ。お安くしますよ。


 安くしちゃマズイだろう?と言われたけれど、優秀商だからどんな値段だって許されるのだと説明した。

 何か悪いな。と言いつつ嬉しそうなアンゲリカさん。


「なに、ほちい?」

「そうだな」

「ちょっと待て。俺等、王都に戻ったらまずやることが沢山あるだろうが。拠点に帰れるのは明々後日になると思うぜ」

「だよなあ。いや、拠点に食べ物を置いてから仕事すりゃいいじゃねえか」


 するとニイナさんが言いよどむ。


「何だよ」

「いや、そうしたら……」

「ああ?」

「……俺もまた食いたいんだよっ!拠点に食いモンなんて置いたら即効無くなるだろうが!」


 顔を真っ赤にしながら理由を述べた。

 ニイナさん可愛いな。沢山お食べって言いたくなっちゃう。


 じゃあ、売りに行くね。

 ミスティルの袖口を引っ張ると、ニコリと笑い頷いた。


「では、貴方達の拠点に売りに行きます。そうですね………。戴冠式の日の夕方頃はどうでしょう」

「いいのか?!ありがたい。普段は贅沢をさせてあげられないが、戴冠式の日なら特別の祝いということにして食べさせてあげられる」


 【堅き門】は、フロルフローレ様を祀る教会に隣接された孤児院を卒業したメンバーなんだって。

 大きめな家屋を借り、それぞれが給金に合わせたお金を出し合って皆で住んでいるらしい。

 メンバーは冒険者活動が主で、別の職業についた子達も住んでいるとのこと。



「今は施設にいた子供達や一部のシスターも引き取って大所帯だ」

「おおじぇい、にじやたね?」


 大勢って賑やかだね?と言ったら、わけがあってそういう形になったんだって。

 何があったんだろう。あの天罰の混乱に関係あるのかな?

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