第188話 結界張るよーう

 街道を背に野営地を見ると、王都方面側に貴族の馬車や大きなテントが見えた。

 真ん中辺りに商隊と護衛の馬車やテントかな?

 それから奥の方や林側には移動中の冒険者や旅人達が休んでいた。


「混んでいるね」


 レーヴァがあちこち見回して空いている場所を探す。

 他の皆も野営地を見回していた。


 戴冠式があるからか、特に貴族や商隊が多い印象。

 複数の貴族が大きなテントを張っているので、場所を取っている。

 だからなのか冒険者や旅人達は窮屈そうに端によっていた。



「あそこでいいか」

「そうだね」


 林のすぐ近く、特に暗い場所が空いていたのでそこを目指して歩く。

 綺羅びやかな集団が歩いているからかめっちゃ目立つみたいで、通るたびに周りの人が私達を目で追っていた。



「普通、暗がりを選ぶ?」

「これだから素人は」

「顔がいいと想像も出来ないのか?」


 ダッハッハッハ!



 冒険者らしき人達が私達に聞こえるように言いながら爆笑する。

 ん?いや、野営場所の選択に顔関係ある?


 聞こえているけれど皆はまるっと無視。

 安定のスルー力。


 それが気に食わなかったらしく、おい、聞こえてんのか?顔面スカシ野郎!と絡み始める。


 顔面スカシ野郎ってなんだろう?

 思わずじっと見る私。皆は無反応。


「こ、こんの!」


 腹を立てたのか殴りかかろうと冒険者達が走りかけたところに、大きな体躯の男性が割って入ってきた。


「やめろ」


 大きな男性が睨むと、3人の冒険者たちが怯んだ。


「ここは野営地だ。冒険者だけが利用しているわけじゃねえ。他人に絡んでいる暇があったら明日の支度でもしてろ」

「な、何だ、てめえ……」

「俺は【堅き門】のリーダー、アンゲリカだ」

「なっ!疾風のアンゲリカ!」

「幼子もいる彼らに絡むなら俺が相手になるが?」

「ひっ」

「すみません!もう大人しくしています!」

「謝るなら俺にじゃないだろう」

「す、すみませんでしたっ」×3



 何もしていないのに解決しました。


「怖かったろう、嬢ちゃん。大丈夫か?」


 アンゲリカさんがニコッと微笑んだ。体は大きいけれどなかなかのイケメン。

 そしてとても優しそう。


「あい、あにあと」

「面倒なことにならずにすみました。感謝します」


 ハルパがアンゲリカさんに礼を述べた。


 私達でも対処できたと思うけれど、たぶん投げ飛ばして終わりとかになりそうだもんね。

 次回から、投げ飛ばす前に威圧で相手を動けなくしてもらおう。


 あっ私も威圧すればいいかな?

 キッとした顔をしてみる。


「ん?どうした?嬢ちゃん」

「とんど、わゆいしと、いたや、にやむの」

「今度悪い人が来たら睨むそうです」


 …………。


「ははははは!可愛いな、嬢ちゃん。でも可愛すぎて、相手には効かないと思うぜ?それよりも危ないから止めておいたほうがいい」

「待ってください。せっかく主が可愛い表情を浮かべたのですから止めないでください」

「いや。小さな子供相手でも激昂するバカはいるから危険………ん?主?」


 ミスティルはぷぅっと膨らました私の頬を指でプニプニ押している。


「俺達は見た目ほど弱くない」

「姫は俺が守るから問題ないよ」

「姫っ?」


 いつもの如く勘違いされたので、ただの呼び名で貴族ではないと伝えておく。


「ゴホン、あー。さっきのヤツらが言っていたことは一部正解だ。あの辺りは暗がりで林の近く、魔獣の襲撃を受けやすいから近付かない方が良い」

「忠告ありがとう。まあ、俺達は問題無いんだけどね」


 レーヴァが肩を竦めた。


「レーヴァが言った通り俺達は強い。それにお嬢自身も自分を守ることが出来るから心配しなくていい」

「たしゅてゆ、あにあと。ちんぱい、あにあと」


 助けてくれてありがとう。

 心配してくれてありがとう。


「おにいたん、何人?おいぇい、しゅゆ」

「君達のパーティーは何人?だって。姫はお礼がしたいそうだよ」

「礼にはおよばんよ」


 鳳蝶丸が私を見たので、ご飯を食べるジェスチャーをした。


「たぶん、美味い飯にありつけるぜ?」

「何……!」


 おにぎりセットに豚の角煮入り焼きおにぎり。豚汁と唐揚げと、出汁巻き卵もおつけしましょう。



「あー。もし良かったら俺達のいる場所の隣にくるか?少しズレれりゃ場所の確保が出来るだろう。べっ別に美味い飯につられたわけじゃ無いからな」


 突然のツンデレ風発言。

 そして暗がりでもわかる。アンゲリカさんの顔が真っ赤だということが。



 何となく大きな体躯なお兄さんのリアルツンデレが可愛かった(?)ので、野営場所のお呼ばれに応じてみました。


 誘われて向かった場所にいたのは2人。物凄く綺麗な多分エルフのお兄さんと、触る物みな傷付けそうな獣人のお兄さん。

 マッカダンさんは元気かなぁって思い出しちゃった。



「また、お前はそうやって……」

「だがこんなに幼い子がいるし、心配じゃないか」

「ハアッ」


 強めのため息をつきながらも、座っている場所からズレてくれる獣人のお兄さん。なんだかんだ優しい人かもね。

 地図で表示されているのは獣人のお兄さんは白点。たぶんエルフのお兄さんは黄色点。何故黄色なのか理由がわからない。でも今はそれほど気にしなくてもで大丈夫かな。


 アンゲリカさん達が座っていた場所はもともと周りに人が少ないから、テントを張るスペースは無いけれど私達も十分座れる広さがあった。


「少し狭いが、まあ、詰めれば横にもなれるだろう」

「俺達はお嬢さえ横になれればそれでかまわん」


 そう言って小さめの帆布シートを敷く鳳蝶丸。

 フワフワの毛布を二つ折りにし3枚重ねると、ハルパがそこに座らせてくれた。


「あっ」


 お尻の下が柔らかすぎてころんと転がってしまう私。

 横になったので夜空を見上げる形となる。空はどんより曇っていて、上空の風が強いのか、月明りでうっすらと見える雲が凄い速さで流れていた。


「あや」


 今にも雨が降りそう。


「雨が降る」


 私そう思ったと同時にエルフさんが呟いた。


「まずいな。今日はテントを張る空間がないぞ。おーい。もうすぐ雨が降る。子供がいる家族は気をつけてくれ」


 アンゲリカさんが大きな声で周りの人達に声をかけると、そこらじゅうでザワザワと騒がしくなった。


 うーん…。

 私達だけに結界を張るのもアリかもしれないけれど、子連れの家族もいるからやっぱり気になってしまうんだよね。


「鳳蝶まゆ、ミシュチユ」


 結界師が頭上に結界を張る、とかなんとか言ってもらえませんか?

 私がお節介なのを知っている鳳蝶丸とミスティルが、ちょっぴり苦笑しながら立ち上がる。


「慌てるな。頭上に大きめの結界を張る。雨よけにはなるから安心してくれ」

「雨が当たらない場所に移動してください」


 屋台の時と同じように、空に雨除け用の結界4(平面)を張る。

 範囲は商隊エリアより手前、冒険者達や一般の旅人が座っている場所のみにした。


 商隊や貴族達には馬車やテントがあるからいいよね?



 ポツン、ポツン、ポツ、ポツ、ポツ………サーッ



 おおお〜。

 皆さん驚いたり不思議そうな顔をして空を見上げている。

 でも夜で暗いから、結界が雨を弾いているところは見えないと思う。


 ザーーー


 やがて本格的に雨が降ってきた。

 でも、テントを張らなくても濡れることはない。


「マジか」

「雨を避けるための結界なんて聞いたことがない」


 不思議そうに辺りを見回すアンゲリカさん達。


 ふふふ、便利でしょう?

 上に張っただけだから、横側から多少吹き込んでしまうけれど。

 大嵐じゃないから横まで囲わなくてもいいよね?



 ………ハッ!



 視線を感じでそれを辿ると、エルフっぽいお兄さんが私をじっと見ていた。


 私達の中の誰が結界を張ったか周りはわからないと思うんだけれど、やはりそこはエルフっぽいお兄さん。

 私が何かしたと気付いたらしい。


 人差し指を口にあて、シィーッと合図を送ると、少しだけ驚いてから微妙な表情を浮かべた。

 エルフのお兄さんはどうしたんだろう?明らかな悪意は感じないけれど、地図では黄色点で表示されるんだよね。



 ………ん?あれ?

 青点になって、黄色点になって、青点になって、黄色点になってる。


 点の色が複雑に変化しているよ?



 何かの事情で気持ちが揺れ動いているのかもしれない。

 私達の力に気付いていることに関係があるのかな?


 いずれにせよ、私達が知って良いことなのかわからないのでそっとしておこう。

 敵意を持って攻撃してこない限りはこちらから何かをすることは無いよ。


 それより今は眠くなる前に早くご飯が食べたいなあ。

 たやあで!

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