第187話 おににに、とんじゆ、しょちて、たやあで!

 ひと心地ついて、磁器の作り方を簡単に説明することになった。


 硬くなったマカマカクレイは出来るだけ細かく砕くこと。

 水を加えながら程良い硬さの粘土にしたら、空気を抜くように練ること。

 あとの工程は陶器と同じ。ただ焼く時は陶器より高温で焼くこと。


 窯焼きのことは詳しくわからないので、焼く時の加減は自分達で試作を繰り返して研究してほしいと伝えた。



「そえたや、とんなの、でちゆよ」


 それからこんなのも出来るよ、と萌えフィギュアを見せる。


「!!!」


 ポンポさん達が萌えフィギュアを囲んで凝視した。


「綺麗だ。なんて綺麗なんだ!陶器で出来た人形なんて初めて見た!」


 ポノアさんがひたすら感動している。


「この素晴らしい作品、作ってみたい。真似して作っても良いだろうか?」

「俺も作ってみたい!良いか?」

「あい、いいよ」


 ポンポさんが言うには、ポノアさんは手先がとても器用で細かい作業が得意、ノアノアさんは絵心がありデザインを得意としているんだって。


「ありがとう、ゆき殿、皆さん」

「こんなに滑らかに作れるなんて。俺も作りたい、いや絶対作るぞ!」


 うんうん。

 頑張って作ってね!


「でも、その前に薄い皿を作れるようにならなきゃな」

「その通りだぞ、ノアノア」

「親父だってそうだろ」


 お互いにな、と親子で笑い合っている。


「お前達ならば作れるようになるだろう。だが何事も基礎からだぞ」

「ああ、わかってるぜ。じいちゃんと父さんに基礎を叩き込んでもらって、試作品をたくさん作って、いつかモノにするかんな」

「良し、俺も負けてられんな!」


 仲の良い家族だなあ。

 期間は6年。なるべく早く作り上げて販売しないと。

 そして、磁器と言ったらポンポさんの工房!ってブランド化しないとね。



 ブランド化と言えば、話の流れで工房名の相談を受けた。

 今までは特に名称を決めず、ポンポさんの工房、みたいな呼び方をされていたらしい。でも今回はビッグチャンスなので、工房で作るものをブランド化するために名称を決めたいと。


 自由に名前を決めれば良いのでは?と言ったら、私達の名前の一部を入れてもいいか?と聞かれた。

 私達のことは気にしなくてもいいよ?


「磁器を後世に語り継ぐような作品にしたいと思っている。きっかけと情報をもたらしたのは君達なので、君達のことは人に伝えられないけどその名を残したいんだよ」

「………お嬢はそれでもいいか?」

「うん」

「お嬢の名は空から降る雪を意味する」


 厳密に言うとちょっと違うんだけれど、異世界の言葉は説明できないので降る雪ってことにしている。


「ハウか」

「親父が始めた工房なんだから、ハウ・ポンポなんてどうだろう?」

「良いな!言葉の響きもデンポも良い」


 それならロゴとかも作っちゃう?

 食器の何処かに入れれば差別化も出来るでしょ?


「こえ、ちってゆ?」

「主さんがこれは知ってる?って」


 紙を出してヨロヨロの字で+と書いた。


「いいや。どんな意味かな?」

「たしゅ、しゆしよ。ハウ、たしゅ、ポンポ」

「なるほど。主さんは、足すという意味のしるしだって言ってるよ。たぶん雪とポンポで作ったよって意味じゃないかな?」


 うーん、言葉のニュアンスを伝えるのって難しい。

 でも、ミルニルの説明はわかりやすいからいいや。



『HAU+POMPO』



 商標エンブレムはこれでどうかな?

 HAUの前に雪の結晶、POMPOの後ろには工房の入口に植えてあるプルメリアの小さなマークもつけるとか。

 そしたら真似もしにくく…………ハッ!!


「でしゃばて、ごめなしゃい」


 ポンポさん達が固まっているのでハッとした。

 楽しくなっちゃってついつい話したけれど、余計なことだったよね?出しゃばってごめんなさい。

 ポンポさんの工房だもの。好きな商標エンブレムにした方が良いよね。


「おじいたん、しゅち、しゅゆ。ごめなしゃい」

「いやいやいや、謝る必要などないよ。素晴らしい提案でビックリしただけなんだから」

「他にちょっと無いし、俺も凄く良いと思う。でも、俺達が使っていいのかい?」

「むい、ちてない?」


 私に気遣って、無理をしていないか聞く。

 無理どころか、そのアイデアを貰ってしまっていいのか?と再確認されたので、もちろんいいよ、とお返事する。


「では、商品の何処かに新しい名称を入れよう」

「ノアノア。デザインを考えてくれるか?」

「おう!」


 私のアイデアを生かしつつ、ご家族の皆さんでデザインを決めると言うことになった。

 これでお礼ができたかな?


「何から何までありがとうございました」

「わたちも、やしゃしい、あにあと」


 あの時声をかけてくれて、優しくしてくれてありがとう。

 突然やってきた旅行者に企業秘密もあるであろう工房を見学させるのは断られてもしょうがないって思うけれど、凄く冷たく門前払いされてやっぱり悲しかったんだ。


 ちょっぴりでもお礼が出来たならば私も嬉しいよ。



 じゃあ、今回の用事はひと通り終わったのでテントに帰るね。


「次はひと月くらい後だったね」

「あい。また、来ゆ」

「ああ、待っているよ」


 ポンポさん一家全員に見送られて転移の為の海岸へ向かう。

 ひと月後にまた会いましょう。


 バイバイ!






 さて気になる案件が片付いたので、王都に向かおうと思う。

 以前行ったので王都近郊に転移の門戸を繫げられるけれど、人の往来が多すぎるので少し離れた場所から王都へ向かう事になった。

 気配完全遮断のうえ飛行ひぎょうしてもいいけれど、たまにはちょっぴりだけ旅気分を味わうのもいいかなと思って。


 街道近くの林に転移の門戸を繋げる。

 只今、ラ・フェリローラル時間19時頃。辺りは薄暗く、人もまばらで誰もが先を急いでいる様子だった。


「この先に開けた場所がある。王都に向かう最後の野営地だな」

「どの国でも大抵はそういう野営地が存在するのですよ」


 鳳蝶丸とハルパが言うには、全てとは言わないが、王都まで伸びる街道にところどころに野営地があるらしい。

 デリモアナで休んだような塀や柵などに囲まれた野営地もあるけれど、大概はただの開けた土地になっているんだって。


 地球では交通手段が発達していたけれど、フェリアでの移動方法は、歩くか騎獣に乗る、もしくは輓獣がひく車(馬車など)となる。

 隣町程度なら問題ないと思うけれど、遠い土地に行くならば野営は必須。デリモアナ王国で乗ったような馬車を利用するか、護衛の冒険者達を雇って旅をするしかないもんね。


 私達には飛行ひぎょうとか転移の門戸とか移動手段がある。

 楽チンしてごめんね。


 でも便利なものは惜しみなく利用する。

 大切なのでもう1回。惜しみなく利用するのだ!




 皆で薄暗い街道を歩く。

 街道と言ってもこの辺りは土の道。きちんと整備された感じではない。

 ただデリモアナと違うのは、周りが緑豊か(暗いから今は黒々してちょっと不気味)なこと。


 草原、林、山の裾野に広がる森。


 普通は夜行性の魔獣が活発に動き回る時間。でも私達を遠巻きにして様子見しているらしく、近くには見当たらなかった。



 最初はハルパ抱っこで周りをキョロキョロ見回していた私。でもいつの間にか眠ってしまったみたい。


「主殿」


 声をかけられて目覚めると、少し先に無数の焚火?みたいなものが見えている道にさしかかっていた。

 懐中時計を見ると20時を過ぎたところ。


 転移の門戸を繋げた場所が、王都から遠すぎたかも。


「遠たった。ごめんね」

「いや。王都は人の行き来が激しいから人の目がある。これくらいの距離で丁度良い」

「これくらいの距離は問題ないので心配しないでくださいね」

「心配ありがとう姫。俺達なら大丈夫だから気にしないで」

「でも俺、お腹空いたかも」

「野営地に到着したら、夕食にしましょう。主殿は何が食べたいですか?」


 うーん。

 周りに他の人もいるし、あまり豪華じゃない方がいいかな。


「おににに、とんじゆ、ええと、たやあで!」


 皆大好き。おにぎり、豚汁、唐揚げ!


「いいね」

「全部好き。沢山食べる」


 皆でウキウキしているうち野営地に到着。


「いっぱい、いゆ」


 野営地は混雑していた。

 戴冠式を祝うお祭りもあるし、王都に向かう人が多いのだろう。


 私達の休む場所はあるかな?

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