第186話 独占契約とホットケーキ
「ポンポ氏を連れて来たと言うことは他に何かあるんだろう?」
「ああ。今から話す内容を人に聞かれたくない。この部屋に音漏れ防止の結界を張ってもいいか?」
「かまわないよ」
了承してもらえたので、ギルド長室を音漏れ防止の結界で囲う。
「それで今回来た内容ですが」
「ああ、そうだったね」
ミスティルがマジックバッグからアンティークティーセットを出す。
おおお……。
リコギルド長だけでなく、ポンポさん達も食い入るように眺めている。
「これは、遠い国で生産された磁器と言う食器です。数種の素材を配合した粘土で焼き上げているようです」
マカマカに来る前に磁器や陶器について、マカマカクレイについての詳細を皆に話しておいた。
行商で食器類はミスティル担当なので、今回は彼が説明してくれるみたい。
「そして今回。その配合無しで磁器が焼けることに気付きました」
皆が作った食器をテーブルに出す。
「我らが作ったものなので素人の域を出ませんが、薄さや硬さなど、職人が作ったものとそれほど変わらないと思っております」
「触っても?」
「ええ」
皆が作った作品はオリジナルを私が持ち、複写したものを皆に渡してある。もしうっかり壊されても大丈夫なのでぜひ触れてください。
「確かに。申し分ない出来だね」
「この作品は複数の素材を配合すること無く、マカマカクレイのみで作りました」
「…………な、なんと!素晴らしい!新たな産業になる!」
「喜んでいるところ申し訳ありませんが、わたし達がお願いしたいのは、このことをしばらくの間公表をしないで欲しいと言うことなんです」
「ええっ!」
この国の焼物工房で、我が主が大変不快な思いをした。
親切にしてくれたのはポンポ氏の工房だけなので、出来うる限りの年数を独占契約にしたいとミスティルが告げる。
「…………そうか。他の工房のやつらはちょっとアレだから。不快な思いをさせてすまなかったね、ゆき殿。マカマカ商業ギルドの
リコギルド長が美しい所作で頭を下げた。
その態度の悪さに複数の工房に結構な頻度で注意をしているけれど、王宮のおかかえ工房だからと態度を改めないらしい。
「リトギユマシュ、あにあと。だいじょぶ」
私が返事をすると、ちょっと驚いた顔をする。
「謝罪を受け入れてくだすって感謝いたします。しっかりした返事ができて、利発なお子だねえ」
「我が主は天才ですから」
「ちあうよお」
ミスティル、ちょっと、恥ずかしいから!あ、皆も頷かないで!
私は天才じゃない。実は大人なだけだよ。……最近かなり赤ちゃん寄りになってきているけれど。
ワタワタしている私を、リコギルド長とポンポさん達が微笑ましい目で見ている。
ぴゃあ!
「あ、あのねえ?」
「なんだい、ゆき殿」
「独しぇん、ていやちゅ、出来ゆ?」
「ああ、そうそう。そのことなんだが……」
通常の磁器も含め技法登録が成されていないかを確認してからとなるが、独占契約は可能ではある。
ただしマカマカクレイの使い方については国の一大産業となりうるため、王国から何らかの動きがあると思われる。
「それでも独占契約の話を進めるかい?」
「無論、と言いたいが、旦那達はこのまま進めてもいいか?」
「俺はそうしたい。親父はどう思う」
「そうだな。俺達と家族の身の安全も確保できたし、ぜひお願いしたい」
彼らに施した安全対策の内容を鳳蝶丸に説明してもらうと、リコギルド長がポカンと口を開き固まった。
しばらく無言の後、声を絞り出すように言葉を発する。
「あ、あ、あんた達は何者だい?そんな細かい魔法契約も結界も聞いたことない」
「言ってもいいが、魔法契約をしてからだ。どうする?」
「………いや、止めておこう」
リコギルド長が頭を横に振った。
「利益さえ上がってくれりゃあ、あたしにとって貴方達の正体が何だって関係ないさね」
ニカッと笑うリコさん。
潔くてカッコイイ!
「ただ、そうだね。独占契約は可能だが長きに渡るのは得策ではない。有用な情報を独占しているうえ、不思議な方法で身を守ってもらえているとあっちゃあ、お前さん達一家は周りから総スカンをくらって暮らしにくくなるだろう」
「そこは俺達も懸念している」
リコさんの意見を聞き、ポンポさん達の意を汲んだ結果、独占契約の年数は6年、それを過ぎたあとに情報を公開する、ということとなった。
正式な独占契約については、他国で何かしらの登録がないか確認してからになる。調べるには数日かかるので、分かり次第ポンポさんの工房に知らせるとのこと。
リコギルド長が、私達の正体は聞かなくても良いけれど材料などの情報を詳しく聞きたいので、やはりポンポさん達と同じ魔法契約をお願いしたいと言った。
もちろん問題ないので書類にサインをもらい、鳳蝶丸に魔法契約をお願いする。
「了解」
すぐに魔法陣を展開して、リコギルド長とも契約を完了した。
うん。それでは磁器について話をしよう。
ミスティルさん、お願いします。
「これは乾いて硬くなったマカマカクレイで作成しました」
「廃棄処分対象のかい?」
「そうです」
「やはりそうなのか!」
磁器に使う材料の配合はわからないものの、作り方を大凡知っていたのでもしかしたらと思い、ポンポさんから廃棄処分予定のマカマカクレイをもらい色々と試した結果、申し分ない磁器が作成できたこと。
私達はあくまでも行商人であり、生産者では無いこと。
だから、親切にしてくれたポンポさんに教えて製作してもらおうと思ったことをミスティルから伝えてもらう。
リコギルド長は廃棄処分のいわばゴミが、宝に変貌することに驚愕していた。
「自分自身で工房を立ち上げようとは思わなかったのかい?」
「思いません。そもそもわたし達はデリモアナに居住しているわけでもありませんし、移住予定もありません」
自分はその気になった時気まぐれに作りたいだけで、陶芸を生業にしたいとは思っていないんだ。
あ、ポンポ家と独占契約するけれど、私が気まぐれに作るのは許容してね?
「はあ………。まさか素晴らしい材料が身近にあったなんてね」
「作り方に関しては彼に伝えます」
「わかった。焼き物の工程についてはあたしゃ専門外だからね。とにかく磁器に関連した登録がないかは調べておくよ」
と言うことで、磁器の話は一段落した。
「わたし達は今後予定があります。落ち着いてからひと月後くらいにまた顔を出しますので、それまでに調べ物をお願いします」
「大丈夫だよ。そんなに時間はかからない。マカマカに来たらポンポ氏と商業ギルドへ来ておくれ」
「承知しました」
調べ物は商業ギルドに任せることにして、私達はポンポさんの工房へ戻ることにした。
また来るね!
商業ギルドから工房に戻った頃、少しだけ日が傾き始めていた。
う~ん、お昼ご飯食べそこねた。お腹が空いたのでオヤツでも食べようかな。
「おじいたん、みな、おやちゅ、食べよ」
「うん?お腹が空いたかい?何かたべるモンあったかな。おやちゅって何だい?」
忘れてた。貴族でもない限り、間食はしないよね。
オヤツとは、ん?何と説明すればいいの?昼食と夕食の間にお茶休憩として食べる、ちょっとした食べ物?
とにかく、お昼ご飯を食べそこねたからオヤツを食べようと説明する。
ごちそうするから奥さん達を呼んで、それから調理する場所を提供して欲しいとお願いした。
「俺達もいいのかい?」
「うんっ。いっちょ、食べよ」
厨に案内してもらい作業台にコンロを出そうとすると、ハノアおばあちゃんとお嫁さんが来て一緒に作りたいと言う。
うん、一緒に作ろう。よろしくお願いしますっ。
作業台の大きさ的にコンロ3台かな。ついでにフッ素加工のフライパンも3個。
焼く係と盛り付け係、3人ずつに分かれてみた。ちなみにミルニルは私の抱っこ係だよ。
ホットケーキミックス、ボウル、卵、牛乳を人数分を再構築して出す。
バターとメープルシロップなどその他モロモロは今ある物を複写。
うん、準備オッケー。
卵と牛乳を先に混ぜておく。そこにホットケーキミックスを入れ、ダマにならないよう混ぜる。
コンロの横に濡れたタオルを用意し、フライパンを中火で熱する。
フライパンが温まったら底面を濡れたタオルでジュウッと冷まし、コンロを弱火にする。
お玉でほどよい量の生地を入れフライパンに流す。
フツフツと泡が出てきたらひっくり返し、少し焼いたら完成!
ホットケーキを磁器のお皿にのせ、生クリーム、ブルーベリージャム、カット済のフルーツを飾る。
「なんて綺麗なの!」
「凄いねえ」
お嫁さんとおばあちゃんがウキウキしている。
「まだ焼かなくてはいけないから一旦マジックバッグに入れるよ」
焼きたて熱々ホットケーキは、レーヴァのマジックバッグに入れておいてもらった。
全員分を焼いて、客間のテーブルに着席する。
美味しい紅茶が入ったティーポットとお揃いのティーカップ。アンティークなカトラリーセットを食事用のテーブルに出す。
あと、バターとメープルシロップ。
紅茶のお砂糖と温かいミルクはお好みでどうぞ。
「アイシュ、のせゆ?」
「いいな。バニラでいいか?」
ミスティルとレーヴァが優雅な所作で紅茶を入れる。
鳳蝶丸はクレープの時に使ったアイスクリームディッシャーで、ホットケーキの上にバニラアイスを見栄え良くのせていく。
ポンポさんご一家はなぜか緊張の面持ちで固まっていた。
「…………な、なんか、お貴族様のお茶会みたいだねえ」
「あ、あの。私達、マナーとかわからないので………」
「おみしぇ、ちあう。自由、食べゆ」
「店じゃないんだし、自由に食べていいよ」
「バター、のせゆ、メープゥシヨップ、たてゆ」
ミルニルに実演してもらおう。
ミユニユ、食べて?とお願いしたら、バターを全体的に塗って、メープルシロップをタップリかけて、三角に切ったホットケーキにいちごと生クリームをのせて口に運ぶ。
「んっ、主さん、凄く美味しい」
ゴクリ………。
その手順を見たポンポさんが、見様見真似でホットケーキを口に運んだ。
皆さんもそれに続いて口にする。
「んんっ!!!」
目を見開いて固まり、直ぐにモグモグと食べ進める皆さん。
こんな美味しいものは初めてだ。なんて贅沢なんだと嬉しそうに食べている。
喜んでもらえて良かった。
私はというと、ミルニルに小さく切ってもらい、ホットケーキにアイスをのせてから口に入れてもらいました。
おいちっ♪
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