第185話 ほら、ファイアーボールもこの通り

「じゃあ、体験してみる?」

「体験?………おうよ。やってみたい」

「では、工房側の役を俺、脅し役をお前にしよう」

「待て、待て。その役は俺が……」

「いや。体調が悪くなるといけないから親父は見ていてくれ」



 結局ポノアさんが工房側役、ノアノアさんが脅し役に決定。

 鳳蝶丸がポノアさんだけに魔法仮契約(停止5秒)を施した。


「君には魔法契約がかかっていない状態だよ」

「うん」


 レーヴァがノアノアさんは魔法契約していない状態だと説明し、ポノアさんに顔を向ける。


「まずは君。俺の名前、レーヴァと言ってみて?」


 工房側役にレーヴァの名前を言ってもらう。


「この陶器作成の工程を教えてくれた人の名………………」


 ポノアさんがレーヴァの名前を言おうとして固まり、5秒後に復活。


「彼の名…………」


 もう一度。やはり5秒停止。


 次は身振り手振りをしようとして固まり、文字を書こうとして固まった。


 その様子を見て、魔法契約が体に影響するんじゃないかとポンポさんが心配したけれど、ポノアさんは全く変わりがなく問題ないと答える。

 念のため鑑定をしたけれど、体に影響は出ていなかった。



「次は俺だな」

「殴りかかってもいいぞ」

「良し、覚悟はいいな?親父」

「おうっ、来い!」


 レスリングの構えみたいな格好のポノアさんにノアノアさんが殴りかかる。



「あれの作りかっ……………!」


 手を振り上げた状態でノアノアさんが固まる。


「んはっ!止まった。俺は魔法契約をしていないのに!」


 無言で直ぐ胸ぐらを掴もうとして固まり、水をかけようとしたのか木桶を持って固まる。


「本当に攻撃できないんだな?体もなんともない。……良し、俺は魔法契約をしてこの皿の作り方を教えてもらう」

「そうだな。俺達のことを色々と考えてくだすってありがとうございます。体験させてもらい安心しました」


 ポンポさんが安心した表情を浮かべた。


「魔法契約をして新しい事業に取り組みたい。よろしくお願いします」

「お嬢、いいか?」

「あいっ!じぇし」


 はい!ぜひ。


「それで、図々しいのは承知の上で、だが。できれば母さんと息子の嫁さんにもお願いできるかな?」

「もちよんよ」


 だって、全員守るための契約だもの。



 女性陣を呼んで経緯と今後に関する説明、魔法契約について、そしてポンポさん達が体験したことを話し、理解と了承を得る。

 念のため以前作った書類にサインをもらい、全員が正式に魔法契約を結んだ。



「次はこの工房を守るので、敷地がどこからどこまでかを教えてくれ」


 ポノアさんとノアノアさんが居住部分を含む全エリアの案内をしてくれた。

 私は敷地を囲んでいる塀沿いに結界を張り、悪意ある者、物を通さない。物理と魔法両方の攻撃も通さないにする。


「これで敷地も問題ないね」

「でも出入りできるぜ?」


 レーヴァの言葉を聞いて、ノアノアさんが結界を出たり入ったりしている。


「悪意ある人や物を通さないにしてあるから、この家の人間や普通の客は入れるよ」

「だが……」


 外側から鳳蝶丸が大きめの石を投げつける。

 ゴンッ!という音がして、地面に石が落ちた。


「攻撃は通さない」



 ボウッ!ジュッ………。



「ファイアーボールもこの通り」


 レーヴァが炎を家に向けて放ったけれど、それもシュッと掻き消える。


「はあぁ………」


 ご家族全員ポカーンとしていたよ。



「安心できたかい?」

「ああ、とても」

「俺達はこのまま商業ギルドに行くが、旦那達の誰かついて来てもらいたい」

「勿論。俺が行こう」

「じゃあ、俺も行く。ノアノアは留守を頼む」

「ええぇ、俺も行きたい」

「お前はまだ見習いだろうが」


 全員が安全対策に納得したところで、ポンポさん達と一緒にマカマカの商業ギルドへ向かうことになったのだった。




「ここが商業ギルドです」


 ポンポさんに案内されてマカマカの商業ギルドに到着。

 大きい建物だなあ。


 マカマカと名の付く製品とオッコソルト関連の商品はデリモアナ王国の特産品で、質も使い勝手も良いため買い手が多く、マカマカとコアコアの商業ギルドは活気があって大きいのだそう。


 ちなみに、特産品の有用性を確信した商業ギルドと冒険者ギルドは、デリモアナ王国と長い交渉の末、特例を除く海外での売買は不可と契約を交わし商品を扱う許可を得た。


 特例と言うのは、デリモアナ王国で免許証ライセンスを取得したギルド長のいる商業ギルド(各支店)と、商人(個人)の経営する商店、行商人に限り、デリモアナ王国で『商品』を買取り、国外で販売するのは許可されているということ。


 でも、岩漿山のドロップ品(新品)を国外で直接買い取るのは禁止。

 中古製品の売買は目を瞑っているのが現状らしいけれど、国外で新品を売買すると違反となり商人であれば商業ギルド、冒険者であれば冒険者ギルドから登録抹消されるとのこと。

 結構厳しいよね。


 私達はデリモアナ製品を売る予定も無いし、今持っているマカマカシリーズを買い取りしてもらえれば問題無い。




「ギルド長に渡すよう言われた書状がある。面会は可能か?」


 鳳蝶丸が受付の男性に声をかけ、商業ギルドカードを提示した。


「お約束はありますか?」

「いや。だがミールナイトのフィガロギルド長からの書状だと伝えて欲しい」

「………ミールナイト、でございますか。ギルドカードを拝借いたします」


 受付のお兄さんが鳳蝶丸のカードを受け取って、確認しながら急に慌てだす。


「ミールッ!優しゅっ!………コホン。大変失礼いたしました。では、ギルド長に声をかけてまいりますので少々お待ちを」


 しばらく待っていると先程のお兄さんが小走りで戻ってきて、ギルド長室に案内された。




「待っていたよ」


 ん?待っていたって?

 理由はわからないけれど、ギルド長は私達のことを見てニヤリと笑う。


「まあ、座っておくれな」


 促されて皆がソファに座る。

 私はハルパ抱っこだよ。



「紅茶でいいかい?あ、お嬢ちゃんは果実水を出すからね」


 そう言うと、テキパキと職員さんに指示を出す。

 マカマカのギルド長はお年を召している矍鑠とした女性だった。



「あたしはマカマカの商業ギルド長、アロアロ・リコ・マカラプアだ。リコと呼んでおくれ」

「俺達は屋号【桜吹雪】という行商人だ」


 鳳蝶丸が私と皆の名を紹介し、ポンポさん達も自己紹介をする。


「あなた達の工房はとても誠実だと聞いているよ」


 ポンポさん達が提示した商業ギルドカードを確認しながらリコギルド長が彼らを褒めた。ギルド長が知っているほど誠実な職人さんなんだね?何だか私まで嬉しくなっちゃう。

 ポンポさん達も嬉しそうに笑顔を浮かべていた。


 そして鳳蝶丸も商業ギルドカードを提示する。


「ミールナイトのフィガロギルド長が初めて認めた優秀商だってね。噂は聞いているよ」

「噂?」

「ハロハロで色々と売ったろう?」

「ああ…そうだな」

「あのジジイ。【桜吹雪】から購入したと言う品を、何かにつけて自慢してくるのさ」


 リコギルド長が悔しそうに自分の膝を叩いていた。


「薄くて素晴らしいティーセットを購入したとか、天にも登りそうなほど美味いものを食べたとか飲んだとか。イヤらしいったらありゃしない」


 ハンスモンスギルド長とはライバル同士なのかな?


「はあ。あなた達に言ってもしょうがないか。すまないね。で、何の用事だい?」

「その前に、これを渡しておく」

「おお、そうだった」


 鳳蝶丸が渡した書状を読み始める。

 その間に職員さんが紅茶と果実水を持ってきてくれたので、私は果実水を飲んで待っていた。


 あ、マンゴーっぽい。美味しい!


「まさかギルド長に直接会うことになるとは」

「ああ」


 待っている間ポンポさん達が緊張した面持ちでこそこそと話していた。

 小さな工房の経営者が直接商業ギルド長に会うことって珍しいんだって。


 たぶんハロハロの件と、ミールナイトで発行された優秀商カードのせいだと思うよ。



「なるほど」


 書状を読み終わったリコさんが顔を上げる。


「サクラフブキがいかに優秀か、商業ギルドに素晴らしい品々をもたらすのかが大量の書状に書かれてあったよ」


 それから、無理強いは絶対するな。彼等に見放されると色々な意味で損をする。

 反対に彼等からの好意を得られれば、何かしらの恩恵がある、とね。



 読み終わったリコさんは、長文の書状にちょっとお疲れ気味のようだった。


「マカマカの商業ギルドはあなた達を歓迎しよう」

「ありがたい」

「ミールナイトのフィガロギルド長に気に入られるとはね。期待しているよ」


 ハロハロでも思ったけれど、こんな遠い国までその名を轟かせているとは。

 毎回思うけれどフィガロギルマスって凄い人なんだなあ。

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