第179話 人生初、ポーション作り
翌日目覚めると鳳蝶丸がそばにいた。
支度をしてリビングに行くと皆がのんびりしている。
朝の挨拶をして椅子に座らせてもらうと、ミスティルがオレンジジュースを出してくれた。
「ちのう、おちゅかえ、しゃま、でちた」
皆も私を労ってくれたけれど、何だか釣りで遊んでただけな気がする。
「お嬢。今日はどうする?」
「おやしゅみ、しゅゆ」
今日は皆でそれぞれ自由にゆっくりするよ!
「了解」
「じゃあ、まずは朝食、なんてどうだい?」
「いいね」
夕食食べなかったしお腹ペコペコ。
朝食は肉巻きおにぎりと焼き肉パンのセット。私は肉巻きおにぎりと野菜たっぷりスープにしたよ。
「昨夜見回りしてきたんだけど」
食事をしながら昨夜の報告を受ける。
私が眠ってから鳳蝶丸以外でサハルラマルの見回りをしてくれた。
皆の話によると、どうやら少しだけ魔獣が溢れたらしい。下級の魔獣だったので被害はそれほど無いけれど、多少怪我人が出たらしい。
「大怪我の人の子らにはポーションをかけてきたから、大丈夫だよ」
「あにあと!」
冒険者や衛兵なのに下級の魔獣で大怪我したの?と聞いたら、酔っぱらい共だから仕方がないと言うことだった。
ともかく、怪我が治ったようで良かったね。
マブルクさん達がいる街は私の結界があるので無事だった。
ただ、私達が大暴れした時の地響きや砂柱、轟音に騒然となったらしい。
その間は事前にこの街は安全だとマブルクさんが伝えていたからか、皆さんは広場に集まって耐えていたらしい。
驚かせてごめんなさい。
魔獣が少し溢れたみたいだし、この街に結界を張っておいて良かった。
地響きもだけれど、私の浄化の光に驚いて大騒ぎになったみたい。
ハルパがあの光は私の魔法(神力だけれど)で、悪いものではないから大丈夫と説明してくれたんだって。
マブルクさんは私の正体を知っているし、スタンピードを止めるために
脅威が去って安心したと笑顔だったらしい。
ね?
スタンピード終息させたでしょう?
キリッ!
スタンピードはしばらく起こらないと思うよ。
あとはラエドさん達が王都奪還をするだけ。
そして国民の心に悪い気が澱まないよう、良い国に導いてね
さて。
我々の役目はひとまず終わりました。
メルテール様から指示も特に無いのでしばらくお休みです。
「少し、おやしゅみ、しましゅ」
「了解」
出かけるなら誰かに声をかけてねと言って、私は和室に向かった。
コクン。
ふう〜、お茶が美味しい。
湯呑みでは飲めないから、ストローマグでお茶を飲む。
そして和三盆の干菓子を口に含んでじっくりと味わった。
お楽しみのフォルダ整理をしようかな。
早速、座椅子に寄りかかって無限収納を開く。
「あ、おねたん」
シャンプーとトリートメント、お化粧品の注文が入りました。
一緒に入っていたお手紙には私を心配していると書いてある。
「ちんぱい、あにあと」
私自身は文字が上手に書けないので、画用紙にオレンジのクレヨンで「げ ん き」とこちらの文字で書く。ついでに何が描いてあるのか判別出来なさそうな砂漠とサンドサーモンの絵を描いて、商品と一緒に入れておいた。
よくよく考えると、テントはミールナイト側だから何時でも会えるような………。まあ、いいや。
次にシュレおじいちゃんのお手紙。戴冠式のことかな?
戴冠式の正式な日取りは来月中頃だって。
春の終盤ね。
戴冠式の席には着かないけれど、観に行く予定なのでお返事を書かなくては。
今度はピンクのクレヨンで「あ り がと う、い くね」と書いて、またしても砂漠とサンドサーモンを描き共有に入れた。
早速フロルフローレ様に連絡しよう。
『フロルフローレ様』
『お久しぶりです』
『戴冠式が来月中旬に決まったそうです』
『何をすれば良いですか?』
『
『姉の手助けをありがとうございます』
『お役に立てているでしょうか?』
『姉は安心しているようですよ』
『ありがとうございます』
『それから戴冠式当日に』
『協力して欲しいことがあります』
『はい』
フロルフローレ様のお願いは、割と大胆なものだった。
神界の決まり事に抵触するのでは?問題ありませんか?と心配したら、それをやることで近しい未来の不安要素を防げられるため、ウル様が承諾したらしい。
ウル様が許可しているなら問題ないので、フロルフローレ様の案を了承する。
うんうん、演出考えなきゃ。
何だかワクワクするね。
落ち着いたところでいつものフォルダ整理。
自動収集の枠にめっちゃ沢山ドロップアイテムが入っている。いるものと要らないものを分けて、更に種類ごとにまとめた。
「あったた、シャンシャーモンッ」
サンドサーモンやレインボーサンドトラウトの切り身があったよ。
私はサンドサーモンを釣っていないけれど、ミスティルが討伐したのかも。
鑑定して一番良質な美味しい切り身を残し、あとは普通に食べようと思う。
レインボーサンドトラウトも切り身や鱗をドロップしてたので、同じ様に鑑定で残すものを選んでおいた。
そして、レインボーサンドトラウトのクイーンとキングである。
切り身、鱗、筋子、王冠がそれぞれドロップされていた。
どれも高品質だったので残しておこう。筋子は醤油漬け作ろうかな?
あと気になるのが王冠だよね。
「たんむい、だしゅ」
クイーン冠を出してみたら座卓をすっぽり囲むほど巨大だった。
これじゃ頭に載せられないよう。
王冠は半透明で角度によって色々な色に見える綺麗な玉虫色。
鑑定してみると、素材自体は鱗の一部が変化ものらしい。
冠は他の鱗より硬く、かつ靭やかで壊れにくいみたい。触ってみると何となくプラスチックのような感触だった。
「何た、ちゅたえゆ?」
何かに使えるかなあ?後で皆に聞いてみよう。
整理が終わったころ、鳳蝶丸が私を迎えに来る。
「お嬢、そろそろ昼食だが一緒に食べるか?」
「あいっ」
もうそんな時間なんだ。
抱っこしてもらってリビングへ移動。お昼はハルパリクエストでカツ丼と豚汁にしました。
なかなか渋い選択である。
「エインボ、トヤウト。おーたん、ちゅたえゆ?」
レインボーサンドトラウトの王冠って使えるの?
「硬いけど靭やかだから、武具になるよ」
「コレクターにも売れそうだ」
ミルニルと鳳蝶丸が案を出してくれる。
そっかあ。
売るならまずフィガロギルマスに相談してから決めようかな。
「鱗は落ちたかい?ポーションの材料になるよ」
「あい、ドヨップ、ちた」
「じゃあ、一緒に作ろうか?姫」
「いっちょ、ちゅくゆ!」
わあっ。ポーション作ってみたかったんだ。
午後から一緒に作る約束した。
「あっしょうだ!たいた、たい、たいたんちち」
「戴冠式ですね?」
「うん」
ミスティルに助けてもらいながら、ラ・フェリローラル王国の戴冠式は来月中頃に決まったことを伝える。
「確か、何か手伝って欲しいって言われてたな?」
「うん。しょえは……」
フロルフローレ様のお願いを皆に話す。
「ウユしゃま。承諾、ちた」
「ウルトラウスオルコトヌスジリアス神が承諾済みならば問題ないのでしょう」
当日はどうしようか。ああしよう、こうしようと皆で話し合い、それぞれの役割が決まる。一応フロルフローレ様に報告をしてオッケーをもらいました。
午後はレーヴァとポーション作りの予定です。
場所はどうしようか考えて、私も作業部屋を作ることにした。
硝子の温室横に出入り口を作って、空間操作で1つ大きな空間を作る。鳳蝶丸やミルニルの作業部屋みたいに白壁のシンプルな部屋にして結界4(立体)を張り、防塵・防砂・防火、許可した者しか入れないを付与する。そして作業台と椅子だけを置いた。
「イェーバ、でちた」
レーヴァ、作業部屋出来たよ。
早速2人で部屋に行って、ポーション作りを始める。
「では作ってみますか」
「よよちく、おねだい、しましゅ」
「こちらこそ。姫はこの間俺がポーション作ったの覚えてる?」
「あい」
やり方はこの間見たけれど私は「フェリア薬草辞典」を持っていない。手順が変わるの?
「本来は薬草を粉々にしたり、煮出したり、濾過したりする道具が必要なんだけど、姫はいらないと思う」
「だんばゆ」
「これは出来る?」
レーヴァが水の玉を出す。
私も丸い水の玉を作ろうとして……。
ッンザアアァァァ!
水ジェット発動しちゃった。
「もうちょっと魔力を抑えた方がいいかな」
「めんちゃい」
水を溜らせやたら色っぽいレーヴァが笑いながら髪をかき上げた。
「ちちになおち、しゅゆ」
濡れている私達や巻き散らかしちゃった部屋の水を清浄で消す。そして、仕切り直しでもう一度チャレンジするよ。
レーヴァに少し待っていてもらい、魔法創造で『飲料水生成』を作る。
内容はきれいな水が湧き出るにした。
次に結界5。
基本は結界1と同じ
ただし対象物を囲むのではなく、私の目の前に浮かぶ
これで使えるかな?
結界5、直径30cm,
結界の中に飲料水生成。
そして水蒸気以外は中から外に何も通さない。
結界の半分まで溜まったところで水を止め、水自体を清浄した。
「こえ、だいじょぶ?」
「考えたね、姫。なかなかいい感じ」
次に薬草の粉砕をするために魔法創造で『粉砕』を作る。
対象物を品質を変えず粉砕する
粉砕の種類は
「イェーバ、粉、どえくやい?」
「そうだね。これくらいかな」
例として薬草を粉状にしてくれた。ちょっと粗めなのね?溶かすのではなく煮出すから、これくらいでいいのかな。
合っているかわからないけれど、多分
私はもう1つ結界5をつくり、その中に怪我用初級ポーションに使うカラエンの塊根、コルヒサフランの種子を入れた。そして粉砕・
「でちた。いい?」
「うん、丁度いい。流石姫だね。可愛い上に俺と同じものが作れるなんて天才だよ」
いつもなら引いちゃいそうな台詞も、今日は嬉しくなってドヤァしてしまう。レーヴァが笑いながらナデナデしてくれた。
「よし。じゃあ次の工程にいってみようか」
次はさっき出したお水に粉砕した薬草を入れて、弱火でじっくり煮込む。
結界5同士それぞれを許可し、手で薬の結界を水の結界に重ねると水と薬材が混ざったので薬の方の結界を解除する。
これを煮るんだよね?火の魔法は作っていないので魔法創造しなくては。
『カセットコンロ』
カセットコンロの本体無し火だけバージョン
手で空中を右に捻ると強火。左に捻ると弱火
「停止」で火を止める
「ちゅちましゅ、ように」
結界5の下を指定し、魔法のカセットコンロを発動。
何も無い空中で手を右に捻る。
チチチチチッボッ
と言う効果音とともに、ガスコンロの火だけが空中に浮かび上がった。
今の状態は強火になっているので、ゆっくり手を左に捻ると火が細くなって行く。
「とととと、にとむ」
弱火でコトコト煮込むよ。
「料理する時のコンロみたい。姫は面白い魔法を思いつくね」
「元、にぽん、いたたや」
日本人だったから、こんな感じって想像が出来るのかも。
少しずつ水の温度が上がり、やがて薬材が湯の中でクルクルと回りだす。
「姫、湯の中に少しずつ魔力を注いで」
「あい」
「少しずつだよ」
「うむう」
その少しずつが難しい。
気を抜くとドバッと出てしまいそう。
「これくらい治癒したいと想像するといいよ。今回は初級ポーションだから切り傷や赤い程度の火傷が治るくらいだよ」
「あい」
切り傷………あっダメ!バッサリ傷じゃなくてちょっとだよ。火傷ってケロ……、違う、赤くなった程度を治すんだよ。
あわわ、多くなっちゃう。
少なく、少なくぅ。
「ちょっと多いかも」
「めんちゃい」
「止めて、姫」
「あいっ」
はあ〜。
魔力放出を止めて結界の中を見てみると、透明だけれどめっちゃ濃い赤のポーションが出来上がっていた。
清浄で粉砕した薬草を消してからこれをポーション瓶に入れるんだけれど、レーヴァみたいに液体を操れない。
仕方がないので我が家の片手鍋を出し清浄でビッカビカにする。
作業台に片手鍋を置き、その上に結界を移動してから結界解除をした。そして小さな漏斗を再構築、清浄してポーション瓶に差す。
「イェーバ、いえて、ちゅだしゃい」
「姫のためなら喜んで」
「あい、あい」
レーヴァにお願いし、7本の小瓶に分け入れてもらう。
「わあ」
初めて作ったポーションは赤の怪我用ポーション。
鑑定してみると、世にも珍しい上級ポーション並の初級ポーションになってた。
「………こえ、あでゆ」
「良いのかい?」
「うん」
伝説の武器達はポーションを使わないけれど、初めて作った記念に皆に渡すことにした。
まずは一緒に作ってくれたレーヴァに。後で皆に配るよ。
「ありがとう、姫。俺の大事な宝物にするよ」
「うふふ」
ちょっとこそばゆくて照れてしまう。
「綺麗だね。伝説級のポーション」
「でんしぇちゅ?」
「だって、初級ポーションの材料で上級ポーションだよ」
「魔法、いえしゅじた」
「うん?まあ、入れ過ぎではあるけれど、姫が頑張ったんだからそれで良いんだよ。売ることは難しいけどね」
「でしゅよ、ねえ」
ですよねえ…。
魔石剣で少し慣れたけれど、もう少し魔力を抑えられるようにしないとなあ。
練習あるのみだね。頑張るぞ、おーーー!
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