第178話 シャン・シャー・モオォーーン
お昼寝しているうちに、鳳蝶丸達が帰ってきた。
無事商業ギルドカードとダンジョン許可証を貰ってきたって。
お昼ご飯を食べてからマブルクさんのところへ行って、鳳蝶丸達が買ってきた小麦や野菜を全部と、開けるまで時間停止の箱にお肉を入れて複数個渡す。
「お嬢からこの街の皆に、と言うことだ。分配してもらえるか」
「こんなに!ああ…ありがたいことです。深く御礼申し上げまする」
「ヤエドしゃん?」
「はい。皆、出発いたしました」
魔石剣を渡したあと、直ぐに出発したんだね。
「それから、スタンピードは近々に起こる。この間も言ったけど、この街は姫の強固な結界で四方囲まれているから、この辺りで一番安全な場所だよ」
「街を出ないほうがいい」
レーヴァとミルニルが今一度説明をする。
「はい。既に皆に周知させております。秘密裏に味方の門番達にも連絡を入れました。今日中には戻って来るでしょう」
マブルクさんが少し緊張した面持ちで言った。
スタンピードはちゃんと止めるから安心してね。
「俺達はしばらくここに来ない。それまでは渡した食料で凌いでくれ」
「充分にございます。皆様もお気をつけて」
さて、一旦テントに戻り作戦会議をする。
「澱みが大分膨れ上がっている。そろそろ頃合いだろう」
「スタンピードが始まるギリギリのこのタイミングで、主に浄化してもらおうと思います」
「またしぇて」
鳳蝶丸とミスティルの発言に皆が頷いた。
「この砂漠でダンジョンコアを探すのは大変困難です。なので誘き寄せようと思います」
「俺達の豊富な魔力量5人分と、半神である姫の強大な魔力はコアにとって大変な魅力だと思う」
「何とか取り込もうと魔獣を寄越すよ」
ハルパとレーヴァ、ミルニルがニコッと笑う。
「もちろんそれではわたし達の、そして主の魔力は取り込めません。恐らく痺れを切らして自ら向かって来るでしょう」
「その時すかさず主さんが浄化!だよ」
「あいっ」
久しぶりの浄化だね。
「主殿。まだ魔力を放出しないでください」
「あやっ」
気付かないうちに漏らしてた?
魔力のことだよ。
「俺達が派手に暴れるから、お嬢はコアが来たら浄化を大放出してくれ」
「それまでは俺と釣り」
「あいあいっ!」
フンス、フンス!
やったるでのポーズ!
ミルニルに前向き抱っこ(抱っこ紐)されて、迷い砂漠に
目指せサンドサーモン。釣果はいかに?
ヒャッハーーーーーッ
たぶんこんな感じです。
本当に叫んでいるわけではないけれど。
鳳蝶丸、レーヴァ、ハルパは地上にいる魔獣の討伐を始めた。
鳳蝶丸は細かく切り刻み、レーヴァは複数の魔獣を焼き切る。ハルパは身の丈以上の大鎌を薙ぎ払うスタイルで、一振り真っ二つ系。
ミスティルは上空と地中の魔獣を大弓でバスバス射っていた。
皆、恰好良い!
「じゃあ、俺達も参戦しよう、主さん」
「あいっ」
ミルニルが釣り竿を出して、投げ釣りのように竿を振る。
糸がキレイな弧を描いて、弧を、弧…………ん?
釣り針と糸が高速で地上に向かっていった。
「主さん、ここ持って」
ミルニルと一緒にグリップを握る(握れていない)。
釣り竿は私達が動かしてはいないのに、針と糸が地中に落ちると同時に勝手に動き回り始めた。
「針の魔石に追跡機能を付けているんだ」
クンッ
何かが引っ掛かった。
ミルニルがリール左側の魔石に魔力を通す。
「主さん。危ないからちょっと手を離して?」
「うんっ」
すると、ミルニルが竿を引きながらリールを巻く。
巻く。
巻きまくる!
ザブォアアア!
「ぴゃっ」
ビックリしたあ。
砂から飛び出したのは、釣り針が顎から頭頂に突き抜けているサンドワームちゃんだった。
「はに、おっちい?」
釣り針がすんごい巨大化している。
「左の魔石に魔力を通すと、釣り針が巨大化するよ」
そしてサンドサーモンじゃなかったねと言いながら、リール右の魔石に魔力を通す。
ジャキッ!!
釣り針のフトコロの内側部分が鋭い刃みたいに変形し、ミルニルが竿をクンッと引くと、サンドワームちゃんの頭部が縦に真っ二つに切れた!
「ひゃああぁ!」
砂漠にドオン!と落ちて、やがて消える巨体。
「はにで、ちえゆ?」
針で切れる針の剣???
「だって武器だから」
「ぶち、だたや」
「うん。武器だから」
釣り竿型の武器だから。
ミルニルのスキルは「武器・武具造形」だから作るのは武器だもんね?
釣り竿型の武器 ☆爆・誕☆ デス。
こうなったら、サンドサーモンが釣れるまで攻撃するぞう。
「よーち、シャン、シャーモン」
「そうだね、次はサンドサーモン」
せーのっ!
「シャン、シャー、モォーン」
私の掛け声でミルニルが竿を振る。
……………。
次もサンドワームちゃんだったよ。
うむぅ、諦めない!
何度も投釣りしたけれど、未だサンドサーモンはヒットせず。
「もう一回やってみよう」
「あいあいっ」
「せーの、シャン、シャー、モーン」
「シャン、シャー、モーン」
ギリッ
サンドワームとは違う引ききたーーー!
針を巨大化させてもなお、引きが強い。
「これは大物」
「シャンシャーモン?」
「違うかな」
「しょっかあ」
「とにかく引き上げるよ」
「うん!」
ミルニルが竿を引きながらリールをどんどん巻く。
力持ちだから謎魔獣にも負けないよ!
「来る」
「おーっ」
ザザッ!
物凄い大きな魚が跳ねた。形は鮭に似てる?
「レインボーサンドトラウトだ」
レインボー?
確かに鱗が虹色に光って美しい。
「レインボートラウトは稀に群れていることがあるから、直ぐ次に行くね」
「うん、よよちく」
レインボーサンドトラウトの頭を真っ二つにすると、直ぐに釣り針を投げ入れる。
ザザザッ!
「やったっ」
「どんどん、取よ」
「了解っ」
入れ食い(追跡だけど)状態でレインボーサンドトラウトさんを狩っていると、更にもっと強い引きが!
グググググ……
「なんだ?」
「ミユニユ、だんばえぇ」
「任せて」
ズザアアアアアァァァ!!!
「わあっ」
「クイーンだ」
レインボーサンドトラウトクイーンは、レインボーサンドトラウトより2倍、サンドワームちゃんより3倍くらい大きかった。
そして何故か小さな王冠の様な物を頭に乗せている。
ミルニルがリール右に魔力を通し、クイーンのお顔真っ二つと同時、更に大きなレインボーサンドトラウトがジャンプで私達に襲いかかる!
ミルニルが釣り竿を左手に持ち替え、右手で鎚を即座に巨大化させる。
ドオオーーーン!!
トラウトさんの顔正面を潰して終了。
頭に大きな王冠を乗せたレインボーサンドトラウトキングさんだった。
合掌。
「釣り、楽しいね」
「うん、たのち♪」
また釣り糸を垂らそうとしたその時。
「あっ」
なにか大きくて禍々しいものが近づいてくる。
「おっ」
ミルニルも気付いたみたい。
「ミユニユ、抱っこ、はじゅちて?」
「わかった」
ミルニルに抱っこ紐を外してもらい、自分で
「お嬢、来るぞ」
「あい」
ワイヤレス通信からは鳳蝶丸の声。
遠くから近付いて来る気配は間違いなくダンジョンコア。
私は浄化を祈り始める。
穢れ、澱み、ドロドロと渦巻くものを纏う大きな砂の塊が押し寄せてくる。
私達を捕食すべく、猛スピードで……。
悪いのは勝手な行いをした人の子らだけれど、ダンジョンはダンジョンたる
仲間達が私を守るべくダンジョンコアと対峙する。
近付く巨大な砂山。
皆が武器を構える。
ドドドドドドドドド!
今、穢れを取り払うよ。
浄化!
キンッ!
フワッ
サアアァァァ……………
ダンジョンコアの上に星が煌めき、白い光となった。
波紋の如く広がる浄化の力。どこまで届いたのかわからないけれど、遠くの方まで白い光が広がって行った。
目の前には完全に停止した巨大な砂山。
いまのうちに……。
ダンジョンコアに印付けをしておく。
何をするわけではないけれど、これで次は簡単に探せるね!
「無事浄化されましたね。お疲れ様でした、主殿」
「お疲れ、お嬢」
「姫の浄化は心地良いね」
「しばらく大丈夫だね、主さん」
「疲れていませんか?主」
「うん、だいしょぶ。皆、おちゅたえ、しゃま、でちた」
辺りは夕闇に染まりつつある。
動かぬダンジョンコアはこのまま放っておいても問題無いということだったので、私達はテントに戻ることにした。
マブルクさんがいる街も、荒くれ者達がいる街も何やら騒がしかったけれど、とりあえず放置する。
だって釣りではしゃぎすぎて、もう眠くて眠くて。
今日も楽しかったなあ。
「主、お疲れ様です」
「姫は浄化で疲れちゃったかな?」
「釣り、楽しかった」
「私達が主殿を連れて行きますよ」
「お嬢。安心して眠りな」
テントまで連れて行ってくれるんだと安心した途端に記憶が途切れる。
ふあぁ…お休みなさい。
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