第177話 釣り竿の使い方はまだ秘密♪

 朝ご飯を食べてのんびりしていると、外からラエドさんの声がした。


「ラエド、馳せ参じました」

「おはよ、ごじゃい、ましゅ」


 今日はラエドさんしか来なかった。

 他のご兄弟達は出発の準備をしているらしい。


「いしょだちい、あにあと」

「姫は、忙しいところありがとうだそうだよ」

「とんでもございません」

「立ったままで悪いが、早速説明を始めるぞ」

「御意」



 まずはハルパ作回避のネックレス。


「これは回避が付与されたネックレスです。敵の攻撃を避けやすくなります」

「たくしゃん、バッチュ、入えゆ。ちゅたって。こえ、あでゆ」

「マジックバッグに入れておくので使って欲しいと言うことです。プレゼントをするので返さなくて良いそうですよ」

「何と!ありがたい。良き品を賜り、恐悦至極に………」

「まだあるから。恐悦は最後にして」


 今度はミルニルが説明する。


「これ、特別に打った剣。普通に使える。けど、めちゃくちゃ重い」

「重い………」

「わたち、ちょうしぇちゅ、しゅゆ」

「主さんが重さの調節をするよ」


 鑑定によると、現在魔石剣の総重量168Kg。

 これに浮遊をかけ、浮かび上がらない程度の重さに調節していくよ。


「一度持たせてはくださらぬか」

「いいけど。重さがブラウングリズリーくらいだよ」

「ん?」

「はい」

「ま、まっ!フンッ!!!」


 ミルニルが何でもなさそうに持っていたからか、持たせて欲しいと言ったラエドさん。突然告げられた重さに戸惑い、力を入れる。


 マントを羽織っているからわからないけれど、腕に血管浮いてそう。

 鞘の切っ先が帆布シートに着きそうだけれど、両手でもほぼ持てているなんて凄い!


「こ、これは、剣を振り、戦うのは………難しい……クッ」

「だよね」


 スッとミルニルが受け取る。


「主さん、お願い」

「うん」


 鑑定をしながら浮遊をかける。魔力の量を調節しながらかけると、重量の数字がどんどん減っていく。重さ10Kgになったところで一旦止めた。


「ヤエドしゃん、ちゅたいやしゅい、重しゃ、しゅゆ。てん、みしぇて?」


 ラエドさんの使いやすい重さにするので、剣を見せてください。

 出来れば抜き身でお願いします。鞘も見せて下さい。


 ミルニル通訳でお願いすると、スラリと抜いてラエドさんが大剣を私に見せてくれた。


 鑑定すると、剣の重さ4.1kgと表示されている。

 大剣、重っ!



 ラエドさんの持つ大剣と鞘。重さをそれぞれと同じにしよう。

 ミルニルが持っている魔石剣本体と鞘を鑑定しながら更に浮遊をかけ、少しずつ大剣の重さに近付ける。


 うむむ、難しい。

 魔力を減らしたり追加したりしながら調整すること5分。

 ラエドさんの剣、そして鞘と同じ重さになった。



「わあぁ♪」


 思わず喜びの舞を踊っちゃう。


「でちた、でちたぁ♪」


 勢いでミスティルに抱きつくと、無言ナデナデしながらギュッと抱きしめ返してくれた。


「主さん、やったね」

「やったった」


 そのあとミルニルとハイタッチしたよ。



「持ってみて」

「はい。!!先ほどと重さが全く違う。……抜いても?」

「いいよ」


 ラエドさんがスラリと魔石剣を抜刀する。


「………!何と言う美しい剣なのだ!そして我が手に馴染む重さに変化している」

「俺が打ったから、シルバーロックトータスの甲羅くらいなら簡単に切れるよ」


 ラエドさんがビクリとして口をあんぐり開けた。


「シルバーロック………」


 シルバーロックトータスとは岩のように硬く巨大なリクガメ系の魔獣。物理攻撃も魔法攻撃も効きにくく、特に甲羅は剣も斧も折れてしまうほど硬い魔獣なんだって。


「その甲羅をも切れるとは」


 ラエドさんが剣をブンッブンッと振っている。


「まだ掴み慣れぬが、重さは丁度良い。ありがたくお借りする」

「あい」


 そのあとラエドさんが2本差ししていたもう1本、長剣も見せてもらって鑑定。

 魔石剣と鞘を、長剣と同じ重さに調整する。


 アースィファお姉さんは?と聞いたら、ラエド軍の女性戦士達は男性と同じ重さの剣を使用しているので、今作った物で良いという。


 作成した重さ2種の剣を無限収納に入れ、大剣級10本と長剣級100本を複写しマジックバッグに入れた。


「バッチュ、入えた」

「これはミルニルが打ち、お嬢が祈りを込めた剣。強力な守り付きなので肌見放さず持つといい」

「ハルパが作った回避のネックレスも忘れずに」

「怪我をして姫を悲しませないようにね」

「ポーションは使い切っても大丈夫です」

「君達の武運を祈っていますよ」


 鳳蝶丸、ミルニル、レーヴァ、ミスティル、そしてハルパからの言葉にラエドさんが顔を引き締める。


「だんばえぇ!」


 ラエドさんが深く頭を下げ顔を上げると、胸を張ってキビキビと戻って行く。

 瞳には希望の光が宿っていた。






「さて、今日はどうする?お嬢」

「ハユパ、とうよく、しゅゆ」

「ああ。ハルパの商業ギルドカードとダンジョン許可証が必要だな」

「でも、しゅたんぴーど、ちになゆ」

「じゃ、二手に別れればいいんじゃない?」

「そうだな。俺とレーヴァでハルパの登録に行って来る」


 ミスティルとミルニルと私でお留守番になった。


「おたいもにょ、いい?」

「買い物か。もちろんいいぞ」


 じゃがいも、玉ねぎ、にんにく、リンゴ。

 商業ギルドに行ったら、常温で日持ちするものを聞いて買ってきて欲しいとお願いする。

 あとは小麦もお願いします。



 テントはミールナイトにあるので、こちらの時間を見て3人は朝市が立つ時間に出かけていった。

 ミスティルは転移の門戸付近で待機。

 私とミルニルはミルニルの部屋で釣り竿と言う武器作りです。

 ちなみに、全員ワイヤレス通信を着けていて、いつでも連絡可能状態だよ。



 この間のようにベビーチェアに座って結界を張る。

 直ぐにミルニルの釣り道具作りが始まった。


 金剛鋼鉱石を複写して共有でミルニルのマジックバッグに入れる。

 ミルニルは父の釣り竿を出して作業台に置き、それを眺めながら金剛鋼鉱石を取り出して練り始めた。



 にゅにゅにゅにゅにゅ



 見る間に各パーツに分けた釣り竿のような形が出来上がる。

 そして、その中の一つを前回みたいに金色の炎の中でカンッカンッ!と打ち始めた。



 ん?

 剣ではないのに?



 1つのパーツを打ち終わると別のパーツを繋げて鎚を打ち、また出来上がると次のパーツを繋げて打つ。



 ど、どうなっているんだろう?不思議。



 全部繋げ終わると伸ばしたり縮めたり確かめて作業台に置いた。



 次に魔石の中サイズを2つ、小サイズを1つ用意する。

 新たに金剛鋼鉱石を出して手で釣り針の形にし、金色の炎の中で鎚を打つ。そして小さな魔石を取り付けてまた打った。


 次は金剛鋼鉱石を練りながらリールを作り、金色の炎の中で鎚を打つ。

 そして、金剛鋼鉱石を鉄棒みたいに伸ばし、リールと一緒に金色の炎の中で打ち始めた。



 カンッ!



 力強く打ったあと、鎚を炎の中に残したまま手を離す。

 そして炎から取り出したリールを勢いよく巻き始めると、鉄棒が物凄く細い糸になってどんどん巻き取られていった。



 わあ、凄いっ。

 金剛鋼鉱石が飴みたいに柔らかく伸びてる。



 やがてリールに糸が一杯になって手を止めるミルニル。

 最後に炎の中の鎚で勢いよく打つと糸が切れた。そして切れた糸の先と釣り針をまた炎の中に入れて鎚を打つと、針と釣り糸が一体化した。



 今度はリールの右脇と左脇それぞれに中くらいの魔石を取り付け、最後に釣り竿とリールを金色の炎に入れて鎚を打ち、あちこちを確認して調整してから炎を消した。



「うん、いい出来」

「しゅどいっ」


 パチパチパチ!

 一生懸命拍手をしたら、ミルニルが照れくさそうにエヘヘと笑った。



「これ、あの剣より重いから浮遊で軽くして欲しい」

「あいっ」


 今回は釣り竿が総金剛鋼鉱石だもんね。


「おもしゃ、どえ、くやい?」

「それほど重くしないで良いと思う」


 んー。

 父の竿はリールと合わせて約400g。確か父が竿とリールの重さのバランスが、とか言っていたような気がするけれど……。

 わからないから思い切って竿50g、リール・糸・針を合わせて50g、合計100gにしちゃおう。


 まだ不慣れではあるけれど、魔石剣で慣れたからか割とすぐに重さの調整が出来た。



「うん。軽くていいね」


 ミルニルが出来上がった竿からリールと糸を外し、糸の張りや竿の撓りを確認している。


「たたい、しゃお、しなゆ、しゅどい」



 硬い金剛鋼鉱石で作られているのに糸はテグスみたいだし、竿本体も柔らかそうに撓るなんて凄い!



 ミルニルはフフッと笑い、自分の腕をポンポンと叩く。

 腕が良いからですね?流石です。

 私は大きな拍手(何回か手がクロスしつつ)を贈る。



 凄い釣り竿を作ってくれてありがとう、ミルニル!

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