第173話 以前の彼らと今の君達

「皆、おちゅたえ、しゃまでちたっ。おてちゅだい、あにあと!ハユパ、なたまなゆ、あにあと!わだや、ようこしょ!たんぱあい!」


 皆お疲れ様です。お手伝いしてくれてありがとう!

 ハルパは仲間になってくれてありがとう!

 我が家へようこそ!

 かんぱぁい!


「乾杯!」×全員


 楽しい宴が始まりました。

 お肉や野菜、魚介類。死の森で出したタレ漬け肉や、南の島で採れた魚介類。皆が慣れた手付きでどんどん焼いて、ハルパのお皿に載せていく。


「聞いていた通り、どれもこれも美味しいですね」

「でしょ?」


 ハルパとミルニルが我が家秘伝のタレでお肉や野菜を食べていた。


「焼き肉にはビールだよね」

「冷たいエール?ビール?がこんなに美味しいとは」


 レーヴァとハルパのビールを飲み干すペースが異常に早い。


「ハッセルバックポテト出来上がりましたよ」

「こんなの食べたことありません」


 ミスティルが焼いたハッセルバックポテトを美味しそうに口に運ぶハルパ。


「ビールも良いが、日本酒も美味いぞ」

「ああ、確かに。こちらも捨てがたい」


 鳳蝶丸とハルパが貝の酒蒸しと日本酒をしみじみと楽しんでいた。



 うん。

 これが我が家の日常だよね。

 そしてハルパもお酒好きだし沢山食べる。見ていて気持ちが良いほど消えていくお肉、お魚、野菜、そしてお酒。


 沢山食べてね!



 お腹が一杯になりベビーチェアに座って楽しそうな皆を眺めていると、隣の席にハルパが座った。


「今日はありがとうございます」

「ううん。皆お祝い、ちてゆ」

「はい。……それにしても何だか不思議です」

「んう?」

「こんなふうに過ごしたのは初めてなので」


 伝説の武器同士で集まることはあるけれど、こんなふうにワイワイと食事をしたことはないし、何よりも皆の表情が豊かになっていてビックリしたとハルパが言う。


 そう言えば。

 皆と初めて会った時、笑顔を浮かべていても少し無機質なところがあった。

 武器であり人ではないから当たり前なんだろうけれど、今は以前より人に近い感情を持っている気がする。


 でも、何となくだけれど、ハルパは他の皆より人寄りの感情を初対面から持っている気がする。

 ラエドさん達と交流があったからだろうか?


「ヤエドしゃん、どちて、たしゅてた?」

「うーん、そうですね。最初はただの気まぐれだったように思います」


 でも慕われると悪い気はしないもので、時折思い出すと何となく気になって様子を見に行っていたんです。とハルパが言った。


 彼らの従者になりたかったのでは?と聞いたら、それはないと直ぐに否定する。時折思い出す程度だし、傅く相手ではないと言った。


 でも、伝説の武器が誰かを気に留めて交流していたのは凄い、と私は思うよ。



「最初耳にした時はワクワクしました」


 私と言う存在がこの世界に降臨する前は、遊びには出かけているものの、このままずっと砂漠に閉じ込められ続けるのか……と半ば諦めかけていた。

 でも鳳蝶丸が私の従者になったと聞いて希望が持てたし、迎えに来るのをずっと待っていたと彼は言う。

 お迎えが少し遅くなっちゃってごめんね。


「とえかや、ずっと、一緒」

「はい。側におりますよ」

「うん!」


 長い長い間、ずっと勇者を待っていたんだもんね?

 私は勇者じゃないけれど、これからどうぞよろしくお願いします!


「あ、しょだ。こえ、プエジェント」

「これ、ですか?」

「ハユパだての、マジッチュバッチュ」

「私だけの……」


 ハルパがレザーカービングにそっと触れた。


「ありがとうございます。大切にしますね」

「ちゅたいたた、鳳蝶まゆ、ちいて?」

「わかりました」

「しょえたや、こえ、商人よ、バッチュ。持てってて……持て、むう。持っててって」

「わかりました」


 クスッと笑いながらハルパが私の頭を撫でた。



 その後はミスティルギターで歌ったり踊ったり、暗闇結界バインをしたり、暗視貝拾い大会をしたりと楽しいひと時を過ごす。

 はしゃいでいたらいつの間にか寝ちゃったみたいで、寛ぎの間で目が覚めた。


「主、目が冷めましたか?」

「うん。シャハヤタユ、何時?」

「16時です」


 良かった、ラエドさんと約束した時間になってない。


 転移の門戸の向こうは星空。ランタンと焚き火の灯りが更に美しかった。

 お酒を飲みながら話し込んでいる皆に声をかけ、後片付けと清浄をしてから転移の門戸を閉じる。そして新たにサハラタルと転移の門戸を繋ぎ、噴水広場に出た。


「ちゅじゅいて、ごはん、だいじょぶ?」

「俺は問題ない」

「わたしも大丈夫です」


 ご飯と言っても試食会だけれど。


 大きな帆布シートを敷いて、タープテントと会議テーブル、椅子、簡易テーブルを出す。

 そして、タープテントを中心に防塵・防砂と清浄の結界を張った。


 あとは寛ぎの間でラエドさん達が来るのを待つだけ。

 この間に今回しようと思っていることを皆に説明、ミスティルに目録などを書いてもらった。




「御使い様。いらっしゃいますか?」

「あい」


 外に出ると、正装のラエドさん達が跪いていてちょっとビックリした。

 この辺りは日暮れから段々冷えてくるけれど、マントを羽織らなくていいの?


「我らにご要件はいかなることでしょうか?」

「あー。まず、立ってくれ」

「はっ」


 ビシッと立ち上がる皆さん。


「わたち、ふちゅう、良い」

「姫は畏まられるのが苦手だから普通にしてあげて?」

「主さんのことは名前で呼んで」

「この間言った通り、主が悲しむようなことをしなければ問題ありません」

「あ、ああ」


 ラエドさんがふぅ、と息を吐いてニッと笑った。


「ではお言葉に甘えて」

「あい」


 4兄妹は姿勢を崩し、マブルクさんは4人の少し後でホッとした表情を浮かべていた。



「コホン。では、本題、はいにましゅ。ハユパ、おねだい、しましゅ」


 会議テーブルに着席し、ハルパ中心で話を進めてもらう。

 先ほど皆にマジックバッグ貸出の話をしてあるので説明はお任せです。


「主殿は君達にマジックバッグを貸出するそうです。持ち主は主殿。使用者を君達4人にすればそれ以外の者は使用できません。万が一盗まれても呼べば手元に戻って来ます」

「戻って来る?」

「えっ!そんな貴重な品を貸してくれるの?時間停止なうえ呼べば手元に戻る凄い機能付き!借りている間に魔力解析させてもらってもいい?」

「登録は3人にします」

「承知しました」

「ああぁぁぁ!待って?!」


 ラエドさん、承知しちゃった。

 サラーブさんが物凄く抵抗したけれどハルパが首を縦に振らず、結局サラーブさん以外が登録することに。



 ハルパ、容赦無し。



 ちょっと可哀想………。と思いかけたけれど、


「魔術解析させてくださーい!」

「壊したらどうするんですか!」

「元に戻すからぁ!」

「戻せるなら既に独自のマジックバッグ作れているはずでしょう?」


 と言うリーフさんとの会話を聞いて、登録しなくて良かったと心に強く思うのだった。



 その後、鳳蝶丸がマジックバッグの使い方を教えたところ、何と使いやすいのかと感動された。

 普通のマジックバッグは容量が少なく、整理しながら入れないとごちゃごちゃになるし、定期的に確認しないと何を入れているかわからなくなるんだって。


 そうでしょう、そうでしょう。

 ウル様がくださった「収納庫管理」で設定しているから物凄く便利なんだ。




「説明はこんなところです。貸し出している間は好きなように使って良いですが、一枠は必ず空けておいてください」

「何かあったらそこに手紙を入れるように。ただし、お嬢から直ぐに返事があるとは思わないでくれ」

「承知いたしました」


 ハルパが手渡すとラエドさんが恭しく受け取った。


「今回、姫が何故貸し出したかと言うと、君達に国の中枢を取り戻して欲しいからだよ」


 そして、国民の皆が住みやすい国にして欲しい。

 この国に住まう者達の不平不満、悲しみ、憤怒などの澱みが溜まらぬよう気を配って欲しい。


「我々は君達と共に武器を手にして戦いません。でも主殿から手厚い支援が贈られます」


 ポーションや食べ物、飲料、その他があれば、ラエドさんと兵達の支えになるんじゃないかと思ったんだけれどどうかな?


「いや。俺は共に戦ってくださっていると…そう思っている。武器を手にせずとも食料やポーションをご提供いただき我らをお支えくださっている」


 ラエドさんが右手を胸に当てる。


「ゆき殿のご厚意は、腹を空かせてもなお戦わなければならぬ兵達の支えとなるでしょう」


 戦っている兵士達に食べさせられる食材が乏しい中、魔物を狩って皆で分け食べていた。だが狩りでも体力を消耗し怪我をすることもある。そして量も少ないので次第に体力が無くなり、集中力が切れ始めていた。

 でもこれからの戦は食事やポーションが沢山あり体力も保てるし、兵士達も安心して戦いに集中出来るだろうと笑顔を浮かべる。


「主のマジックバッグは時間停止です。食材は傷みませんし、温かいものは温かいまま食べられます」

「夜は冷え込むのでありがたいことです」


 砂漠は日中と夜間の寒暖差が激しいもんね。


「こえ」


 ミスティルに書いてもらった目録を渡す。


「ポーション、ハイポーションそれぞれひゃ!……百本!」

「だいじょぶ。おたね、いなない」

「請求しないので安心を。全部使用しても問題ありません」

「ありがたい。本当にありがたい。それからランタン、帆布シート、薪、毛布?」

「毛布はこれだよ」


 レーヴァが毛布を出した。


「何と手触りが良いのだ」

「フワフワで暖かいですね」

「これなら仮眠の時に凍えなくて良いかもしれないわ」


 アースィファさんが毛布を肩にかけながら嬉しそうな笑顔を浮かべた。


「おねしゃん、いくしゃ、でゆ?」

「君は戦に出るのかい?」

「ええ。私は戦士なのよ」

「ゴッリゴリの狂戦士バーサー…(ゴチン!)」

「余計なこと言わないで?兄上」


 頭を抱え、悶えるサラーブさん。

 タンコブ出来そう………。

 忘れて頭洗うと痛いやつ!



 んー。それなら……。

 今思いついた物をプレゼントしようかな。

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