第172話 しょもしょもしょも……

「みなしゃん、ここよ、ちて、ちいて、ちゅだしゃい」


 皆さん。心して聞いてください。


「は、はい……」


 ラエドさん達が神妙な面持ちで身構えている。

 では、いきますよ。


「しぇいはい、みじゅ、たんいぇん、なち、わかた………」


 聖杯と水が干上がったことに関連はないと言う事がわかった。

 それから聖杯が割れないよう細工したので安心して良い。何故それを知っているのかなど詳細は聞かないように、とハルパ通訳で説明した。



「は……」

「え……」

「関連無い?」

「本当に?」


 当然のことながら、皆さんがカチン!と固まった。

 でもマブルクさんだけは違う。驚きながらも体をプルプルと震わせ、手が白くなるほど拳を握っている。


「なれば、もう神器が壊されることを気にせず反撃出来ますぞ!」


 拳を空に突き上げ、マブルクさんが立ち上がった。


「今までの屈辱を晴らす時がやってまいりました!」



 聞いている限りアレな公爵三家を何とかして、この辺りの澱みや穢れを払拭。スタンピードを最小限で抑えようね!


 ………うん、感じるの。

 ミールナイトで感じたあの澱み。

 日に日に膨れ上がっているから近々溢れるかもって。


 鳳蝶丸達もそれを感じているけれど、どちらかといえばウキウキしてる。

 思いっきり暴れるでえ!って雰囲気がだだ漏れしているよ。



「少し待て、マブルク。確かにとてもありがたいことだが、調べてみなければ動けん」

「ええ。確たる証拠がなければ。……疑うようで申し訳ありません、御使い様。我らは長いこと聖杯が割れて干上がったと信じて疑わなかったもので」


 その気持ちはよく分かる。


「にゃにた、とうち、わえていい。かちて?」

「割れても良い陶器を持ってきてください」

「わかりました」


 マブルクさんが華奢なつくりの壺を持ってきた。


「あにあと」


 私はその壺に、聖杯と同じ条件の結界を張る。


「たたち、わゆ、しゅゆ」

「叩き割ってみてください」


 ハルパ通訳に頷いて、ラエドさんが壺を掴む。


「ラエド様。裏庭でお試しくだされ」

「ああ、わかった」


 マブルクさん宅の裏庭に全員で向かう。


「怪我をせんよう皆下がっていてくれ」


 そして壺を大きく振りかぶり、渾身の力を込めて地面に叩きつけた。



 ガンッ!



 思いの外大きな音が聞こえ、割れてしまわないか内心ヒヤヒヤする。

 地面には、割れず、傷つかず、汚れていない壺が転がっていて安心した。



「わ、割れていないわ」

「傷もなく、汚れてもいない」

「凄っ!壺に結界が張ってある!」


 サラーブさんが壺を拾い上げて、ひっくり返したり光にかざしたりしながらじっくり観察している。


「表面に沿って結界が張られているなんて初めて見た。………ああ!そうか!壺と結界の間に魔力の層があってそれが緩衝材料になっているんだ!」

「どういうことだ?」


 ラエドさんが質問したけれど、サラーブさんは結界に夢中でブツブツ呟きながら壺を凝視していた。


「こうなったらしばらく浮上しないわ」


 アースィファさんが肩を竦めると、リーフさんが苦笑しながら説明を引き継いだ。


「目には見えないんですが壺の表面に結界が張られているみたいですね。サラーブが言うには、壺本体と結界の間に僅かな隙があり、そこに御使い様の魔力が満たされていて、それが緩衝材となり壺本体を守っているらしいです」

「壺本体を………?ごめん。想像がつかない」


 アースィファさんが首をひねっている。

 するとリーフさんが物凄く簡単に例えると、前置きしたうえで話を続けた。


「絶対に破れない形を変えない丸く膨れた布袋があるとします。その真中に固定された浮遊状態の茶碗があると想像してください」

「ええ」

「常に膨らんだ布袋の真ん中に存在するので、高所から落としても茶碗は地面に触れません。棒で叩いても棒は茶碗に届かず当たりません」

「なるほど。その茶碗がこの壺と言うことなのね」


 アースィファさんが納得したように頷いた。


「それが聖杯にも張ってある、と言うことか?」

「しょうよ。しょもしょもしょも……」


 あ、そもが一回多かった。

 はい、そこ!ハルパ。嬉しそうにしない!


「しょもしょも、しぇいはい、わえゆ、みじゅ、たえゆ、たんていにゃい」


 そもそも聖杯が割れたことと、水が枯れたことに関係ないんです。


「ず、じゅ、じゅーじぇ………じゅーじぇん、でしゅ」


 言いにくいぃ。偶然です、だよ。


 全部ハルパ通訳だけれど、すっごく嬉しそう。

 私がぷぅと頬を膨らませたら、鳳蝶丸がナデナデしてくれました。



「とんや、また、会えゆ?」

「今夜また会えるか?とのことだ」

「無論です」


 ラエドさんが右手を胸に当て頭を下げる。


「ここに来ればいいか?」

「我らが伺います」

「わかった」

「よゆ、ろくじ、ちて、ちゅだしゃい」

「夜の6時にテントまで来て欲しい」

「承知いたしました」


 夜ご飯は食べないで来てね?マブルクさんも一緒にどうぞ。



 話がひと段落したので、食事をした部屋の結界を解いて私達はお暇することにした。皆さんは夜の6時近くに来てくれるみたいなので、私達は予定通り南の島に行くよ♪


「マブユユしゃん、あにあと!どちそうしゃま、でちた」


 ご馳走様でした!また夜に!




 今日はお昼まで自由に過ごし後、南の島で歓迎会。

 更にその後は夜にラエドさん達と会う予定です。


 まずは自分の部屋でハルパのマジックバッグ作りをするよ。



 ハルパはローブを着ているからどんなバッグが良いんだろう?

 斜めがけポシェット風でいいかな?もし邪魔なら作り直そう。


 レザーカービングのモチーフは砂漠、ナツメヤシ、ラクダ、月。容量は皆と同じ。うん!いい感じじゃない?

 あと行商用のマジックバッグ。使うかどうかわからないけれどとりあえず持っていてもらう。


 そしてマジックバッグをもうひとつ。容量は体育館の半分くらい。時間停止にする予定。

 メインの持ち主は私。これは貸出用にします。

 貸出用のマジックバッグは今まで2つで、【虹の翼】のお姉さん達とシュレおじいちゃんが持っている。時間停止は今回初かな。



 全部作成が終わったので、本日のマジカルラブリンするよ!


「マイカユ、アブイン、萌え、ちゅんちゅん。じたん、ていちに、なあえ!」



 っちゃーーーん♪

 時間停止のマジックバッグゥ~♪



 念の為鑑定すると、3つとも全部時間停止になっている。

 時間停止のバッグを売るのは1年に1個って制約があるけれど、伝説の武器達が持つ分には例外的に作成して良いことになっているからハルパ用のは問題ない。

 貸し出し用の方は時間停止をつけられないかな?と思ったけれど出来て良かった。売らない分だからセーフなのかもしれない。

 一応まだマジックバッグ売っていないし、カウントされてないよね?



 次はハルパ個人のマジックバッグに、皆と同じ食べ物や飲み物、お酒、アロハセット、甚平さん、PCやカメラ類を入れていく。

 行商用はまだ空のままで、そのまま渡しておこうと思う。


 あとは、この貸出用のマジックバッグ。

 これに【サンドウォーカー】に渡した物と同じお水100個と、この街に貸し出している水甕&柄杓&魔力充填用の魔石を各1個ずつ。

 ポーション各種、ハイポーション各種を100本ずつ。

 その他に毛布100枚、そしてトイレテント男女用と個人用を各1張りずつ入れた。


 こんなモンかな?足りなかったら追々でいいよね。




「お嬢、大丈夫か?そろそろ昼になる」


 ハッ!

 すんごい集中してた!

 鳳蝶丸が声をかけてくれるまで全然気付かなかったよ。


「だいじょぶ。待った?ごめんね」

「いや、大丈夫だ。そろそろ行くか?」

「うん!」


 お昼になったのでリビングに集合!

 サハルラマルの転移の門戸を閉じ、南の島に繫げなおして皆で島へ上陸です。



 南の島は夕暮れだった。

 ランタンを出して、結界内のあちこちに置いてもらう。

 焚き火台に細い焚き木を組んでレーヴァに火を付けてもらうとフワリと暖かい炎が上がった。


「わあ、ちえーい」


 暮れゆく空と、海の音。焚き火とランタンの灯り。

 南の島がいつもより幻想的な景色になった。



 かつてテントを置いていた場所に帆布シートを敷いて、防塵・防砂・防火の結界を張った。

 そして食事用の6人がけテーブルと簡易テーブルを出す。


 バーベキューコンロも出すと鳳蝶丸とレーヴァがコンロに火を起こし、ミスティルとミルニルが簡易テーブルに飲み物や食べ物を用意。

 私はハルパに声をかけて一緒にカトラリーやお皿の用意をした。


 準備完了っ。

 皆で歓迎会を始めるよ! 

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