第171話 ふあっ!驚きの事実なんですけど!
驚きすぎている皆さんは大丈夫だろうか?
しばらく沈黙したあと、ラエドさんがやっと声を絞り出した。
「なんと……御使い様だったとは……………」
皆さんが慌てて両膝をつき、胸に手を当てて頭を深く下げる。
「御使い様とは知らず、大変失礼いたしました」
「どうかご容赦を」
「信じゆ?」
「無論。成人のようなご発言。数々の偉大なる御業。御使い様以外に出来ますまい」
「御使い様のお側におわす皆様が伝説の武器であるとは。おみそれいたしました」
ラエドさんとリーフさんが更に深く頭を垂れた。
「わたち、皆しゃん、言ってない。だいじょぶ」
皆さんに正体を言ってないのだから気付かないのはあたりまえ。
そんなに畏まらないで。
「みなしゃん。わたち、かちこまゆ、にだて。ふちゅう、いい」
「我が主殿は畏まられるのが苦手みたいです。普通が良いそうですよ」
「しかし……不遜では?」
鳳蝶丸が、私を困らせたり悲しませたりしなければ問題ないと説明する。
それから、過度な願いをせぬようにと釘を差す。
「人の子の問題は人の子らで解決してくれ。但し、こちらの都合もあり少し旦那らに手助けをすることになった」
「なんと!助けてくださるか」
「ほら。君達は幸運だと言ったでしょう?」
鳳蝶丸とハルパの言葉に薄っすらと瞳を潤ませて、再び深く頭を下げた。
「それで、君らの事情と進捗を話してください」
ハルパが促すとラエドさん達は行き詰まっている現状を説明してくれた。
4兄妹は王族で、本来であれば王都に住む王子と姫君。
領土の視察で各地を回っている間に公爵三家がクーデターを起こし、王城を占拠された。
一報を聞いて急ぎ王都に戻ったが、ラエドさん達は王都入りを拒否され締め出されてしまう。
ラエドさんと仲間達で秘密裏に調べたところ、国王や女王、他の御兄弟は生かされているが、実質は公爵三家に軟禁、または使役されていると言うことがわかった。屈辱的な状況ではあるが、王族や宰相など側近であった者達が生き延びているという情報は、彼らに多少なりの安堵をもたらした。
そしてラエドさん達が駆けつけた時に王都入りを拒否したのは国王であることもわかった。
彼らが王都入りをした途端に捕縛されれば、公爵三家派の者達を退け王家の威厳を取り戻す
国王は、一旦逃げ延び体制を立て直し、現状を覆してほしいという希望を4兄妹に託したのだった。
4兄妹と兵達は反公爵三家の貴族達と秘密裏に連絡を取り合い、味方を増やし、公爵三家の派閥を削ってゆく。
だが最近は共に戦う仲間達にも焦りや疲労が浮かぶようになってきた。
この事態をどのように打破するのか……。
ラエドさん達の苦悩に終わりはあるのか。
本来、王国軍が弱いはずはなく、当然返り討ちは可能であった。
では何故言いなりになっているのか?
それは人質ならぬ神器質をとられているからである。
遠い遠い昔のこと。
砂しか無い乾いた大地にたどり着いた5人の兄弟がいた。
だが到着したものの食べ物も飲み物も無く、一番下の弟は体を壊していたが薬もなく、兄弟たちは動けなくなってしまった。
だが希望を捨てず、兄弟で励まし合い、棘の葉で水分を取りながら生きながらえた。
そして毎晩必ず神に祈りを捧げたのだ。
今日も1日無事に生き延びることが出来ました。
我らを見守ってくださる神々に感謝いたします、と。
すると長兄がメルテール神より天啓を受け、導かれた岩場に兄妹で赴くと、5つの神器たる聖杯が置かれていた。
その聖杯を満たす水を飲みなさい。
そして大地に注ぎなさい。
皆で聖杯の水を飲むと一番下の弟は直ぐに病気が治り、他の兄弟も体が丈夫になった。
神に感謝をした長兄が、メルテール神の天啓通り大地に水を注ぐと、そこに大きな泉が現れた。
そして皆で協力しながら砂漠のあちらこちらに聖杯の水を注いでまわる。
兄弟達の注いだ泉は砂漠の中のオアシスとなった。
オアシスが出現すると人々が集まり始め、増え、広がり、やがてサハラタル王国となる。
長兄が国王となり、兄弟達が兄を支える役目を担い公爵四家となった。
そして長い年月が経ち、今は正統王家と公爵三家の体制に変化した。
サハラタル王家、公爵位を持つモタハウェッル家、カーゼブ家、モタガトレス家。
過去にあったもうひとつ公爵家は、ある理由で廃爵された。
神器である聖杯は王家と各公爵家に引き継がれ大切に安置されてきたが、廃爵された公爵家はその聖杯を酷く破損してしまったのだ。
今現在、王家が公爵三家に抵抗できない理由は、その聖杯を破損した時の出来事が原因である。
聖杯の1つが破損した時に、一部地方の水が全て干上がってしまったのだ。
神官達は聖杯を割ってしまったことで神の御怒りを買ったのだ!と口々に述べ、その話が市井や貴族間でも噂され、聖杯を壊した公爵家のせいで水が干上がったのだとまことしやかに囁かれるようになる。
それがやがて史実として語られ、人々は聖杯が割れる時神の怒りを買い水が干上がると心から信じるようになった。
そして今回、公爵三家は自分達の思い通りにしなければ聖杯を壊すと王家を脅していた。
王家は直ちに聖杯を奪還すべく動いたが、既に何処かへ移動した後であった。
干上がる箇所が増えれば民達は生きていけない。
死者が増え、国力が下がり、国自体が壊滅する可能性もある。
こういった経緯があり、王家は苦汁を飲んで公爵三家の言いなりになっている。
物凄く素朴な疑問なんだけれど、公爵三家って国民がいなくなり税収が無くなる。または他国に攻められるとなったたらどうするつもりなんだろう?
あと、自分が国王になろうと思わないのは何でだろう?
「恥ずかしい話だが、公爵三家は歴史を繰り返すうちに何も考えないボンクラの阿呆共に成り果てていたのだ」
「このままではいけないと他の貴族達と協力し、残る公爵三家も廃爵すべく動いていたところだったんですよ」
ラエドさんとリーフさんが溜息をついた。
どこかで公爵家廃爵の情報をキャッチしたのかな?
「あいつらが王とならないのは面倒くさいからさ。責任の無いところで甘い汁を吸い続けていたいんだ」
サラーブさんがフンッと鼻で笑った。
「あいつらが隠す神器さえ見つかって保護できれば、思う存分ぶっ飛ばして差し上げるのに」
妖艶なお姉さんから飛び出した迫力あるお言葉よ。
するとシュッと神様ラインが開く。
『干ばつは偶然で』
『聖杯が壊れたこととは』
『無関係です』
「ふあっ!」
「どうしたお嬢?」
驚きの事実なんですけど!
「ちょと、待ててね」
「わかった」
『お疲れ様です』
『聖杯と干ばつは無関係なんですか?』
『近くに水脈があれば』
『聖杯の水が呼び水となり』
『水が湧き出るようにしただけです』
『聖杯が割れた時に』
『たまたまその水脈が』
『枯れただけ』
『ただの偶然です』
『そうなんですね』
『メルテール様は』
『他の聖杯が壊れることに』
『抵抗がお有りですよね?』
『せっかく作った物です』
『出来れば割れてほしくはありませんが』
『致し方ありません』
メルテール様によると、聖杯を作ったころはまだ神による地上への干渉が今より緩かったらしい。今は様々な事情があって厳しくなり、メルテール様が聖杯自体の強化をするなど直接手出し出来ないとのこと。
それならば………、
『例えばですが』
『メルテール様を通して』
『4つの聖杯に』
『私の結界を張る力を送ることは』
『可能ですか?』
多少引っかかっちゃうかもしれないけれど、あくまでも私の神力を運んだだけ、と言うことにならない?
フロルフローレ様も私の映像や半神の配剤をラ・フェリローラル王国の王都に送っていたし。
少しの沈黙。
『はい。可能です!』
『それならば問題ありません!』
『良かったです』
『ではメルテール様の準備が終わりましたら』
『お声がけください』
『
結界3で良い?
[聖杯の水のみ結界を通す]ならば支障はないよね。
『準備が整いました』
『貴女の力を受け取ります』
『神気を放ってください』
『承知しました』
先程考えていた設定で結界の力を解き放つ。
神力の量は多く持っているから問題ないけれど、思っていたより多く力が必要みたい。
神がお作りになった神器が対象だからかな?
じわじわと力が減って行き、しばらくして神力の放出が終わった。
『完了しました』
『これで壊れることはありません』
『後のことは任せます』
『承知しました』
『本当にありがとう』
『安心しました』
『それでは』
『ありがとうございました』
ふう。
これで何とかなるかな?
神力をたくさん使ったからかお腹が空いちゃった。
ラエドさんの方に顔を向ける。
口を開けて固まっている皆さんと、瞳をキンラキラ輝かせているサラーブさんが目に飛び込んできた。
「おちやちぇ、あゆ」
「主殿から知らせがある、とのことですよ」
サハラタルの皆さんがゴクリと喉を鳴らした。
多分凄いビックリすると思うよ?
だって、聖杯の破損と水が干上がったことは全くの無関係でたまたまだなんて、私だったらガックリポーズになっちゃうもん。
覚悟はいいかね?諸君!
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