第169話 魔道具ヲタクは魔法陣好きの猪突猛進型なので要注意ですぞ!

「おはようございます」

「おはよう」


 マブルクさんが2人に挨拶をしている。


「朝早くにすみませぬ。こちらはこの街をお支えくださっているリーフ様、そしてサラーブ様です」

「初めまして」

「よろしくお願いしまーす」


 鳳蝶丸からオッケーの合図があったのでテントから出ると、マントを羽織っている大人しそうなお兄さんと元気そうなお兄さんが立っていた。



 シュッ


 神様ラインが開き、メルテール様から『彼らです』と言うメッセージが。

 例のお手伝いする人ですね。



「おはよ、ごじゃい、ましゅ」

「おはようございます、ゆき殿」

「わあ!初めまして、君の魔力、すっごく魅力的!」



 お、おう。



「……弟がすみません」

「びっくい、ちた」

「主さん、大丈夫?」

「うん」


 ちょっと引いちゃったよ。



「ごめんね?俺、魔法や魔道具が大好きでさ。君の作った結界が凄くて、ぜひ詳しく聞きたくて!」

「えっ!ゆき殿が結界を?!」

「え!」



 バレてる!



「ん?だって、街を覆う結界から感じる魔力は君の魔力と同じだよ?あのクリーン付与された結界も同じ。あ!そうそう、水瓶を作ってくれてありがとう!あの魔道具凄すぎるよ!自分でも色々挑戦したけど、あの水量がなかなか出せなかったし飲んでみたら凄く美味しくてビックリしちゃった!あの魔石すっごく大きかったけどなんて魔獣の魔石?あれに魔法陣が焼き付けてあるんだってね?あああぁぁ、間近で見たい、解析したい!それに別の魔石から本体に魔力充填するなんて聞いたことないよ!画期的だ!そっちの魔法陣を見せてもらったけれど見たこと無い組み合わせばかりで全然わからなかった。じっくり見せてって言ったのに壊しそうだからって取りあげられちゃったよ。残念!だから教えて欲しいんだけど。ぜひ教えて欲しいんだけど!ああ、そうだ!弟子にして!君の弟子にして!」



 うをを!

 勢いっ!


 何だか誰かさんを思い出す。

 ミムミムお姉さん、元気かなぁ?



「でち、となない。ゆち、わたなない」


 何故か鳳蝶丸が噴き出した。


「何だか前にも聞いたようなセリフだな」

「ミムおねしゃん、でち、言った」

「何々?もうお弟子さんいるの?いいなぁ。俺も仲間に入れてよ!2番弟子で良いから!」

「でち、となない」

「ああん、冷たい!でもそれも良い!」


 ど、どうしよう、この人………。


「いい加減にしなさいサラーブ。弟は極度の魔術、魔道具嗜好のへんた……魔道具好きなんです。すみません」


 リーフさん、今変態って言おうとした?

 って言うか、フェリアってそういう人が多すぎる!あ、創造神のウル様が地球ヲタクだった。

 父譲りなんですね?わかります。



「あー…すみませぬ。実は朝食をご一緒にと思って来たのですが、これからいかがですかな?」


 おおっこの地方の料理かな?!

 ちょっと興味ある。


「こんなに大勢いて大丈夫か?」

「ええ、ん?………増えてますな」

「え?ま、まさか……。いや、ハルパ殿?ハルパ殿では?」

「おはようございます」


 あれ?リーフさんとお知り合い?


「ハルパ殿はなぜ優秀商の皆様と一緒におられるのですか?」

「私は彼女の従者ですから」



「ふぁっ!」「ええぇっ!」



 サラーブさんとリーフさんが大きな声をあげた。


「い、い、いいいい今、従者と言いましたか?」

「ええ。間違いありませんよ」


 ニコニコ笑顔のハルパと驚愕顔の2人。


「ああ……兄上………」

「我らは間に合わなかったのですね……」


 そしてガックリと肩を落としている2人。


「どちたの?」

「気にしなくても大丈夫ですよ、主殿」

「???」


 でも2人とも暗い雰囲気になっているよ?


「さ、さあ。詳しい話はあとにして我が家にお越しくだされ。料理が冷めてしまいまする」

「あ、あい」


 何はともあれ、このままと言うのもナンだし。マブルクさん宅の朝食にお呼ばれすることとなった。

 2人はどうしたのかな?




「わあ!」


 マブルクさんのお家にお招きされました!

 白くて四角いお部屋は清潔でとても広く、少し窓寄りに大きな長方形のテーブルが置かれてある。そのテーブルは座卓みたいに背が低く、床には何かの葉で編んである丸い座布団のようなものが置かれていた。


「さあ、こちらにお座りくだされ」


 窓側の席に案内されたので、レーヴァ、ミルニル、ハルパ、鳳蝶丸、ミスティルの順に座る。私は鳳蝶丸膝抱っこです。

 そして、少ししてから背の高いお兄さん、リーフさん、サラーブさん、妖艶な美女が姿を現し、私達の前の席に着いた。



「久しいな、ハルパ殿」

「そうですね」

「貴女が優秀商のお嬢さんか。俺の名はラエドと言う。先日は町の者達が大変世話になったと聞いた。心より感謝を申し上げる」

「どう、いたちまちて」


 背の高いお兄さんはラエドさん。妖艶な美女はアースィファさん。皆さん兄妹なんだって。

 いつもはお出かけして街の外にいることが多いけれど、所用があってたまたまこの街に戻って来たら私達がお水や食事を提供したことを聞き、マブルグさんにお礼を伝えたいと招待してくれたみたい。


 では私も!と言う事で、拙い言葉ではあるけれど自己紹介と仲間達の紹介をした。鳳蝶丸通訳付きだったけれどね。



「ほんじちゅ、あしゃごあん、おまねちねち………」

「本日は朝食にご招待いただきありがとうございます、ということらしいですよ」


 ハルパ通訳で事なきを得る。お招きいただきって言いにくいね?

 でも、私のおまねちねちで何となく場が和やかになったから良しなのだ。

 私、いい仕事した!



「さて。それでは朝食をお出ししましょうな」


 マブルクさんがパンパンと手を叩くと、白い民族衣装に身を包んだ使用人さんらしき人達がそれぞれお皿を持ってやって来た。


 テーブルに沢山の朝食が並ぶ。

 短めのパスタっぽいものに野菜炒めがかけてあったり、タジン鍋みたいなお鍋に入った野菜の煮込み、ニンニクの香りがするペースト状の野菜。

 あとは薄い緑茶?爽やかな香りがする。どんなお茶だろう?ワクワクする!


「ここに酒があればよいんだが」

「朝から無茶言わないでください、兄上」


 ニッと笑うラエドさんと困った表情のリーフさん。

 全然違う風貌だけれど、言われてみれば何となくお顔が似ている。やはり兄弟なんだね。


「こちらは、サンドサーモンの焼き物です。昨夜ラエド様が狩って来てくださいました。美味ですのでどうぞ」

「シャン、シャーモン?」


 砂漠なのに魚?


「サンドサーモンとは珍しいですね」

「昨夜襲われた。返り討ちにしたがな」


 ハルパが珍しそうにお魚を覗くと、ラエドさんがニッと笑う。



 砂漠なのに?サーモン???



「では朝食にするか」


 ラエドさんがメルテール神に感謝の祈りを捧げると、他の皆さんも一緒に捧げ始める。私達はいつものいただきますをした。

 そしてラエドさんがひとくち食べて右手を横にスイッと動かす。

 雰囲気的には皆さんもどうぞ、という感じだった。


 この土地の風習かな?



 ラエドさんの仕草を合図に皆が食事を始める。

 あとで聞いたところによると、一般家庭はしないけれど、この地方の貴族間では招いた側が招かれた側に毒は入っていないから大丈夫ですよ、と言うパフォーマンスを行う習慣があるらしい。

 と言うことは、ラエドさん達は貴族なんだろうか?

 どちらにせよ、貴族も色々と大変なんだねえ。



「パン、食べゆ」


 私が丸くて平たいパンを指さすと、鳳蝶丸が小さく千切って口に入れてくれた。

 硬くてモソモソするタイプのパンで、赤ちゃんの私には食べにくい。モゴモゴ口を動かしていたら、鳳蝶丸がマジックバッグから冷たい牛乳入りのストローマグを出してくれた。

 牛乳とパンを一緒に食べると美味しいよ。


「ねえ、君達はマジックバッグ沢山持っているけれど、全部容量大きくて全部時間停止だよね?」


 私と鳳蝶丸のやりとりを見てサラーブさんが話し始めた。


「それがどうしたんだい?」

「時間停止のマジックバッグってだけでも国宝級だけれど、更に容量大きいなんて価値もつけられないくらい高価なものだよ?それを無造作にそんだけ沢山持ってるなんて普通ありえないし、伝説級だと思ってさ」


 魔力の高い人にはこのマジックバックの容量までわかっちゃうんだ。バッグにも結界張って魔力漏れしないにしないとダメ?

 それにしてもここで話さなくてもいいじゃない。


 サラーブさんって魔力的に結構な要注意人物。


「欲しがってもやらんぞ」

「違う違う!欲しいけど違う!俺はどっちかって言うと作り方を教えてほしい。マジックバッグ作成は魔道具好きの憧れだよ。出来れば構造とか魔法陣とか見せて欲しい」

「作り方と言われてもな」

「でも…」

「サラーブ殿?」


 少し低めの声でハルパが名を呼ぶ。

 当のサラーブさんはヒっと息をのみ固まった。


「朝食、美味しいですよ?」



 余計なことを話してないで黙って飯食ってろ。



 と、ハルパさんの目が語っております。

 微笑みを浮かべてはいるけれど目は笑っておりませぬ。



「我が弟がすまん。魔道具のこととなると歯止めが効かなくてな。サラーブ。朝食中は魔道具の話を禁ずる」

「はい、兄上」


 ハルパに怒られ、お兄さんに魔道具の話を禁じられてからは、やっと大人しく食事を始めてくれた。

 サラーブさんは魔法陣や魔道具のこととなると、遠慮なく躊躇いなく突っ走って体当たりしてくるから……。どうしたものか。


 はー、やれやれ。

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