第168話 優しそうな顔をしていてちょっとエス…

「北に17歩、西に51歩………」


 フェネックちゃんは結界で繋がった私を運びながら、何かを呟きつつ空を飛ぶ。

 景色は変わらず砂漠、砂漠、砂漠。見えるものは変わらない。


「北に3歩、東に19歩」


 たぶん、新しい仲間のところへ行くには、歩数の制約があるのだろう。

 それにしても、砂漠上空が懐かしいと感じるのは何で?不思議…。


「南に92歩、北に140歩」


 そこでピタリと止まった。

 地図を見ると、私の真下に?ハテナマークが表示されている。


「あ!はてな!」

「はいっ、お待たせしましたでちゅ!行くでちゅよ!」



 クンッ!!!



 フェネックちゃんが突然方向を真下に変えた。



「ふわあぁ!」



 グングン迫る砂漠の砂!

 視界が一面黄土色だらけ!



「しゅな、しゅなあ〜!」



 ザクッ!

 ザザザザザァ!



 グングンと進む。

 周りが砂だらけでフェネックちゃんの姿がよく見えない。


「まだ、まだだだ?」


 結構下降したように思うけれどなかなか止まらず困惑する。

 しばらく行くと、ブチンッッと言う衝撃があり、突然下降が止まった。



「てったい、あゆ、でも、びっちゅい、ちた」


 結界あるけどビックリしたぁ。


「あえ?」


 周りが妙に静かだった。


「なあに、ちゅいた?フェネッチュ?」


 到着した?フェネックちゃんどこにいるの?

 声に出して呼んでみる。


 気が付くとフェネックちゃんがいなくなり、ハーネスの先は砂に埋まって見えなくなっていた。



 周りは砂、砂、砂。

 砂の中に閉じ込められているみたいだった。


 ハーネスを無限収納に仕舞ってから結界2に切り替えると、体がグリンと回る。

 結界2は頭が天を向くので方向がわかりやすいのだ。


「上、ちた」


 指差し確認!

 このまま下降してみよう。



 しばらく…大分?降りていくと、突然開けた場所に出る。

 砂のトンネルみたい。

 いつ崩れるのか若干不安だけれど、結界に守られているし、ウル様の神気も感じるので大丈夫かな?



 飛行ひぎょうで砂のトンネルを進むと、広いドームのような部屋に出る。

 伝説の武器達が鎮座する空間で間違いなさそう。

 3段ほどの階段の向こうに展示台があるのでそのまま近付いた。


 展示台の上で鎮座していたのは、スタイリッシュで格好いい大鎌。

 漫画とかで見る死神の鎌に似ているけれど、美しく輝いて禍々しさは感じない。


「でんしぇちゅ、ぶち?」

「はい」


 低めで優し気な声がドームに響く。

 いつもの如く目を固く瞑ると、直ぐに辺りが輝いた。



 パアアァ!



 光が止んでから目を開ける。

 そこにはとても背の高い青年が佇んでいた。


「ゆち、でしゅ」

「ハルパと申します」

「初め、まちて。よよちく、おねだい、ちまちゅ」

「こちらこそ。よろしくお願いします」



 初の眼鏡男子だあ!



 紫苑色の背中までありそうな長い髪。瞳は落ち着いた紺青色。

 度があるのか伊達なのかわからないけれど、銀縁眼鏡をかけている。

 背は仲間たちの中で1番高いかも?

 お顔は優しめだけれど、スタイリッシュ大鎌がめっちゃ似合いそうな[怒らせてはアカン]タイプ?


 いや、ごめんなさい。

 日本で長く働いていたから何となくわかるの。あ、この人怒らせちゃダメな人じゃないかなって……。


 ん、んん。

 いやいや、決めつけちゃいけないよね。

 気を取り直して………。


「ハユパ、しぇちゅめい、ちて、いい?」

「お願いします」


 じゃあ説明するよ?



 私は皆に話した我が家ルールを一生懸命説明した。


「文字、出てゆ?」

「読めているので気にせず続けてください」


 全部話しきったところで確認する。


「いっちょ、ちて、くえゆ?」

「ええ、もちろん。色々と楽しそうなので」

「あにあと!」


 ……………………。


 2人でしばし見つめ合う。

 来てくれるんだよね?

 い、いいんだよね?


 でも今回は誓い無しが良いのかな?

 我が家は自由なので、それはそれで構わないけれど。



「ふふ…」

「んう?」

「何でもありません」


 スッと跪く。


「ウルトラウスオルコトヌスジリアス神につくられし伝説の武器が一振り、ハルパ」


 困惑していたら、突然始まったよ!


「生涯、神子ゆきの従者であることをここに誓う」



 パアアァ!



 私とハルパの間に絆を感じるようになりました。


 さっきじらしたでしょう?

 優しそうな顔してちょっと意地悪さんかも。



「皆、呼ぶ、いい?」

「ええ」

「皆、ちてー!」


 直ぐに4人が駆けつけた。


「フェネッチュ、…ちゃん?」


 皆もフェネックちゃんに掴まって来たの?


「わたし達伝説の武器同士は、条件などの縛りなく行き来出来るんですよ」

「今後は姫も縛りが無くなるからね」

「うん」


 転移の門戸を使うもんね。


「眷属を呼びますか?」

「うん!」


 ハルパがフェネックちゃんを呼んでくれた。

 遠くから可愛らしい声が聞こえ、段々近くなる。



 ぁぁぁぁあああああ!

 ごめんなさいでちゅぅぅううううう!



 ん?どした?


「ここにお運びする途中で、ボクに付いていた方の紐が切れて離れ離れになったでちゅ!無事で良かったでちゅう!」


「えっ!」「えっ!」「えっ!」「えっ!」


 えっ!何で皆驚いているの?


「途中で私が繋ぎ止めたから大丈夫ですよ」

「ハルパ、良い仕事した」

「はぁ、姫が無事で良かった………」

「主…本当に良かった」

「お嬢に問題がなくて良かった」

「あえ?どちて?」


 何で皆ホッとしているの?


「ハルパのいる場所に到達するには、時空の狭間の一部を通る」

「もしハルパの眷属と逸れると、時空の狭間に彷徨うことになるんです」



 えええ!



「試練の一環で'伝えてはならない'という制約があったんだ」

「先に言えなくてごめんなさい」


 鳳蝶丸が私の前に片膝をつく。


「怖い思いをさせた。すまない」


 皆も片膝をついて謝ってくれた。


「だいじょぶ。ゆち、だいじょうぶ、だた」


 皆、そんなに落ち込んだ顔をしないで?無事だったんだし問題ないよ。

 第一もし時空の狭間の一部を通るって最初から知っていたとしても、私はフェネックちゃんについていってたもん。間違いなく。


「しょえ、しえん」


 それが試練。皆に一切の責任はなし。


「ゆち、ゆーちゃ!」

「ああ。お嬢は真の勇者だ」

「皆、会う!」


 両手で力こぶを作り(作れてない)、んふーっと鼻息荒くドヤる私。

 するとミスティルにギュッと抱きしめられた。


「ありがとうございます、主と出会えて幸せです」

「俺の主が姫で良かったって心から感じるよ」

「主さんに迎えに来てもらった時、嬉しかった」

「お嬢と出会えるまで気が遠くなるほど長かったが、待ったかいがあるってもんだ」

「皆がそう言うくらいですから、私もこれからの時間が楽しみです」


 えへへ。何か照れちゃう。

 私も皆に出会えて嬉しいよ!



 それにしても、結界をきちんと張ったのに何で紐が千切れたの?と思っていると、神様ラインがシュッと開く。



『ヤッホー☆ムウだよ』

『ゆきちゃんが通るみたいだから』

『見守ってた(ウインクパッチン☆)』


『お疲れ様です』

『見守ってくださり』

『ありがとうございました』


『貴女はムウの眷属だし』

『時空の狭間で迷うことないから』

『大丈夫 (*・ω・*)b』

『安心して☆(スタンプ)』


『そうなんですね!』


『それから時空の狭間で』

『今のゆきちゃんの結界は』

『弱体化するの』


『弱体化、ですか?』


『もうちょっと』

『貴女の神気が高まれば』

『時空の狭間でも』

『使えるようになるからね(ウインクパッチン☆)』


『肝に銘じます』


『うんうん(スタンプ)』

『おめでとう!(スタンプ)』

『新しい仲間に会えてよかったネ』

「☆ミ またお話しよ ☆ミ」

『バイバイ♪(スタンプ)』


『ありがとうございました』



 そうだった。

 私はムウ様の眷属で時空の狭間生まれ。

 あの懐かしい感覚は、ムウ様の神気だったんだね?


 皆に掻い摘んで説明すると、そうだった!と笑っていた。


「フェネッチュ、だいじょぶ。わたち、でんき」

「えっ?」

「主さん、問題無いって」


 はあぁ、良かったと安堵するフェネックちゃん。

 心配させてごめんね?


 フェネックちゃんは安堵しなら空間へ帰っていった。



「しゃて、たえよう」

「ああ、帰ろうな」


 鳳蝶丸抱っこで転移の門戸を開く。

 直接テントに帰るよ!


 我がテントへようこそ、ハルパ。

 これからもよろしくね!



 皆でお風呂に入って、ご飯を食べて、私はお休みの時間です。


 ちなみにハルパの初ご飯は、ラーメンと餃子と炒飯。

 モリモリとおかわりしながらニッコリ笑顔で食べていたよ。


 良かった、良かった。


 それでは私はこれにて。

 お休みなさい。






 翌日、早目の時間に目が覚めた。

 そばにいたミスティルが支度を手伝ってくれて、その後に皆のいる寛ぎの間に向かう。

 皆は昨夜ずっとハルパにテントの使い方やその他諸々を説明して、少し前に終わったところなんだって。


「おちゅたえ、しゃま、でしゅ」

「俺達は大丈夫だ」

「朝、ごはん、しゅゆ?」

「いいな。朝飯にするか」

「そうですね」

「わたた」


 寛ぎの間で朝食を何にするのか話し合っていた時に、転移の門戸の向こうに人の気配を感じ、話を中断する。



「朝早くにすみませぬ。起きておられますか?」


 これはマブルクさんの声かな。


「ああ。何か用か?」


 鳳蝶丸が簡易テントに移動して応答する。


「実は我らを取りまとめて「おおっいきなり凄い魔力、ガフッ」いる。ゴホン、すみませぬ」


 私達も簡易テントに出て、転移の門戸を閉じる。

 外には黄色点2人、青点1人。青点はマブルクさんだろう。


「改めまして、我らを取りまとめております者がご挨拶に参りました」

「挨拶?」

「はい。昨夜遅くこの街に帰ってまいりまして」

「優秀商殿。リーフと申します。この街の者達がお世話になりました。ご挨拶に参りましたが、今お会いすることは可能ですか?」

「……ちょっと待ってくれ」


 ミルニルが私をサッと抱き上げる。

 まず鳳蝶丸とレーヴァがテントを出て対面した。

 結界を抜けたということはこの街に対して敵ではないだろうけれど、黄色点だし用心に越したことはなからね。

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