第166話 とううーん!いゆ?いなない?
この街は日中日差しが強く、外で食事をする習慣は無いみたい。
だから帆布シート内の結界は適温にして、更に紫外線カット、少しだけ色を付けて眩しさも半減させた。
清浄・防塵・防砂もしてあるし、安心して食事をしてね。
と言うことで、皆さんに調査隊食堂で使ったテーブルと椅子を結界内に並べてもらう。もちろん自宅で食べても大丈夫。お皿は持ち帰りオッケーだしね。
食事の列は最初混乱があったけれど、町役人さん達が整列してくれたおかげでそれ以降は落ち着いて列が進んだ。
文字の読めない人は町役人さん達に聞いたりして食べ物を選んでいるみたい。
クリームシチューや卵焼き、卵粥なんかは歯の弱いご高齢の方にも食べられると思う。若者には物足りないかもしれないけれど、今日のところはお腹に優しめメニューで我慢してね。
お腹を空かせている皆さんに行き渡るといいな。
ミルニルの横で愛想を振りまいていた私。
途中、主さんはちょっと休憩だよと椅子ごと後ろに運ばれ、赤ちゃん用ストローマグを渡される。
皆の厚意に甘えお水を飲みながら休んでいると、2人のおじいちゃん達が私の横に立って話しかけてきた。
「皆が食事をしている姿は嬉しいものですな」
「水も確保出来ましたし、少し安心です」
「よたた」
マブルクさんと町役人さんと私の3人で、のんびりと広場の様子を眺めていた。
「しかし不思議ですな。お嬢ちゃんと話をすると、成人女性と話している感覚になる」
「ワシもそう思っていたんじゃよ」
正解っ!
「お嬢ちゃんは何歳?」
「いっいっ………」
指が思ったように動かず、指2本半立てることに。
「いっちゃい」
本当の年齢は内緒です。
「うんうん、いっちゃいか。可愛いのう」
「指が立てられないところは赤子らしいですね」
そうです。幼児なんです。
ちょっぴり特殊だけれど。
「おじいたん」
「はいはい」
「街、はじゅえ、テント、いい?」
「ん?はじゅえ?」
「街外れにテントを張っていいか?」
わあ!鳳蝶丸!
突然横から声がしてビックリ!
食事の配給が終わったらしく、気付けば仲間達が私の近くに立っていた。
「はいちゅう、あにあと!おちゅたえ、しゃま、でちた」
配給ありがとう。お疲れ様でした
「どういたしまして。主は疲れてませんか?」
「うん、へいち」
うん、平気。
ミスティルが私を気遣いながら、抱っこしてくれた。
「先程も言ったが、街外れにテントを張りたい」
「もしよろしければ、ワシの家に滞在されては?」
町役人さんが提案してくれる。
ありがたいけれど、人のいない場所だと助かります。
「いや。俺達は出かけたりするし、自由に過ごしたい」
「テントの方が都合良いんだよ。気兼ねしなくて良いしね」
「主がゆっくりできるよう、人のいない場所希望です」
マブルクさんが少し考える素振りをしてからゆっくりと頷く。
「ならば貴族街の方へ。今はほぼ無人ですのでゆっくりできるのでは?」
「わかった」
地図を確認すると、マブルクさんが指さす方向に人はいないみたい。その先にも広場みたいに開けているところがあるし、そこでいいかな?
明日の朝7時から食料やポーションの販売をこの場所で行うこと、そろそろテントを張りに行くのでお暇したいとマブルクさん達に告げ、あとは皆さんにお任せすることにした。
テーブルや椅子は?と聞かれたので、まだ食事をしている人がいるしこのままで良いと伝える。
念の為、帆布シートの結界にテーブル、椅子、ゴミ箱、食器返却箱は結界から出ないに設定しておけば問題ないよね?
ではまた明日!お疲れ様でした。
貴族街には人がおらず閑散としていた。
私達は水の出ていない噴水広場にテントを張り、少し休むことにする。
「お嬢、ちょっと遊んでてな」
「うん」
皆がテントを設置している間噴水を覗く。水の供給されない噴水の中は砂だらけだった。
辺りを見回すと、四角い家に飾り窓やアーチ型の玄関があったり、2階がある家もあったりとなかなか高級感のある住宅が建ち並んでいる。
でも人の気配はなく、よく見ると砂だらけで汚れ、日暮れの街はまるでゴーストタウンのようだった。
「……」
急に怖くなって、テント設置のためしゃがんでいる鳳蝶丸の背中にしがみついてしまう。
「どうしたお嬢」
スリスリする私を抱き上げ、背中をポンポンしてくれた。
安心してもう一度街を眺める。鳳蝶丸に包まれながら見るゴーストタウンはもう全然怖くなかった。
「姫、設置できたよ」
「あにあと」
レーヴァが頭をなでなでしてくれる。
【幼児の気持ち】が発動しているようで、鳳蝶丸やレーヴァの温かさがとても嬉しかった。
テントに結界を張ってから中に入り、転移の門戸を開く。
「今日はゆっくりして、明日ダンジョンに入りましょう」
「うん!」
明日はダンジョン攻略するんだね?新しい仲間はどんな人かなあ。
楽しみ!
快晴です!
と言うか、この辺りに雨は降りません!
ご飯を食べて外に出ると、ゴーストタウンに爽やかな朝が訪れていた。
自分達に結界3を張っているので快適だけど、外はだんだん暑くなるんだろうな……。
鳳蝶丸丸抱っこで昨日の広場に行くと何やら人が沢山いて、皆それぞれお茶のようなものを手に寛いでいた。
「おはよ、ごじゃい、ましゅ」
「おはようございます」
その中に町役人さんがいて、この場所が涼しく快適なのでお借りしています。と説明される。
「これから朝市を開くから、テーブルと椅子を片付けたい」
「わかりました。皆に移動するよう伝えます」
朝市の準備をすると伝えると、町役人さんは慌てて皆に声をかけていた。
皆さんが座っていたテーブルや椅子は全部仕舞い、簡易テーブルを清浄する。
今回は買い出しに行く余裕が無かったので、前回マルシェ風に並べた野菜をそのまま複写して売ることにした。
お肉は売れ残っているD級やC級を出して、無くなったらB級を安価で売るつもり。
魚介は……アカハマダイと岩石エビ、南の島のカニ、南の島で取った貝類。
流石に生では売れないので、昨夜塩焼きや煮付け、ムニエル風、バター醤油焼き、酒蒸し、カニ玉、エビチリなどを皆の手を借りて作っておいた。
ついでに4人のツマミになったようで何よりです。
あとは日本のものを再構築したお塩、胡椒、スパイス、ハーブなど。
野菜セットの中にフルーツも入れておこう。
それから怪我用、病気用、魔力回復用のポーション(大・小)も準備済み。
昨夜レーヴァに疾病回復ポーションも作ってもらいました。透き通った淡い緑色のポーションで、瓶は六角柱みたいな形。
念のためダンジョン産のハイポーションも用意してあるよ。
簡易テーブルに食料やお惣菜を並べていると、マブルクさんと町役人さん達がやって来た。
「おはようございます」
「おはよ、ごじゃい、ましゅ」
「今日は食料のご提供をくださりありがとうございます」
「どう、いたち、まちて」
マブルクさんが私達の並べている食品やポーションを見て、ギョッとした顔をした。
「これは……。この肉やポーション、惣菜はいくらぐらいの想定で出しておられますかな?」
「こえ、たたまい、5しゃくエン。こち、しぇんエンよ」
クルコッコとブラウンボアの塊の5百エン、フェロウシャスターキーの塊8百エン、ゴールデンフォレストバッファロー、フォレストオークジェネラルの塊千エン。
「ああぁ!ゴールデンバッファローの肉をそのような安価な値で売るなんていけません!」
「ん?」
何でゴールデンバッファローってわかったんだろう?
「……ワシは物品鑑定のスキルを持っておりまする」
そうなんだ?
フィガロギルマスと一緒だね!
「ワシの場合詳細までは分かりませぬが、物の品質と毒素が混入されているかくらいならわかるのです。そして元商人として培った知識がちぃとばかりありまする」
「しゅどい」
凄い!と言いながらパチパチと手を叩くと、マブルクさんが照れたように微笑んだ。
「こちらは最高品質の肉じゃし、このサシ具合はB級の魔獣ではないですかの?」
「しぇいたいっ」
正解っ!
「ならばなおのこと。ワシらにはとてもとても買えぬような高級品じゃ。元商人として申し上げる。安価で売ってはなりませぬ」
「あー。忠告はありがたいが、俺達はC以下の在庫をあまり沢山持っていない」
「自分達で狩った肉だし、安価でも儲けがあるから問題ないよ」
自分達で狩った?!と辺りがざわついた。
「それに俺達は優秀商。売値は自由に決められる」
商業ギルドに安価で大量に売れば市場価格の変動があるけれど、街の一角で少し売るくらい問題無い、よ…ね?
「良いおにちゅ、やしゅい、皆、とううーん!いゆ?いなない?」
「良い肉が安く手に入るのは幸運と思えば良い。いるのか?いらないのか?」
「か、か、か、買ったーーー!」
町民の皆さんが買うと声を上げる。
一生口に出来ないような高級肉を普通の肉と同等の値段で買えるなんて自分達は幸運だと皆さん喜んでいた。
肉は鳳蝶丸とミルニル、野菜とポーションはレーヴァにお任せする。
ミスティルと私はお惣菜係だよ。
「味見、しゅゆ」
皆さんにとって初めての味もあるだろうから、味見が出来るようにした。
「お嬢ちゃん。昨日はありがとうね。夕食、とても美味しかったよ」
「うどぅーん?気に入ったよ」
「シチューもあんなに美味しいのは初めてだ」
昨日の夕食がとても美味しかったから試食に来たんだって。
お惣菜もなかなか好評だった。
「ううん!美味い!」
「これはなんて料理だい?」
「これはエビチリと言う料理です」
「エビチリ………」
「岩石エビを使っています」
「岩石エビは知らないが、エビという海の幸を使っているんだな?」
「そうです」
ここは海から遠いし、町から出なければ海鮮を知らないよね?
「俺はこれが好きだな」
「アカハマダイの煮付けです」
「海の魚って初めて食べたけれど、美味いんだな」
皆さん嬉しそうに色々と買ってくれた。
日持ちはしないから早めに食べてね?と付け加えると、今晩食べちまうと皆さんが笑っていた。
「こんなに活気付いたのは久しぶりじゃ」
「我らの買える値にしてくれて、本当に感謝いたします」
町民の皆さんが笑顔で買い物しているのを、長老と町役人さん達が感慨深げに眺めていた。
「まあ、根本的なことは変わってないから一時的だけどね」
「………そこが問題ですな」
レーヴァの言う通り、少し食べ物が手に入っただけで、領主が変わってないんだし状況は変わらない。
「まあ、俺達はしばらくここに滞在するし、出かけて不在の日もあるが希望があればまた食料の販売するから安心してくれ」
「ありがとうございます」
朝市は盛況に終わり、皆さんは笑顔で家路についた。
次は小麦と、芋、人参、玉葱、玉子のような日持ちのする食べ物を仕入れてこよう。
でも今日は仕入れじゃなくてダンジョンに行くよ。
広場を片付けてからテントに戻るフリをして、気配完全遮断。
上空から迷い砂漠エルグに向かった。
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