第165話 森でも炊き出ししたからね

 ゴク……。


「ん!」


 カッと目を見開いて固まるマブルクさん。

 一瞬皆さんに緊張が走った。


 直後、そんな周りの様子も気付かないくらいゴクゴクゴクと飲み干し始める。


「ンは、うんまい!こんなに美味い水は初めてじゃ!」

「そんなに、ですか?」

「ああ凄いぞ!水に'美味い'があるなど初めて知ったわい!」


 すると皆さんが集まり、厨にあったバラバラのお茶碗に、手桶の水をそそいでいく。



 ンン!

 美味い!



 そして、全員同じような反応をしながらゴクゴク飲んだ。



「今ので結構減ったのに、水量が元に戻っているな」

「そういう魔法陣が組み込まれている」

「す、凄い。そのような魔法陣など聞いたことが無い!」

「ここに魔力を充填すればいつまでも使えるぜ」

「………」

「ん?」

「あの、魔力を充填する時、魔石に触れていないと出来ないんですが、甕の底ですし……どうしたら?」



 はやぁ!やっちまったなあ!



 そうか、普通は魔石に触れて充填するのね?

 街道の休憩所でもいつも通り充填したけれど、【サンドウォーカー】さんに何も言われなかったから普通に皆できるんだと思っちゃった。



 慌てて結界を解いて大甕を回収、甕底の魔石だけ取り出して、鳳蝶丸に小さな魔石と甕用の魔石を魔法陣で繋いでもらい、小さな魔石から充填出来るように改造した。


 ほぼ一からやり直したのは言うまでもない。

 ふう。うっかり、うっかり。


 ………ゆゆちて?



「みじゅ、おおだめ、傷まにゃい。だしゅ、傷む。とうじちゅ、ちゅかい、ちゆ」

「この大甕に入っている水は傷まないけれど、甕から出した水は傷みやすい。できるだけ当日中に使い切って欲しい、と言うことだ」

「わかりました。皆に伝えます」


 これで皆さん美味しい水が飲めるようになったよね。

 水問題は取り敢えず終了かな?



 食べ物に関しては、複数の貴族達がこの街を出る前に食料を分けてくれたので、町民達に少しずつ分配し何とか体力を保っていたみたい。

 でもそろそろ無くなりそうだったので、もし隣街で買えそうだったら仕入れて欲しいと【サンドウォーカー】の皆さんにお願いしてあるんだって。

 恐らく隣町もここと似たようなものだろうけれど、と長老達が苦笑した。


「皆さんのマジックバッグに、食料はどれくらいあるじゃろうか?」

「いくらでも」

「いくらでも!?」


 そして、このマジックバッグは時間停止なうえ相当量入るから、沢山備蓄してあると説明した。


「じ、時間停止?!」

「どこかのダンジョンで手に入れたんですか?」

「まあ、そんなトコだ。出どころは言えない」

「俺、すっげぇ商人と知り合いになった気がする」

「流石、優秀商の皆様」


 いえいえ。

 加護をくださった神々のおかげですよ。



 食料はもちろん売り出すけれど、初回はご飯を振る舞おうかな?


「姫が君達に食事を振る舞うって」

「食事を?!」

「おちたじゅち、ちゆち」

「お近付きの印だそうです」

「参加したい者達を集められるか?あと、出来れば広い場所を借りたい」


 そこにいた皆さんが大喜びして若者に伝達を頼んでいた。


「ポーション、あでて?」

「わかった。ポーションが必要な具合の悪い者はいるかい?」

「はい。床から出られないものや、怪我をして動けない者達がおります」

「そう。これは怪我用と病気用のハイポーション。完治はしないかもしれないけれど使って、と寛大で優しい姫が言っているよ」

「へ?」


 寛大とか優しいとか言わなくてもいいよ!

 お代はいらないと言ったらありがたいと喜ばれ、更に長老達が若者達に指示を出していた。



「ご飯はいつ配るの?」

「明るい内からが良いと思いますよ」

「じゃあ、直ぐ用意しようか」

「了解。案内を頼めるか?」


 ミルニル、ミスティル、レーヴァー、鳳蝶丸が話し合って、町役人さんに案内をお願いする。そして皆と歩きながら(私もミルニルと手をつないで歩いたよ!)、広場のような場所に案内してもらった。


「領主が変わる前まではここで朝市が開かれていたんだよ」

「だが朝市に店舗を出すだけでも税を徴収して、更に売上の2割を納めなくてはいけなくなったから行商人が来なくなっちまった」


 そのやり方に商業ギルドが猛抗議。それを鬱陶しく思った領主は抗議した商業ギルド幹部を暗殺する。だがそのやり方が杜撰すぎて、商業ギルド側に直ぐ尻尾を掴まれ糾弾されてしまった。

 しかし領主を罰することも無く、国が肩代わりして家族に多額の賠償金を払い無理矢理沈静化させた。

 商業ギルド側はそのやり方にも猛反発。積もり積もっていた事柄も多々あり、この件が切っ掛けでサハラタル王国からほぼ撤退となった。



 領主がいくら王族関係者だからと言って、それを庇うの?

 おかしくない?



 それと同時に冒険者ギルドからも、ダンジョンの入場料を相談なく値上げした挙句に金銭を巻き上げたり、魔獣の素材を買い叩くなど、諸々の要因がありほぼ撤退を宣言され、国が傾きかけ始めているらしい。


 鳳蝶丸が商業ギルドと冒険者ギルドが撤退した国は衰退していくと教えてくれた。この街ばかりではなく他の場所も同じような状態なのになんの対策もせず、サハラタル王国が傾きかけているって………。

 何を考えているんだろう?



「こんな時に他国から攻められたりしたら必ず落ちる」

「今、人々を苦しめている者達はどうでもいいが、俺達のようなただの町民はどうなるのか」

「今より良くなるなら良いんだけどな」


 男性達は悲しそうに話していた。


「沢山の若いヤツは国を捨ててどこかに移動しちまった。俺は生まれ育ったこの街が好きだから見捨てられねえけどな」

「うん、おじたん、だんばってゆ」

「主さんが、貴方達は頑張ってるって」

「ありがとうな、お嬢ちゃん」


 うん、食べて力つけて、マイナスになっちゃった気持ちをプラスにして欲しい。

 そうすれば気が澱まず、スタンピードが起こらない、かも?しれないじゃない?



 到着した広場に、大きな帆布シートを数枚敷いて、清浄・防塵・防砂の結界1を張る。

 一緒にいた男性達が清浄で綺麗になって、すごく驚いていたよ。

 「クリーンが付与された結界など初めてだ」と言いながら、体のあちこちを触っている。


「俺達の結界はちと特殊なんだよ」

「ちょっとなんてもんじゃ………いや、うん。何となくわかってきた。[サクラフブキ]のやることは気にしないことだ」



 あい。しょうして、くだしゃい。



 帆布シートの上に簡易テーブルを5台ほど並べる。


「今まで食事は多少でもできていたか?」

「ああ。少なめだが出来ていた」


 じゃあ、普通の食事でも大丈夫かな?


 ロールパン、クリームシチュー、サラダセット。

 おにぎり、野菜スープ、出汁巻きと甘い卵焼きセット。

 あと、素うどんと卵粥も出すつもり。


 以前作ったことがあるものだから、特別に用意しなくても大丈夫。

 皆のマジックバッグにも入っているよ。

 飲み物はお水と紅茶、珈琲でいいかな?暖かいのも冷たいのも両方用意しよう。



「おなた、やしゃちめ」

「そうですね」

「お腹に優しめの食事だって」

「どんな物でも嬉しいぜ。ありがたい」


 ミスティルとレーヴァに食べ物の説明付きメニューを書いてもらい、鳳蝶丸丸とミルニルはゴミ箱と食器返却箱の設置をした。

 あとはテーブル各1台に1人が待機。残りの1台は飲み物用。ご自由にどうぞ、する。

 私は赤ちゃん用のイスをミルニルの隣に置いてもらい、そこに座った。



 準備完了!

 皆さん沢山食べてね!




 広場にかなりの人数が集まった。

 清浄で体が綺麗になったことに驚いているけれど、町役人さん達が事前に説明してくれているのかパニックにはなっていない。


 そして長老マブルクさんから説明が始まった。


「こちらの皆様は優秀商の[サクラフブキ]の皆様です。我らの窮地を知り駆けつけてくださった」


 どよどよ、とどよめきが起こる。


「ポーションを分けてくださったのも皆様。そして、水の用意もしてくださった」



 おおお!

 助かったわ!

 アタシの病気を治してくだすったのはあの方達なんだねぇ。

 水が手に入ったのか!



 皆さんが笑顔になる。


「そして更に、今夜の分は食事を振る舞ってくださるそうだ。皆、[サクラフブキ]の皆様と、この幸運を与えて下すったメルテール神、そしてウルトラウス神に感謝を」


 皆さんが祈るようなポーズをした。



 次に鳳蝶丸達が一歩前に出る。


「俺達は行商人で、屋号は[桜吹雪]。我が主が君達に食事を振る舞うというなのでこれから配るからね」

「ここに食べ物の種類が書いてある。気になったもの、好きなものを選んでくれ」

「飲み物は自分で入れて。やり方は紙を見て」

「ゴミはそちらのゴミ箱に、食器類はあちらの食器返却箱へ入れてください。食器類は欲しければ差し上げますので持って帰ってください」


 いつもの如く食器持ち帰りオッケーにする。

 食器類はもちろんいつもの木製、[桜吹雪]ロゴの焼印付き。


 返却口に入れれば消えちゃうし、だったら使ってもらおうと思って。



 ええっ!食器もくれるのか?

 どんだけ太っ腹なんだ?



「言い忘れたが、他の商人達に同じことを求めないようにな」


 鳳蝶丸が釘を差してくれる。

 他の商人に迷惑をかけちゃいけないし、念の為ね?

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