第164話 幼児、今度はヨシムネになる。成敗!
「フィガロギルド長が優秀商カードを発行されたと言うことは、小さなお子である貴女様は只者ではありませぬな?」
「お嬢は確かに只者ではない」
「可愛くて愛らしくて賢くて素晴らしい姫君だよ」
「その通りです。珍しくレーヴァと意見が合いました」
「主さん、最高」
皆、違うから。マブルクさんが言っているのはそう言うことじゃないから。
フィガロギルマスに優秀商だと(何故か)認められているからだと思うよ。
「あ、あの、他国の姫君が商人を?」
そしていつもの誤解が生じる。
マブルクさんがビックリしちゃったよ!周りの人たちと一緒にポカンと口を開けているよ!
「姫、ちあう」
「俺達は王族でも貴族でもない。姫は愛称だ」
いつものように鎮静化を図る。
「お嬢は俺達の主だ」
「赤ちゃんだけど優秀な商人」
赤ん坊商人、と皆さんがミルニルの言葉に続いて呟いておられる。
赤ん坊商人………暴れん坊な将軍みたいだね!成敗!
私がヨシムネに思いをはせている間にも話は進む。
「俺達の主は小さな赤ん坊だ。何としても守りたい。話を戻すが二重に結界を張ってもいいか?」
「そう言うことだったのですね。はい。それではお願いします」
納得した様子で頷くマブルクさん。
私は直ぐに元貴族街の防壁に沿うように縦長の結界4を張った。
環境をいきなり変えてもいけないから結界内の温度は変えずにそのままで、悪意ある者・物は入れない。物理も魔法も全ての攻撃は一切通さない、にしたよ。
強力な結界を張ったのでそちらの結界を解除して欲しいと伝えると、カチリと魔道具を切る音がした。
開いた門からに入る、と同時に赤点が炎系の魔法を放つ。
次々と魔法攻撃されるけれど私の結界に阻まれたうえ、レーヴァが空を掴む仕草をしてジュッと炎を消まくり、結局被害は全く無かった。
ナイフや矢なども飛んできたけれどもちろん私の結界が弾き返す。
中には忍び込もうとして、結界にガンッ!と頭を打ち付ける赤点もいたよ。
「まあ、こんな感じだ」
「私達や貴方達の出入りは可能です」
門内にいた皆さんはポカーンとしている。
「このまま結界張ってていい?」
ミルニルの問に、皆さん激しくウンウンと頷く。
メルテール様のお願いを聞くには拠点となる場所が必要だし、この一帯の結界はずっと張ったままにしておこう。
防壁の中は沢山の建物があるひとつの街だった。
「ここは比較的裕福な者と奥に貴族様の居住区があったんじゃ。今はもぬけの殻だがの」
今の領主になる前は、他の町と比べると富裕層が集まる町だった。ダンジョンもあるので商人達が行き交い活気があったが、今は見る影もない。
現領主となってからこの町に住んでいた領地を持たない貴族達は、避暑地へ行くなどの名目で他領に逃げ出し、とうとう貴族街、富裕層街がゴーストタウンと化した。
今は善良な町民達が結界のあるここに逃げ込み、元よりここに住んでいた者達と力を合わせて身を守っている、というのが現状だった。
「この防壁の向こうにいるのは暴徒と化した一部の者達と、取り立てや様子見のため領主によって派遣されて来たものの、街道に魔獣除けの魔力が充填されず、退路を断たれて自暴自棄になった者達じゃ」
「なゆほよ」
道理で荒れまくっていると思った。
私は腕を組んで(つもりで)ウンウンと頷く。
「おお、お嬢ちゃんは意味を理解しているかのようじゃの」
「実際理解しているぞ?」
「我が主はとてもとてもとても聡明でいらっしゃるのです」
止めてミスティル~。
「しかもとても可愛らしいんだ」
「そう。主さんは至高の存在」
ここにもいた!
「ちあうよ」
ブンブン手を振って否定したのに、皆さん和やかな表情を浮かべているのだった。
なぜ?
「今更どうにもならんが、こんな場所に小さなお子を連れてくるのは危険だったのでは?」
「大丈夫だ。俺達がいる。さっきの結界を見たろう?」
「それはそうじゃが…用心に越したことはない。気をつけてくだされ」
「わかった」
マブルクさんは良い人だな。青点だし私の中で好感度バッチリだよ!
「おみじゅ、いゆ?」
「水はいる?って」
「はい。今一番必要です」
ミルニル通訳の商談中です。
マブルクさんや他の長老さん達のヒミツの蓄えがあるらしく、お金に問題は無いみたい。
私達がマジックバッグ持ちと言うと驚かれたけれど、食べ物や飲み物が沢山あることを知ってとても喜ばれた。
今、一番深刻な問題はお水が無いと言うこと。
この辺り一帯は砂漠なので当然水が不足している。
街道にポツリポツリとある村や町はオアシスに人が集まって出来たもので、この町にもオアシスはあるが領主関係者に掌握され水1杯に5千エンも取られるし、今は荒くれ者共が管理していて手に入らない。
ここに住んでいた一部の貴族がこの領から逃げる際、食べて良いと屋敷に備蓄していた食料や水の出る魔石をマブルクさんに分けてくれたので、魔力を充填しながら今まで生き延びてきたけれど、それももう使用できなくなりつつあって魔石が割れる一歩手前なんだって。
うん。間に合って本当に良かった。
まずはお水の用意だね?お水……。うーん。
甕にお水を入れてあげることも出来るけれど、私達がいない時に困るよね?
「おっちい、ため、あゆ?」
大きい甕があるか聞く。
用意出来ると言うことなので、外からは目立たない場所に置いて欲しいとお願いした。それならと、皆で集会所として使っている建物の厨に大きい甕を置いてもらうことになった。
皆さんに甕の用意してもらっている間、魔石の用意をしよう。
無限収納内でクイーンの魔石を平らにする。そして鳳蝶丸のマジックバッグに入れ渡し、魔法陣を焼き付けて欲しいとお願いする。
1時間に1度清浄。
一定量に達すると湧き出る水が止まる。
「おねだい、しましゅ」
「了解」
皆さんに見つからないよう気にしつつ、鳳蝶丸が魔法陣を組んで魔石に焼き付けた。
「これで動くと思う。あとは水量を焼き付けるだけだな」
「あにあと!」
「あ、あの、それは?」
鳳蝶丸が持つ魔石を驚愕の表情で凝視する皆さん。
「これは魔石を加工したものだ。コレに魔法陣を焼き付けて…」
「お、お、お、お支払い出来ません!」
「ん?」
マブルクさんが震えながら魔石を指した。
「それほどの大きな魔石を、しかも魔法陣を焼き付けてある希少品を、買い取る資金がありません」
あ………。
すっかりあげる気で作っちゃった。
じゃあ貸し出す、なんてどうだろう?
1年使いたい放題で10万エン。ただし、魔力の補充は自分ですること。
結界の魔道具を充填していたと言うことは、魔力持ちの人がいるってことだよね?
鳳蝶丸通訳で伝えると、とてもありがたいが10万エンでは安すぎると言われた。
「魔力充填は何人も魔力持ちがいるので出来まする。しかしながら充填が自力だとしても10万は安すぎます。心置きなく使えんよ」
そう言って町民達で話し合い、長老達が5人、長老たちの補佐をしている町役人が10人。それぞれ2万エンずつ出し合って1年30万エンでどうかと言われ了承した。
集会所に大甕が設置されたと言うことなのでそこに向う。
用意された大甕は使い古されてはいるけれど、ヒビもなく頑丈そうだった。
鳳蝶丸抱っこで一緒に大甕に触れる。
清浄、結界3。
これでうっかり壊れることは無いでしょう。
鳳蝶丸に大甕の底に魔石を入れてもらう。暗視で中を覗きながら、再構成で魔石を底の大きさに調整した。
そして清浄とミネラルウォーターが出るを付与。 鳳蝶丸が仕上げに大甕の4/5で水量が止まるを焼き付けてくれた。
途端に水が大甕に貯まりだす。
鑑定すると、最高品質のとても美味しい水だった。
ウンウンよしよし。
「この甕は俺達が買い取ってもいいかい?」
「とても古いものですし、差し上げますよ」
「じゃ、初回は28万エンにして君から金を貰わない、にする?」
「いえいえ、私だけと言うわけにはいきませんのでお支払いします」
レーヴァの提案を辞退した長老さん。
「うーん…、じゃあ、とーたん」
では、物々交換をしましょう。
以前商業ギルドに売った、液体も漏れない硝子製密閉容器(大)を3個複写して鳳蝶丸の行商用バッグに入れる。
「では、これと交換だ」
「こ、これは?」
「こんな美しく均等な硝子瓶、ワシは見たことが無い」
「何と美しい!」
「これは密閉容器だ。この留め金を閉めれば液体も溢れない」
おお〜。
皆さん興味津々だった。
「これと大甕とを交換で良いか?」
「えっ!良いのですか?」
「無論」
「あのっ、はい、ありがたく」
これで正式に大甕は私の物になりました。
甕の側面にエンボス加工で[桜吹雪]ロゴをつけ、水が満タンになって止まってから魔石に魔力を足して収納。複写して厨の端に置き直した。
「これにも動かせないよう、異物が入らないように結界を張る」
「結界を?」
「この街に結界が張ってあるので悪意ある者は入れませんが、盗難や住民が知らずに毒物を混入してしまう可能性もありますので」
そう話しているうちに、お水入りの大甕を結界4で地中まで四角く囲い、結界にも清浄を付与した。
その後、木製の手桶を再構築して大甕の縁に引っ掛ける。結界に清浄を付与してあるので、手や桶からの雑菌や汚れが水には入らないようになったよ。
はい、完成!
「申し遅れたが、俺達は[桜吹雪]と言う屋号の行商人だ」
「これは[桜吹雪]の紋。俺達の所有物で君達に貸し出す形なので、もし上から渡せと言われても自分達の物ではないで通してね」
「まあ、動かせないけど」
「何か質問はありますか?」
「はい。この場所から動かしたい時はどうしたら良いですかな?」
あ、そうか。
そういうこともあるよね?
時々顔を出すから動かしたい時はその時に、とミルニル通訳をお願いする。
マブルクさん達が納得してくれたところで、早速試飲をするよ!
私達のマグカップを出し、手桶から水を汲み飲んでみる。
「ん、いつもの美味い水だ」
「ええ、美味しいです」
「大丈夫。美味しいよ、姫」
「主さん、凄い」
うん。いつものミネラルウォーター!
皆さんもどうぞと身を引いたら、まずはマブルクさんが味見(多分毒見も含む)をすることになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます