第163話 ダンジョンの町 サハルラマル

 街道で一晩野営する。

 皆にリビングに集まってもらいメルテール様からのご指示を説明すると、ミールナイトより人の子の政治に踏み込んだ願いだね?と皆が感想を述べた。


 うん、そうなんだよね。しかもウル様がそれを許可している。

 詳細はわからないけれど、この砂漠地帯が崩壊すると世界の均等が崩れる原因にもなりうるってことなんじゃないかな?


 いずれにしても、それが私の役目であるならば協力すると皆が快諾してくれた。


 基本的に自力で何とかしてもらうと言うスタンスを変えるつもりはないけれど、縁の下の力持ちにはなるつもり。

 皆の協力もあるし何とかなるでしょう。


 この世界に来てからはいつも行き当たりばったり。それが私のスタイル。

 褒められたものじゃないかもだけど!






「主さん、着いたよ」



 ミルニルおんぶで到着したのは街道最後の町、サハルラマル。

 砂漠の中にそびえる高い防壁が見え、扉は固く閉ざされていた。



「身分証はあるか?」


 扉の横に小さな扉と小屋があり、そこから門番さんが顔を出す。

 商業ギルドカードを提示すると、門番さんが「ゆ、ゆ、優秀商の御方がいらしたぞ!」と叫び、他の門番さん達が「うおおぉ!」と雄叫びをあげながら大きい方の扉を開けた。


「サハルラマルへようこそ!」


 皆さん満面の笑みだった。



「商隊が途絶えていたようだな?」

「はい。特に水が不足しておりまして………。あ、あの優秀商様。商隊でいらしたのでは?」

「俺たちだけだけど?」


 途端にショボンと肩を落とす門番さん。

 優秀商の大規模なキャラバンが来たと思って扉を開けると、立っていたのが私達だけ。


 そりゃガッカリするよね?

 でも、多分、そこらの商人さんより私達のほうが色々と用意出来ると思うよ?


「みじゅ、あゆ」

「へ?」

「水は沢山納品できます。もちろん食料も」

「あの、でも、荷物は?」

「俺達はマジックバッグ持ちだから問題ないよ」

「そうなんですね!ありがとうございますっ」


 途端に笑顔になる門番さん。

 安心したかな?



「まずは宿泊出来る場所だな」

「ねえ、君達。テントを張れる場所ってある?」

「冒険者ギルドダンジョン受付所付近にありますが……。最近上位の冒険者達がいないので、治安が悪くなってしまいました」

「俺達なら大丈夫。ダンジョン入口に行ってみようかな。ありがとう」

「いえ、お気を付けて。あの、本当に、本当にお気を付けて!」


 すんごい心配されました。

 鳳蝶丸達は涼しい顔でダンジョン入口に向かう。治安が悪いとて、彼らには気にもならない事柄なんだろう。

 私も全く怖くないけれど。



 町は覇気がない状態だった。まだ暑い時間だからか人の姿もない。

 時折衛兵らしき人達や冒険者達らしき人達を見かけるけれど気怠そうで、でも目だけはギラギラと獲物を射るような視線で私達を見つめていた。



 シュッ



 突然地図が開く。

 私達の周りに赤点が沢山いる。余所者で若そうな集団に見える私達に目を付けたのかな?何もあげないよ?


 鳳蝶丸達は意に介さずどんどん先に進む。

 辺りを見回すと、砂の黄土色と白い建物と青空しか無いような町の風景だった。


 建物は白く四角くほとんどが平屋で、扉は重そうな木製。

 ただ住人らしき気配が無く、ガラの悪そうな衛兵、冒険者、酔っ払い……。


 ここは赤点だらけの町の模様。


「前はこんな町だったか?」

「そんなことは無かったと思うけど、前に来たのがいつだったのか覚えてないんだよね」

「少なくとも今ほど荒れていなかったと思います」

「俺が前に来たの、多分150年くらい前」


 そんな経つか?何て呑気に言ってる面々。

 赤点ギラギラ集団がじわじわと近付いていることに、皆が気付かないはずはない。でも念のため結界1を張っておいた方が良いのかな?

 少し様子を見て必要ならば即結界しよう。



「あれがダンジョンの門だ」

「わあ」


 町外れに、めちゃめちゃ大きな黒い格子門がそびえ立っていた。


「あそこがダンジョン受付か」

「テントを張れるか聞いてみよう」


 レーヴァが受付の男性に声をかけると、無愛想に受付の向かい側の広場を指し、場所代は1泊1人5万エンだと言う。

 うん、ぼったくる気満々だね。


「戻ろうか?」


 レーヴァがアッサリと背を向けると、慌てて1人3万エンだと言い直す。

 あくまでもぼったくる気なんだね!



 受付の人まる無視で中心街方面に踵を返す。

 後ろで何やら喚いているけれど、仲間達が強力なスルー力を発揮していた。


「あの感じだとダンジョンも気配遮断で入ったほうがいいな」

「そうですね」


 私達が移動すると、赤点達も移動する。


 赤点達は目で見てわかるタイプの他に、暗部タイプも混ざっているみたい。

 なんだかなあ………。




 町の中心はひっそりとしていた。

 1店舗だけ開いていたので覗いてみると、どうも商業ギルドの仮店舗のようだった。店員が私達を見た途端に赤点となったので、あまり質の良い店員では無いらしい。


「さて、どうしたもんか」

「ちょうよう、しゃん、お家、しゃだしゅ」

「長老の家を探すのですね?」

「あい」


 テントは一旦置いておいて、長老の住んでいる場所を聞こうと防壁門へ戻ることにした。


「あっ!」

「長老の家はどの辺りだ?」

「は、はい!長老達の家にご案内します」


 深々と頭を下げる門番さん。

 早速ご案内します、と行きかけたところに、赤点が1人近づいて来る。


「よう、町の外に出るのか?なら俺を護衛で雇ってくれよ。次の町までガッツリ守るぜ?」


 男はニヤニヤ笑っていた。

 恐らく門の外で私達を身ぐるみ剥いでやろうって考えているんだと思われる。


 でも鳳蝶丸達は赤点おじさんを完全無視。


「おい、おい!」

「それで?長老とやらの家はどこだ?」

「て、てめえ。ふざけんじゃね…」



 ポーイ!



 ミスティルが殴りかかろうとした男の首根っこを掴んで、いともたやすくポーイと投げ捨てた。


「加勢してくる」

「あい」


 ミルニルが私をレーヴァに渡し、ミスティルの側に行く。


 周りにいた赤点達が怒り狂って殴りかかったけれど、ミスティルとミルニルがポイポイ……ブンブン?投げ飛ばして終了。

 建物や地面に叩きつけられるのって痛そうだね?


 武器を構えた者達は、鳳蝶丸が相手をしていた。ポトンポトンと落ちるのは切れてしまった赤点の武器達。

 鳳蝶丸に刃物向けると、大事な武器が切られちゃうよ?


 飛んでくる矢とナイフと暗器はレーヴァが片手で掴んで投げ返している。

 投げ返された矢とナイフは持ち主の防具やマントに刺さった。

 時々腕とかにも刺さって蹲っているけど、そろそろ攻撃止めた方が良いんじゃないかな?



「ねえ。君達は衛兵なのにアイツラを何故止めないのかな?……あ、ごめん」


 レーヴァが門番さんに話しかけながら暗器を投げ返したら持ち主の足に刺さったみたい。

 屋根の上から落っこちて激しく悶えている。


「ああ、毒付きだったか」


 泡を吹いてガクガク痙攣をし始めたので、体内の毒を無毒化しておきました。



 この場にいた赤点達は全員伸され、そこら辺に転がっている。

 皆が手加減してくれたおかげで怪我だけで済んでいるみたい。


「衛兵としての仕事は?まあ、どうでもいいけど。あとコレ、始末しておいて」


 転がっている赤点を親指で指さし、レーヴァがサッサと歩き出す。


「申し訳ない。言い訳になってしまいますが、色々あってコレらを取り締まれないのです」


 レーヴァに続こうとした皆が足を止める。


「だから俺達が殺されても良いと?」

「いえ、決してそのような!」

「長老のところへ行って水や食料を売ってほしい。でも襲われているわたし達を助けることは出来ない。ずいぶん矛盾しているんですね」

「…………」


 今度こそ皆は歩みを止めず、防壁門から町中に引き返すのだった。




「しゅしゃんねゆ」


 荒んでる。

 この町は想像以上に荒んでた。


 衛兵すら権限が無く町の治安はガッタガタ。町中赤点だらけ。

 暗部関連者まで隠す気無いのか結構わかりやすく活動している。


 これじゃ、人の不満も溜まりやすいよね?

 メルテール様。この辺りは思っているより荒れていますよ?



 取り敢えず長老の家を地図で探索する。

 探し当てたのは町の端。町中なのに更に防壁で区切られている場所だった。


「ここ、いちたい」

「了解」


 足早に歩を進めると、町中の防壁門が見えた。


「けったい、あゆ」

「ああ。どうやらあの辺りは結界で守られているようだな」

「あの辺り、元は富裕層と貴族街だったっけ?」

「そうですね」

「行こう」


 門の横に小さな扉があったので戸を叩く。


「行商人だが長老に合うよう言われて来た」


 すると扉の小窓が開き、男性が顔を出した。


「誰に言われた」

「【サンドウォーカー】と門番に」

「悪いが身分証を見せてくれ」


 物凄く警戒しているのがわかる。

 私達は全員で商業ギルドカードをかざして見せた。


「ゆ、優秀商……い、今、けっ、結界を!消…」

「待て。落ち着け」

「へ?」


 今、この周りにさっきの門で伸した以外の赤点が沢山いる。

 私達が入るために結界を外すと赤点達が攻めて来るかもしれない。


「旦那達の結界の上から俺の結界を張って二重にする。その結界は悪意のある者達を弾いて、関係者は入ることが出来る結界だ」

「そんな細かい設定が出来るのですか?」

「ああ。ここの責任者に許可を取ってくれ」

「わかりました。しばしお待ちを!」


 男性がバタバタと走って行き、しばらくすると複数人の男性達とともに戻って来た。

 そして小さな戸からおじいさんが顔を出す。


「このような形で申し訳ありませぬ。ワシがここの責任者、マブルクですじゃ」

「俺達は旅の商人だよ。結界のことは聞いた?」

「はい。ただワシも長いこと生きておりまするが、悪意ある者だけ弾くなど聞いたことがありませぬ」

「珍しいだろうとは思うが俺には出来るんだ。旦那達の結界の外側に俺達の結界を張ってもいいか?」

「何故そんな素晴らしい結界をこの街に?」

「落ち着いて商談が出来ないからです」


 ひそひそと相談する声が聞こえる。

 突然来た人間の言う事だから警戒するよね?


「おじいたん」

「ち、小さいお子もお連れか!」

「あい、ちったい、わたち、タード、ほんもにょ」


 商業ギルドカードを小窓から入れてみる。

 マブルグさんはそれを受け取り、小さなお子が優秀商カードを?と繁々と眺め、ミールナイトのフィガロギルド長!!と雄たけびを上げた。



 ん?何故雄たけび?



「ワシも商人の端くれ。ミールナイトのフィガロギルド長の名を知っておる。貴重、希少品を心から愛するへんた、ゲフゲフ」


 あ、変態って言おうとした!


「ウ、ンン。商人の中の商人で、長きに渡りギルド長として席を置くが、優秀商の証を1名たりとも発行したことが無いと有名な御仁。…それを貴方達全員が?」


 私のカードと私達を何度も見比べているマブルクさん。

 そう。知らないうちに優秀商のカードを発行された私達がこの町に訪ねて来ましたよ。



 それにしても………。

 物凄く遠い国までその名が轟いていたよ、フィガロギルマス。

 今度教えてあげようっと。

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