第160話 あれれ?この既視感、なにナニ?

「あれが街道だよ」


 街道と言っても劣化してゴツゴツした石畳の道で、しかも砂漠の砂を被っているから一見境がわからない。

 ただ道の両脇にミスティルの腰辺りまである背丈の石柱が建っていて、その上にランプのようなものが乗っている。

 それが点々と街道に沿って続いているので、何となく道だと言うことがわかるだけだった。


 皆に聞くとランプのようなものは魔獣避けで、街道を利用する旅人や商人が魔獣に襲われないよう設けてあるらしい。


 うーん。魔力切れの箇所がかなりあるから防ぎきれていないんじゃないかな?

 遠くに街道を横切る魔獣が見えるよ?


 この街道を使用する暗黙のルールは『魔力に余裕があれば充填する』らしいけれど、現状はほぼ充填されていないみたい。



 自分の身を守る方が先だよね?

 魔獣に襲われたけれど、充填したために魔力切れしてる!なんて困るもんね。



 一応定期的に国が魔術師団を派遣して充填をしている……って本当?

 街道の魔獣避けは灯りが消えていたり、チカチカと消えかかっていたりと結構な数が役立たずになっているよ?


「魔術師団、充填してる?」

「どうだかな」


 ミルニルの疑問に鳳蝶丸が肩をすくめた。

 ね?ミルニルもそう思うよね?



 取り敢えず街道を進もう。

 ここから野営を入れ1日半ほどで次の街に到着予定。その街こそが街道の最終地点なんだって。

 暗黙のルールらしいので十数個に1つ、魔石に魔力充電しながら歩くよ。




「あっ」


 街道のすぐ近くに小さいトカゲみたいな個体を発見!


「あれは魔獣ではなく動物だな」


 トカゲちゃんは前足と後足を交互に上げながら、自分の目をペロペロ舐めている。

 地球にも似たトカゲちゃんいたかも。

 目に溜まった水分を舐め取っているんだっけ?


「フフッ、主さん、可愛い」

「んう?」


 無意識にトカゲちゃんの真似をしてました。

 手と足をパタパタしてたらしく、皆が一眼レフカメラで激写していたよ。



 先に進むと遠くにサソリらしきシルエットが見えた。

 この位置からハッキリ見えるのだから、相当大きいのだろう。


「おおお…」

「あれはホットサンドスコーピオン。魔獣です」


 ええっ!今度はホットサンド!

 レッドホットワイバーンといい、またしても美味しそうな名前。

 お腹が空いてきたかも。




 しばらく歩くと、遠くに一部円のように広くなっている場所が見えた。

 串にお団子が1個だけ刺さっているような形と言えばわかるかな?真ん中の街道はその先へと続き、半円の丸が両側に付いている感じ。


 両脇の半円にはそれぞれ灯台のような形の魔獣避けが立っている。

 大きさは縦にミスティルが3人分くらい。いつも大きさの引き合いに出してごめんね?


「そろそろマントを羽織るか」


 この先は人と会うかもしれないのでマントを羽織った方が良いということになった。

 今は普通の服装で歩いているんだけれど、通常はこんなにギラギラと日差しの強い場所で、マントを羽織っていないのは変なんだって。

 結界3を張っているので暑さも紫外線も通さないけれど、やはりここはこの国の恰好に合わせた方がいいよね。


 そんなわけでレーヴァが説明してくれた形にマントを作ってみたよ。

 フードを目深に被り、風でずれないようにターバンを巻く。マントは足首辺りまでの長さで、口元も布で覆う。


 この恰好でラクダに乗って砂漠を渡るキャラバンしてみたいかも!

 なんて、想像しながら鳳蝶丸抱っこで街道を進む。



「あえ?」

「休憩所のようなところだ」


 鳳蝶丸の言葉を聞いて見回すと、半円に複数人が休んでいた。

 一緒に座ったり横になったりしているから、たぶん1組かな?


「休憩所なので大き目の魔獣避けが設置してあるんですよ」

「まあ、ここも完全に安全じゃ無いみたいだけれどね」


 レーヴァが灯台を指す。

 魔獣避けの魔石はチカチカ点滅を繰り返していた。


 たぶん私がいる間は魔獣は寄ってこないけれど、魔力充填しておいたほうがいいよね。


「鳳蝶まゆ、充填、ふい、ちて」


 鳳蝶丸に充填しているふりをしてほしいとお願いすると、私を抱っこしたまま左の灯台に近付き右手をかざすポーズをしてくれた。

 私はそっと魔石に魔力充填をする。

 そのままになってかなり長いのか、結構な魔力を入れないといっぱいにならなかった。



「アンタら魔術師団か!」


 その様子を見ていた1人が、慌てて体を起こし私達を声をかける。


「魔術師団?いや。俺達は旅の行商人だが?」


 鳳蝶丸が答えながら右の灯台に近付き手をかざすポーズをしたので、こちらもたっぷり充電した。


「ぎ、行商人?護衛もつけずにか?」

「俺達は強いから問題無い」


 そこで休んでいた人達がポカーンと鳳蝶丸を見ている。



 私達が充填している間に、ミスティル達が帆布シートを敷き場所を確保。ついでに人ダメクッションを置いて準備完了。

 鳳蝶丸と私も充填が出来たので、皆のところに戻ろうとした。


「本当に魔術師団では無く?」

「魔力の充填は魔術師団じゃなきゃマズイのか?」

「い、いや、滅相もない!これで安心して休憩所を使用できるよ。感謝する」


 1人が頭を下げると、他の人達も次々にお礼の言葉を述べてくれた。



 私は帆布シートに防塵・防砂付きの結界1を張り、クッションに座らせてもらう。ズブズブと沈む感触を楽しみながら、ついでに仲間の体を清浄した。


 冒険者達は人ダメクッションに釘付けのご様子。



 そうでしょう、そうでしょう。

 気持ちよさそうでしょ?



「行商人ってのは摩訶不思議な物を持っているんだな?」

「俺達がちと特別な行商人ってだけだ」


 声をかけてきたのは、ちょっとチャラ……明るい雰囲気のお兄さん。


「あ、俺等は見ての通り冒険者で【サンドウォーカー】って言うんだ」

「先程は失礼した。俺は【サンドウォーカー】のリーダー、キックと言う」


 冒険者達は8人パーティで、魔術師団か?と声をかけてきたのはリーダーのキックさん。キックよりパンチが強そうなムッキムキのオジサマです。体術師なんだって。

 剣士のロックスターさんは明るい雰囲気のお兄さん。同じく剣士のアッシュさん。

 魔術士のレッターさんとマットディーンさん、エッシャさん、サッチィさん。

 槍使いのテッサさん。


 私達も名乗りつつ、挨拶を返した。



「先程行商人と言っていたが、荷物が異様に少なくないか?」

「俺達はマジックバッグ持ちだ」

「それでか!と言うか、聞いといてナンだが、あまり人前でマジックバッグ持ちとは言わないほうがいいぞ」

「狙われる可能性もあるしな」


 心配してくれて良い人たちだなぁ。

 念の為地図で確認すると、青と白点が混ざっていて、黄色と赤点はいなかった。


「そこは大丈夫だ」

「例え盗んでも、他者には使えないですし」

「凄い自信だな」

「まあな」


 キックさん達が苦笑していた。

 信じて無いでしょう?本当なんだよ?

 登録者以外使えないし、私達が呼べば手元に戻るし、盗んでも無用の長物になるよ。



「あー。ではマジックバッグ持ちなら水は持っているだろうか。町の……長老達に売って欲しいんだが」

「それは可能だが、他の商人は来ないのか」

「もしや………この辺りの事情を知らずに来たのか?」

「そうだな」


 キックさんの話によると、最近この街道の魔獣避けに魔力が充填されず、大変危険なため商隊の数が減っている…いや、ほぼ止まっているらしい。


「冒険者は?」

「来るには来る。だがある程度強くないとこの街道は渡れない。だからかなりの数が減っている」


 この先にある町の長老や町役人達は、人の往来が本当に途絶える前に魔力の充填をして欲しいと、町出身の冒険者達に直接依頼を出した。

 命の危険を伴う依頼のため迷ったけれど、このままでは水も食料も尽きると【サンドウォーカー】の皆さんが依頼を受けることにしたらしい。

 そしてキックさん達は魔力を補充しながら次の街に向かって街道を歩いてきたんだって。


「途中ホットサンドスコーピオンに襲われ作動している魔獣避けまで走って逃げたが、足止めのために魔力を使い果たしてしまってな。充填が難しくなったから休んでいたところなんだ」



 魔力充填が止まって人の往来や商隊が来なくなった話。

 つい最近聞いたことがあるような無いような?………?


 うん、あるね。とある森で体験してきたばかりだよ!

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