第159話 高速芋とは此は如何に

 翌早朝。

 テントの前に簡易テーブルを並べていると村長さんと奥さんがやって来た。


「まずはこちらを。我が村民をお守りいただきありがとうございました」


 森で貸し出した、結界付与した魔石だった。

 貸していたことをすっかり忘れてた!


 あげちゃっても良いんだけれど、何でもかんでもってわけにはいかないので返してもらう。


「たちかに。あにあと」

「わたしが預かります」


 ミスティルが行商バッグに仕舞ってくれた。


「そして、今日は朝市を開いてくださりありがとうございます」

「よろしくお願いします」

「あい。よよちく、おねだい、しましゅ」


 私達が並べているテーブルを見て、野菜が買えると喜んでいた。




 小麦を見せて欲しいと頼まれたので袋を出す。

 中にはまだ挽いていない小麦が入っている。


「ふむ。良い小麦ですな」


 品質は[良]くらいのものを選んだよ。


「しぇいふん、ひちゅよう?」

「製粉は必要だったか?」

「いいえ、大丈夫です」

「この小麦が20袋ある。1袋4千エンだ」

「わかりました。全て購入します」

「まけろと言わないのか?」

「とんでもない!助けていただいてばかりなのに、そのようなことは言えません」

「そうか」


 全部購入すると言うことなので、鳳蝶丸と相談して結局7万エンで販売した。村長さんは恐縮していたけれど、今は大変な時期だろうし特別価格にする。

 他の商人さんに同じ対応を望んではダメだよと伝えた。




 小麦を卸すため村長さんの家に鳳蝶丸が向かう。

 私はミルニル抱っこでお野菜を売りまーす!


「いやたい、ましぇ」

「いらっしゃいませ」


 早朝にも関わらず、お店の前は村人が押し寄せてきた。全部売り切れる勢いでびっくりしたよ。

 一応品質の良い野菜を取っておいたので、いざとなれば複写しようと思う。


 レーヴァに女性が群がって、ミスティルに男性が群がっていたのはご愛嬌。

 ちなみにミルニルと私はおじいちゃん、おばあちゃんに大人気でした。


 ミスティル、ちょっと嫌そう。

 ごめんね、頑張れ!



 皆さんある程度の貯蓄はしていたようで、野菜が飛ぶように売れる。

 ミネストローネはあっという間に完売した。


 そして、戻って来た村長さんが残った野菜を全部買い取って完売となった。


「おたいあで、あにあと、ごじゃい、まちた」

「お買い上げありがとう」

「こちらこそ。助かりました」

「みなしゃん。ひよう、あでゆ」

「貴方達に肥料を差し上げるそうです」

「肥料、ですか?」


 旅の途中で畑の肥料を手に入れたので、野菜を買ってくれたお礼にあげると説明する。村長さんはやはり遠慮をしたけれど、在庫が残るより良いからと言って受け取ってもらった。


 本当は私のフォルダ整理なのでもらってくれるとありがたいです。



「試しで畑に撒いてみても良いですか」

「あい、いいよ」


 通常は肥料を撒いて土に馴染ませてから植え付けをするけれど、試しにやってみようか、と言う感じで芽が少し出ちゃっているサツマイモに似たお芋を植えてみることにする。

 トロトロ草がすっかり無くなり更地になった元畑の一角、約1m四方を耕して肥料を撒き、土と混ぜ、芽が出ている種芋を地中深めに植え………。



 ポンッ!



 え?

 植えた途端に芽を出すおイモの小さな葉っぱ………。



 ニョキニョキ!



 と、思ったらツルが伸びていく。

 まるで、映像を早送りして見ているみたい。


「ツル!ツルを埋めろ!」


 種芋から伸びたツルを慌てて土に埋める村人さん達。


「種芋が肥大するぞ!」

「しかし処理が間に合わん」


 ワサア…とツルと葉っぱが増えていく。


「はああ!ツル返し、間に合わない!」


 村長さんと村人さん達がアワアワしているうちに成長の速度が落ち、レーヴァがツルを引っ張り出してみると、立派で大きく美味しそうな、サツマイモに似たお芋が沢山ついていた。


 鑑定する。

 お芋は最高品質で、半神の与えし栄養素で育てられた芋とあった。

 超美味。栄養価が高く、食すと疲労回復効果、治癒効果があると書かれてある。



 あや?やっちゃった?!



「こえ、むやだけ、食べて」

「これはとある方が作成した栄養のある肥料なんだ。土の数に限りがあるから村の人が食べる分だけに使ってね?」


 レーヴァが少し早口気味に説明し、私をサッと抱っこした。


「俺達は怪しいものではない。肥料は安心して使ってくれ」


 鳳蝶丸が商業ギルドカードを村長さんの前にかざす。

 ほんと、お騒がせでごめんね?村長さん。


「じゃあ、これな」


 そしてマジックバッグから10袋ほど出しその場に置く。


「では、わたし達は先を急いでいるのでこれで」

「さよなら」


 私達が説明している間、ずっとポカンとして固まっている村長さんと数人の村人さん達を置き去りにして、足早に村の出口に向かう。


「バイバーイ!」


 何か私達まで早送りみたいになっちゃった。



 ああ、ビックリした!

 村を出て、人の気配がない場所から転移の門戸で昨日行き着いた場所に移動する。そして大きな岩の横にタープテントを設置、結界を張ってちょっと休憩することにした。



「お嬢の作った肥料は凄いな」

「イバヤ達が喜んでいましたよね?」

「そう言えば。確かに以前より強化されていると感じるね」

「でも、しょんなに、しゅどい、ちあう」

「そうだな。ここまで強力な効果は無かったはずだ」

「種芋を植えた途端に実がなっていたよね?」

「高速芋だった」



 高速芋とは。



「姫が作る食事にも何らかの強化がある?」


 うーん。

 今までここまでの影響は無かったはず。

 多少の神力もしくは魔力が入っているだろうけれど、意識して付与しない限り、あんな高速で成長する作用までは付かなかった。


 ちょっと心配になって以前作ったラーメンやらカレーを再鑑定する。

 疲労回復と体力向上(効果1時間)程度だった。

 そして、昨日作ったかぼちゃの煮物を再鑑定してもそれほど変わらず、疲労回復と体力向上(効果3時間)程度。



 じゃあ、どうしてあんなにお芋が育ったの?



 慌ててステータスを見ると、知らない間にフロルフローレ様とメルテール様の加護が追加されていた。そして新たなスキルも追加されている。



 [栽培・育成]

  野菜、果樹、キノコ類、藻類などの成長を促進させる

  高品質の作物が育成される



 フロルフローレ様はわかるとして、メルテール様は地鎮祭の時にお話していないはず。考えられるとしたらメルテール様のお守りする土地の村に手助けしたこと。


 そ、そんなことないよね?


 皆に加護が追加された話を伝えると、やはり何故メルテール様が?と不思議がっていた。


 ミルニル情報で、メルテール様はフロルフローレ様の姉神様で『豊穣と土壌』の神。フロルフローレ様は花の神と呼ばれていたけれど、実際は『花と草本植物』の神。


 私が植物や土壌に関わる2柱の加護をいただいたから、肥料に特別な付与がなされたのかな?

 いつもだと再構築・再構成をした時は必ず鑑定で確認するのに、肥料が800袋になったことに気を取られて忘れちゃってた。


 うっかりそのまま肥料あげちゃったけれど大丈夫かな?

 今更だしもうどうにもならないよね。


 まあ、いいか?

 うん、いいや。


 ちょっとだけ投げやりになりつつ、村での出来事は忘れようと思う。

 それよりもほぼ残ってしまったこの肥料、どうする?

 ほんと、どうしよっか?




 ここは岩と砂しか無い。

 アスケビィが粘土質な荒野だとすると、ここは砂だらけの砂漠だった。


 休憩を終え岩と砂の中を進むと、やがて岩すらも無くなり砂だけの世界になった。

 視界は全部砂の色。表面の風紋が美しかった。


 遠くに見えるのも砂の山。

 それを目指して歩いても風によって形が変わる。


 一般の人にはヤバいところだね。迷ったら最後かも?

 私達は全く問題ないけれど。



「ちょと、あゆいて、いい?」

「歩きたいのかい?」

「うん」


 結界4を張っているし飛行ひぎょうも浮遊も出来るから大丈夫だろうと、レーヴァおんぶから降ろしてもらう。


「わあぁ」

「夕方になると辺り一帯オレンジ色に染まって、なかなか見応えありますよ」

「ふおぉ……」


 それはぜひ見てみたい!と皆におねだりをした。

 地球の砂漠は歩いたこと無いけれど、こんな感じなのかなあ?


 砂丘の下り坂に足を置くとそこから足の幅くらいの砂がサァッと滑り落ちていき、ついでに尻餅をついた私も落ちて行く。

 ひっくり返って笑っていたら、鳳蝶丸が飛行ひぎょうで近付き私を抱き上げた。


「楽しいか?お嬢」

「うん、楽ちい」


 結界を張っているから体に砂もつかないし、口や目に入ってくることもない。


「一応言うと、ここから先はサンドワームなんかが出るから飲み込まれないようにな」

「結界があるから大丈夫だと思うけれど、お腹の中の冒険になっちゃうよ?」



 お腹の中……。

 お腹の中!



 レーヴァの言葉にアレ・・を思い出しそうになる。

 クイーンから飛び出た時についた、あの称ご……、思い出しちゃダメぇ!


「抱っこ、ちてて?」

「了解」


 もうアレ系の称号は嫌なので鳳蝶丸に向かって両手を上げると、笑いながらサッと私を抱き上げてくれた。




「あの方向に砂漠の町がある。このまま飛んでもいいが、どうせなら街道に出てそこから入ろう」

「あい、しゃんしぇい!」


 砂漠の街道ってどんなの?見てみたいから賛成ですっ。

 念のため気配完全遮断し、低空飛行ひぎょうで砂漠を滑るように進む。


「シャンド、ワーム、来ゆ?」

「サンドワームは歩く振動で襲ってくる」

飛行ひぎょうなら大丈夫だよ、姫」

「もし来ても、わたし達は負けません」

「安心して」


 いつだって心強い仲間がいるから怖くないよ。

 ありがとう。

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