第158話 はっ、はっぴゃく?!

 テントを出るとトロトロ草が無くなってスッキリした村の中を、村人達が右往左往していた。


「村長、しゃん」

「おお、見てください。一夜にしてトロトロ草が無くなったんです!」

「えええ!びっくい、ねえ」


 ぼ、棒読みになっちゃった。私に女優さんは無理みたい。



 村長さん曰く、昨夜のうちにトロトロ草がすっかり無くなる不思議な現象が起きたと言う。

 誰もいないのに子供のような笑い声が聞こえたと複数名の証言があるので、妖精が村の窮地を救ってくれたのか?と言う話になっているらしい。


「いや、俺はそう思わないね」

「と、言いますと?」


 レーヴァ、何を言うの?


「個人的な意見だけど。君達の姿を見て心を痛めた女神様が救ってくださったんだと思う」


 私をチラリと見て笑うレーヴァ。私は女神ではないよ!

 私を抱っこしていたミスティルが、本物の女神という意味ではなく愛称だと思いますよと言った。



 姫の次は女神ですか?



 でも村長さんは別の女神様と思ったみたい。


「女神様………メルテール神ですな!」


 この辺りの土地神様はメルテール神なんだって。

 ご挨拶はしていないけれど、地鎮祭にもいらしていたらしいよ。


「俺はメルテール神だけじゃ無く、ウルトラウス神もご覧になっていると思うぞ」


 鳳蝶丸がすかさずウル様の名前を出した。


「おお!そうですね。ウルトラウス神とメルテール神の御慈悲に感謝して、これから村の維持に努めようと思います」



 うんうん。

 村の皆さん頑張れ!



 魔石で魔道具が作動できたし、次は当面の食料かな。

 魔獣を狩ってお肉は手に入ったけれど、小麦や野菜はトロトロ草で全部枯れちゃったからなんとかしないと。


 だから、村長さんにはこう提案した。



 野菜や小麦を提供しようと思うが、我らは行商人なので購入してもらいたい。もし資金が無いならまたこの村に寄るので、その時に支払ってくれれば良いと伝える。

 すると村長さんは、今ある村の資金は村の改装費などにしたいので、私費で支払えるだけの野菜や小麦を購入したいと希望を出した。


 明明後日にテント前で朝市を開くことにするので村の皆さんにも声をかけて欲しいと伝えると、村長さんはとても喜んでいた。




 それでは転移の門戸を使って、今から小麦とか野菜を買い付けに行くよ!


 ミールナイトはもうすぐ朝市が終わりそう、という時間だった。

 この間来た時は戦のせいでひっそりとしていたけれど、今日は活気に溢れている。

 市場が動き出したかな?



 急いで露店が並んでいる広場へ行き、残っている野菜を沢山買うつもり。多少傷ついていても良いので安く売ってもらえるといいな。


「お嬢さん。ここにあるのを全部買うから安くしてくれないかな?」


 ウインクバチコーーーン!


「年寄に向かってお嬢さんだなんて、アタシャ騙されないよ」


 と、言いながら、嬉しそうに顔を赤らめる店主さん。


「お野菜、傷んでいるのも含めて全部買いますよ?」

「俺。お姉さんのお野菜が食べたいな?」


 畳み掛けるようにミスティルが柔らかく微笑みミルニルがおねだりをすると、仕方がないねえと値引きしてくれた。


 言っておくけど売れ残りだから安くするんだよ!と最後まで言っていたけれど、結構デレデレだったよ。


 傷んでいるものを含む、色々な種類の野菜3万エン分を2万5千エンで購入。

 折れは良いとして、傷んでいるものは同じ野菜を再構築し無駄は無く食べられるようにするつもり。



 次は商業ギルドに向かう。


「おねしゃん!」

「まあ、ゆき様」


 受付内にエレオノールお姉さんの姿が見えたので声をかける。


「おはよ、ごじゃい、ましゅ」

「いらっしゃいませ。本日はギルド長不在のため、わたくしがご要件をお伺いいたします」

「あにあと」

「小麦の大袋が買いたい」

「はい。いかほどご入用でしょうか?」

「大袋をみせてもらいたい」

「畏まりました」


 鳳蝶丸に話してもらい、1袋何キロくらいか見てから決めたい。

 倉庫に案内してもらって見せてもらうと、小麦粉の1袋は日本で言うところの業務用(50kgくらい?)だった。


 麦の品質は高品質ではなく普通のもので良いと告げると、4千エン/1袋をオススメされた。結構安い?

 取り敢えず20袋を10%ほど負けてもらい、7万2千エンで購入した。


「あにあと、ごじゃい、まちた」


 それを鳳蝶丸の行商用マジックバッグに収納して、商業ギルドをあとにした。




 2ルームテントに向かって歩いていると、屋台が建ち並ぶエリアに出た。

 屋台のあちこちからとても良い匂いが漂ってくる。


「いい匂い」

「行ってみるか?」

「うん」


 近付いてみると数件の屋台に列ができており、その中の1件は長蛇の列だった。


「あえ?」

「見たことあるな」


 長蛇の列のお店を覗いてみると、リンダお姉さんとミムミムお姉さんのご家族が屋台で忙しなく働いている。


「食べたい」

「並ぶか?」

「うん」


 お昼近いし、ついでに食べていこう。

 私と鳳蝶丸とミスティルが並び、レーヴァとミルニルが広場の座席を確保しに行った。


「わあ」

「醤油の香りは無いが、各自色々工夫してそうだ」


 あちこちから漂っていたのは唐揚げの匂い。

 リンダ&ミムミムご家族以外にも、唐揚げのような屋台が並んでいるみたい。


 早速広まったのかも?嬉しいな。



「あっ!ゆきちゃん!」


 順番が来たので挨拶すると、ミクミクお姉さんが私に気付きビックリする


「田舎に帰るまで屋台で路銀を稼ごうと言うことになって、唐揚げの屋台にしたんだけど…ダメだった?」


 ミイさんが気まずそうに肩をすくめる。

 だから、問題ないよ。どんどん活用して!と伝えた。


「ありがとう!事後報告でごめんね」

「いいよ」


 もともと広めてほしかったしね?


 でも、出している唐揚げは醤油は使っていないみたい。

 聞いたら、醤油は在庫に限りがあるから自分達で工夫したんだって。

 すごい!どんな唐揚げだろう?楽しみ♪


「唐揚げと果実水を4つください」


 ミスティルが購入する。

 ミクミクお姉さんが何故かガッチガチに緊張しながら、それぞれ4つ用意してくれた。


「だんばえ」

「頑張って、だそうです」

「はいっ!こちらこそ、許可してくれてありがとう」



 レーヴァとミルニルが取っておいてくれた席に座って、熱いうちに早速食べるよ。皆は足りない量だと思うので、追加でおにぎりセットを出した。



 では、いただきますっ。



 ザクッ……。

 うん、美味しい。

 塩唐揚げだけれど、細かくみじん切りにした数種の香草が入っていて、ちょっと香りの強いエスニック系な風味だった。

 香辛料が入ればもっと美味しくなりそうだけれど、香辛料は貴族でもなかなか手に入らないほど珍しく、高値らしいので難しいよね。


 私が唐揚げを頬張っている間、皆は唐揚げとおにぎりセットをパクパク平らげていた。私も1つくらいおにぎり食べようかな。



「おいちかた。またね」

「美味しかったそうですよ」

「ありがとうございます!頑張ります!」


 お腹いっぱい食べてご家族の皆さんに挨拶。それからテントに戻る。

 鳳蝶丸達はリビングで休憩らしいので、私はお昼寝しようかな。


 では、安心して……お休みなさい。






 早朝、私達は村外れから飛行ひぎょうで旅を再開する。

 行けるところまで行って夜に簡易テントに戻り、明日仕入れた野菜を売ったら村を出発、転移の門戸で行き着いたところからまた進む、という予定。



 高速で飛ぶから今日はレーヴァおんぶと言われたので、背中合わせのおんぶにしてもらう。そのほうが水平飛行になった時楽じゃないかと思って。


 空を高速移動中、私はレーヴァをおふとんにして眠ったり、目覚めたらフォルダの整理をする。



 あ、そうだ!



 今まで溜まったいらないものを、全部肥料にしちゃえばいいんじゃない?

 そうすればフォルダ内がスッキリするよね?


 いらないと思うもの全部を、以前テレビで見た植物に必要な17種類の栄養素を含む土に再構築する。

 再構成で麻袋(大)に詰めた状態にすると、約8百袋になってしまった。



 ああああぁ、多すぎ!



 ちょっと、これ、どうする?

 村の畑にと思ったんだけれど、沢山あげても結構残りそう。


 無限収納内は腐らないからいいけれど、結局在庫になると言う……。

 はあ、なんとかしなくちゃね。




 お昼寝したりご飯食べたり休憩をして、次の予定地近くまでやってまいりました。かなり進んだので今日はもう戻ろうと言うことになり、転移の門戸で村の簡易テントに戻る。


 その後は2ルームテントのキッチン付近で野菜の陳列とレイアウトなどを考えた。

 レーヴァが、まるでヨーロッパの市場みたいに野菜を綺麗に並べ、ミルニルがそれを簡易テーブルにどんどん載せる。

 鳳蝶丸が色々な野菜を賽の目に切って、ミスティルと私でミネストローネを作った。



 そして、大体の支度が終わったので早めにお風呂に入り、ご飯にしようと思う。

 今日の献立は、たけのこの炊き込みご飯とアジの開き、かぼちゃの煮物、大根の漬物、なめこと豆腐のお味噌汁だよ。


 かぼちゃの煮物が大好評で皆おかわりをしまくっていた。

 私好みのホクホクのかぼちゃ。すっごく美味しかった♪

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る