第157話 ENJOYABLE MISSION - ペピペピーノ -

「お嬢、大丈夫か?」

「帰ってきたよ」

「ただいま帰りました」

「ただいま」

「おたえに、なしゃい」


 今ある分でトロトロ草を加工して、何か試作してみようかな?って思っていたところに皆が帰って来た。

 時間にして40分くらい?凄く早くてビックリしたよ。

 皆が帰ってきたので、加工はまた後日にしよう。



 テントを出ると、あちこちに座り込む村人達がいた。

 私の仲間達はC級以上の魔獣だけを狩ったらしいんだけれど、D級以下がこの村に侵入し村人達が討伐したので、複数人が怪我をしたらしい。


「わたち、いた?」


 私がいたのに侵入したの?


「お嬢はミールナイトにいたからな」

「あ、しょうだった」


 通常、私の気配で魔獣は寄ってこないけれど、ミールナイト側にある2ルームテントにいたから、この村に私が存在しないことになって、魔獣が入り込んじゃったんだね。


 簡易テントの方にいれば良かった。


「ポーションを渡してきたから怪我人は問題無いよ」

「よたったあ」


 ところで討伐はどうだった?と聞いたら、全てでは無いけれど大物などは間引き出来たって。

 そして皆で話し合った結果、今回狩った魔獣の素材は村の皆さんに役立ててもらおうと言うことになった。



「またしてもポーションをいただきありがとうございました」

「解体は出来るか?」

「魔獣のですか?はい、もちろんです」

「じゃあ、これらを旦那達にあげるから、解体して魔石を魔道具に使うといい」

「え!」

「肉は村人で分配しな」

「そ、そこまでしてくださるなんて何と心優しいのでしょう。まるで天の御使いみつかい様のようです」



 そ、村長さんは勘が鋭いな。



 毛皮やその他素材は使っても良いし、売り出しても良いと伝えておく。

 今はありがたくいただきますと言う事だったので、皆が持ち帰って来た魔獣を共有で回収、ミルニルの行商用マジックバッグにまとめて入れる。

 そして鳳蝶丸とミルニルが村長さんと一緒に村の倉庫へ行くことになった。


 ミスティルとレーヴァと私はテントに戻ろうと歩き出す。


「あのっ!お願いがありますっ」


 私達が助けた中の1人が声をあげた。


「もし可能ならば、俺達を鍛えてください。タダとは言いません。手元にある25万エン、その分だけで良いです!お願いしますっ!」

「俺ん家も20万エンほどあるので、それでお願いしますっ!」


 男性達が一斉に頭を下げた。


 何故私達に頼むのかと聞けば、彼らは4人の戦いを目の当たりにしたらしい。

 それは簡単に、あっと言う間に魔獣を倒した鳳蝶丸達。あそこまでとは言わないけれど、自分たちでこの村を守れるようになりたいと言う。


「本気で言ってる?」

「はいっ!」


 レーヴァの言葉に真剣な面持ちで頷く男性達。


「ちょっと、待ってちょうだい」


 私達が困惑していると、そこに村長の奥さんや他家の奥さん達がやって来た。


「この方達は旅の途中で、しかも商人をされている方々ですよ。これ以上足止めする権利は私達に無いでしょう?」

「食べ物やポーションをもらって、魔獣の間引きをしてもらって、魔石を譲ってもらって。これ以上何かを強請るなんて図々しいわよ」

「鍛えてもらうなら、冒険者になった村出身の人間にお願いしたらどう?」

「それから、私に相談無く全財産使おうとするんじゃないよ!」


 あ、奥さんに怒られた。

 ですよねえ?相談無しに大金使っちゃダメだよねえ?


 男性達はシューンとしている。


「まあ、強くなろうとするのは良いんじゃない?でも俺達にも予定があるからね」

「主がやりたいことを終えたら直ぐに出発します」


 レーヴァと私を抱っこしたミスティルは、男性達の言葉を待たずサッサと歩き出す。

 男性達の気持ちは分からないでもないけれど、トロトロ草を回収して落ち着いたら私達は出発するつもり。一時の危機は回避したから、あとは村の皆さんで立て直してください。


 ごめんね!



 テントで鳳蝶丸達と合流して休憩と食事。

 夕方赤ちゃん用のミルクを配給して暗くなるのを待った。


 夜が更け、私達は気配完全遮断をしてから外に出る。

 魔石を使った魔道具が無事作動したらしく、村の周りに微量な魔力を感じた。

 この世界の夜は、都会の夜と違って灯りが月明りしか無く、村の周辺は真っ暗になる。暗視に切り替え辺りを目視すると、村人達が村の中を巡回している様子だった。


 飛行ひぎょうで村と森の上空を飛びながら地図でトロトロ草を探索すると、辺り一面にびっしり生えていることがわかる。


「ミシュチユ、根っと、じぇんぶ、浮かべゆ、おねだい、しましゅ」

「わかりました。何一つ残さずトロトロ草を浮かべれば良いのですね?」

「あい」


 私は自分で飛行ひぎょうしながら、ミスティルが浮かべたトロトロ草を無限収納に入れていく。ミルニルは私の後について、土を均していった。



 数時間かけて森中のトロトロ草を採取し終え、村の中のトロトロ草も残りわずかとなった。


「あと、ちょと」

「村人がうろつき始めましたね」

「気付かれないよう採るの、楽しい」

「うん!」


 村人達の間を縫っての採取はスリルがあって面白い!

 段々トロトロ草が無くなってきて皆さんが大騒ぎをし始め、ウロウロ行き交う中を採取っ。


「お、おいっ!さっきまでここにあったのが無くなっているぞ!」

「こっちもだ!」


 軒の下まで全部無くなって、最後の数株になった時は皆で超注目するからスリル満点だった。



 ガコンッ!

 ゴゴンッ!



 鳳蝶丸とレーヴァが少し離れた場所で音を鳴らすと皆さんその方向に顔を向けた。

 ミスティルトロトロ草を浮かべ、私収納、ミルニル土均し。

 見よ、私達の流れるような無駄の無い働き!(ドヤァ)


 楽し過ぎて思わずクスクス笑ってしまった。

 音漏れ防止の結界をうっかり張り忘れたので、私の小さな声が村人に聞こえちゃった。



 う、う、うわぁ!ペピペピーノ!

 いたずら妖精が出たぞ!



 村人達が大騒ぎを始める。



 ペピペピ?ってなに?



 私が疑問に思っている間に鳳蝶丸抱っこでテントに戻る。


 ハハッ!

 アハハ!

 フフフ…

 クスクス…


 テントに戻ると同時に皆が大笑いしだしたよ。


「気付かれないように草を引っこ抜くの、楽しかったです」

「主さん、最後に笑っちゃうんだもん、アハハ」

「我慢出来なかったよな、お嬢」

「うん、でちなたった」

「姫の笑い声、可愛らしかったよ」


 皆でひとしきり笑ったあと、お風呂に入ってからゆっくりお茶を飲んだ。

 皆はお酒を出して乾杯してたけれど、私はそのうち寝ちゃったみたい。

 ふと目を覚ますと寝室のベッドに横になっていた。

 いつもの景色に安心する。



 ふふふっ。半神からいたずら妖精に変身しちゃった。スリル満点で楽しかったな、『誰にも気付かれず草取り作戦』。

 今日あったことを思い出し、クスクスと笑いながら寝返りを打つ。

 その後は、夢を見ないほどグッスリと眠ったのだった。

 おやすみなさい。

 






 ちょっと遅めに起きて、寛ぎの間で朝食をとる。

 今朝は賽の目に切り込みを入れてこんがり焼いた厚いトーストにバターをのせて、目玉焼きとウインナーとコーンスープ、トマトジュース。

うん、定番の組み合わせ!


 パンの白い部分を賽の目に切り込んでスジをつけてから焼くと、サックサクで美味しくなるんだ。休日の朝にそうやって焼いていたことを思い出して久しぶりにやってみたよ。



 サクッ

 んん、美味しい♪



「ちのう、たのちたた、ねえ」

「そうだな」


 思い出してまた笑ってしまった。だってドキドキして楽しかったんだもん。

 あ、そういえば。


「ペピッ、ペッ、ペピイピ、なあに?」

「ああ、ペピペピーノかい?」


 言いにくいー!


「確か、イタズラ好きのずんぐりむっくりな妖精、だったかな?」

「存在はしてないはず」

「人の子は不可思議なことが起こると、ペピペピーノにイタズラされたって言うらしいよ」


 レーヴァとミルニルが解説してくれた。


 小人さんが寝ている間に靴を仕上げてくれるって童話みたいなもの?

 私の知っている小人さん達は寝ている間に宝石を置いていくよ。


「ペピペピーノはいないが、妖精達がイタズラをするってのはアリだな」

「あのコらは気まぐれだし、イタズラ好きだしね。多分、色々混ざってペピペピーノになったんだと思うよ」


 じゃあ、今回のトロトロ草が一夜にして消えた事件はペピペピの仕業ってことでいいよね?

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