第156話 余すこと無く全てが有用!いじり倒そっと♪
村長宅に到着。
そこには色々な人が集まっていた。
「おお、お嬢様」
え、お嬢様?!
「この度は、食事、ポーション、赤子のミルクまでご提供くださり、ありがとうございました」
「あい、いいよ」
困った時はお互い様。
ご飯を持っているのに無視出来ないし、私がお節介なだけデス。
「お陰様で赤子も元気になりました」
「よたったねぇ」
本当に良かった!
その後、何かの力になれるかもと詳しく事情を聞く。
村長さんの話によるとこうだった。
この深い森を領地に抱えた数代前の領主が、何か生産性は無いかと試行錯誤をした結果、この森では農作物が良い品質で育つと言うことがわかった。
せっかく良い農作物が育つのだからそれを生かさない手はないと、小型の馬車が通れるほどの道を森の中間まで作り、村の基礎を作り、畑となる土地を確保し、ここに移住する領民を募った。
とは言えここは魔獣の住まう森。領民達の中に手を挙げる者はなかなか現れない。そこで領主は幾つかの条件をだし、この森で農作物を育てる領民を募ったのだった。
そこで領主はこう明言した。
村に結界を張る魔道具を取り付ける。そうすれば、魔獣も人間も誰も入らず安全である。基本村人は村の外に出ないし、用事がある数分だけ魔道具のスイッチを切れば良い。
そして月に一度商人と護衛の冒険者を村に送るので、その時に魔道具に使う魔石の交換、もしくは魔力の充填を行うこととする。
野菜は市場より少々高値で買い取り、小麦は通常の物価通りに買い取る。
高品質での納品があればそれなりの色を付けても良い。
そして、提示された条件が良かったこと、村の設置された場所に出没する魔獣が比較的弱かったこと、最初から家屋が建っていたことなどの理由で移住者がポツポツと増えていき、今の村になった。
しかし数年前に領主となった者がキツイ税収を取りたてるようになる。
己の利益にならないことは徹底的に排除し、高品質な小麦や野菜を安定的に納められているのにも関わらず安く買いたたき、商隊や冒険者の派遣頻度を2ヶ月に一度と変更した。
この領の冒険者ギルド上層部と結託し、魔獣の素材を買いたたいたため冒険者が他領に移動し始める。
その結果森の魔獣が間引かれなくなり、強い魔物もこの辺りに出没するようになった。
慌てて対策を取ろうと頑丈な木の柵を作り始めたものの、頻繁に出没する魔獣に阻まれなかなか進まず、そうこうしているうちにトロトロ草が繁殖が始まった。
すると、今度は商人も冒険者も派遣されなくなり、魔道具に魔力が充填されなくなって結界が解除されてしまった。
直談判に数名の村人が町に向かうも帰って来ず。
そして次に派遣した村人が今回の怪我をしていた人達と言うことだった。
「今しゃや、おしょい、でも、ちちたん、なしゃしゅ、じゆ。ちゅねに、ちちたんい、しゅゆ、大事」
「お嬢は今更言っても遅いけど、旦那達は危機感が無さ過ぎる。常時危機管理をする必要があったのでは?と言っている」
私の言葉に村人達がギョッとしている。
今更ではあるけれど、村に移住した時点できちんとした防護壁を築くべきだったんじゃないかな?
それに領主が代わって魔石に充填されなくなる、商人が来なくなった時の対処など、あらゆる危機を想定し策を講じるべきだったんじゃないかと。
「はい。本当に不徳のいたすところでございます。深く反省し、今後の策を講じなければなりません」
「あいっ。こえたや、やいなおしゅ。てちゅだう」
これからやり直しは出来るよ!手伝うから頑張れ!
「じゃあ、ちょっと時間をもらうよ」
私達5人は部屋の端に移動して、外の声は聞こえるけれど中の声は漏れないの結界を張った。
「どこまで手伝うんだい?」
「ましぇち、充填しゅゆ。トヨトヨ草、じぇんぶ、しゃいしゅ。ちゅいで、魔獣、やっちゅてゆ」
まず魔石に魔力を充填する。次にトロトロ草を全て取り除き、ついでに魔獣を討伐する。
あとは畑だった場所をどうするかだよね。
そうだ!ここでゴミとなった物を使って全部肥料とかに再構築しちゃえば、フォルダも空いて野菜も育って、一石二鳥じゃない?
そんなことを説明していると、交代した見回りの村人が入ってきた。
「村長。良いことだが不思議なことが起こっているぜ」
「どうした?」
「アサルトグレーウルフが村を遠巻きに見てはいるが、近寄って来ないんだ」
「何だって?!ありがたいが原因はなんだろうね?」
「さあ……」
皆さん首を傾げていますが、原因は私と仲間達ですよ。
あっ!
魔獣を間引こうと思ったけれど、鳳蝶丸達が近づくと逃げちゃうかな?
「狩ってくるから心配すんな」
「追いつけば良いだけのことだしね」
「離れていても狩れますよ?」
「俺、皆ほど素早くないけど魔獣には負けない」
「あい!」
私の家族達は伝説の武器だもんね。
「お嬢。魔力充填は待ってくれるか?魔獣を狩れば魔石が手に入る。魔道具にはそれを使えば良い」
「わたった。わたち、てったい、張って、テント、待ってゆ」
わかった。
私は結界を張ってテントで待ってるね!
「了解」
結界を解いて、村長さんに魔獣を狩ってある程度間引いてくると話す。
「え!だ、大丈夫なんですか?」
「ん?大丈夫だが?」
「いえ、そ、その、怪我などしてしまったら大変です」
レーヴァ以外は討伐しそうに無いもんね?
「心配無用」
「俺達はダンジョンに入る許可証を持つ程度には強いからね」
ミルニルとレーヴァが返事をすると、村人達が驚いていた。
そしてその中で体の大きな人達が頷く。
「俺も行く。ハルトベーアは流石に無理だが、小さな魔獣は狩れる」
「俺も!恩人だけに任せるなんで、村に住んでる者どして恥ずがしい」
「おらも!」
口々に参加表明をする村人さん達。
「かまわん。なら、俺達が獲り零したのをヤッてくれ」
「森の奥まではついてこないでね?君達に構ってられないから、強いのが出ても助けられないよ」
鳳蝶丸とレーヴァの言葉に頷く一同。
私達に頼るだけではなく、自分達でも何とかしようとするのはとても良いこと。
村人頑張れ!
「では」
ミスティルがサッと私を抱き上げて歩き出す。
「主をテントに連れて行ったら直ぐ討伐を始めます」
「旦那達は無理をするなよ」
その後私は簡易テントから転移の門戸を開き、寛ぎの間で待機することにした。
簡易テント自体に結界が張ってあるので仲間達以外は誰も中に入れないし、門戸を開きっぱなしにしておけば誰かに声をかけられてもわかると思う。
だから安心して討伐に行ってとお願いし、念の為皆には結界3を張った。
鳳蝶丸達が討伐に行っている間、私は調べ物をする。
テントを設置した時のトロトロ草を皆からもらって、何かに役立てられないだろうか?って調べてみることにしたの。
まずはもう一度鑑定してみよう。
名称 トロトロ草
品質 高品質
説明 食用可
繁殖力が強く、一度根付くと広範囲に増え続け
他の植物の自生地に侵食し、やがて生態系を壊す
厄介な植物
種を包むジェル状の中果皮は熱、凍結に強く、
燃やしても内果皮まで熱が伝わらない
また、根を全て取り除かない限りそこから芽が出始める
乾燥した場所や砂地では育たない
ふむふむ。では2、3株解体してみようかな?
実がついているものと、まだ花が咲いているもの、花が蕾のもの。
解体すると、根、茎、葉、花弁、雄しべや雌しべ、果実の外果皮、中果皮、内果皮、種子に分かれた。
まず根を鑑定。
焼かれると消火剤の成分を分泌する。
分泌成分は人体に無害。
これじゃあ、燃やしてしまおうと思っても、根があると火が消えてしまうんだね?
消火剤って、これ、どうにかして使えない?!
茎、葉、花弁、雄しべ、雌しべ、外果皮は根と一緒にせず燃やせば灰になる。
灰は虫除けになる。
人体に無害。
え?虫除けになる?!これも使えるんじゃない?!
中果皮はゲル状で熱にも寒冷にも強く、あらゆる環境から種子を守っている。中果皮は燃やすことも凍結させることも出来ない。
1週間ほどでゲル状だったものがゴムのような固さに変化、種子を押し出して遠くに飛ばし、繁殖範囲を広げていく。
種子を飛ばした後に固くなった中果皮は地面に落ち、微生物に分解され、土の栄養となる。
ゴムのように硬くなった中果皮は燃やすことも凍結させることも出来ないが、温熱や冷気を通すようになる。
ゲル状の時は食用可だが、5g以上摂取すると腹が下る場合があるので注意。
ゴム化した中果皮は食用不可だが人体には無害。
これも何かに使えそう!
そして内果皮と種子。
種子にはビタミンB群が含まれる。
食用、飲用可。
凄い。トロトロ草凄い。
余すこと無く全てが有用!
土地を埋め尽くし、他の植物を枯らし、自然界の均等を破壊し、忌み嫌われるトロトロ草。
でも、実は丸ごと全部有用な植物だった!
良し。
この森と村に広がってしまったトロトロ草ちゃんを根ごと全部いただきましょう。
いじりがいがあって、ワクワクしてきた!
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