第154話 埋め尽くす厄災
ふと、目が覚める。
リビングに行くと、鳳蝶丸がフェリア通信を読んでいた。皆はお部屋かな?
何となく気になって寛ぎの間に行こうとすると、鳳蝶丸に抱き上げられた。
「気になるか?」
「うん」
鳳蝶丸抱っこで寛ぎの間に向かうと、転移の門戸の向こう、簡易テント内にミスティル達がいた。
「どちたの?」
「外に複数人の気配があります」
簡易テントに入り地図を見ると、白点が3人分ほど。
「人の子が3人倒れている。怪我をしているね」
「瀕死だけどまだ生きている」
ふあっ!
「しょと、出ゆ」
「わかった」
外に出ると男が3人が倒れていた。念の為鑑定すると、大怪我をしていて瀕死状態だった。
村人とも書かれてある。盗賊ではなくてちょっとホッとした。
即座に治癒して怪我を治す。
鑑定で確認すると貧血および空腹状態ではあるものの、瀕死からは抜け出せたみたいだった。
「テント、入れゆ」
転移の門戸を閉じ、簡易テント内に帆布シート、厚手のムートンラグを人数分敷く。そして皆にお願いして村人さん達を寝かせてもらった。
結界を広げてからキャンプセットを出し、焚き火やコンロを用意する。空腹だから何か食べ物を用意しよう。胃に優しいものがいいよね。
柔らかく煮た消化の良い野菜のスープと、食パンの白いところ、バナナでいいかな?
本当はお粥やおうどんがいいけれど、食べ慣れていない場合があるからね。
「わああ!」
「だすけて!」
「うおお!」
テントから叫び声が聞こえる。目が覚めた?
しばらくすると3人がテントから顔を出す。
「あ、あのう。助けてくだすって、ありがとうございます」
「目覚めたかい?」
「へい」
「ええ匂い……」
「お、おいっ」
1人が盛大にお腹を鳴らして真っ赤な顔をしていた。
食べ物の用意があるのでどうぞと言ったら、男性達は泣きながら夢中で食べだした。
も、もう少しゆっくり!
怪我が治ったばかりなんだから!
「ごんな美味いメシ、生まれて初めてだ」
「村のメシよりうんまい!」
「ここは天の国か?」
天国、違います。
落ち着いてから話を聞くとこうだった。
村と領との間でトラブルがあり更に非常事態が発生したため、領主様に直談判しようと5人で村を出た。
途中、滅多に現れないハルトベーアという魔獣に遭遇し、命からがら逃げているうちに他の2人とはぐれてしまった。
ハルトベーアは自分達を追ってきたが、急に立ち止まり動かなくなった。
その先にテントが見え、意識が遠のいたと言うことだった。
「そういや、怪我!怪我は!」
「どこも痛くない」
「治ってる……」
「お嬢の許可をもらい、ハイポーションを使った」
「え!」「え!」「え!」
本当は治癒だけれど、ハイポーションで通すんだね。
了解です!
「治療費はおいくらで?現状金がほぼありやせん。身を粉にして働いていて返すので時間をくだせえ」
「お助けいただいて面目ない。どうか、時間を……」
「姫は金をもらう気などないから安心しなよ」
「へ?」「へ?」「へ?」
男性達がキョトンとした。
「お嬢の意向で今回は支払わなくていいが、だからと言って今後もタカろうとしないように」
「へ、へい!」
「心優しい我が主に感謝してください」
「へい!ありがとうございます」
がばあ!とお辞儀をする男性達。
ただ私がお節介なだけだから気にしないで。
あと、お金を払って欲しい時はキッチリ言うのでよろしくね。
「………ん?主様?お嬢様?」
「お姫様!」
「申し訳ありやせん!」
ががばあ!
大地に突っ伏す3人。
私は慌てて鳳蝶丸に説明するようお願いした。
鳳蝶丸は自分達は旅の商人で、貴族でも王族でもない。姫は愛称だと説明する。
3人は半信半疑だったけれど、助けてもらったことは変わらないから、改めて感謝しますとお辞儀をしていた。
まだ暗い時間だしもうちょっと休もうと言ったけれど、他の2人が心配なので一旦村に戻りたいとのことだった。
「わかった。少し待ってくれ」
3人に背を向けミルニルに大きな魔石を割ってもらう。
そして小さくなった魔石に結界を付与して鳳蝶丸に渡した。
やり過ぎと思わなくもないけれど、この時点で3人共青点と言うことと、せっかく助けた命だから無事でいて欲しい。
別にそのまま魔石をあげても良いけれど、何でもかんでも無料って言うのはあまり良くないと思うので貸し出しと言うことにした。
「これは貸し出す。途中アンタ達の村に寄るから、その時返してくれ」
「これは?」
「結界だ。持って歩けば魔獣は入れない。守られる範囲は、そうだな。アンタ達からこの辺りまでだ」
結界の範囲は直径5mにした。これくらいあれば歩きやすいでしょう?
「何から何まで、ありやとうごぜえます」
「帰りにハルトベーアに遭遇したらどうしようと思っていました」
「何とお礼を言えば良いのか」
ハルトベーアに遭遇しても、慌てずバラけないようにと補足しておく。
3人はまた深く頭を下げて口々にお礼を言っていた。
「村はどの辺りだ」
「ここからあの山が見える方向に進めば行き着くと思います」
「だすけてもらっただけじゃ無ぐ、ごんな貴重なものまでありがとうごぜえやす」
「ありがたく、借ります」
そう言って3人は森の暗闇に消えて行った。
私達は翌朝テントを片付けてから出発して、言われた通り山方向に歩く。
地図を見れば何処に村があるかわかるので迷子にならないよ!
村に向かって歩く途中から、見た目がドクダミっぽい植物が足元に増え始めた。
葉はドクダミっぽいけれどところどころに生る実らしきものはザクロっぽい。
そして歩けば歩くほど増え続け、とうとう地面がその植物で埋め尽くされるようになった。
他の植物は萎びたり枯れたりしている。
木々の葉も心無しか元気がないようだった。
私達は
「厄介な植物が根付いてるね」
「こえ?」
「うん」
鑑定、
名称 トロトロ草
品質 高品質
説明 食用可
繁殖力が強く、一度根付くと広範囲に増え続け
他の植物の自生地に侵食し、やがて生態系を壊す
厄介な植物
種を包むジェル状の中果皮は熱、凍結に強く、
燃やしても内果皮まで熱が伝わらない
また、根を全て取り除かない限りそこから芽が出始める
乾燥した場所や砂地では育たない
凄い生命力!
どんどん増えて周りの植物の自生地を奪ってしまうんだね。
ミントとか竹林とかを思い出す。見た目はドクダミの葉っぱに似ているけれどね。
村に近づくにつれトロトロ草がモッサモサになる。
木々は生えているけれど立ち枯れているものもあり、この辺りの草本植物や低木は既に皆無であった。
「あそこが村のようですよ」
ミスティルが示す方向に、簡単な柵で囲われた村の入口が見えた。
その周りに何故か背の高い丸太の柵らしき物がまばらに立ててある。
村の奥の方で何やら喧騒が聞こえたので地図を見てみると、白点が赤点と入り乱れていた。
「たしゅてて、ほちい」
「助けるんだな?」
「了解」
鳳蝶丸とレーヴァが村内に駆けて行くと、直ぐに静寂が訪れる。
すんごい早いけれど、討伐したのかな?
「不用心だね」
「柵も簡素ですし、門番もいません」
「こえ、ふちゅう?」
「いいえ。村と言えども森の奥です。普通は背の高い頑丈な柵を立てて守りを固めている筈です」
ミルニルとミスティルが地に降りて歩き出す。
魔獣のいる森なのに柵が簡素すぎるし、村の奥で何かが起きたとしても入口に誰もいないって確かに不用心だと思う。この村はどうなっているの?
トロトロ草は村の土地にも絨毯のように広がり、2人共とても歩きにくそうだった。
どんどん進むととても広い場所に行き当たり、そこに人が集まっているのが見える。鳳蝶丸達もいて、村人達が2人に頭を下げているところだった。
あ、昨日助けた3人もいる!
「昨日だけでなぐ、今日もおだすけいただき、ありがてぇことです」
私達が合流すると、昨日の男性が再び頭を下げる。
「アサルトグレーウルフだったよ」
「戦う前に逃げたけどな」
私達が近付いたからだと思いますと、ミスティルが耳元で教えてくれた。
怪我人は出たみたいだけれど死者は出なかったらしい。
女性達が治療にあたっている。
私達は村長の家にお邪魔して、白湯をいただいていた。
「まずは、我が村の3人をお助けいただきありがとうございました。そしてアサルトグレーウルフを退けてくださって本当にありがとうございます。お助けくださった皆様に湯しか出せず申し訳…………本当に申し訳ありません」
村長さんの声が震えていた。
よくよく見ると痩せ細っていて今にも倒れそう。
他の皆さんもやはり痩せ細っていてフラフラしていた。
「どちたの、ちいて?」
小さい声でミスティルにお願いすると、小さくコクリと頷く。
「具合が悪そうですが大丈夫ですか?食事は出来ていますか?」
「いえ。お恥ずかしながら、このところ水しか口にしておりませぬ」
「トロトロ草が原因か」
「はい。その通りでございます」
村長さんの話を聞くとこうだった。
ある日、森でトロトロ草が大量発生していることに気がついた。
1、2株ならば何とか対処もできた。
でも発見された時はすでに大量発生していたためどうにもならず、村に入らないよう慌てて対策を講じたがそれも間に合わず、あっという間に土の部分全てを埋め尽くされてしまった。
村民総出で収穫した作物は助かったが、発育前、発育中の野菜は全滅してしまった。
土の栄養を全て吸収され、おそらく畑としてもう使用できないだろう。
土地が埋め尽くされる前、役人に現状を伝えるため村を出た何名かは帰ってこず、週に1回来るはずの商隊や冒険者、魔術師様も先々週から来なくなった。
最近は周辺に凶暴な魔獣が出没するようになったため、村を出た者達は犠牲になったのかもしれない。
現に今回5人が町に向かい、1名が犠牲となった。
備蓄していた食料も尽きかけ、今は子供にだけでもと少しずつ分けている状態とのことだった。
村が全滅しそう。何とかしなくちゃ。
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