第152話 袋じゃないマジックバッグだよ

 はああぁ………終わった!

 地鎮祭もどきになっちゃったけれど無事終わりました。

 でも、ウル様やフロルフローレ様、ウィステイリア様、他沢山の神々に楽しんでいただけて良かった。


 これで、ちょっとばかり日常に戻れるかな?




 次はどこ行こうかなぁ。

 アスケビィに行って気まぐれ突っ張り棒にするか、サバンタリアかロストロニアンに行くか。

 シュレおじいちゃんのいる公国にも行っ……あ!そういえば、この間の争いってどうなったんだろう?シュレおじいちゃんはもしかしたら今、公国にはいないかも?


 皆にシュレおじいちゃんに会いたいと伝える。


「じゃあ、王都に行く?」


 ミルニルが提案してくれた。


「今回の戦で王都にいると思いますよ」

「うん」

「色々と混乱しているかもしれないけどね」

「行ってみるか?」

「うん、王都、行ちたい」


 行先はひとまず王都に決定!

 早速気配完全遮断、飛行ひぎょうで移動するよ。



 数日かかる道程でも、空を飛ぶと数時間で到着です。

 大きな王都は白っぽい城壁で囲まれた城郭都市だった。そして、小高い山の上には、更に城壁に囲まれた白く美しいお城が建っている。


 あの有名なドイツのお城みたい。

 そういえば若い頃に行ったな…あ、日本にいた時の若い頃。

 外観は白くて美しいお城、城内は豪華な壁画や装飾品で、そのギャップに驚いたよ。何となくシンプルな美しさを想像していたからビックリしたんだ。

 ホールの柱にしがみついていたクマさんの彫刻がすっごく可愛かったような記憶があるんだけれど、あれは違うお城だったかな?懐かしいなぁ。



「お嬢?」


 上空からお城を眺めながら、ドイツに行った時のことをあれやこれやと思い出し、ちょっとだけぼんやりしちゃった。

 鳳蝶丸に心配され、何でもないと笑って誤魔化す。


「あえ、いっぱい」

「ああ。騎士や私兵がウロウロしているな」


 城下街や貴族街を見下ろすと、兵士らしき者達が右往左往している。


「後片付けが大変だね」

「まあ、天罰くらった組は動けないだろうからな」

「牢屋が毛だらけになりそうですね?」

「毛だらけ見たくない」


 ミルニルが顔を顰めた。

 うっかり想像して私も顰めちゃった。



 地図を出してシュレおじいちゃんのいる場所を探索すると、キラキラ青点がお城付近で輝いている。

 やっぱり王都に来ていたんだね?無駄足にならなくて良かった。


 早速お城まで行くと、シュレおじいちゃん達が丁度建物から出てきたところだった。


「あ!シュエ、おじーたん」

「1人ではありませんね。声をかけます?」

「うん」

「わかった。姫、小さな紙とペンはあるかい?」

「うん」


 小さなメモ帳とボールペンをレーヴァに差し出す。


「このメモに、ほんの少しだけ魔力を込めて欲しい」


 魔力?シュレおじいちゃんが触れたらほんのちょっと治癒、とかで良いかな。

 これでどう?


 レーヴァはそのメモを笑顔で受け取り、サラサラと何か書いて鳳蝶丸に渡した。


「了解。皆はあの場所で待っていてくれ」


 鳳蝶丸がメモを読み、お城の一角にあるバルコニーを指す。

 あそこに行っていればいいの?

 私達は気配完全遮断のままバルコニーに降り立ち、ミスティル抱っこで外の様子を見せてもらうことにした。



 鳳蝶丸がシュレおじいちゃんの真上に逆さまで近付いて、手に持ったメモをヒラリと落とす。


 途端に護衛達が剣をかまえ、おじいちゃん達を取り囲んで守備体制に入る。

 そして落ちたメモを剣で突こうとした。


 あ、シュレおじいちゃんが慌てて手で制している。


「あの紙に姫の魔力を付与したから気付いたかもね」

「しょっかぁ。シュエおじーたん、しゅどいねぇ」


 紙を拾って内容を読み、バッ!っと勢いよくこちらを見るシュレおじいちゃん。なので、私だけ気配完全遮断を解いて手を振った。


 手を振り返しつつ、慌てて城内に戻るおじいちゃん達。

 護衛達は更に慌てて護衛対象者を追っていた。




御使いみつかい様!」


 おじいちゃん達が雪崩込むようにバルコニーへやって来る。

 ハアハアと肩で息をしているのでちょっと心配。


「シュエおじーたん、だいじょぶ?」

「だ、大丈夫です」


 では改めまして、シュエおじーたぁん!と走り寄ると、ゆきちゃぁん!と抱きとめてくれた。

 はたから見ると、完全におじいちゃんと孫である。


「この間は素晴らしい天の配剤をありがとう存じます。お陰様で国民は健やかなる生活が戻りつつあります」

「よたったね」



 言えない。

 地鎮祭開催のために介入したなんて、言えないよ。うふっ。



「念のためだけど、勘違いはしないでね」

「で、伝説の武器の皆様っ!」


 気配完全遮断を解除して話に加わった4人に驚く皆さん。


「あれは神々が必然と判断し下された天罰。人の子のためでは無い」

「結果的に貴方達の力となりましたが、常時上手くいくとは限りません」

「期待しないで」

「もちろん、心得ております。周囲には、神々に何かお考えがあるのだろうと話してございます」


 シュレおじいちゃんは、神による天の配剤の意味をちゃんとわかってくれているのね。

 ありがたいことです。



 そして、今この国の状況を確認すると、現国王だった王族とその一派は、現在捕らえられていると教えてもらった。


 神の使いが善い行いをせよとおっしゃったので処刑はせず、王族として、または貴族としての身分を剥奪、財産の全没収とした。


 悪事の中心人物となった者達は身分剥奪後、奴隷として売られる予定みたい。

 悪事を働いていた一族の中で天罰が下されなかった者達は身分剥奪のため平民となるが、ある程度の財産を受け取ることが出来るという。


 悪いことをした人達は反省して再起出来るといいけれど…。そうじゃない人の方が多そうだからな。まあ、あとは自分次第ということで。




 そして、王国のこと。

 今回、天罰を受けた者達が多数いるし、一族の戸籍整理、財産整理等全て終わらせるには数年かかる。

 でもその間国王不在にしてはおけず先に即位の礼を、その後に各貴族が役割を担うための就任式を行うとのこと。


 予定通り、フェリローラル公国の大公がラ・フェリローラル王国の国王に即位し、フェリローラル公国は王国の一部となる。

 公国であった土地は、信頼の置ける侯爵が引き継ぎ侯爵領となるんだって。



 聞けば聞くほど大変だなあって思ったけれど、シュレおじいちゃん達や皆さんが晴れやかな笑顔を浮かべている。


「たみだみ、守ゆ、土地。たいしぇちゅ、ちてね」

「お嬢は神々が守るこの地を大切にして欲しいそうだ」

「はい。神々が見守ってくださるこの地を力強くお守りいたします。そして苦境に立たされている民に、1人でも多く救いの手を差し延べたいと思っております」

「うん」

「神々と御使いみつかい様には深く感謝申し上げます」


 一同が片膝をつき深く頭を垂れる。

 そして顔を上げた表情は嬉しげに、目には涙を浮かべていた。


「土地だみ、しゃま、フヨ………」


 シュッとラインが開き『私のことはフロルと伝えてください』と文字が浮かぶ。

 神様ラインにフロルちゃんラインが加わっていた。



「しょうじょう神、ウユトヤウシュ、しゃま。土地だみ、フヨユしゃま、てんばちゅ、ちた。たんしゃ、ちて、くだしゃい」

「今回、創造神ウルトラウス様と、この地をお守りくださっている神フロル様がお力添えをくださいました。感謝するように」

「我がウルトラウス教会は主神としてウルトラウス神をお祀りしておりますが、フロル神にも感謝の気持ちを日々お伝えしましょう」


 うむうむ、良きかな。

 私はその答えに満足して頷いた。


「先程申し上げた通り大公閣下の即位式を執り行います。もし、御使いみつかい様のご都合がよろしければご出席いただけませんか?」


 おお、即位式!

 日本のテレビで海外ニュースの映像を見たことあるよ。

 荘厳かつ華やかな即位式、この目でも見てみたいな。


 すると、フロルフローレ様からラインが届く。



『お願いがあります』

『即位式は気配完全遮断で』

『参加してほしいのです』


『承知しました』


『ありがとう』



 皆にフロル様ラインを見てもらって通訳をお願いする。


 まずは、即位式に出席する形は取れないこと。

 シュレおじいちゃんは少し残念そうな表情を浮かべたけれど、私に無理強いはしなかった。


「出席はしないが見守っているそうだ」

「………ありがとう存じます。承知いたしました」


 今度は嬉しそうに頷いた。


「即位式はいつだい?」

「まだ決まっておりません」

「じゃあ、こえ、渡しゅ」

「こ、これは?何と美しい」


 実はウル様と相談して、【虹の翼】のお姉さんに渡した共有つきポーチのような、連絡手段が取れるものをシュレおじいちゃんに用意しようということになっていたのだ。

 そして、事前に作ってあった者をシュレおじいちゃんに渡す。



 それはステンレス製の丸いロケットペンダントで、真ん中に大きな木、それを囲う様に縁取りに草花が彫られているもの。

 なんとなくだけれど、世界樹と平和のイメージで作ってみたよ。


 ペンダントはロケット部分の蓋をカチッと開けると絵や小さな魔石などが入れられるようになっていて、3回叩くと大きな木箱2つ分くらいのマジックバッグになる優れもの。

 使い方等々は鳳蝶丸が教え、シュレおじいちゃんともう1人のおじいちゃんが登録した。


「これは姫の持ち物だけど、君に貸し出すって」

「こ、このような素晴らしいものを私共にお貸しくださるのですか?」

「ああ。好きなように使ってくれてかまわん。だが1枠は必ず開けておくように」

「おてまみ」

「1枠はお嬢と旦那の連絡用に使う」


 な、なんと!御使いみつかい様と手紙で繋がることができるのですか!とおじいちゃん達が大興奮している。

 そんな皆さんに対し、細やかなやり取りをするわけではなく、返事も必ずするわけではないと鳳蝶丸が注意を施す。

 シュレおじいちゃんは姿勢を正し、もちろん火急の連絡以外はいたしません、と返答した。


「即位式の日程が決まったら紙に書いて1枠に入れてくれ」

「御心のままに」



 では、そろそろ移動しよう。

 レーヴァ抱っこでおじいちゃん達に手を振る。


「じゃあ」

「またいらしてください」


 あっ、そうだ!あの話…、は今忙しそうだから次回かな?


「シュエ、おじーたん。じぇんぶ、終わゆ、おはなち、ちたい」

「全部終わって落ち着いたら、一度時間を作って欲しいって。姫からお願いがあるそうだよ」

「はい!もちろん、いつでも時間を空けますゆえ」

「即位式が終わったあと、また連絡するよ」

「はい、お待ちしております」

「じゃあ、俺達はこれで」

「はい。ゆきちゃん、バイバイ」

「おじーたん、ばいば〜い」


 即気配完全遮断にすると私達が見えなくなったのか、おじいちゃん達がキョロキョロしている。

 その中でシュレおじいちゃんだけが首にかけたロケットペンダントを両手で大事そうに握り、泣いている様子だった。



 せっかく誘ってもらったのに、即位式に出席出来なくてごめんね。

 でも見学には来るから!楽しみ♪

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