第148話 厳かなる、エイ、エイ、エイッ

 祭壇に野菜やお米を並べていたら、フロルフローレ様が飾られているお供物を覗いてきた。


「それは?」

「フロルフローレ神にお渡しする供物だそうです」


 私の代わりにミスティルが説明をしてくれる。


「え?でも、そのままでは食べられませんよ?」

「あえ?」

御神子みかんこちゃん。お供物はとってもとっても嬉しいですが、このままでは食べられません」

「わ、わたい、まちた」


 お約束のように地鎮祭からかけ離れていく。

 わかりましたと言うしか無いけれど。


 慌ててお供物を他の物に替えようとしていると、ウル様が空を仰いだ。


御神子みかんこや。そろそろ皆がやってくるぞ」

「あいっ」


 ピカピカと光りながら次々と神々がご降臨される。お付きの眷属神も入れると膨大な数だった。


 ウル様がこりゃ予想外じゃ、と言いながら、塀の中の空間をグンッと広げてくれる。

 何とか入りそうかな?



 それぞれの眷属神が椅子の数を言いに来るので、どんどん出す。座る順番は色々とあるらしいので、それはお任せるね。


 椅子の配布は仲間達に任せるとして、私はお供えものの変更をする。


 用意したものを使って………。

 鯛飯とおでんとお芋の煮っころがしと野菜の漬物で良いかな?果物はそのままにするよ。眷属神の皆様に皮を剥いてもらってね?




 いやあ、凄い。凄すぎる!

 向こう側が霞んで見えないほど沢山の神様がご降臨されているよ!


 最初は挨拶をしていたけれどキリがないと言うことで、ウル様が後にしておくれ、と指示を出してくれた。



 さて。そろそろ揃ったらしいので始めましょう。


 フロルフローレ様に祭壇近くの椅子に座ってもらい、私は朝礼台を出してレーヴァに立たせてもらった。

 まずは数多の神々にご挨拶です。


「フェニア、たみだみ、皆しゃま、はじめまちて、ゆちでしゅ」


 フェリアのおわす神々の皆様。初めまして、ゆきです。

 通じるのか心配だったけれど、皆さん私の言葉を文字表示にして理解してくださっているんだって。



「こえたや、よちなに、どうじょ、よよちく、おねだい、ちまちゅ」


 今後とも良しなに、どうぞよろしくお願いいたします。



 神々はただ静かにわたしの言葉を聞き鎮座されている。


 すると、真ん中一番前に座っていたウル様がスッと立ち上がり、後ろに体を向けた。数多の神々は椅子から一度立って、ウル様に向かい跪く。


「皆、良く聞け。我が神子・・・・は半神なれど我が認めた者。そして唯一神の眷属であり、遠き異世界の神々からお譲りいただいた魂」


 ウル様がゆるりと辺りを見回す。

 私から顔は見えないけれど、ピリッと空気が張り詰めたのがわかった。


我が神子・・・・に無理難題を申さぬようにの」


 皆が一斉に深々と頭を垂れた。



 ウル様は釘を差してくれたの?

 私は半神だから、神々からの要求を突っぱねられないもんね。



「さて、御神子みかんこよ」

「あい」

「我らはそなたを歓迎する。楽しく世界を巡ると良い」

「あにあと、じょんじ、ましゅ。毎日、たのちい、しゅどちて、ウユトヤウシュ、オユトト、ヌシュ、ジニヤシュ、しゃま、皆しゃま、あにあと、ちましゅ」


 ありがとう存じます。毎日楽しく過ごす私を見守っていただき、ウルトラウスオルコトヌスジリアス神ならび神々の皆様に深く感謝申し上げます。

 お礼を言って、私も頭を下げた。


「うむうむ、良きかな。さて、挨拶はこれくらいにして地鎮祭とやらを頼んだぞ」

「あいっ!」



 朝礼台を仕舞って、フロルフローレ様に祭壇向こうに立ってもらう。


「フヨユ、フヨーエしゃま。ここ、お家、建てゆ。どうじょ、よよちくおねだいちまちゅ」

「はい、こちらこそ。貴女を歓迎いたします」


 フロルフローレ様。ここに家を建築しますので、どうぞよろしくお願いいたしますと挨拶をする。

 そして、祭壇に恭しくおでんをお供えした。もちろん、鯛飯、芋の煮物、お漬物も添えるよ。


「おくもちゅ、でしゅ。おーしゃめ、くだしゃい」


 お供物です。お納めください。


 すると多くの神々が何故かどよめいた。


「とても美味しそうなお供物ですね。良い香りです」

「おいちいよ」

「そうでしょうとも。後で眷属達といただきますね」

「あいっ」


 フロルフローレ様は即座におでん、鯛飯他を仕舞う。


「あっちゅい。ちをちゅてて、くだしゃい」


 熱いから気を付けてください。


「お気遣いありがとう。大丈夫ですよ」


 神様だから熱いのでも大丈夫だよね?

 私が笑うとフロルフローレ様も優しく微笑む。


「素敵なお家を建ててくださいね」

「あいっ」


 そして私とフロルフローレ様はガッチリと握手をした。




「次に地鎮の儀をいたします」


 レーヴァの声に神々がキョトンとする。


「家を建てるため草を刈り、土を起こし、土を均すという儀式です」


 ミルニルが盛ってくれた土には一掴みの葦を立ててある。

 レーヴァが木製の釜を持ち、その草をエイ、エイ、エイと言いながら刈る真似をした。



 確かエイッて掛け声は、栄えるの栄って意味だったような気がする。



 次に鳳蝶丸が木製の鍬でエイ、エイ、エイと言いながら軽く耕す。


 次に私が鎮物を置く。

 鎮物は桜吹雪のロゴを入れたミニチュアの盾にしたよ。


 次に、ミスティルとミルニルがエイ、エイ、エイと木製の鋤で鎮物を軽く埋める。


 そして、皆で神々に頭を下げお礼を言った。

 間違っているところが多々あると思うけれど、テレビとかで見た感じになったと思う。



「その、エイエイってやってみたいです」

「んう?」


 フロルフローレ様が突然の参加宣言。


わたくし御神子みかんこの家が栄えますように、という気持ちを込めたいのです」

「あにあと、ごじゃい、ましゅ」


 そして、フロルフローレ様も鋤で鎮物を埋めてくださった。

 エイ、エイ、エイと言うたび土地に降り注がれる神気。本当に思いを込めて、エイ、エイ、エイって。更に追加でエイ、エイ、エイって。


 ノリノリでエイ、エイ、エイって!



 チョ、チョ、チョ、チョトマテ、クダサーーーイ!

 その辺りで止めていただかないと、この場所が神力溢れる聖地になっちゃいマーーース!

 いや、すでに遅いデーーース!



 シュレおじいちゃんにお話して、教会関係者が押し寄せて来ないようにしなければ………。




 一段落した頃、光り輝きながらまた1人の神様がご降臨された。下位と思われる神々がサッと跪き頭を垂れる。


「おお、来たか」

「あちらは任せて参りました」

「うむうむ、ご苦労。御神子みかんこや」

「あい」

「紹介しよう。我が腹心じゃ」

「ありがたきお言葉痛み入ります」


 そして私の前に膝をつき、何故か瞳をウルウルさせる。


「ああ………」

「初め、まちて。ゆちでしゅ。よよちく、おねだい、ちまちゅ」

「はいっ!わたくしはウルトラウスオルコトヌスジリアス神の眷属神、ウィステイリアと申します。よろしくお願いしますねっ」


 そして私の手を握り、ニヤ……じゃなくて、ニコニコしていた。



 ウィステイリア神は女神様だった。

 ただ、フェリアなのに何故か地球っぽい服装でビックリ!

 黒いタイトスカートのビジネススーツ、黒いハイヒール。そして細めの銀縁メガネをかけていた。

 キリッとしたお顔の超美人で、濃い紺色の髪をおだんご髪にひっつめ、デキる女神様!って感じ。


「さて。御神子みかんこさんはこのまま待っていてくださいね?」

「あいっ」


 ウィステイリア様が眼鏡をクイッとして立ち上がる。


たすくものや。そおらぬか」


 大声を張り上げているわけでもなく拡声器を使っているわけでもないのに、ウィステイリア様の声は端々まで届くような響きがあった。


 彼女の声に応え、沢山の神様がこちらにやって来る。



御神子みかんこや。これに食べ物や飲み物、テーブルや敷物を入れ複写しておくれ」


 その間、ウル様から麻袋のマジックバッグを受け取った。


「ウユしゃま。たみしゃま、フワモモ、バッチュ。渡しゅ?」


 神様なのでホッキョクギツネかアルパカバッグを渡した方が良いのでは?と聞いたら、ウル様から「あの者たちは下位の神なので上位神と同じものを渡してはいけないよ」と言われた。



 神々の世界も貴族社会も上下関係が厳しいね?



 ウル様の指示通り、麻袋に諸々を入れ複写したものをウィステイリア様に渡す。

 ウィステイリア様はニッコリと微笑んで麻袋をどこかに収納し、再びキビキビと周りに指示を出していた。


「たこいい」


 いや、格好いいって言いたかった!


 ウィステイリア様は上位神として独立、且つウル様の眷属神として秘書のような役割をしながらバリバリ働くフェリア版キャリアの最前線を行く女神様。

 だから下位の神々が頭を下げたんだね?



 私がウィステイリア様を見ていると、ウル様から再び声がかかる。


「色々言ってすまんが、次はムウ神に食べ物を渡して欲しいのう。その後は桃花咲待姫命のところじゃな」

「あい。わたいまちた」



 ウル様の言う通りの順で共有に入れた後、ムウ様と桃様に、一式入れましたのでどうぞお召しあがりくださいと神様ラインで連絡を入れる。



 ムウ様からは特別返事がなかったけれど、桃様からは直ぐに返信が届いた。


『日本の神々と見ておるぞ』

『地鎮祭を行ってくれて感謝じゃ』

『食事もこれから皆で楽しむの』


『日本の神様には目新しく無いかと存じますが』

『色々な種類をご用意いたしましたので』

『どうぞご堪能ください』


『うむ。ありがたくいただこう』


 桃様と日本におわす神々にも食事を楽しんでいただけますように。

 声に出さず、そう願う私だった。

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