第146話 花とカニさん

 レーヴァとミルニルにお願いしたのは、ビョークギルマスに軍勢が迫って来ているお知らせと、気配完全遮断をしつつ騎士、兵士達の動きを私に中継すること。


 まず、スマホのハンズフリー通信をイメージして魔法創造。



 【ワイヤレス通信】

 マイク付き、ノイズキャンセリング付きの通信機能

 魔石と魔石で繋がった完全ワイヤレスイヤホン

 持つ者同士で会話することができる



 そして【ワイヤレス通信】を付与した2つの魔石を片耳用イヤホン型に再構成。イヤーピースはシリコン製にして全員分を複写した。


「こえ、ちて?」


 各サイズに合わせながら装着してもらい、私は寛ぎの間、皆は離れた部屋に移動してもらう。


「てしゅ、てしゅ、ちこえ、ましゅか?」

「ああ、お嬢の声がしっかり聴こえるぜ」

「姫は声だけでも可愛いね?」

「また言ってる……。俺も聴こえるよ」

「わたしも聴こえます」


 良しっ!

 お互いに直接話しが出来るようになったね!


 そしたらレーヴァから個別でも話せるようにしてもらいたいとリクエストがあり、皆も賛同したので改良することに。



 【ワイヤレス通信】

 マイク付き、ノイズキャンセリング付きの通信機能

 魔石と魔石で繋がった完全ワイヤレスイヤホン

 持つ者同士で会話することができる

 発動は魔力をイヤホンに流し、相手の名前を呼ぶこと

 受け取り側には呼び出し音、または振動で通知される

 通知があったらイヤホンを装着し、魔力を流せば受信できる

 全員と通信したい時は魔力をイヤホンに流し、[全員]と言う

 キャンセルと言えば通信終了



 に、改良。

 皆に戻って来てもらって、一人ひとりイヤホンに魔力を流して持ち主を登録。

 ついでにそれぞれのマークを入れた。鳳蝶丸には蝶、ミスティルには薔薇、レーヴァにハイビスカス、ミルニルにラウンドブリリアントカットのダイヤモンド、私はリボン。

 これで誰のかわかりやすくなったね!



 試しにレーヴァとミルニルなど、色々なパターンで話してみる。


「問題無く話せるね」

「ありがとな、お嬢」

「個別に話しが出来るようになりました」

「便利だね。ありがと、主さん」


 どういたしまして。私も便利になりました。



 次は、手ブレ防止付きの小型ビデオカメラと魔法創造の【プロジェクター】を同期して、指定した平面の結界4に映し出されるようにする。

 そしてそれをレーヴァに渡した。


「へえ。これで録画するとここに映し出されるんだ。面白いね」


 レーヴァが私の顔を録画しながら、寛ぎの間に張った結界を眺めていた。

 大画面の私。恥ずかしいから止めてー!



「しょえたや、わたち、あいじゅ、あちとめ、ちたい」

「姫の合図で現国王軍の足止めがしたい、と言うことだね?」

「うん」

「なら、俺が止める」

「どうしゅゆ?」

「軍隊の真ん前に雷を落とす」

「おお!」


 ミルニルが足止めしてくれることになったけれど、土属性なのに雷?と思ったら、ミルニルは武器としての特性に〈雷を撃つ〉と言うのもあるんだって。

 戦鎚を一振りすれば、思った場所に自在に雷が落とせるらしい。



 カッコいい!



「しゅどい」

「ありがとう」


 エヘヘと笑うミルニル、可愛いね。



 2人が出かけたあと、中継画面から離れた前面に、違う平面の結界4を大きく張る。そこにはプロジェクターで[南の島の空だけ]画像を流して確認し、一旦映像を切った。背景はこれに決定!



 すると、ラインがシュッと開いた。

 ウル様かと思い確認したけれど、カテゴリーの名前が違う。


 あれ?



『初めまして』

『ウルトラウスオルコトヌスジリアス神に連絡手段を教えてもらいました』

わたくしはフロルフローレ。この地を管理する神です』



 おお!

 ウル様ではなく、土地神様?!



『初めまして。ゆきと申します』

『今後とも、どうぞよろしくお願いいたします』


『こちらこそ、よろしくお願いいたしますね』

『このままゆっくりとお話しをしたいのですが、今は時間がないため、必要事項のみで失礼します』


 フロルフローレ様によると、この国の現国王とその一派は人の子の心に暗い影を落とし、穢れを広げるばかり。

 この地を管理する神として彼・彼女らを大変迷惑だと感じていた。

 人の営みに手を出さぬようにはしているけれどどうにも目に余るため、そろそろ手を下そうと思っていた。

 そこへ、ウルトラウスオルコトヌスジリアス神から御神子みかんこの話を聞き、良い機会なので便乗させてもらいたいとお願いした、とのことだった。


 そして自分の力を使用するので、私のすることの一部に加わっても良いかと聞かれる。

 どこまで力になれるかわからないけれど、もちろん了承したよ。



『これから何をするつもりでしたか?』


『天罰を下すつもりでした』


『内容を教えていただいても?』


『まだ、考え中ですが………』



 騎士または兵士の仕事として、また従わざるを得ない事情で参加している皆さんは、天罰を軽くします。

 ええと、どうしよう?


 ミールナイトを制圧しようとしている者、または善良な人々(全ての種族を含む)に暴力を振るい、殺傷をしたり、捕虜として捕えようとした場合は、うーん、うーんと。



 ……………あっ!



 30分間[カニさん歩き]にしよう!


 がに股で腰を落として、両手の指をピース、チョキチョキってしながら横歩き!

 歩く時は頭を左右に振って、チョッキチョキ♪と言ってしまうなんてどう?


 効果は1ヶ月にしておくよ。



 その名も【天罰!カニさんチョッキチョキ】!



 次は自分の意志で現国王派に加担している人かな?

 何派だろうがそれは個人の自由だけれど、今この町を攻撃されては困るんだもん。


 天罰対象者は[カニさんチョッキチョキ]と同じ内容で、現国王派から甘汁のお零れに預かったことが少しでもある人。

 えっと、次は……。



 30分間[音が聞こえるたびにフラワーロック!]にしよう。



 チューリップのイメージで両手を上げて手の平を広げ、腰をグリングリン回し、頭も陽気に振りながら、「ヘェーイッ!おいらの名前は[本名]でぇぃーす!ただいま天罰を受けておりむぁーす!イエ〜イ!ロケンロール!フーーーッ!」と言ってしまう。


 自ら(?)本名漏洩なんてどう?あ、地球では個人情報漏洩ダメ、絶対!

 効果は同じく1ヶ月だよ。



 その名も【天罰!フラワーロックでロケンロール!】



 良し、こんなもんかな?

 早速フロルフローレ様にお伝えしよう。


 内容をお伝えるすると、何故か少しの間返答が無く困惑。



『フラワーロックはわかりませんが、笑い転げてしまいました』

『眷属達に心配されました』


『も、申し訳ございません』


『いえいえ。こんなに楽しいのは久しぶりです』

『それで、お願いがあるのですが』


『はい』


『天罰を加えてほしいのです』



 加えたい天罰とは【天罰!ムダ毛伸び伸び】のことだった。

 対象者は、現国王と加担している親族および、現国王を操り己の私腹を肥やしている者達。



 それはかまわないけれど、王都に行ったことがないので場所がわからず平面の結界4を張れないと返答したら、その部分をフロルフローレ様が補ってくれるとのこと。


 それならと言うことで、各空に巨大な透明の平面結界4を浮かべる作業に移る。



 まずはミールナイトに6箇所。各部隊を挟むように。

 フロルフローレ様は私のやり方を参考に自身の神力を使ってあちこちに張っているみたいだった。


 その間、再構築・再構成を使って白髪のウィッグや眉毛、髭、白いローブ、白い杖などを作り、ミスティルに着せてもらう。

 鳳蝶丸もミスティルも可愛い可愛いと褒めてくれた。


「主はどんな格好をしても可愛いです」

「お嬢、ポーズとってくれ」


 鳳蝶丸はカメラ、ミスティルは小型ビデオカメラで私を撮りまくっている。

 何だかコスプレイヤーになった気分!


「レーヴァとミルニルにも見せてやらんとな」


 2人が激写しているうちに、フロルフローレ神から結界を張り終わったと連絡が来た。



『では、始めます』

『プロジェクターの映像を結界に送るので、フロルフローレ様が張った結界にも送ってもらえますか?』


『もちろんです』


『各々の天罰もお願いします』


『わかりました』



 まず、南の島の映像を再び結界に映す。



 ゴロゴロ……。

 ドドーーーン!

 ビュウウウゥゥゥゥ!



 良いタイミングで大嵐中でした!

 神様が怒っている感じが出ていて演出効果抜群じゃない?



『なかなか良い天候じゃろ?』

『ウィンク(スタンプ)』


 名演出家はウル様でした!




 私は大嵐の大画面を背に立って、左手に杖をつき仁王立ちする。

 ミスティルは何故か妖艶に寝っ転がって小型ビデオカメラをかまえた。


 煽りで撮影するんですね?わかります。


 鳳蝶丸は原稿を手に、ミスティルの隣に胡座をかいている。




 さあ、始めますか!



『フロルフローレ様、よろしくお願いします』


『こちらこそ。準備はできておりますよ』



 鳳蝶丸は私と目を合わせたあと、ワイヤレス通信でレーヴァとミルニルに合図を送る。



 ピシャッ!

 ドーーーン!!!



 途端に、目の前の結界モニターにド派手な落雷が!

 ビックリしてビクッ!ってなっちゃった!



「進軍を止めよ」



 あっ、始まった!

 威厳、そう、威厳あるような立ち姿しなきゃ!



「人の子よ。我は神々の使いである。神々は汝らの行動をご覧になり、とても嘆いておられる」



 喋ってる風にポーズとったほうが良い?



「汝らの攻撃に再び穢れ、魔獣溢れが起こるやもしれぬ。魔獣が溢れし時、神が守りしこの地を再び危険に晒そうとは何事だ!」



 腕を組むとかどう?

 わぁっ杖落とした!

 も、もういいや。



「この痴れ者めが!」



 ぴゃっ!

 鳳蝶丸の大きな声にビックリしちゃった!



「此度の行いに、神は大層お怒りである。よって、進軍を画策した者達と関係者に天罰が下される」



 気を取り直して、喋ってる風に戻らなきゃ。



「特に現国王とその関係者よ。今後善行を行わぬ限り、汝らの未来は無い。覚悟せよ」



 はいっ

 それぞれ設定の相手に天罰だよ!フロルフローレ様、準備は良いですか?

 行きますよ!



【天罰!ムダ毛伸び伸び】

【天罰!カニさんチョッキチョキ】

【天罰!フラワーロックでロケンロール!】



 ピシャッ!

 ドドーーーン!

 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドンッ!!!



 対象者が集結しているから、すんごい派手な音になったよ!

 どんだけいるの?天罰対象者。王都でも派手に落ちているんだろうな。




「はい、終了です」

「おう、お疲れ」


 撮影が終わったらしい。

 じゃあ、撤収!


『フロルフローレ様』

『結界を消去します』


『わかりました』

『いつでもどうぞ』


 そしてフロルフローレ神と一緒に、スクリーン代わりに設置した結界4を全て解除した。

 背後の南の島用結界4も解除したよ。



 ふう、これで大丈夫かな?

 目の前のスクリーンには天罰を受けた人々が右往左往する姿が映し出されている。レーヴァが気配遮断のまま下に降りて、現王国軍の混乱する様を撮影しているらしい。


 カニさんとフラワーロックともみあげ伸び伸びが入り乱れて大騒ぎだった。


「イェーバ、たえって、ちて」

「レーヴァ。帰って来てほしいって」


 鳳蝶丸が通信してくれた。

 映像がプツンと切れたので、私は最後の結界を解除した。



『ああ、スッキリしました』

『これで穢れが溜まることも減るでしょう』


『フロルフローレ様、お疲れさまでした』


御神子みかんこちゃんこそ、お疲れさまでした』

『明日会えることを楽しみにしております』


『こちらこそ、明日はよろしくお願いします』


『では』


『ありがとうございました』




『ウル様もお疲れさまでした』


『うむうむ(スタンプ)』

『お疲れ~(スタンプ)』

『明日楽しみにしているぞ』

『またの』



 はあ……。

 何とか終わった!成功ってことでいいのかな?




 レーヴァとミルニルが帰って来て、食事をしながら私のウル様コス鑑賞会が始まった。

 2人もやっぱり可愛い、可愛いと褒めてくれる。


「小さな手がピョコピョコしているの可愛い」

「ローブが長すぎて身動きが取れなくなっている姿も可愛いよ」

「俺が着たら可愛げなくて笑っちまうだろうな」


 笑いながら鳳蝶丸が手をひらひらさせる。


「うん。主さんじゃなきゃ可愛くない」

「そうですね。可愛いは正義です」


 皆でウンウンと頷いているけれど。




 ………ちょっと待って?

 ウル様役、私じゃなくても良かったんじゃ?

 背の高いミスティルかレーヴァの方が違和感なく演じられたんじゃない?!



 何で自分でっちゃったのーーー!

 何で仲間の誰かに演じてもらおうって思いつかなかったのーーーーー!


 今日一番凹んだ出来事であった。



 合掌。

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