第145話 ミールナイトの防…戦?…御使い殿ぉー! -ビョークサイド-
俺は冒険者達を集め、指示を出す。
アーチャーや魔法使いは門上で待機。
接近戦の得意な者達は俺と門外へ。
その他は救護班として門の内側で待機。
この間のスタンピードでポーションが品薄なのは痛手だが、とにかく集められるだけ集めておくようリインに指示を出した。
「ギルド長!」
「戻っていたか!」
そこに【虹の翼】のメンバーがやって来た。
ランクSのパーティー達の多くは王都近くに行っていた。
冒険者ギルドとしては中立で冒険者の派遣はしないが、個人として公国側につくは自由。我らは王都に向かう冒険者達の行動に目を瞑っていた。
王都まで行けば早々に戻って来られないので諦めていたが、彼女らが参戦してくれれば戦力として大きい。有り難い!
「昨夜遅くに戻った。戦況は?」
「敵は11キロ先にいる。兵数は3万前後。こちらは数百ってところだ。今サバンタリア王国とロストロニアン王国の早馬がこちらに向かっている」
「そう」
ローザリア曰く、現国王派の侯爵や伯爵達が私兵を連れ各領を出たと情報を掴み、王都に向かう途中で引き返して来たとのこと。
情報を提供してくれた貴族によると、
…………………馬鹿か!馬鹿なのか!!!
伝説の武器達が守っているんだぞ?
現国王と宰相にはスタンピードの顛末、ゆき殿と伝説の武器に関する報告をしたのに何を考えているんだ。痴れ者にも程がある!
大体、ゆき殿を攻撃するその行動が神の怒りに触れたらどうする!
国全体が潰される可能性だってあるぞ!
「わかる。わかるよ、ギルド長。聞いた時私達もブチ切れた」
「そんで、これほどまでに阿呆揃いだったのかと情けなくなったよ」
俺はオーガのような顔をしていたらしい。
ローザリアとリンダが背中をポンポンと叩き、落ち着かせてくれた。
「この町を占拠するなど、
「他のランクS達もこちらに向かってる。それまではアタシ達で食い止めてみせるよ!」
「師匠、守る」
「………。ああ、俺もだ」
皆、出身地ではないがミールナイトに愛着があるし、ゆき殿との出会いの町を守りたいという思いらしい。
正直言えば、冒険者は戦争向きではない。
護衛任務はあるし、盗賊相手に戦いはするが、ほとんどは対魔獣だ。戦としての戦い方は騎士や兵士達の方が断然上だろう。
しかし、冒険者達は様々な苦境、苦戦を乗り越えてきている。
根性ならば俺達のほうが上だ!
するとローザリアが、近くにいた支援組にポーションを渡す。
「これはゆきちゃんから。私達の身を案じてくれたポーションだよ」
「ゆき殿が?」
「まさかこの町で使うことになるとは思わなかったけどね。さあ、行こうよ、ギルド長」
リンダが大斧を担いだ。
「アタシがゆきちゃんと出逢ったこの町を守るからさ」
レーネがニッと笑う。
「
「もちろん、私も」
エクレール、ミムミムが凛として背筋を伸ばした。
「良し。行くぞお前らぁ!」
オーーー!
「腰抜け兵士どもに冒険者の強さを教えてやれーーー!」
オーーーーー!
「気合をいれろーーーーーー!」
ウオォォーーーーーーーーーーーーー!!!
俺達は少し開いた門から躍り出て、軍勢に向かい1歩を踏み出した。
ピシャッ!
ドーーーン!!!
その時、突然3つの落雷が!
大地が揺れるほど大きな雷で、どうやら侯爵・伯爵軍の近くに落ちたようだ。
俺達は姿勢を低くして、様子を見る。
「進軍を止めよ」
すると突然、周囲に低く威厳のある声が響き渡った。
これは………鳳蝶丸殿の声か?
辺りを見回すと、西側と東側の空が歪み、白い靄が現れ、やがてとてつもなく大きい人型となった。
その人は、白いローブを羽織り、白い杖を持ち、長い白髪と白髪髭の持ち主で、長く白い眉毛で顔が見えぬ………………。
幼児!
ンッフッ
ゆき殿!!!
思わず吹き出しそうになった。
「人の子よ。我は神々の使いである。神々は汝らの行動をご覧になり、とても嘆いておられる」
鳳蝶丸殿の威厳ある低い声に合わせ、ゆき殿が右手をピョコピョコ動かす。
言葉より1テンポほどズレていて、何とも可愛らしい。
「汝らの攻撃に再び穢れ、魔獣溢れが起こるやもしれぬ。魔獣が溢れし時、神が守りしこの地を再び危険に晒そうとは何事だ!」
うんうんと頷くゆき殿。
あ、腕を組もうとして杖を落とした。
「この痴れ者めが!」
鳳蝶丸殿の声にビクッとしている。
頑張れ、ゆき殿!
「此度の行いに、神は大層お怒りである。よって、進軍を画策した者達と関係者に天罰が下される」
ちっちゃい手のピョコピョコ再開。
その調子だ。
「特に現国王とその関係者よ。今後善行を行わぬ限り、汝らの未来は無い。覚悟せよ」
ゆき殿が両手を上に大きく伸ばした。
小さな手がプルプル震えている。
その姿勢をうんと溜めてから、両手を一気に振り下ろした。
ピシャッ!
ドドーーーン!
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドンッ!!!
夥しい数の落雷が侯爵・伯爵軍の辺りに落ちる。
その他に、ミールナイトの中にも数十本の雷が落ちた。
落雷が止み静まり返るまで、俺達は呆然とする。
気付くと、小さな老人姿のゆき殿は空から消えていた。
これで全て終わったのか?
第1門へ戻ると、思っていたより混乱はなく、皆冷静だった。
「祭りの時にも天罰が下っただろう?アレだよな?」
「今頃、現国王軍の奴らはあの踊りを踊っているに違いないぜ」
「この町は神に守られているんだな!凄くないか?」
ああ、皆祭りの時の騒ぎを見ているからな。
到着した2カ国の先触れ達は少しホッとした表情で、我々は役に立てなかったな、と笑っていた。
他国の援軍はミールナイトに到着後、本隊から知らせがあるまで逗留するという。この件は市長の仕事であり、俺の出る幕はないので任せることにする。
「ギルド長。斥候の2名が戻ってまいりました」
リインが敵軍の様子見に向かっていた斥候2名を連れてやって来た。
「いやあ、凄かったッス!」
「
2名の話によるとこうだった。
最初の落雷は、地を抉る程威力のあるものだったが、それは直撃せず敵軍手前に落ちた。
次の沢山落ちた落雷は騎士、兵士1人ひとりに落ち、その後大混乱だったらしい。
まず、馬達は背に乗せた人間を振り落としあちらこちらに走って行き、騎士達は髭…多分髭が伸びてきて助けを求め、他の騎士達は何かを叫びながら腰を動かしていた。
歩兵達は変なことを言いながらおかしな格好で散り散りに逃げ出した。と言うことだった。
侯爵・伯爵軍は戦意喪失し、もう戦うどころでは無いだろう。故に、脅威は去ったと判断する。
衛兵、領兵、自警団団長達も同じ意見だったため、これにて解散となった。
衛兵及び領兵達は敵軍の様子窺いと後始末をしに行くらしい。
それは我ら冒険者ギルドの管轄ではないので任せることにする。
俺達は報酬の支払いを後日行うため、今回の件に参加したパーティー及びソロの名を登録し、本日は解散となった。
戦いもせず敵が戦意喪失をしたのは喜ばしいことだ。
俺の手柄じゃないが、ミールナイトを守ることが出来て良かった。
これも全てゆき殿のおかげだな。治癒の件も含め、今度礼をしないと。
など、呑気に考えている時が俺にもあった。
この後、ゆき殿を知る者達だけでの後始末に追われることになるとは、この時の俺は知る由もない。
この後しばらくの間、王都の冒険者ギルドに常駐となったのは言うまでもなかった。
-ビョークサイド終了-
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