第144話 ミールナイトの防戦! -ビョークサイド-

-ビョークサイド-



 突然、リインが我が家にやって来た。

 緊急事態だと応接間には入らず、玄関ホールで待機していると言う。


 先程仕事が一段落して休んだばかりだが、家令に起こされ慌てて玄関ホールに向かった。


「ギルド長。先程レーヴァ様ともう1名様がいらして緊急の報告がありました。現国王関係らしき軍勢がこちらに向かっているとのことです」

「なに!!!」

「誰に報告すれば良いか分からず冒険者ギルドに来たそうです」

「市長と衛兵待機所、ギルド本部には?」

「職員が<文書通信>で知らせました」

「わかった」


 俺はリインと共に冒険者ギルドへと急いだ。



「来られる職員を呼び戻せ。冒険者達にギルドに集合するよう声をかけろ」

「はいっ」


 ギルドに到着すると同時に指示を出す。リインが去ると同時にピピがやって来た。


「レーヴァ殿がお待ちです」

「わかった」


 ギルド長室に行くと、レーヴァ殿とミルニル殿がお茶を飲みながら待っていた。


「レーヴァ殿、ミルニル殿。火急の知らせ感謝する」

「感謝なら姫にして?」

「無論、会った時に礼を伝えるよ」

「うん。そうして」


 2人がゆっくり頷いた。



「それで、今回の件だけど」

「ああ」


 レーヴァ殿が言うには、現国王軍と思われる軍勢が近づいて来ていることに気付き、ゆき殿の命で俺に知らせに来たとのこと。

 数えるのが面倒なので規模はわからないが、3部隊に別れ、陸側の三方から進軍しているらしい。


「誰に言えばいいかわからないので君に知らせたんだけれど、良かった?」

「無論」


 冒険者ギルドは中立の立場で、何処かの国に力を傾けることは無い。

 今回の相手は国王軍だ。本来であれば冒険者ギルド本部も戦の加担に反対するだろう。


 だが、今回は少しばかり毛色が違う。それは御使いみつかい様の存在である。

 ラ・フェリローラル王国とフェリローラル公国およびウルトラウス教との間に勃発した諍いの状況を考え、今回は戦の加担に目を瞑るだろうと思われる。


 無論、我らはあくまでも中立の立場。

 今回の戦いはあくまでも御使いみつかい様が降臨された町を守る、という名目を通す。



 ミールナイトの特性として、冒険者は多いが衛兵や領兵、傭兵などはそれほど沢山いない。彼らは荒くれ者を取り締まるための機能しか持ち合わせていないのだ。

 ある意味、冒険者ギルドと自警団でこの町を守っていると言っても過言ではない。


 死の森の恩恵にあずかっているので、その代わりに冒険者ギルドが町の守護者としての役割を担っている部分がある。故に、衛兵や領兵の数が圧倒的に少ないのだ。



 とは言え、冒険者の戦争参加は強制ではない。ミールナイト守護戦線参加を依頼として集り、ギルドから報酬を出すこととなる。

 しかし現国王軍との戦いともなれば、尻ごみをする冒険者も少なくないと思われる。国と争えば反逆者と見なされてもおかしくないからだ。

 それを思えば、冒険者達が参加したとしても戦力は極小と言って間違いないだろう。



 相手の数や出方は分からないが、何としてもここを守りきらねば。


「ピピ。斥候に様子を調べさせてくれ」

「わかりました」


 ピピが去ると、レーヴァ殿達が口を開く。


「今攻撃を受けるのはこちらの都合がよろしくない。と言う事で俺達が介入することになったよ」

「後始末、よろしく」

「え?!」


 本来、神は人の争いに介入することは無いけれど、今回ゆき殿達の都合により争いを止めることになったらしい。

とてもとても急いでいるので勝手に進めるから後始末をよろしくと言われ、体が震えた。


「ゆ、ゆき殿は何をしようと?冒険者ギルドが後始末出来るような案件か?」

「うーん、どうだろう?」

「ねえ、時間無いよ」

「そうだった。じゃあね」

「ま、待ってくれ」


 2人はギルド長室の窓から飛んで行ってしまう。

 その飛び立つ寸前、レーヴァ殿が俺の方を振り返り「空を見るといいかもよ?」と言った。


 どういうことだ?

 そもそも後始末って、何させられるんだ?!


 これから起こる騒動に想像がつかず、戦々恐々として冷や汗が止まらなかった。




「ギルド長。<文書通信>用の魔石が尽きそうです!」


 部下達に指示を飛ばし北門へ向かおうとしていた時、副ギルド長に声をかけられる。


「………ちょっと待て」


 一旦ギルド長室に戻り、ゆき殿が有事に使えと言って渡してくれた魔石の半分を袋に入れた。


「………これを使ってくれ」

「!!大量の魔石!」


 辺境伯に全て献上する予定だったが今は有事だ。当ギルドでも使わせてもらうことにする。



 ゆき殿はこうなることを見越して?



 そのずば抜けた勘の良さに俺は驚愕するのだった。



「こ、こんなに、ですか?この大きさ、量、どうされたんですか?」

「とある方から寄付された」

「寄付!これを?そんな馬鹿な。換金すればかなりの額になりますよ!」

「嘘ではない。有事の時に使ってくれといただいた。辺境伯に献上するつもりだったがこちらで半分使わせてもらおう」

「半分?これで半分なんですか?」

「そうだ。説明は後でする。とにかく時間がない」

「……!は、はい。魔石を使わせてもらいます」


 副ギルド長は重い魔石の袋を抱え、よろけながら皆のところに戻って行った。



 今はとにかく北門へ急ごう。

 ギルドは副ギルド長に任せ、俺はピピ、リインと共にギルドを飛び出した。






 北門第1門に到着。

 辺りには直接来た冒険者達が控えていた。


「斥候を数名行かせました。この場に到着している冒険者達は125名です」

「わかった。」


 普通の戦ならば冒険者達と兵士達で数百人など絶望しか無いだろう。

 ただし、今回はゆき殿や伝説の武器達が絡んでいる。恐らく悪いようにはならないだろう。



 今はそれより後始末の方が恐ろしい…………。



 ゆき殿絡みとは知らない冒険者達は人数のあまりの少なさにかなりの緊張状態だ。

 だが、中には心から手を貸そうとしている者達も参加している。


「ビョークギルマス!」


 俺に声をかけてきたのは、先日ゆき殿に治療され両腕が生えた冒険者だ。


「ブランクはあるが、少しくらい役に立つだろう?加勢するぜ」

「俺もだ」

「私も」

「あたいもいるよ!」


 足が生えた者、視界が戻った者、病気が完治した者。

 彼らが次々と参加表明をする。


「感謝する」

「人数は足りないが一矢報いようぜ」

「ああ!」




 門の最上階にいたピピが、俺達に向かって声を張り上げる。


「11キロ先に敵を確認!侯爵家、伯爵家の旗有り!兵数約1万!」


 ピピは千里眼のスキル持ちだ。俺達の肉眼では見えぬ敵を確認することが出来る。



 俺のいる北門に向かう兵数は約1万。

 レーヴァ殿は三方に進軍していると言っていたから、敵の兵数は少なくとも3万。

 こちらは、冒険者や衛兵、領兵を併せて数百。圧倒的に数が違いすぎる。



 皆の間に動揺が広がり始めた、その時!


「北東から早駆けの馬が2騎!盾に紋が…………サバンタリア王国とロストロニアン王国の紋章です!」



 おおおおお!


 一気に盛り上がる。援軍か!



 すると、そこに鎧を着用した市長が到着した。


「遅れて申し訳ない。アルシャイン伯は戦場に赴かれてご不在でした」


 俺は掻い摘んで今の状況を市長に伝える。

 ゆき殿のことは、どう動くつもりかわからないので伝えないでおいた。


「市長は待機してください。到着するサバンタリア王国とロストロニアン王国の対応をお願いします。私達は門外へ向かいます」

「わかりました」



 領兵、衛兵、自警団それぞれの団長と俺との話し合いで、領兵は西門、衛兵と自警団は東門、冒険者は北門を守ると決まっている。


 とにかくここを死守せねば!

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