第140話 もう、地鎮祭じゃなくてお祭りじゃない?

 翌日、朝食を食べながら地鎮祭の開催と、一時的にこの場所が神域になると言う話を皆に説明した。


「姫、地鎮祭って何だい?」

「土地を鎮めるのか?」

「面白い儀式ですね」

「楽しみ」


 皆には、この辺りを守っている土地神様にお家を建てます。どうぞよろしくお願いしますと、挨拶する儀式だよ、と説明した。


 実際の地鎮祭のやり方を詳しくわからないので私流に行うつもりとも告げる。

 楽しそうだしもちろん手伝うと皆が言ってくれた。


「たみしゃま、おもてなし、どうしゅゆ?」

「神々のもてなし方法か………まず、酒は用意せんとな」


 鳳蝶丸オススメはお酒。

 私が持っているお酒を振る舞えば良いと言う。

 ワクワクしている様子なので、自分達も飲むつもりだよね?


「果実水も喜ばれると思いますよ」


 ミスティルオススメはソフトドリンク各種。

 私も飲み物欲しいし、色んな種類を用意しておこう。


「料理は絶対あった方が良いよね。姫の食事は全部美味しいから、気負わずに用意できるものを出せばいいと思う」


 レーヴァは食事の用意の提案。

 高級料理はわからないから、私の知りうる範囲の食事で良いかな?


「甘味も必要。俺もクレープ食べてみたいし」


 ミルニルは甘味が食べたいらしい。

 私も食べたいし、もちろん用意す………ハッ!



 と、ここで我に返った。

 そういえば、この国って混乱中だったよね?

 初めて土地を買って浮かれていたけれど、地鎮祭をやっている場合じゃなかったかな?



「どうした?お嬢」

「大丈夫ですか?」


 私が固まっていたので心配されちゃった。


 皆には【虹の翼】からの手紙を読んでもらってこの国の状況は知らせてある。

 だから、そんな混乱時に地鎮祭と言う名の神様おもてなしパーティーを開いていいのかが気になったと伝えた。


「良いんじゃない?だってそれは人の子達の都合だし」

「そうだな。神々にとって人の子達のお家騒動など関係ないしな」


 お、お家騒動より規模大きいんじゃ……。


「ウルトラウスオルコトヌスジリアス神が楽しみにしている以上、祭事は執り行った方が良いかと思いますよ」

「うん。その方が良い」


 そ、そうか。そうだよね?

 ウル様が楽しみにしているみたいだし、今更止めるわけにはいかないよね?


 まあ、うん。連絡しちゃったものはしょうがない。

 このまま地鎮祭計画を進めることにしよう!




 と言う事で、地鎮祭の決行日は治癒した後10日後に決定しましたと、ウル様にお知らせをした。

 ムウ様と桃様に声がけして良いかと聞いたら、残念だけれど、フェリアの神々が集まる場に招待するのは難しいと言われちゃった。

 せめて食事を提供したいと言ったら、それは問題無いと了承をもらったよ。



 早速ムウ様と桃様に連絡。

 2人からは、お祭りの食事を楽しみにしていると返信があった。



『直接顔が見られず残念じゃ』

『だが日本の地鎮祭を行ってくれて』

『われは嬉しいぞ』



『お祭りってどんなの、どんなの?』

『楽しみ☆(スタンプ)』

『ゆきちゃんの活躍』

『期待してるゾ♪』


 うん。これは気合を入れなければ!



 念の為、ウル様にどんな物が食べたいか確認すると、日本で見たビュッフェと言うものをやってみたいとリクエストされた。

 それならば某ホテルのすっごく美味しかったビュッフェを再現しつつ、自分流にアレンジしよう。



 神様達に楽しんでいただけるといいなぁ。






 土地を購入した翌日。

 転移の門戸の話をしようと思い、もう一度冒険者ギルドを訪問した。

 

 極力秘密にしたいけれど、誰にも会わずに治療するために転移の門戸と待機部屋を直接つなげる必要がある。

 だったらいっそのこと、転移の門戸をビョークギルマスに話してしまおうと言うことになったんだ。



 ビョークギルマスに話したいことがあると言ったら、詳細を聞く前に魔法契約をして欲しいとお願いされる。

 信用しているからいいんだけれど、その方が楽なんだって。


 足が生えたビョークギルマスはあちこちから問い合わせが殺到している。

 現王族の一部からも問い合わせが入り、どこで誰に治してもらったんだと圧力をかけられているらしい。

 [魔法契約しているので話せない]で通しているけれど、実際に魔法契約をしていないと自白剤や魔法での記憶操作をされた場合誤魔化せない。だから本当に魔法契約をしてしまった方が楽だ、と言うことらしい。


 魔法での記憶操作なんてあるの?怖い!

 それならば魔法契約したほうが良いかも。でも頑張って秘密を守ってくれているビョークギルマスに、長時間の制約はかけたくない。



 あ!そうだ!

 逆に探ろうとした方に制約をかければ良いんだ!



 治癒した状況や誰が行ったか、また私と伝説の武器達の能力などを他人に伝えようとすると、ビョークギルマス自身は10秒間生命維持以外体が動かなくなり、話もできなくなる。


 ビョークギルマスが拒否したにも関わらず無理矢理聞き出そうとする者、もしくは魔法操作、自白剤を飲ませようとした者は6時間生命維持以外体が動かなくなり、話もできなくなる。


 ちょっと複雑だけれど、これを盛り込んで魔法契約を作成出来るか鳳蝶丸に相談してみる。



 答えは[可能]だった。



「そんな複雑な魔法陣、聞いたことがねえ。流石鳳蝶丸殿だな。よろしく頼む」


 ビョークギルマスも納得してくれたので鳳蝶丸にお願いする。


「少しだけ待ってくれ」


 空中で何重もの魔法陣が浮かび上がって光り、複雑に組み合って、やがて光が消える。


「これで問題ないと思う。今、固まるのは10秒にしてあるから、誰か試してくれ」

「あいっ!わたち!」

「いけません。わたしがやります」


 でも、一度体験しておいた方がいいよね?

 言い出しっぺなんだし、何よりも興味があるからやってみたい!


「でも、わた………」

「ダメですよ」


 ミスティルにメッ、されました。



御使いみつかい様の能力を言いなさい」

「それは出来ない」

「言いなさい」

「断る」

「早く言いなさ…………」


 あ、止まった!

 ストップしたミスティルは彫刻みたいに美しい。

 でも動いて喋っている方が数百倍素敵だよ!



「無事機能したみたいだな」

「ええ。確かに動けなくなりました」


 正常に機能したので、ビョークギルマスは10秒停止、相手の時間は6時間停止。ただし、話をする相手が私と伝説の武器達、話しても良いと許可した相手の場合を除く。と、設定し直して魔法契約を結んだ。


「治癒対象者とその家族達も同じ契約をお願いしてもいいか?」

「本人の止まる時間を10秒にするということか?」

「いや、本人の時間は任せる。ただ、問いただした相手も、と言うのを付け加えて欲しい」

「それなら問題無い」


 私の意向を組んで、治癒対象者は10分、詰問相手の停止時間は6時間とし、治癒対象者とその家族に納得してもらってから魔法契約を結ぶことになった。


 それから魔法契約に関して。

 鳳蝶丸の場合は契約書作成の必要が無い。なんたって相手の同意無しでも契約を結んでしまうことが可能なのだから。

 でも、一般的には契約書類が無いと不自然なので、魔法契約書(偽装)用の羊皮紙を準備をすることになった。

 契約書自体に魔法陣を焼き付けないの?と確認したら、今回は内容が複雑すぎて焼き付けると羊皮紙が保たないんだって。



 そ、そうだよね?



 取り敢えず、偽装のためレーヴァにそれらしい契約書を書いてもらおう。




 その後は治癒会場の下見をすることに。

 場所は……ビョークギルマスのご自宅!

 外れではあるけれど貴族街にあって、めちゃくちゃ立派なお屋敷だよ。


「おたねもちぃ」

「俺はこれでも侯爵家の出なんでな。俺自身は爵位持ちじゃねえから平民とは変わらんぞ」


 お金持ちだと言ったら出自を明かしてくれた。嫡男じゃないから実家を出て冒険者になったんだって。

 平民と変わらんなんて、貴族街に住んでいる時点で違うと思うよ?


「俺の家族に挨拶させようと思ったが、治癒のことは内緒にしているから会わせられなくてな。無作法ですまん」


 奥様やお子さんは数日泊りがけで出かけてもらっているんだって。

 挨拶は特に問題ないし、気にしなくていいよ。


「ありがとう。今度治癒関係無く遊びに来てくれ。その時紹介する」

「うん、あにあと」


 お呼ばれしちゃった♪



 治癒する場所は大きな部屋で、隣り合った小さめの部屋が私達の待機部屋。待機部屋の扉には衝立を立て、中を覗けないようにしてくれるんだって。



 良しっ。

 魔法契約も済んだことだし、そろそろ転移の門戸について伝えよう!



「へあ、ちょちゅちぇちゅ………」


 ふあっ!

 口が回らなかった!

 鳳蝶丸さん、お願いします。


「当日俺達はこの部屋に直接入る。治癒が終わるまで誰も入れないでくれ」

「わかった。そのようにするが、直接入るとはどうやって?」

「ビョーク、ギユマシュ、まほーちぇーやちゅ……ちてゆ」

「ギルド長は魔法契約をしているので言うが、心に留めて秘密にして欲しいそうだ」

「無論」


 よし、では、



 転移の門戸!



「!!!」


 ビョークギルマスが驚愕の顔を浮かべる。


「ここ、主さんと俺達のテント」

「テントは購入した土地に設置中です」


 まだ固まっているビョークギルマスに苦笑しつつ、鳳蝶丸が肩をポンポンと叩く。


「大丈夫か?」

「ハッ!驚きすぎて固まってしまった。すまん。でもこれで合点がいった。ゆき殿達が遠くへ行っても直ぐ帰って来られるのは、こういうことだったんだな?」

「あい、しょうよ」


 だから気を使わず気軽に来られる拠点が欲しいのだと言ったら、めちゃくちゃ納得していた。

 でも、本来は門の衛兵所を通過しなければならないんだぞ、と念押しされる。


「まあ、ゆき殿達ならば問題ないだろう」


 何かすみません。

 怪しい品物及び他所の病原菌は持ち込まないので許してね?

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