第133話 地獄あんみつ……

 今行き止まりの道が切り替わったばかりだから行こうと言われ、猛スピードの飛行ひぎょうで先に進む。


 途中、矢がバンバン飛んでくるエリアがあったけれど、レーヴァが焼き払って終了!簡単なお仕事でした。



 到着した広い場所は、ガランとした洞穴。


「ゎ!……」


 いけない、いけない。

 感動で大声出ちゃうところだった。

 気配完全遮断していたって、声を出したらバレてしまうよね?



 岩壁には無数の鉱石や宝石(原石)。

 その中はに光を放つ鉱石が沢山あり、洞穴を明るく照らしていた。

 その光に反射して鉱石や宝石達もキラキラと光り、幻想的で美しい光景だった。


 そこには冒険者が数パーティーいて、何かをしながら慎重に鉱石を採掘している。



 ギャア!



 突然叫び声が響き、振り向くと腕を抑えて呻く男性。

 仲間らしき人が、慌てた様子で血の吹き出す腕にポーションをかけていた。



「あれも罠だよ。採掘すると罠が発動するんだ」

「時間によって発動する場所が変わるし、何が起こるかわからないので、危険度はかなり高いと思われます」

「まあ、俺達には関係ないけどな」


 鳳蝶丸がそう言って徐ろに鉱石を1つ掴む。それをボコッと取り出すと、私達の足元に大きな穴が開き数秒で閉じた。



 飛行ひぎょう中だから落ちないよ!



「お嬢が持っていてくれ」


 今採った宝石を鑑定するとエメラルドだった。

 鑑定ちゃんが大きくて高品質と教えてくれる。ついでに食用不可だって。

 うん、知ってる!



 光る鉱石に翳して見ると、エメラルドが輝いてとても美しかった。


「ちえいねぇ。エメユみたい」

「あらっ!わたくしを綺麗って言ってくれるのね?嬉しいわっ」

「エメユ!」


 すんごい小さな透明の亀さんが目の前に姿を現した。


「あえ?おみじゅ?」


 確か、召喚は液体がある場所じゃなかったっけ?


「あそこに湧き水があるわ。ダンジョンのだから気持ちの良いものじゃないけれど」


 慌てて冷たいお茶を用意すると、透明の亀さんが消えて、お茶の亀さんが現れた。


「はあぁ♪ありがとう。やっぱり主ちゃんの魔力は美味しいわ」


 そして、ぽちゃんと浮き上がった。


「鳳蝶丸様今頃何処にいるのかしら?と思って探りながら来たのよ。まさかここにいるとは思わなかったわ」

「いっちょ、行く?」

「いいわよ!と、言いたいところだけれど、ここではお役に立てないからどうしようかしら?」


 この世界にも地球での言うところの五行の相性があって、水は土に弱いらしい。

 このダンジョンは土属性の魔物が多いから、エメルはあまり力を発揮できないんだって。

 なお、鳳蝶丸は苦手ではあるけれど、あまり問題無いみたい。ミスティルも火属性である岩漿山でバンバン倒していたもんね?



「このダンジョンは私の得意とする場所なので大丈夫ですよ」

「あいっ、あにあと!よよちく、おねだい、しましゅ」


 木属性は土に強いらしい。

 よろしくねっ。ミスティル!



「ここはイバヤの領分だし、やっぱり今回は遠慮させていただくわ。また会いましょ!」

「うん、またね。バイバイ」


 結局、土属性のダンジョンは居心地悪くお役にも立てないからと、エメルは何処かに帰って行った。



「とんど、皆でお茶………」



 グアァ!



 またしても罠発動と男性の叫び声が聞こえる。

 思わずビクッてしちゃった。


 今度眷属達も呼んで皆でお茶会でもしようって言おうと思っていたのに。


「移動するか」

「ええ。そうしましょう」 


 確かに居心地が悪いので、早々に移動することにした。




「ここから先は魔獣も出るよ」

「あまり強いのはいないがな」

「45階層くらいまでは無視で良いんじゃないですか?」

「それもそうだね」


 私は初ダンジョンだし討伐のことは任せるけれど、途中に綺麗な鉱石を見つけたら採掘させて欲しいな。


「了解だ」

「欲しい物があったら声がけしてくださいね」

「あい!」


 私達は道すがら、と言っても飛行ひぎょうだけれど、そんな話をしながら先へと進む。

 途中、天井から槍が降ってきたりコウモリ系の魔獣が襲ってきたりしたけれど、3人が切り刻んだり、焼き払ったり、矢で穴だらけにしていた。



 途中で宝箱を発見!

 ワクワクしながら指差すと、宝箱に寄ってくれる。


「宝箱は開けていこうか。装飾品が多いし、姫に似合うものがあるかもしれないよ?いらなければ売ってしまえば良いんだし」

「ああ。そうしよう」

「ええ」


 念の為、眼の前の宝箱を鑑定すると[宝箱]とだけ表示されたので、安心して皆に開けてもらう。



 カッチャン!



 お宝は怪我用の中級ポーションだった。



 話し合いの結果、良い物が出やすくなる11階層より下から宝箱を開けることに。

 私達は、罠と魔獣を全無視でそのまま駆け抜け、やがて下へと続く階段にたどり着いた。



 ん?あれ?



「ボシュ、いない?」


 階層のボス部屋が無かった。


「このダンジョンにボスは存在しないんですよ。出てくる魔獣も大したことありません」

「ただ罠がえげつないだけだ」

「俺達にはちょっと物足りないかな」

「うん、しょうかも」


 普通の人は、そのえげつない罠に命がけなんだけれど……3人には物足りないかもね?




 と、いうことで20階層くらいまで参りました。



 ゴウン!!!



 今、まさに罠が発動したところです。


 鑑定で高品質と出た大きなサファイアの原石をボコッと採掘したら、背中側から物凄い勢いで岩が迫って来た。

 たぶん私達を押し潰そうとしたんだろうけれど、ミスティルが片手で止めて軽く戻す。ついでに岩壁にメリメリと凹むほど押し戻していたよ。



 小部屋の様な空間にあった宝箱を開けたら、入り口に鉄格子が出現し閉じ込められたけれど、鳳蝶丸が細かく刻んで余裕で外に出ました。

 ちなみに宝箱の中身は鉄のインゴット。

 そして鳳蝶丸により切り刻まれた鉄格子は、再構成でインゴットとなり宝箱インゴット組の仲間となりました。



 高品質のルビーを採掘したら、五寸釘と鋭い鉄のナイフが横から飛び出して来たけれど、レーヴァが炎の壁を作って、一瞬で焼き溶かし、私がそれをすかさず鉄のインゴット……(以下同文)




 頻繁に行き止まりが変わる迷路の様な道は、地図を見ながら進む。

 たまたま行き止まりに変化してしまった時は、鳳蝶丸が切り刻むか、ミスティルが大穴を開けて物理的に突破した。



 魔獣はモグラ、穴ウサギ、ミーアキャット、コウモリみたいな魔獣や、私が苦手な虫系かな。

 出現率も少なく、強さもC級以下、ボス戦も無し。

 レーヴァが言う通り、確かに3人には物足りないよね。


 でも、採掘者的に魔獣が弱い方が良いのでは?

 ……いや、罠が超絶危険なんだった。

 最高品質の金剛石片手に何度目かの崩れた岩壁と、刃がギラつく落とし穴を眺めながらそう思い返すのだった。




 30階層になりました。

 宝箱を開けたり罠を回避したりして思ったより時間がかかっちゃった。


 このダンジョンはボスがいないからなのか(?)、セーフティエリアが無い。

 仕方がないので、ほんのちょっぴりだけ広い道に、結界1を張って休憩することにした。


 甘いもの、何にしようかな?久しぶりにあんみつが食べたいな。

 私は父が作ってくれた、白玉クリームあんみつを再構築して皆に出した。


「なちゅた、ちい」



 ああ、懐かしいな。

 父は趣味で焼き菓子等をよく作ってくれた。

 あんみつは棒寒天を煮込むところから作っていたな。

 でも盛り付けにはこだわりが無くて、生クリームもバニラアイスも餡もフルーツもゴテッと器に盛る、無骨なクリームあんみつだった。


 我が家カレーの時もそうだっけれど、父母の作った料理を再構築して食べられるなんて、想像もしていなかった。


「おとーたん……………」

「お嬢」


 私が切なくなってしまったのを感じて、鳳蝶丸が抱きしめてくれた。

 ポンポンと背中を叩き、私が落ち着くまで待ってくれる。


「こえ、おとーたん、ちゅちゅった」

「父上が?思い出の菓子を俺達が食べても良いのかい?」

「あい」

「じゃあ、まずはお嬢が食べな」

「わたしが口に入れましょう」


 ミスティルが餡と寒天と黒蜜を口に入れてくれ………。



 んん!

 甘あぁ!!

 激甘あぁ!!!

 地獄の甘さぁぁあぁぁぁ!


 ゥアアァァ!!!!



 そうだった、そうだったよ!

 父は究極の甘党で、あんこにゴッソリ砂糖を入れるタイプだった!!

 砂糖控えめのお汁粉を作っても、母と私の目を盗んでガバッと砂糖を足す人だった。

 今頃思い出したよ!!



 出した白玉クリームあんみつ全てを勢いよく仕舞う。

 3人が[???]という顔をしたけれど、流石に激甘あんみつは食べさせられないよ。


 その代わり、お店で食べた美味しい白玉クリームあんみつを再々構築して出した。


「父上のは?」

「あえは………」


 ほぼ全て手作りで、砂糖がふんだんに使われている。

 だから甘過ぎてオススメ出来ない。究極の甘党じゃないと多分食べきるのは難しい、と説明した。


「そうなのか?そこまで凄い甘味ってどんなだ?興味ある」

「俺も」

「わたしも気になります」

「じゃあ、こえ」


 父特製究極白玉クリームあんみつを1つだけ再構築し、小さな取り分け皿を3つ用意する。


「では」


 3人がパクリとひとくち。

 ガチッと固まった。


「確かに甘いが、美味いぞ」

「砂糖をふんだんに使って、この世界だと凄い贅沢な一品になるね?」

「ほぼ全て手作りとは、素晴らしいお父上です」


 3人が手を震わせながら父とクリームあんみつを褒めてくれた。


「あにあと」


 なんかごめんなさい。

 そして優しい気遣いをありがとう!


 結局、白玉クリームあんみつは全て回収、皆でお煎餅をバリバリ食べました。



 合掌。

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