第131話 もしもし、聞こえ、ますか?
「たいてち〜」
レーヴァに手を繋いでもらって、よそ見をしながら空の旅。
眼下には緑の山々が連なり、深い谷に流れる川が見える。
♪とある有名な山はぁ天下の険♪な歌を歌いつつ飛んでいると、山々からキラキラした光が見えた。
「お嬢の歌に反応しているな」
「あれは恐らく精霊達だね」
「主の歌は小さな神々、精霊達、妖精達に力を与えるんですよ」
「もちろん俺達にも。お嬢の歌で力が漲る」
「ほら、こんなに」
ブォーーーーン!
「キャー!たのちー!」
レーヴァが私を抱きかかえ、急にスピードを上げる。
猛スピードで飛ぶ爽快感たるや!
「びゅーーーん!」
両手を伸ばし、飛行機になった気分を味わう私。
レーヴァも、鳳蝶丸も、ミスティルも、もちろん私も。
楽しくて楽しくて、ニコニコ笑顔で空の旅を満喫した。
「おはよう。目覚めたか?お嬢」
「うん」
人気のない街道に降り立ち進んでいるうち眠ってしまった私。
目覚めるともうすでに町中で、港が見える場所にいた。
今は鳳蝶丸抱っこ。ミスティルとレーヴァは不在なんだって。
「今船が出られないらしい。2人が確認しに行っている」
「どちて?」
「沖にクラーケンがいて、航行出来ないみたいだ」
「しょうなの」
クラーケンかぁ。
クラーケンって食べられるのかな?
大きすぎて美味しくない?
2人は直ぐに戻ってきた。
「やはり船は出ないそうです」
「しょっかあ」
停泊している船を見るとガレオン船っぽい!
鳳蝶丸の話ではあれも魔導船なんだって。ああ、乗りたかったな。憧れのガレオン船。
某海賊ごっこがしたかった!
私がガッカリした顔をしていると、そのうちまた機会があるよ、と皆が慰めてくれる。
「討伐出来たとしても、調査などで直ぐには出発しなさそうだったし、
「そうですね。ついでにクラーケンをヤッちゃいましょうか?主をガッカリさせた罪は重いので」
フフフ…と黒い笑顔のミスティルさん。
「ああ、ヤるか」
「いいね」
3人が悪人顔してるよ。
でも、確かにこの町の人達が困っているし、討伐しちゃおう。
「鳳蝶しゃん、ミシュチユしゃん、イェーバしゃん、こやちめて、おやいなしゃい」
「はっ!」
鳳蝶さん、ミスティルさん、レーヴァさん、懲らしめておやりなさい!(気分は某ミツクニ様)
そして、勢いにノッた返答をありがとう!
私達は猛スピードで海の上を飛ぶ。
途中、討伐に向かう沢山の船が見えたけれど、波が高くて思うように進めないみたい。
波が高いのは、だいぶ先ではあるけれど、目測が出来るくらいの距離でクラーケンが大暴れしているから。
喧嘩中の2匹が。
巨大なイカが2匹で暴れていれば高波も起こるよね?
念の為、人語を解するかどうか確認しなくちゃ。
「もちもち、ちとえ、ましゅた?今、イタしゃんに、直しぇちゅ、話ちたてて、いましゅ」
もしもし、聞こえ、ますか?今、イカさんに、直接、話しかけて、います。
拡声器を使い、ゆっくりカメラマンさんのように話しかけてみた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
あ、丸無視ですか。
どうやら喧嘩に夢中の様ですね?
「お嬢。クラーケンは人語を解さないぞ」
「そんな姫も可愛いね」
「…………」
ミスティルに高速スリスリをされながら、ちょっと残念な気持ちになる。
さて、では討伐しましょう。
私達に結界3をかける。そして、私は足手まといにならないようそっと離れた。
あとは3人にお任せです。
3人が急接近すると、それに気付いたイカが触腕を伸ばして襲いかかる。
途端にボウッと炎が上がり、4本の触腕が焼き落とされた。
大量の海水が盛り上がり、イカ2匹を海から持ち上げる。
鋭い矢が2匹の頭部を貫いて終了。
お疲れ様でした。
プカァっと浮かぶイカ、あ、違う、クラーケン2匹。
鑑定すると、クラーケン・エンペラーとクラーケン・エンプレスと書かれていた。
ちなみに大きくて喧嘩優勢だった方が女帝です。
かあちゃんに怒られてたのかな?
あと、食べられはするけれどアンモニア臭くて不味いんだって。
じゃあいらないかな?って3人に聞いたら、まだ魔力の残っている肉や魔石を食べて他の魔獣が強くなってもいけないし、腐らせて海を汚染してもいけないから回収した方が良いと言われた。
あと、クラーケンの甲は軽くてとても丈夫なため加工して武具に使われるし、魔石も大きいらしいので、2匹とも無限収納に入れたよ。
そういえば、こちらに向かっている討伐隊の船に、クラーケン討伐完了って知らせなきゃ。
うーん。
海の水で大きめの氷山を再構築、[彫塑・成形]で『クラーケン2匹討伐完了』と立体的に削る。
あの船団が到着する頃までは保つよね?
あとは無限収納内でクラーケンを解体し、2匹分の魔石と甲を複写、再構成で氷山にちょっとだけ埋めた。
その横に「←プレゼント」と氷を削って終了。
うん、スッキリ!
私達は気持ちよく空の旅に戻ったのだった。
クラーケンが突然燃えたり、海の上に浮かんだり、巨大な矢が刺さったところを目撃した船団は、確認のためクラーケンがいた場所に向かい驚愕する。
この海ではありえない氷の山が浮かんでいて、しかも氷壁に凸状の文字が浮かび上がっていた。
討伐済み?あのクラーケンを?しかも2体………。
いや、俺達はこの目で見た。
2体の巨大なクラーケンが討伐されるのを!
だから、この情報は正しいのだ。
更にクラーケンの魔石や甲が2匹分氷に浅く埋まっており、プレゼントと書かれている。
一体何事だ!
誰かが叫んだ。
今回の討伐は恐らく勝ち目がない。
死を覚悟した精鋭達で討伐隊が組まれたのだ。
もちろん誰だって死にたくない。
しかし自分の国を、家族を守るため、皆決死の覚悟で参加している。
もうすぐ戦いだ、と心の中の恐怖を押し殺した時、突然あの巨大なクラーケンが消えたのだ。
しかも、この辺りで最も価値のある品を残して。
「何という奇跡か」
「海神様のお力だろう」
「いや、創造神様の奇跡に違いない」
後に、その周辺の伝説となった。
不思議な氷山、刻まれた文字、魔獣の素材。
残された素材はこの地の領主に買い取られ、その資金は被害にあった船主や、冒険者の家族、討伐隊を編成した時にかかった費用に充てられた。
奇跡を保存しようと不思議な氷山を紐に括り港まで運ばれたが、到着する頃には大分減ってしまい、文字も曖昧になっていた。
しかし討伐隊の中に絵画が得意である者がおり、氷が溶ける前のラフ画が残っていた。
その者はラフ画をもとに『賜物』という代表作を描いた。
その後も『燃える触腕』や『空のクラーケン』、『貫く矢』など沢山の作品を描き、後世に名を残す画家となった。
絵画は教会や領主の邸宅、王城に飾られ、代々の家宝となった。
そして、伝承や絵画の存在を当の本人達が知ったのは、かなりの時を経た後であったという。
下に降りて食事休憩をしたり、おんぶでお昼寝したりしているうちに陸の上を飛ぶようになった。
大地は灰色と黄土色で荒野といった感じ。
アハーロにもそんな場所はあった。でも低木や植物が生えていたし、荒野っぽいのはほんの一部で基本は緑豊かな土地だった。
でも、ここはかなり遠くまで荒れた大地しか見えない。
ポツンポツンと小さな村らしき家々が見えるけれど、何処も寂れた雰囲気で、人間には住みにくい場所じゃないか?と思わせる、そんな土地だった。
「今日はここまでにしよう」
「うん、そうしゅゆ」
鳳蝶丸おんぶで寝ていたから私は元気だけれど、皆は飛びっぱなしなんだし、今日はもう休もう。
何だか凄く長い時間飛んでいた気がするけれど、早朝にアハーロ王国の森から出て何時間ぐらい経ったのだろう?
空を見ると日は傾き始めている。
私達は大地に降り立ち、崖の麓にテントを張って休むことにした。
テント周りに大きめの結界1を張ってから中に入る。
「おちゅたえ、しゃま、でちた」
「お疲れ様です」
「お疲れさん」
「お疲れ様。ゆっくり休もう、姫」
「うん、皆も」
皆でお風呂に入ってその後リビングでゆっくり休む。
ミスティル抱っこでお水を飲んでいるうち眠くなり、ぐっすりと眠ってしまった。
翌朝皆の夜ご飯!って焦ったけれど、食べ物はマジックバッグに沢山入っているから心配しなくて良いって。そもそも私達は食事しなくても、お腹が空くだけで死なないしね。
その[お腹が空く]が辛いんだけれど!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます