第130話 とある領の奇跡

 魔獣に遭遇するともなく順調な旅路です。

 森を歩いて(私はミスティルおんぶ)いると地図がシュッと開き、赤点が沢山浮かび上がる。

 鳳蝶丸も気付いている模様。

 それでも構うこと無くどんどん前へ進んだ。



「何処に行くんだぁ?俺達と遊ぼうぜぇ」

「男なのは残念だが、美人揃いだから高く売れるなっ兄貴!」

「ちっさいのも綺麗だし高く…………」



 バキッ!ボコッ!

 バタンバタンッ!



 3人は、相手が武器を構えるヒマがないほどあっと言う間に伸してしまう。

 影に隠れていた男達は鳳蝶丸が全部伸してから投げ飛ばしていた。


 気が付いて暴れられるのも面倒臭いと、ミスティルがイバヤちゃんを呼び出し男達をギュウギュウに縛りあげる。

 もちろん棘有りで。


 それと、棘を引っ込めたイバヤちゃんが私に挨拶してくれた。

 イバヤちゃん。お久しぶりデス!




 このまま連れて次の町まで歩くのも面倒だし、先に進めなくなると鳳蝶丸達に指摘されしばし考える。


 ラヴラヴズッキュンにしちゃう?

 でも、町の外で体が動かなくなった時、魔獣に遭遇すると危険だよね?



 うーん。

 うーーーん。



 あ、そうだ!

 最寄りの衛兵待機所など取り締まり機関に自分で行って、行なった悪事を洗いざらい自白して、何ならアジトの場所にも案内して事細かく悪事を説明し、兵士さん達に捕まえて貰えばいいんだ!

 ついでに、今後悪いことをしようとすると体が勝手に取り締まり機関に向かっちゃってどんどん自白にすれば、私達何もしなくていいんじゃない?


 二度と悪いことをしたくなくなる様に、ラヴラヴズッキュンもしたいけれど……。固まっちゃうと自白出来ないからなぁ。


 あ!

 悪いことを考えるだけで変な語頭語尾にする?


 語頭に「ハアアァン(ハート)」語尾に「ポヨヨ〜ン♪」なんてどう?

 ついでに、体が勝手にクネクネしちゃうってどう?


 良しっ。

 対象、ここにいる男達とその仲間および悪事を行う関係者全員。


 【天罰!ごべんだざぁい!全部おはだじ、いだじまずぅぅ!】



 ピシャッ!ドドーン!



 途端に男達に天罰が下る。

 私が皆に画面を見せると、面倒なことをしなくても済むと喜ばれた。


「イバヤちゃん、あにあと、もう、いいよ」



 イバヤちゃん達が男達の拘束を解く。

 気付いた1人が、激昂して拳を振り上げ、こちらに向かって来ようとして足が止まる。



「ハアアァン(ハート)」


 おしりフリフリ。


「ふざけんな!ポヨヨ〜ン♪」


 おしりフリフリ。


 !!!



 男が驚愕の表情を浮かべた後、ウッ!と言って脂汗を流しながらブルブル震え出す。


「俺は、俺は、………アアアァァァァァ!」


 凄い勢いで走り出す。

 多分何処かの衛兵待機所へ向かったのだろう。

 他の男達も目覚めてから順に走り去った。



 罪をしっかり償って、もう悪いことはしませんように。







 ある地方で不思議なことが起きた。


 この辺りの有名で凶悪な盗賊殺戮集団全員が自訴したのだ。

 しかも皆、言いたくないのに言ってしまう、という苦悶の表情を浮かべていた。


 ある者は両手で口を押さえようとし、ある者は頭を地面に打ち付け、ある者はブルブルと震えながら、自分の犯した罪を洗いざらい告白する。


 今まで規模、アジトの場所、実態も掴めることができず、領主も手を焼いていた凶悪集団。

 なのに、こうもアッサリと拘束できるなど誰が想像出来ただろうか?


 しかも盗賊団の他に、悪に手を染めた侯爵や伯爵、男爵までもが自訴し始める。

 他家の財産を奪い子女を売り飛ばし、一族を破滅させるために盗賊殺戮集団を使役した。その代わりに悪事を揉み消し、資金を与えたのはその貴族達だったのだ。



 今回の件で国が動き出す。

 盗賊団に加担し、国の益となる貴族達の嫡子を惨殺し、子女を売り飛ばした侯爵等の罪は重い。そしてそれを裁けるのは王族もしくは大公しかいないからだ。


 悪事に手を染めた貴族達は国に捕えられ、盗賊団は捕えられた領の領主によって裁かれることとなった。



 不思議なのはその者達が全員おかしな物言いをし、体をくねらせること。

 王族に対してまでもその物言いを行うため現国王の逆鱗に触れ、罪を犯した侯爵本人は処刑、一家取り潰しとなり路頭に迷うこととなった。

 伯爵家、男爵家も然りである。



 盗賊達は点在しているアジトの場所も詳しく発言したため、大規模な調査が行われた。

 そこに囚われていた子女達は保護され、帳簿などにより売り飛ばされた先の分かる者達も保護対象として助けられた。


 助けられた者達は、令嬢や夫人であったころのような生活に戻れなくなった者も多かった。だが国の責任として保護施設を用意し、そこに匿われた。

 比較的動くことができ、希望があった者達には仕事を斡旋した。



 今回の件は、本当に不可思議な出来事であった。

 ただひとつ。不確かなれどこれが理由では?と思われる供述があった。



 天罰が……天罰が下った!

 美しい天の使い達が俺らに天罰を下した!

 


 盗賊殺戮集団の一部の者が述べたこの言葉。

 案外真実なのではないか?



 皆にそう思わせるほど、不可思議な出来事であった。







 ほぼ何もせず無事解決(?)したところで森歩き再開です。


 森に生息する熊さんのお歌を歌いながら進んでいるうちに、だいぶ日が傾いてまいりました。



「今日はここで野営するか」

「そうですね」


 少しだけ開けた場所に出たので、今日は野営することに。


「テントを出す?そのまま寝る?」


 テントを設置出来そうな広さだけれど、折角なのでそのままにしようかな。



 私達が横になれる十分な広さに帆布シートを敷き、結界を張った。

 キャンプ用の焚き火台や焚き木に必要なセットを再構築して複写。友人達とキャンプに行った時のことを思い出しながら焚き木を組んだ。


 固形着火剤少し、その上に割り箸の様な細い木を載せて、更に太めの木を組んで行く。レーヴァにお願いして細い木に火をつけ、着火剤あたりに差し込むと炎が上がった。



 パチパチと爆ぜる音と赤い炎。森の静寂と、木々の合間から見える日暮れた空に輝く星。



 ロマンティック~♪



 地球でのキャンプは、管理人さんが常駐しているキャンプ場だったので雰囲気が全然違う。


 実は魔獣が蠢いているけれど…………。

 私達に近付いて来ないし、3人が側にいるし、結界張っているから安心!




 簡易テーブルとコンロ、まな板、フライパンを出す。

 今日はフォレストバイソンキング(SS級)のステーキ、ガーリックバター醤油にするよ!


 ニンニクを薄切りにしておく。

 お肉は焼く直前に塩コショウをしっかりつける。


 バターとニンニクを焼く。

 ニンニクバターソースは別のボールにあけて、そのままのフライパンでステーキ肉を強火と中火で焼く。

 ボールに入れておいたニンニクバターを戻し、醤油を回しかける。

 お肉を皿に盛って、バターを一欠のせて、ソースをかけたら完成!


 うーん。

 辺りに漂うガーリックバター醤油の香り。

 今日は複写せずそのまま食べる?って聞いたら、おかわりをするので複写で頼むと言われ、即収納。

 皆さん、無限ステーキするつもりですね?


 一応コーンスープ、ミニサラダ、ご飯、焼き立てパンも用意。



 それでは、皆でいただきます!



 鳳蝶丸とレーヴァが豪快に頬張る。


「うん、間違いない、美味いね!」

「ずっと食ってられる」


 私の分は鳳蝶丸がひとくち大にカットしてくれて、ミスティルが口に入れてくれた。


「おいちいね」

「ええ。本当に」


 私以外はステーキおかわり祭りを開催していたよ。



 人ダメソファに寝っ転がって木々の合間から見える星空を眺めた。


「この森を抜けると、遠くに見えるあの山を越えることになる」


 山の向こうに町があって、そこから船に乗って別大陸に行くんだって。


 山越えか。

 飛行ひぎょうで越えちゃおっか。


 そう提案してみたら、皆もそうしようと思っていたらしい。


「明日は飛んで町まで行っちゃおうか」

「うん」

「明日も早いからな。お嬢はもう休むといい」

「…あい」

「わたし達がいるので安心して眠ってください」

「……あにあ……と………」


 では遠慮なく。

 お休みなさい。また明日。

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