第129話 ファーストチッスはまだ早い

 馬車移動で数日。

 魔獣にも襲われず、特に何も無く、平和な馬車旅は続く。


 変わったことと言えば、食事の時間に私達をチラチラ見る人が複数現れたこと。

 ラーメン効果恐るべし。でもご飯が食べにくいから止めて欲しい…………。


 食後のパレパレポウを食べていた時、商人らしき1人が声をかけてきた。


「突然すみません。こうしてお話するのは初めてですね。私はアロアロと申します。見ての通り、行商人です」


 アロアロさんが背負子を指して言った。


「あい。わたちたち、行商人、ゆちでしゅ」


 私だけ挨拶をして様子を見る。何のご用事?


「あのラメーン、美味しかったです。他にも色々とお持ちの様ですね?マジックバッグなど行商人の憧れです」

「あい」

「あの、それでですね。私はまだ駆け出しの行商人でして、出来れば優秀商の皆様のところで修業させていただきたいのですが」



 修業?!



「そっそれならば私も!年はいっていますが、まだまだ未熟者。私も弟子にしていただきたいです!」



 おおう!この人も?



 駆け出しの商人が大店のところで修業するのは珍しくないんだって。

 でも、私達について来られては困る。


「弟子とやない、ごめなしゃい、あちやめて?」

「俺達は弟子を取らないんだ。悪いけど諦めてくれない?」

「お役に立てるよう努力いたします!」

「私も、何でもいたします!勉強をさせていただきたいです!」

「いや、いらん」



 バッサリ鳳蝶丸。



 その後も結構しつこく粘られた。

 この馬車降りるかな?って思ったら、マウイさんがやって来て、乗車の間は勧誘や争い、揉めごと等禁止なので止めて欲しい。他のお客さまに迷惑をかけるようなら下車してもらうと間に入ってくれた。

 行商人さん達はその言葉に口を噤む。


 そして、マウイさんが私達に体を向けた。


「申し訳ない。あなた達がとても優秀なので、彼らは憧れているのです。どうかご容赦を」

「あい、いいよ」

「でももう私達に関わらないでください」

「………」「………」


 なんか怪しいけれど、この場は収めることにした。






「次は目的地のアーヌエヌエでございます。10日もの長旅、お疲れ様でございました。また清潔なトイレのご提供、足の運動などをお教えいただきゆき様と皆様には大変感謝しております。体調を崩すお客様も無く快適な旅でございました」


 馬車の皆さんが拍手をしてくれる。

 トイレテント代をいただいて、こちらこそありがとう。それと皆さん具合悪くならなくて良かったね!



「この度は、ピピパライ兄弟の馬車へ御乗車いただきありがとうございました。御者は私、兄マウイと弟のマケイ。護衛は冒険者【雷虎の牙】の皆さんでした。またのご利用お待ちしております」


 皆さんから兄弟と冒険者に盛大な拍手が送られ、この旅が終わる。


「第1門を入りましたら馬車降車場にまいります。それまではお立ちにならないようお願いします。お忘れ物無きようご確認ください」




 やがて馬車はゆっくりと停止する。

 マウイさんがまだと手で制し座っていると、何度か動いたあと完全に停止。足場が用意され皆さんが降りだした。


 レーヴァ抱っこで外に出る。

 目の前には高い塀と大きな門。地図で確認するとアーヌエヌエはミールナイトより更に大きな町だった。


 南国っぽい景色は途絶え、石造りの町である。

 でも、木造部分はオッコソルトっぽいので、やはりデリモアナに近い国なんだなと感じた。


「トイレありがとうな。今までに無い、めちゃくちゃ快適な旅だったぜ」


 冒険者の男性に声をかけられた。


「それに、俺達は必要か?ってくらい魔獣が出なかったしな。まさか昼前に到着出来るとは思わなかったぜ」

「また、護衛、しゅゆ?」

「ああ。俺達の拠点はハロハロだからな。数日この町で休憩したらまたマウイさん達と戻るぜ」

「たえに、魔獣、出ゆたも?ちをちゅてて」

「帰りは魔獣が出るかもしれないから気を付けてって言っているよ」

「何故わかる?」

「我が主は魔獣を寄せ付けません」

「まあ、そう言うことだ」


 えっ?どう言うことだ?!と驚いている男性を置いて、私達は門に向かって歩き出す。


「バイバーイ」


 私が手を振ると、マウイさんもマケイさんも冒険者の皆さんも手を振ってくれた。


「ありがとうな!携帯トイレが出回ったら買うぜ!」

「道中お気をつけて!」

「足の運動、広めますね!」

「あにあとー、バイバーイ」




 門前で町に入る列に並ぶと、私達のすぐ後にあの一家が並んだ。

 もちろん気が付いていたけれどね。


「すみません。どうしてもお話がしたくて待っていました」

「話とは何だい?」

「まずは、私達が寝過ごしそうになった時、声をかけてくれてありがとうございました」

「ああ。気にしなくていい」


 すると、グズグズと泣いている弟君の背中を押すご両親。

 レーヴァに言って降ろしてもらって弟君を見ると、涙と鼻水でぐしゃぐしゃの顔をしていた。


 そして、突然両手を広げて私に突進してくる。



 ブチューッ!



 熱烈なキスをしてきた!

 ………レーヴァの手の甲に。


 既の所でレーヴァの手が私の唇を守ってくれたのだった。


「我が姫がお嫁に行くのはまだ早いし、俺達より強い人の子じゃなければ認めないよ?」


 鳳蝶丸とミスティルがウンウンと頷いている。



 俺達より強い。

 俺達より強い?!

 絶対お嫁にいけないんじゃ……………?



 まあ、行く気も無いけれど。



 ミスティルが私をサッと抱き、一家に背を向けた。

 鳳蝶丸がミスティルの後ろに立って、弟君と向かい合わせになる。


「坊主。お嬢が好きなら誰よりも強くなってみろ」


 そして、何も言わない両親に向かって、今回は許すが次回は無いぞ、と釘を差した。




 一家とは口を利かないまま町に入る。

 今度はあの商人さん達が待ち伏せていたので、全員で気配完全遮断をかけた。


 途端に私達の行方が分からなくなり、驚いている様子の2人。



 ごめんね。

 弟子は取らないからあきらめて?

 そして、行商人のお仕事がんばってね。




「更に北東に向かうが、また馬車に乗るか?」

「ううん、止めゆ」


 馬車旅も満喫したし、また弟子にしてと言われると困るし。当分の間は馬車じゃなくていいや。


「徒歩、しゅゆ」

「わかりました」

「気楽でいいね」


 アーヌエヌエの町を観光しようかと思ったけれど、今回はこのまま先に進もうということになった。

 転移の門戸でいつでも来られるしね。


 私達は別の門へ移動して外に出る。

 このまま北東へ向かい、海を目指すよ。

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