第128話 だから、収拾つかなくなるってば…
お昼寝したりしているうちに[桜吹雪]出店の時間が近付いて来ました。
鳳蝶丸抱っこで冒険者ギルドに向かうと、カノアさんが酒場にいる冒険者に一旦席を立つよう指示していた。
「準備をして良いか?」
「ああ、来てくれたか。頼む」
まずは食器返却箱、ゴミ箱を2個ずつ指定場所に設置、日頃酒場で配膳をしている女性達に食器やゴミの片付け方を説明する。
汁物が残っても、そのまま食器返却箱に入れて構わないと伝えた。
機能はゴミ箱と同じだからね。
試食がしたいと言う人用の小さな木のお椀も用意する。
すでに麺10本くらいとスープ、餃子半分、炒飯ひとくちを入れてあるので出すだけだよ。
酒場のカウンター近くに簡易テーブルを1脚、レーヴァが書いたメニュー表を何枚か置く。
カウンターにはビールサーバー。
レモンサワーはすでに作ってある。あと冷たいサイダーとノンアルコールビールをグラスに注ぎ済みで、皆のマジックバッグに入れてある。
もちろんトレーに載せたラーメン各種と炒飯、冷たい水も準備済み。ちなみに箸ではなく先が波々になっているフォークとレンゲを添えてある。炒飯にはレンゲね。
今回のメニューは醤油、味噌、塩、担々麺、豚骨ラーメン、炒飯、餃子一皿10個。値段はラーメン・炒飯8百エン、餃子5百エン、アルコール4百エン、サイダー2百エン。
こんなもんかな。
まずは配膳してくれるお姉さん達に試食をしてもらう。
麺が少なかったからか、ラーメンを見た時「虫………」と言われたけれど、貴女達が味を知らないと説明できないから兎に角食べてみてと言うと、恐る恐る口にした。
「んっ!美味し〜い!」
「何これ、食べたこと無いよ!」
「試食じゃなくて食べたいんだけど」
女性が飛び跳ねて喜ぶ姿は可愛いね!
お店が終わったら、賄として好きなものを好きなだけ食べて良いと言うと、めちゃくちゃ喜んでくれた。
その後、レーヴァが説明したんだけれど、女性達が顔を真っ赤にして目を高速パチパチしていたよ。
「これが醤油ラーメン」
「ショオユ、ラメーン(ハート)」
「これは担々麺」
「タンタメーン(ハート)」
やっぱりラメーン。
そして今度はタンタメーン……。
うん、もういいや。
配膳なお姉さん達が試食をしていると、何だ何だとギャラリーが集まってくる。
丁度良い頃合いなので試食を配ることにする。
「こばわ、シャクヤ、フブチでしゅ。18時、20時、おみしぇ、だちましゅ」
「俺達は商人で屋号は桜吹雪。本日のみ18時から20時限定でラーメン屋を開店する」
「いよっ!待ってましたぁ!」
「楽しみにしてたぞ!」
一部の人達から大歓迎されたよ。
知らない人達は何事だ?!って困惑顔だけれど。
「メニューはあちらに置いておきます。皆で回し読みしてください」
ミスティルが簡易テーブルを指す。
「これから試食を配るよ。味見したい人はお嬢さん達から貰って」
お姉さん達がトレーにお椀を載せて配り始める。
「タンターンも美味かったが、豚骨も美味いな!」
「ああ…どれも美味い、迷うぜ…どれにしよう」
コモマイさんはコッテリ系が好きなのね。
一部の人達以外は謎の食べ物に躊躇していた。そこにカノアさんがやって来る。
「どれ。コイツらを夢中にさせた飯の試食をしてみるか」
そして、お姉さん達から1つずつ貰い口に運ぶ。
「んん!」
「ギルド長!大丈夫か?!まさかお前達、毒を…」
「美味いっ!」
「え?」
側にいた男性が毒を入れたのかと言いかけて、カノアさんの言葉にポカーンとする。当のカノアさんは夢中で全ての試食をした。
「美味い、美味すぎてヤバい。何を食うか本当に迷う……」
うーん、と迷いつつ、直ぐにニカッと笑った。
「ついて行けてない奴らもいるよな。すまん」
カノアさんがそう前置きして、私達は優秀商なので信用して良い。コモマイさんが食べてめちゃめちゃ美味かったと聞き、今夜限りの出店を頼んだと説明した。
「なら食ってみるか」
「おう。優秀商だしな」
そう言いながら試食を始める皆さん。
「んん!!!うんまいっ!」
「絶対買う!」
口々に感想を言ってくれた。
「職員達も休憩を取って飯にすると良い。順番は話し合って決めてくれ」
やった!
良し、下の者から休憩に入れ。
職員さん達も早速順番を決めていた。
冒険者の中には家族にも食べさせたいという人もいて、カノアさんが時間内なら一般人もいいぞと言い、その冒険者は凄い勢いで駆けて行った。
「収拾がつかなくなるぞ?」
「ん?」
鳳蝶丸の言葉にカノアさんが不思議そうな顔をする。
「言ってしまったものは仕方が無いよ」
「飲みもも、こえにしゅゆ。うちゅわ、持ちたえり、しゅゆ」
飲み物の器をグラスから木のコップ(桜吹雪のロゴ入)へ、ラーメンや炒飯の器やお皿も陶器から木の器やお皿(桜吹雪のロゴ入)に急遽再構成する。
「器や皿は持ち帰りしても良いことにしました。ご自宅で食べるよう促してください」
「客が溢れてきたら、ギルドの職員で整理してくれ」
「ここに2列だよ」
「わ、わかった……そんなか?」
半信半疑で頷くカノアさん。
結果はわからないけれど、準備だけはしなくちゃね?
「何だこりゃ!」
「飯も美味いがエール最高だ!」
「俺はこのレモンサワーってやつだな。ギョーザにめちゃくちゃ合う!」
気が付くと、冒険者ギルドの外まで行列が出来上がり、ごった返していた。
職員さん達は食事どころではなく、列の整理などで手一杯になっている。
「きちんと並んでくださーい!」
「席はありません!器や皿は差し上げるので持ち帰って食べてくださーい!」
噂が噂を呼び、街の人達や宿泊者達もやって来る。
中には同じ馬車の乗客がいて驚かれたりもした。あの、野営場で会うご家族も買いに来ていたよ。
「もう今の最後尾で止めてくれ」
男性職員さん達が最後尾まで行って、断りを入れ始めた。
何でだよ!俺達はまだ食ってないぞ!と言う声が離れた場所から聞こえる。
ごめんなさい。でもそろそろ区切らないと終わらないからね。
「すまん。完全に俺の読み違いだ」
最後の1組の購入が終わり、本日の桜吹雪は閉店した。
給仕の女性達も、職員さん達も疲労困憊で力尽きていたよ。
「まあ、いつものことだ」
「そろそろわたし達は戻ります」
「ああ、時間を伸ばしてもらって申し訳ない。感謝する」
カノアさんが頭を下げた。
「俺は残ってお嬢さん達に食事を提供したいんだけれど、いいかな?」
「職員にもな」
そう言うとわぁっと盛り上がる。
「鳳蝶まゆ、2人、残ゆ、皆しゃん、ご飯」
「ああ、了解だ。ミスティル、お嬢を頼む」
「もちろんです」
私とミスティルは先にテントへ戻ることになった。
鳳蝶丸とレーヴァは残って、給仕の女性達と職員さんに食事を提供してから戻ってきてもらうことにした。
皆さんには無料にしてねと伝えると、レーヴァがにこやかに頷く。鳳蝶丸はレーヴァを見て苦笑していた。
おはようございます。
まだ夜明け前の早朝です。
昨夜私は夜ご飯を軽く食べて結局寝てしまいました。
鳳蝶丸とレーヴァは私が眠ってから帰ってきたらしい。
自分を含む皆を清浄。着替えて、テントを片付ける。
まだ時間に余裕があるので、テントのあった場所に帆布シートを敷き朝ご飯を食べた。
今朝はたっぷりタマゴサンドとツナマヨサンド、あと珈琲です。
ゆっくり食事をしていると、カノアさんがやって来た。
「おはよう」
「おはよ、ごじゃい、ましゅ」
お互い小さな声で話す。
「昨日は感謝する。時間を伸ばして、職員たちにも食事を振る舞ってくれてありがとうな」
「あい、いいよ」
「これ、礼と言ってはナンだが持って行ってくれ」
麻袋を渡された。中を覗いて鑑定する。
「ポニイミョ!」
しかも高品質で大変美味なポニイモだった。
もう1種類はウアライモと書いてある。こちらも高品質で大変甘く美味と表示されていた。
「美味い野菜を作る知り合いがいるんだ。マジックバッグだと聞いたし、イモなら日持ちすると思うんだが」
「あにあと!おイモ、だいしゅち!」
「おお、そうか。良かった」
私の頭をナデナデしてニカッと笑うカノアさん。
「ごはん、食べた?」
「いや、まだだが」
お礼のお礼になっちゃうけれど、肉巻きおにぎり弁当とポニイモの煮物を出した。
「こえ、あでゆ」
「貴方にあげるそうですよ?」
「えっ、いや…」
「貰わなかったら後悔するぜ?」
「………ありがとう、お嬢ちゃん」
「しょえ、わたちたち、ちょういちた、ポニイミョ」
「それは俺達で料理したポニイモだよ。凄く凄く美味いから食べてみてよ」
カノアさんがポニイモの煮物を1つ、パクリと口に入れる。
「ん!」
モグモグ…。
「これ、本当にポニイモか?いや、柔らかさやネットリ感はそうだが…エグみも無いし美味すぎるっ」
「そうだろう?厚めに皮を剥いたら塩水で揉んで、直ぐに水で洗い流してから調理してみな」
「味付けは特別の調味料だから同じ味は難しいと思うけど、やってみるといいよ」
「色々とありがとう。家族でやってみる」
「あい、やってみて」
まだ少し時間あるけれど、早めに集合場所に向かおうかな。
私が立ち上がると、3人も立ち上がって片付け始める。
帆布シートやお土産のおイモは鳳蝶丸が全部仕舞ってくれた。
「じゃあね」
「ああ。道中気を付けてな。良い旅を」
「あにあと、おでんちで」
「元気でな、と言うことだ」
「ありがとう。いつかまたこの町に遊びに来てくれな」
「うん、またね。バイバイ」
「またな」
カノアさんに見送られながら、いざ馬車乗り場へ!
、の前に……。
「鳳蝶まゆ、あのテント、声たてて」
あの一家がまだ起きていない?みたいなので声をかけてとお願いする。
わかったと言って彼らのテントに近付き、鳳蝶丸が声をかける。
「そろそろ起きないと馬車に間に合わなくなるぞ」
「ん…?」
「俺達は先に行くからな」
わああ!という声と共に、お父さんが飛び出して来た。
慌てて奥さんや子供達を起こしていたので大丈夫かな?
「今度こそ、本当に出発する」
「おう」
カノアさんが大急ぎで片付ける一家を苦笑して見ていた。
「じゃあな」
「うん、バイバイ!」
たった一夜の[桜吹雪]だったけれど、結構楽しかった。
今後も機会があればやろうかな。
「ま、間に合ったあ!ハアハア………」
野営場にいた家族はギリギリ出発に間に合いました。
良かったね!
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