第126話 再びラメーン
翌朝外に出ると、隣のご家族が丁度テントを片付け終わったところだった。
弟さんが走ってきて私の手をギュッと握る。
その後を慌てた両親がやって来て、私から引き剥がした。
「も、も、も、申し訳ございません!」
「貴族様にご無礼を。処罰ならばどうか母である私を!」
ん?
あ、また貴族と間違えられた?
「俺達は貴族ではないぞ」
「しかし、姫様と………」
「ああ。それは、俺の可愛いお姫様、と言う意味だよ」
「本当に貴族様では無いのですか?」
「わたし達は主の従者ですが、主もわたし達も貴族ではありません」
その言葉にホッとした顔をするご両親。
「俺達は行商人だ」
鳳蝶丸が話している間にレーヴァ抱っこでテントを仕舞う。
「そのテントといい、トイレといい、そのまま入るなんて凄いマジックバッグですね?」
それに気がついたお父さんが感心して言った。
「商人だからね」
「商人でも、そこまでの容量が入るものを持つ人など極一部だと思いますよ」
「そうかな?念の為言うけど売らないよ?」
「もちろんです。そんなお金はありません」
レーヴァが受け答えしているうちにテントを張った辺りを清浄して、冒険者ギルドに向かう。
「そろそろ行かないと馬車に間に合わないんじゃない?」
「そうでした!我らも行きます!」
何故かついて来る一家。
まあ、方向は同じなんだけれどね。
特に何事もなく平和な旅程です。
護衛の冒険者達が、魔獣が全く襲ってこないのは何故だ?と話していた。
多分それは私のせいです。
ダンジョンの魔獣でも無い限り、半神である私には攻撃をしないらしいので。
私に怯えて近付かないなら、馬車を引いているスレイクは大丈夫なの?とミスティルに聞いたら、怯えているのではなく、襲っても勝ち目がないから近付かないんだって。
スレイク達は戦うつもりは無いし、怖がっているわけでもないので問題無いんだって。
怖がられていなくて良かった。
と言うことで、討伐で馬車を止めることなく進んでいるため、夕方到着する予定だった町へ昼前に到着。
所々に椰子が生えている、わりと大きめな町だった。明日出発だから少し観光できるかな?
馬車を降りると老夫婦が声をかけてくる。
「わしらはここで下車なんじゃ」
「しょうなの?」
「おじーいちゃぁん!おばーあちゃぁん!」
突然子供の声がした。
声の方を見ると、手を振りながら走ってくる子供達と、手を振る女性と男性。
「今日から娘夫婦と一緒に住むことになったんですよ」
おじいさんもおばあさんも嬉しそう。
「わしらは老体だし、長距離の旅に不安があったんじゃ。でもおかげさまで無事目的地に着けたよ」
「今回の旅は貴女のおかげでそれほど具合悪くならず、とても楽でした。ありがとう」
「よたったね!」
お役に立てて何よりです。
「じゃあ、元気でな」
「ウルトラウス様のお導きがありますように」
「あにあと、おでんちで。バイバイ!」
手を振って老夫婦を見送る。
老夫婦は何度も頭を下げながら娘さん夫婦と合流し、お孫さん達と手を繋ぎながら、新生活へと向かって行った。
何歳からだって新しい出発があるんだね。
娘さん夫婦と一緒に楽しく健やかに過ごせますように。
私達はまた冒険者ギルドの野営場を利用することにした。
前回と同じような手続きをして管理人に札を見せ、ギルド裏の野営場にテントを張る。
あのご家族がすでにテントを張っていたけれど私達は隣に行かず、入り口の管理人小屋近く、柵の横にテントを張った。
また弟君が私に突進してくるといけないので、離れた場所に設置したんだって。
私達はテントに入り、寛ぎの間でゴロゴロ転がる。
「おひゆ、何、食べゆ?」
「昼か。久しぶりにラーメンがいいな」
「いいですね」
「ラーメンと、炒飯と餃子でどうだ?」
「わかた。しょと、食べゆ?」
「そうですね。外で食べましょう」
せっかくお天気なので、外で食べよう。
テント前に小さめの帆布シートを敷いて、防塵・防砂と清浄の結界を張り、そこに6人掛けテーブルを出した。
「何、食べゆ?」
「俺は醤油」
「わたしは味噌をお願いします」
鳳蝶丸は醤油、ミスティルは味噌ラーメンを選択。
レーヴァは辛いのが食べたいとのことだったので、辛口担々麺を再構築して出した。
ついでに、キムチ炒飯と辛口ラー油も再構築。
辛い食べ物を用意したよ♪
「いただきます」×全員。
私は野菜たっぷりタンメンにした。小さな器に入れて冷ましてから食べさせてもらう。
「おいちいね!」
「ああ。何度食べても美味いな」
「んー!辛くて味も濃くて美味い!」
「レーヴァの炒飯は何故赤いんです?」
ミスティルが不思議そうに聞いてきたので、キムチと言う唐辛子を使った辛い漬物を入れた炒飯だよ、と説明した。
一応唐辛子を再構築して見せると、こちらの世界にもあることがわかった。
ちなみにレッチリと言うらしいよ。
鳳蝶丸とミスティルが担々麺とキムチ炒飯と餃子をおかわりした。
レーヴァは再度同じものをおかわり。
うんうん、沢山食べてね!
「突然すまん。凄い良い匂いだが、それは何だ?」
柵越しに男性から声がかかる。屈強な体躯を持つ、50代くらいの男性だった。
「俺は冒険者ギルド職員。この広場の管理人としてあの待機小屋で働いている者だ。いや、凄い良い匂いだし見たことない食い物だったんで、気になっちまってな」
「これはラーメンと言う食べ物だ」
「ラメーン………?」
あ、久しぶりに聞いた!
ラメーン!
「………旅人の貴重な食べ物に対してお願いするのはいけないことだが、もし、可能ならば、ひとくち味見をさせてもらえないか?もちろん金は払う。それとは別に、町で食べ物を買って返すよ」
「うん、いいよ。食べ物たくしゃん、あゆ」
「食べるものは沢山あるから売る事自体は問題無い」
「本当か!」
「だが、ここで商売しても大丈夫なのか?」
「ここは野営場と見做されるので、商業ギルドに登録してなくても食料の販売は問題ないと思うぜ」
「俺達は行商人だから販売は問題ない。ここで金のやり取りをしていいなら売っても良い」
男性は「あんたら行商人なのか?!」と驚きつつ、嬉しそうに笑っていた。
私は醤油、味噌、塩ラーメンとタンメン、担々麺、焼豚ゴロゴロ炒飯、餃子を出し、小さめの深皿に少しずつ(餃子は半分)入れてとミスティルにお願いする。
金額は調査隊の時と同じでいいよね?一応メニュー表も出しておこう。
「こちら側に来られる?まずは味見して、どれを買うか決めるといいよ」
レーヴァが近くに来るよう促して、トレイに載せた味見セットを差し出した。
「いいのか?」
「初めて、食べゆ、試食、大事」
「姫の優しい心遣い、心して食すように」
「姫?!」
男性が姫という言葉に一瞬身を固くしたけれど、鳳蝶丸が愛称だと言うとホッとしていた。
「う、う、う、美味いっ!1つに絞れん!」
柵の中に入って来て小皿の試食を全部食べるとどれにしようか悩みだす。
「おちごと、だいじょぶ?」
わりと長い時間悩んでいるのでちょっと気になるよ。
「ああ。仕事終わりだから問題ない」
「食事する座席の用意は無いぞ」
「あの小屋に戻って食べてから帰る」
それなら大丈夫だね?
「よしっ決めた!タンターンとチャハーンと餃子にするぜ」
餃子は普通なんかいっ!(ペシッ!)
ギョザーって言うかと思ったのに。
そして、まさか担々麺がタンターンになるとは思わなかったよ。
お金を貰い、一式をトレイに載せて渡す。オマケは冷たくて美味しいお水ね。
「食べ終わったらテント前に置いてくれ」
「わかった。ありがとな!」
男性は嬉しそうにトレイを持って小屋に戻って行った。
「何だかもう一杯食べたくなったな」
「俺も」
「わたしもです」
OH!すごい食欲。
〆にさっぱりしたタンメンが良いと言うことで3人分出すと、皆嬉しそうに食べ始める。
私はもう何も入らないので、美味しそうに食べる3人を眺めるだけにした。
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