第125話 美ン味い!バイオレントホグエンペラー(SSS級)

 皆さん横になったりトイレに入ったりと休憩している中、ふと高齢のご夫婦を見ると、おばあさんが少し苦しそうに横になっていた。


「だいじょぶ?」

「ばあさんが少し苦しい、足が痛いと言うんだよ。長い馬車の旅で亡くなる人もいるし心配じゃ」


 許可を取って足を見ると、少し浮腫んでいるみたい。

 鑑定すると『肺血栓塞栓症の疑い』と出ていた。肺血栓塞栓症はいわゆるエコノミークラス症候群だよね?

 フェリアでは予防策など出回っていないのかな?


 そう考えると馬車の旅って命懸けなんだ。


「エコノミクヤシュ…」

「それは病気かい?」

「ちょとまって」


 鳳蝶丸のところへ行き、通訳をお願いする。



 旅の間、横になるならば巻いた毛布などを足の下に置いて高くすること。

 水分や食事をしっかり取ること。特に水分はこまめにとるように。

 馬車に座っている間も、時折踵とつま先の上下運動をすること。

 ふくらはぎをモミモミすることなどを伝えた。


 おじいさんは私達の言葉を聞きながら直ぐに毛布を丸め、おばあさんの足の下に置く。そして、おばあさんのふくらはぎをモミモミし始めた。


「ありがとう。やってみるよ」

「おじいたん、あち、こうしゅゆ」

「自分も足の運動をするように、とのことだ」

「ああ。わかった」


 しばらくするとおばあさんが起き上がって水を飲み始める。



 体調が落ち着いたのかな?良かった。



 お昼休憩が終わり、トイレテントをそのまま仕舞って清浄、馬車に乗り込んだ。


 その後は眠くて眠くてレーヴァ抱っこで微睡む。

 お腹あたりを優しくポンポンしてもらいながら、安心して眠るのだった。

 お休みなさい。




 気がつくと次の休憩拠点だった。

 眠い目を擦りながら馬車の横にトイレテントを出す。ペグ打ちは皆でやったので直ぐに終わった。

 ちなみに、私は自分専用の1人用トイレテントだよ。


 ここでの休憩は30分。

 建物までトイレに行かずにすむから時間に多少の余裕が出来た。


「お昼はありがとう。おかげさまで大分落ち着いたわ」

「よたった」


 念の為鑑定すると『肺血栓塞栓症』の文字が消えている。

 うん、良かった!


 するとマケイさんが近付いて来た。


「具合が悪かったのですか?」

「ええ。馬車旅で起こるあの病よ」

「なっ!大丈夫ですか?横になりますか?」

「いいえ、大丈夫。お嬢ちゃんに対策を教えてもらったら大分落ち着いたわ」

「予防、でちる」

「本当ですか?!あの、我らにも教えてもらえますか?」

「うん、いいよ」



 マケイさんがマウイさんを呼んできたので、鳳蝶丸にもう一度説明してもらった。


「お嬢は信じてもらえるのか?と心配している」

「もちろんです。やって体に悪い事ではありませんし、こちらの奥様の調子が落ち着いたのですから」

「一応言っておくが、あくまでも予防だからな」

「はい。調子が悪いお客様がいらっしゃいましたら、ポーションを販売いたしますので問題ありません」


 そして、休憩終わりの出発前、マウイさんからエコノミークラス症候群の予防策の説明があり、皆で実践してみることに。

 死にもつながる症状だし、皆さん真剣に取り組んでいた。




 今日泊まる町に着いたのは15時頃だった。

 エコノミークラス症候群の予防策を実践してみた結果、車酔いはあれど誰も息苦しさやふくらはぎの痛みを訴えず、無事1日を過ごせたようだった。


「このことを広めても良いですか?」


 マウイさんに聞かれたので、あくまでも予防策だと言うことを付け加えてくれるならと承諾した。他の皆さんも身近な人達に伝えると言っていた。

 これで具合悪くなる人が少なくなるといいな。



「では、明朝4時集合、4時30分出発です。皆さん遅れないようお願いします」


 本日は解散です。

 宿は自分で申し込むらしいので、レーヴァがマウイさんとマケイさんに泊まれる場所を尋ねていた。


「テントを張れる場所は無いかい?」

「この札を見せれば冒険者ギルド所有の土地を借りられますよ」

「冒険者ギルドはこのまま真っ直ぐ行った突き当りにあります」

「わかった。行ってみるよ」


 冒険者ギルドでテントが張れそうなので、4人で冒険者ギルドへ向かった。




 それほどかからず冒険者ギルドに到着。

 受付で馬車のチケットを見せテントを張れる場所を1泊分借りたいとお願いしたら、使用料金2千エンで貸してくれると言うことだった。

 使用料を支払うと、管理人に見せれば野営場に入れますと札を渡される。


「野営場はどう行けば良いのかな?」

「はいっ。この廊下をぉ、真っ直ぐ行ってぇ外に出たらぁ、係員にぃこの札を見せてくださぁい」


 受付のお姉さんがめっちゃクネクネしながら高速で瞬き。

 あの瞬き、どうやったら出来るんだろう?やってみたい。


「ありがとう、親切なお嬢さん」


 レーヴァが超艶っぽい笑顔でバッチンとウインクすると、ああん、素敵ぃ〜!とお姉さんの瞳から高速でハート飛びだしていた。



 ねえ、レーヴァ。

 女性に勘違いさせちゃうのはそういうところだよ?




 廊下を真っ直ぐ歩くと突き当りに扉があり、扉の向こうは広々とした野原だった。

 小さな小屋に男性がいて、札を見せる。


「テントが張れると聞いたんだが」

「ああ。こちら側の柵内を使ってくれ」

「わかった」


 野営場は柵で囲まれており、2つのエリアに分かれていた。

 小屋の男性に聞いたら3/4は冒険者用、1/4は旅人用なんだって。

 もちろん私達は、旅人用1/4の柵に案内されたのだった。


 そこにはすでに幾つかのテントが張られている。

 場所を決めて自分達のテントを張っていると、後ろから声がかかった。


「皆さんもこちらに?」


 振り向くと、同じ馬車に乗っている小さな子供を連れたご家族だった。


「ああ。宿に泊まらないのか?」

「宿はすでに満杯だし、まあ、節約のためにね」

「野営場は初めてで緊張してたけど、見知った人がいて安心したわ」

「隣にテントを張っていいか?」

「別にかまわないよ」


 レーヴァの返事を聞いて、お父さんとお母さんが2、3人用くらいのテントを張りだした。

 5歳くらいのお兄さんはご両親のお手伝い、2歳くらいの弟さんは敷物にペタッと座っている。そして、私をチラチラ見ていた。


 準備が終わったので自分達のテントに入ろうとすると、弟さんがヨチヨチと近付いてニコッと笑い、突然私の手を引っ張った。

 咄嗟に引き剥がそうとした3人に首を振り、助けは不要の合図を送る。



「あしょぶ?」


 弟さんは遊びたかったんだね?うーん、どうしようかな。

 引っ張られてよろけた私を見て、お兄さんが慌ててやって来る。


「コラッ。女の子を引っ張っちゃダメだぞ!」

「ごめんなさい!怪我は無いかしら?」

「すまん。痛いところは無いか?」


 お母さんとお父さんも慌てていた。


「だいじょぶ」


 このくらいで怪我はしないよ。


「兄弟も親戚も近所も男の子がほとんどだから、力加減を知らないんだ。すまないね」

「女の子には優しくするのよ?」


 家族に怒られていると思ったのか、みるみる涙を溜める弟さん。

 うわーーん!と泣き出した。


「だいじょぶ。痛い、無い」


 今度は私が弟さんの手を握る。


「ごめんしゃい」

「いいよ」


 しゃくりをあげながら謝ってくれた。

 そして、涙をいっぱい溜めながらニコォっと笑顔を浮かべている本物の赤ちゃん。可愛いね!


「許してくれて、ありがとう」

「うちの子、お嬢ちゃんが可愛くて気になっちゃったみたい。ごめんなさいね」


 ミスティルが私を抱き上げると、お母さんも弟さんを抱き上げた。


「うちの子が乱暴な態度をとってすみませんでした」


 今度はお父さんがミスティル達に頭を下げる。


「主が許したので我らも許します」

「ん?主?」

「姫が優しくて良かったね?」

「姫?」

「では、俺達はこれで……。中に入ろうか、お嬢」

「うん」

「お嬢?」


 お父さん達が私達の関係を不思議に思っている間にテントへ入る。

 今夜は美味しいものを食べてゆっくりしようね!




 夜ご飯は鳳蝶丸とレーヴァリクエストによるバイオレントホグエンペラー(SSS級)のお肉!

 少し焼いて食べてみたら、物凄く美味しい豚肉っぽいので生姜焼きにするよ!

 あとはお野菜たっぷり、お肉はバイオレントホグキング(SS級)の豚汁。

 肉肉しいチョイスにしてみました。



 すりおろし生姜、醤油、酒、味醂を混ぜておく。

 鳳蝶丸にお肉を切ってもらう。厚切りではなく薄切り。我が家の定番。


 バットに薄切り肉を広げ片栗粉を少々まぶす。


 お肉を焼くのはレーヴァ。

 ごま油で表裏を焼いて、混ぜておいた調味料を入れ炒める。

 その間、鳳蝶丸がキャベツの千切りし、ミスティルがお米をといで炊く。


 そして豚汁作りは全員で。

 ごぼう、大根、人参、長ネギ、こんにゃく(アク抜き済)は、ちょっとズルしてカット済を再構築。私の好みで大根多め。


 ごま油でお肉を炒め、火が通ったら長ネギ以外の野菜も軽く炒める。

 以前作っておいたお出汁をいれアクを取りながら煮込む。

 長ネギを入れ、味噌を溶き入れて火を止め完成!

 直ぐ無限収納に入れておこう。



 久々に再構築(一部を除く)じゃないご飯だ!



 では、いただきまーす。

 はむ、モグモグ…………美味しい!



 バイオレントホグエンペラーの生姜焼きは超絶美味しかった。

 肉質はしっかりしていてちょっぴり噛みごたえがあるけれど、噛みしめるとジュワッとジューシーで、脂に甘味もあり、生姜焼きのタレと相性抜群。


 鳳蝶丸に小さく切って口に入れてもらい、ご飯も食べさせてもらう。



 うんうんうん。



「おいちいね!」

「ああ、最高に美味い」

「ご飯にもめちゃくちゃ合うね」

「肉を食べて、良い頃合いに豚汁。至福です」



 結構な量焼いたけれど、全部キレイに無くなった。

 もちろん大量にあったキャベツの千切りももう無いよ。



 あ!そうだ!



 お肉を小さめに切って、もう一度生姜焼きを焼いてもらう。

 そして、生姜焼き入りのおにぎりを皆で結んだよ。


 鳳蝶丸は均等で握り加減も絶妙なおにぎり、ミスティルはギュッと詰まった小さめなおにぎり、レーヴァは大きくてフワッとしすぎなおにぎりが出来上がる。


 ミスティルはもっと優しく、レーヴァはもう少し強めに握るようにと鳳蝶丸指導が入り、やがて綺麗に揃って程よい握り具合のおにぎりが沢山出来上がった。

 その中から皆で選んだ8個を無限収納へ、残りは3つに分けてそれぞれがマジックバッグに入れる。

 お腹が空いたら食べるんだって。


 ちなみに私は歪なピンポン玉おにぎりしか作れなかった。

 3人が貰っていいか?と言うので渡したけれど、あれでいいの?


「お嬢が握った握り飯は大事に食べる」

「じっくり味わいますね?」

「姫のおにぎりを皆に見せびらかそうかな」


 皆って、他の伝説の武器達だよね?

 恥ずかしいから止めてえ〜!

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