第123話 発車~♪オーライ、オーライィィ♪

「んむぅ…」


 瞼がだんだん重くなってきてもう限界に近い。

 抱っこしているレーヴァの胸にスリスリしながら寝る体制をとる私。レーヴァは私の背中をポンポンしながら揺りかごのように揺すってくれた。


「姫はもうおネムの時間だよ。早く決めないと取り引きは無かったことにするけど?」


 ギルド長達の長考に耐えられなくなり、半分以上夢の中へ。


「す、すまん。……全部買い取ろう」

「この先は俺とミスティルでやり取りしてくる。お嬢を頼む」

「ああ、任せてくれ」

「主が眠る時間です。何処でもいいから移動してください」

「わかりました。では、こちらに」


 完全に寝入る寸前、2人が出ていく姿を目にした。あとはお任せするね。

 よろしくです。


 それではお休みなさい。






 早朝です。

 おはようございます。


 起き上がったら掛け布団3枚を積んだベッドの上で目覚めました。


「おはよ、ごじゃいましゅ」

「おはよう」

「おはようございます」

「おはよう。今日も可愛いね」

「布団、あにあと」


 鳳蝶丸が魔法で出したお水で顔を洗って、歯を磨いた。

 使い終わったお水はもちろん清浄だよ。

 次に髪を結ってもらい、洋服を着せてもらう。

 今日は鳳蝶丸のシンプルコーデ。旅の間は野盗に目をつけられないよう、シンプル&地味コーデにするんだって。


「野盗は相手にもならんが、同じ馬車に乗る人の子も狙われてしまうからな」

「あい。じゅっと、こえ、着ゆ」

「姫は何を着ても可愛いから問題ないよ」

「でも、時々可愛い洋服も着ましょうね?」

「あにあと!」


 と言うことで、茶系のシャツとスカート。黒のタイツ、茶系の革靴。

 そして使い古した風のマントを羽織った。



 昨夜、別の部屋に移動して金額を決め、全て納品してきたって。

 鳳蝶丸が持つ行商用のマジックバッグは中身がかなり減ったらしい。ミスティルが持つ食器類他用のマジックバッグも多少減ったって。


 頑張ったねえ、ハンスモンスギルド長。


 お金を渡されたので一旦無限収納のお金フォルダーに入れて、皆のマジックバッグにも分配しました。

 いつ何時お金が必要になるかわからないので各自ある程度は持っていてね。


 そのあと朝食を部屋で食べて、受付でチェックアウトの手続きをしてから商業ギルトをあとにした。




「わあ!」


 馬車乗り場は活気に満ちていた。

 昨日と違って各車輓獣が繋がれている。普通の馬、ダチョウっぽい大きな鳥、やたら大きな牛、キョンみたいな小さい鹿。

 見たことのない動物?魔獣?を見て大興奮!


「あえ?」


 やっぱり気になるのはキョンちゃんだよね?


「あれはスモールスモールディアーと言う魔獣で、小さいけど引く力が強い輓獣だ」

「しゅごい」


 あんなに小さいのに力持ちなんだね。



 私達が乗る予定の馬車乗り場に到着。

 今日は大きな馬が6頭繋がれて……ん?神話に出てくるスレイプニル?!と思ったら、6本足だった。スレイクと言う魔獣なんだって。



 私達が乗る馬車はとても大きくて、お客さんを15人運べるタイプ。その他に護衛と御者2名が乗車するらしい。


 町に立ち寄りながら進むし、トラブルもあったりするので予定ぴったりとはいかないらしいけれど、私達が目指すアーヌエヌエは約10日ほどかかる。


 長旅だけど、馬車の移動ってどんなかな?楽しみ!




 乗車チケットを見せて馬車に乗り込む。

 中はとても広く、4人掛けの椅子が縦に5つ並んでいた。

 前にも横にも後ろにもまだ余裕があるのに何で席が狭いんだろう?って思ったら、荷物を置いたり、急病人が横になったり、護衛が待機したりするんだって。

 馬車だから仕方ないけれど、長時間ここに座っているとエコノミークラス症候群になりそうだよね。


 キャリッジは幌ではなく、木の小屋みたいな感じ。

 両側は硝子の無い窓になっていて、雨が降る時は窓の上についている木の板を下にスライドさせて閉めるんだって。


 ちなみに、前後は内開きの扉。

 見張りのためにほぼ開けていていて、横殴りの大雨や襲撃時のみ締め切るらしい。

 護衛の人が状況を把握しなければならないから開けっ放しなんだね。




 私達は一番後の椅子に座った。前の席はお年を召したご夫婦がすでに座っている。


「おはよ、ごじゃいましゅ」

「お、おはようございます」


 私達を見てビックリした表情を浮かべた。


「旅の方かしら?」

「あい」

「まあ、お返事出来るのね。可愛いわ。どちらからいらしたの?」

「フフッ。マダムのご想像にお任せするよ」


 レーヴァが笑顔でウインクをすると、おばあさんが頬を赤らめた。途端におじいさんが咳払いをする。


「ン、ンン………妻が不躾な質問をしてすまんの」

「いや、大丈夫だよ。旅の間しばらく一緒になるからヨロシクね」

「こちらこそよろしくの」

「よよちく、おねだい、しましゅ」

「ご挨拶も出来て偉いのね。うちは男の孫ばかりなのよ。女の子は可愛いわね」

「本当にのう」


 ご夫婦がニコニコしているので、私も笑顔で挨拶する。

 愛嬌振り撒き担当として任務をこなさなきゃね!



 話をしているうちに乗車のお客さんでいっぱいになった。

 客層は、私達4人、老夫婦2人、若夫婦2人、両親と子供(男の子)2人の家族、背負子を持ったたぶん別々の行商人2人、男性1人の全15人。



 すると御者さんの1人が挨拶を始めた。


「皆様、ピピパライ兄弟の馬車へ御乗車いただきありがとうございます。アーヌエヌエまでの約10日よろしくお願いします。御者は私、兄マウイと弟のマケイ。護衛は冒険者【雷虎の牙】の皆さんです。では出発します」


 【雷虎の牙】は男性5人女性3人の8人パーティーだった。



「それでは出発します。走り出しは揺れるので立ち上がらないでください」



 出発!


 馬車は街道をゆっくり走り出した。






 街道を抜け、整備されていない道に出ると馬車のスピードが上がる。



 ガタガタガタガタ……。



 揺れる。めっちゃ揺れる。



 ガタガタガタガタ…。



 舌噛みそう。

 サスペンション無しだよね?きっと。



 ガタガタガタガタ…。



 おちり、痛い。



 まわりを見ると、皆さん毛布のような物をお尻の下に敷いている。

 それでも痛そう………。



 自分と鳳蝶丸達に座面から1cm浮遊をかける。

 頭が上下するけれど私達は酔わないし、お尻の痛みが無くなるから良し。

 最初ただの浮遊にしたけれど、頭が全く動かず何だか異様だったので座面から浮遊の指定にしたよ。




 外を眺めたり、寝たりしているうちに馬車が減速。そのままゆっくり移動して何かの施設の門に入った。


「休憩用の拠点に到着しました。30分の休憩に入ります。トイレや朝食の購入を済ませてお戻りください。皆様がお戻りにならなくても発車時刻に出発しますのでご注意を」



 外に出る。岩と土の平野と茶色い山々の景色だった。所々に低木や植物が生えているけれど、ちょっと荒野って感じ。

 そこに背の高い縦格子フェンスで囲まれた広い土地があり、大きめの平屋が建っていて、私達はそのフェンスの中にいることがわかった。


「ここは冒険者や旅人、商隊などの休憩拠点だ」

「あの格子柵は岩漿山のドロップ品だね。頑丈で壊れないし魔力を通しやすいから、たぶん雷系の魔法も付与されているよ」

「触れると感電します」

「なゆほど」


 長い距離の移動は、町だけでなくこういう拠点に寄って先に進むんだって。何だかバスツアーの旅行みたいだね?

 拠点が無い箇所は野営すると言う時点でバスツアーじゃなくなるけれど。



 皆さんは平屋に向かって行った。あの場所に携帯食を売るお店とトイレがあるんだって。

 見てみたいので建物に連れて行ってもらうと、他の集団もいるからか長蛇の列。

 そして近付くにつれ漂うトイレスメル………。



 OH………。



「おみしぇ」

「お店が見たいのですか?」

「うん」


 次はお店に連れて行ってもらう。お店はカウンターがあるだけで何も無かった。


「たぶん携帯食と水しか無いと思うぜ」

「金額も高めだよね?姫は買いたい?」

「ううん。おみしぇ、見たたった」

「では、戻ります?」

「うん」



 馬車に戻ってマウイさんに小さなテントを出す許可をもらう。


「いいですが、ゆっくりは出来ませんよ?」

「出発するまでに片付けるから問題ない」

「わかりました」


 念の為3人に1人用トイレテントを渡してある。今回は鳳蝶丸が出してくれた。


「テントがそのまま入っているのか!」


 声をかけてきたのは【雷虎の牙】の男性だった。


「マジックバッグ?容量でかいんだな」

「まあ、そうだな」


 会話は3人に任せてテントに入る。

 外の音は中に聞こえるけれど、中の音は外に漏れないないようにしてあるから安心だよ!

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