第122話 商業ギルドに宿泊するよ(腹に一物あり)

 まだ夜が明けきっていない早朝。

 テントを仕舞い、その場所に"開けるまで時間停止"の木箱を置いた。

 中にはフライヤー8台と魔力満タンの魔石20個、サラダ油(大)、醤油(大)、塩(大袋)、粗挽き黒胡椒(大袋)、鶏ガラスープの素(大袋)をそれぞれ4セット入れた。


 そして「お祭り期間手伝ってくれてありがとうございました。【虹の翼】のお姉さん達と、ご家族の皆さんと、アスナロリットさんに2台ずつプレゼントします」とミスティルに書いてもらい、箱に入れる。

 箱の表には「皆さんへ」と書いておいたので、気が付いたら開けてくれるよね?



 3人が、【虹の翼】邸の周りに動いている人の気配はないと教えてくれたので、その場で転移の門戸を出し、デリモアナのマカマカ海岸を繋ぐ。

 「また戻ってくるね」と小さく呟いて門を潜る。


 これからしばらくは、皆と一緒に冒険の旅に向かうのだ!



 デリモアナは太陽が真上のお昼時だった。

 朝食も食べていないしここで昼食も兼ねて海岸ピクニックをしよう。


 大きな帆布シートを敷き、人ダメクッションを出し、ついでに靴を脱いでのんびりし始める私達。


「何、食べゆ?」

「握り飯と素麺が良いな」

「良いですね」

「素麺って何だい?」

「ツルツルッと食べられて美味い」

「へえ、楽しみ。よろしくね、姫」

「わかた」


 いつものおにぎりセットと硝子の器に盛られたツヤツヤの素麺。

 冷たい麺つゆ、薬味各種、温かい緑茶と冷たい緑茶、冷たい麦茶も用意したよ。


「いたあちましゅ」

「いただきます」×3


 朝食兼昼食をお腹いっぱい食べて、海を見ながらしばらくのんびりした。

 何だか最近ずっと忙しかったもんね。ちょっぴりだけお昼寝もしたよ。幸せ♪




 ではでは、次に行く方向を決めましょう!


「ちゅぱい棒ー!」



 じゃじゃーん!



 気まぐれ突っ張り棒を差し出すと、ミスティルが恭しく受け取る。


「ご用命、承ります」



 ブンッ!



 言葉とともにぶん投げるミスティルさん、流石です。



 突っ張り棒は天高く舞い上がり、放物線を描きながら結構離れた砂浜に落ちた。

 行ってみると砂に突き刺さっている突っ張り棒。意外と壊れないね?

 もう一回投げてもらうためチョンと触れると、ポキッと折れて砂浜に倒れた。


「北東か」

「うん、あそこだね」

「またしぇゆ」

「任せてくれるか?」

「うん!」


 折れた突っ張り棒が刺したのは北東。行き先は3人に任せることにする。

 どこに向かったって私にとっては冒険だから、突っ張り棒の指し示す先であれば何処でも行くよ。


「じゃあ、俺達が決めた場所に行こうか」

「あいっ」


 鳳蝶丸とレーヴァの言う行先に決定!



「折ってしまってすみません」


 ミスティルは少しだけ落ち込んでいた。


「修復しゅゆ。だいじょぶ」


 細かい傷はそのままに、折れた部分を再構成で元に戻す。これで何度でも使えるよ。


「ミシュチユ、こえ」

「修復してくださってありがとうございます」

「だいじょぶ。ちゅぎも、バーンて、投げゆ」

「わかりました」


 フフフ、と美しい笑顔を浮かべるミスティル。

 やっと笑ってくれた。私には再構築・再構成があるから大丈夫だよ。




 4人で話し合った結果、ハロハロから馬車や徒歩でアハーロ王国を横切り、船で別大陸に渡ろうと言うことになった。

 もちろん都合によっては飛行ひぎょうも有り。

 ………いや、寧ろ飛行ひぎょうの方が多いような気がするけれど、まあ、そんな感じで。


 早速気配遮断でハロハロの外れに飛んで、その後はミスティル抱っこで乗合馬車の乗車場に向かった。



 乗車場には大小様々な馬車が停車していた。

 でも何故か馬は繋がれておらず、キャリッジ部分のみ。


「ウララナ行き、あと5人だよ!」

「ポーラポーラ行き!あと3人だよ!早朝出発だ!」


 早朝出発だから馬が繋がれていないんだね。


「すまん。北東方面に行きたいんだがどこ行きに乗ればいい?」


 鳳蝶丸が近くにいた馬車の管理人らしき男性に声をかける。


「ならアーヌエヌエ行きだな。あのデカイ馬車がそうだぜ」

「あれか?すまんな。感謝する」

「おう。次は俺の馬車にも乗ってくれな」

「ああ、機会があれば頼む」


 軽く言葉を交わし目的の馬車に向かう私達。

 後ろを見ていたら、先程の男性と目があったので手を振ってみる。


「気を付けてな」


 男性も笑顔で手を振ってくれた。




 無事アーヌエヌエ行きの切符を買うことができた。

 片道切符で大人1人10万エン。子供1人5万エン。高いのか安いのかよくわからないけれど、3人が特に何も言わないからいいのかな?

 お金は代表で鳳蝶丸が支払っておいてくれた。


 早朝4時頃に集合。出発は4時30分だって。

 明日朝まで時間ができたので商業ギルドに寄ることにした。

 ハンスモンスギルド長からお皿を返してもらわなくちゃね。



「ギルド長はいますか?」


 ギルドカードを見せながら受付のお姉さんに声を掛ける。


「優秀商!コホン、少々お待ちくださいませ」


 受付で待っていると、少ししてハンスモンスギルド長が現れた。


「待っていたよ」

「皿を引き取りに来た」

「うむうむ。どれも尋常じゃないほど美味かったよ」


 そして、籐の籠に入っているお皿を返してもらった。



「それで、いくつか取引をしてもらえんかの?」

「わたし達は明日早く町を出ます。数多い取り引きは難しいですよ」

「えっ!もちっとのんびり取り引きをしたいのだが」

「大口は難しいかな。今この場で出来る取り引きならば可能だよ」

「そ、そうか………」


 ちょっとしゅーんとしちゃった。ごめんね?

 大量に発注されても困るから、簡単な取り引きで許してほしいかな。


「俺達は宿も探さなきゃならんし、夕食もこれからだ」

「それならば!この商業ギルドの上は要人の宿泊も可能となっている。そこを使ってくれんか?食事も用意しよう」

「朝早く出発しますよ?」

「カウンターに誰かしらおるし、そのまま出掛けてもかまわんよ」

「………いいか?お嬢」

「うん」

「では宿泊する。宿泊料と食事代はいくらだ?」

「料金は気にせんでいい。その代わり、良い取引をしていただきたい。ホッホッホ」


 うん、知ってた。

 ここに泊まればより長く時間が取れるもんね?




 ギルド長はまた後で部屋に伺うと言って去り、少しして男性職員がやって来た。


「商業ギルド・ハロハロ支店へようこそおいでくださいました。わたくしは副ギルド長のコクアと申します。お部屋にご案内いたします。こちらへどうぞ」


 コクアさんについて行くと、案内されたのは5階だった。

 ここはちゃんと宿泊施設になっているんだね?


 受付カウンターで宿帳に名前を記入して、一番奥の部屋に案内される。



「わあ!」


 豪奢なお部屋!

 色々な美術品もあり、ヨーロッパの華やかなお城の一室みたいだった。


「まずはお寛ぎください。後ほどお食事をお持ちします」

「あにあと、ごじゃいましゅ」


 私がお礼を言うとコクアさんがニコリと笑った。



 自分達を清浄してソファに座っていると、直ぐに女性が飲み物を運んで来る。


「果実水ですね。どれがいいですか?」

「うんと、こえ」


 鑑定してマンゴージュースをチョイス。

 他はオレンジジュースとプルメリアベリージュース、パイナップルジュースだったよ。



 しばらくしてから食事が運ばれてきた。

 テーブルについて(私はベビー用ハイチェア)、出された食事を満喫する。

 新鮮な魚介類がとても美味しかった、けれど…………。



「んむっ」



 久々のスッパ幼女!



 デリモアナで食べた時と同じ、めっちゃ酸っぱいお酢のサラダ!



 鳳蝶丸、ミスティルの分も含め、無限収納にナイナイした。

 ごめんなさい。




 フルーツ盛り合わせと食後のお茶をいただいていると、ハンスモンスギルド長とコクア副ギルド長がやって来た。


「今お邪魔しても?」

「あい、どうじょ。ご飯、あにあと」

「どういたしまして。お口に合いましたかな?」

「あい。美味ちかた」


 酸っぱサラダ以外はいただきました。



「では早速だが、取り引き出来る品はあるかな?」

「A級魔獣の肉、皮、毛皮。食器類あたりか」

「全て興味深い。肉はどれくらいの量出せる?」

「ゴールデンフォレストボア、ゴールデンフォレストバッファロー、フォレストオークジェネラル、フェロウシャスターキーのドロップ品をそれぞれ30個、クルコッコクイーン、フォレストオークキングのドロップ品それぞれ1個だな」

「フォレストと言うことは、死の森のドロップ品かな?」

「そうだ」

「鮮度は?」

「時間停止のマジックバッグに入っているから問題ない」

「!そうか。時間停止ならば劣化せんな」

「ああ」

「全て買わせていただく。あとで倉庫にご足労願いたい」

「わかった」


 コクア副ギルド長が細かくメモを書いていて、金額の計算をしているようだった。



「毛皮や皮はさっき言った魔獣と、シルバータイガー、ブラウンボア、フォレストバイパーもある。A級は2、30枚。C級以下なら百から3百ってところか」

「ふむ。全て買い取ろう」

「だいじょぶ?」


 そんなに買って大丈夫?結構な金額だと思うよ?


「心配してくれるのか?死の森産は滅多に手に入らないから売り出せば買い手はつく。と言うか、争いになるほどだと踏んでいる。ぜひ買い取りたい」


 そうなの?だったらいいんだけれど。



「次は、食器類をお願いする」

「わかりました」


 食器類の裏やカトラリーセットの箱には[白雪]マークをつけました。

 再構築はしたけれど、再構成でデザインや模様、絵を私なりに違う形へ変更したので許して!職人の皆様!


「まずは白い食器類」


 白くシンプルな平皿とスープボウル、コーヒーカップやティーカップセット。


「ほう。真っ白で歪みも無く美しい。このようなカップなど見たことないぞ」

「こちらは色や絵付きのもの」


 アンティークのティーカップのセット。


「おお、こちらも何と美しいのだ!このティーカップの薄さ!曲線!繊細で儚げで本当に素晴らしい!まるで宝飾品のようだ!」

「ええ、本当に!驚きです」


 ハンスモンスギルド長とコクア副ギルド長が手をワキワキしている。

 ちょっと面白い。


「こちらはカトラリーセット。普段使いと、高級品です」


 シンプルなデザインと、細かい模様入りの美しいアンティークカトラリーセットを出す。


「これは銀か?」

「どちらも純銀です」

「おおぉ」


 そのまましばらく固まるギルド長達。


「普段使いなどとんでもない。これ程均等の取れた美しい形のカトラリーセットなど初めて見ました」

「こちらは何と美しいデザインか。蔦の様な模様が入って、これは使用するより宝として飾れるような高級品だ」


 アンティークのカトラリーセットは、色々な部位に蔦のような模様がついている華やかなもの。

 使用するより眺めていたい美しさだと私も思う。


「売りに出せるものはこれくらいです」


 本当はその他にも沢山あるけれど、ハンスモンスギルド長に見せるのは今のところ止めてここまでにしておこう。

 それに、白雪ビーズや白雪レースは色々協力してくれているフィガロギルマスに1番に販売しようと思っているんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る