第121話 屋号は桜吹雪。商品名は、

 再び現れた私達に軽く驚くフィガロギルマス。でも大歓迎ですと笑ってくれた。



 「やっとその気になってくださったのですね!」

 

 今後何かを売る時にその商品が売り出しても大丈夫な品物かを確認して欲しいとお願いした。

 登録は特に必要ないと言ってみたけれど、今後フィガロギルマスと商業ギルドが全面的に協力する代わりに意匠登録をして欲しいと言われてしまった。


 家具等の意匠登録をすると製作権が販売され、その売り上げの一部が私の手元に届く。

 製作権購入者の支払い方法は『定額払い』『一括払い』『割合払い』の3種類。

 読んで字のごとく、月々支払い、年契約支払い、そして売上の0.5割ほどを支払ってもらうというもの。

 その支払われた金額のうち、6割を登録者、4割を商業ギルドで分けるということになるらしい。


 商業ギルドに全面協力をしてもらうならばギルド側にも利益がないとね。

 地球上の素晴らしい製作者が作ったものであって、私が考えたものじゃないから自分の利益になるのは……と登録を躊躇していた。

 でも、この世界で意匠登録のあるものかどうか、販売してかまわないものなのか等、確認をするためには商業ギルドの協力が不可欠だもの。


 地球に住まうたくさんの皆さまごめんなさい。

 この世界の発展のため、ご協力お願いします。得たお金は何かに役立つことに使用します。

 

 


「お子様用の椅子はどこからも登録がありませんでした。意匠登録の手続きをしてもよろしいですか?」

「あい、おねだい、しましゅ」

「ところで家具図面や部品図などお持ちでしょうか?」


 は!そうか!

 そういうのもいるんだ!


「無いのでしたらお預けいただいて、こちらで作成いたしますが……」

「あるぜ」


 ん?鳳蝶丸さん?


「これでいいか?」



 ええぇ!



 鳳蝶丸が、事細かに書かれたハイチェアの家具図面と部品図を出した。


「鳳蝶まゆ?」

「お嬢から貰ったもので、解体できるものは全部解体済みだ。図面を書いてから組み立てて元に戻したから安心してくれ」


 鳳蝶丸がすごく楽しそうに笑う。

 解体、そして組み立て好きなんだね。うん。鳳蝶丸らしい。

 ちなみにPCやカメラなど、私がまだ魔道具化しないで欲しいとお願いしたものは解体していないって。

 オーバーテクノロジー系はちょっと待っててね。



 家具図面は羊皮紙ではなくプリント用紙。

 手書きの図面をスキャナで読み込んでデータ化し、それをプリントアウトしたらしい。


 どこまでPC使いこなしているんだろう?

 製図ソフトとか3Dソフトとか与えたら大変なことになりそう………。


 やはりというか、何というか、フィガロギルマスが紙にも食いついちゃったよ?

 2枚綴りの注文書で薄い紙は見ているはずなんだけどな。




「ん、んー。失礼しました。では、こちらで意匠登録を行います。少々お待ちください」


 フィガロギルマスが職員さんを呼んで登録の書類を用意するよう指示を出す。

 書類を待つ間、いくつかの質問をしておこう。


「わたち、売ゆ、しぇいしゃくちぇん、たう?」

「お嬢がハイチェアを売る場合、製作権を購入するのか?」

「いえいえ。ゆき様が意匠権の所有者ですので購入する必要はありませんよ」

「なや、売っていい?」

「ハイチェアはお嬢自身が売ってもいいのか?」

「もちろんです」

「これはアンタだったらいくら位で売る?」

「そうですね…。ちなみにゆき様はおいくらと?」

「1脚5千エン」

「それは安すぎます!こちらはウォールナット材ですよね?オッコソルトやダークウォールナットに比べればやや安価ではありますが、それでもウォールナット材は高級木材の部類ですよ?5万エンくらいが妥当です。ましてや御使い様がお作りになった品物ですよ?私ならば百万エンでも安いと思うくらいです!」


 うをうっ!勢い?!


 ベビー用ハイチェア値決めの話し合いは難航し、何とか1脚3万エンで落ち着いた。



 次の質問は、お弁当など食べ物を売る場合は何か登録が必要なの?と言うこと。

 答えはNOだった。

 料理に関しては、家具の意匠登録のようなものは特に無いので問題ないんだって。

 ただ、レシピを登録して購入者があらわれれば収入にはなるらしい。レシピ本を売り出すみたいな感じかな?

 私は商業ギルドカードを所持しているので、お弁当や屋台などで販売することに関しては特に問題ないとのこと。

 良かった、良かった。



 次にアンティークを含むグラスやお皿、カップ、銀製品などの食器類。デザインビーズやチャーム、ビジュー、釦、布地、レースなどのハンドメイド素材を見てもらった。


「こえ、売ゆ、だいじょ……」

「なんと美しい!全て美しい!この歪みのないグラスや陶器!美しいラインの銀食器!そして、何と言ってもこの宝石の如き輝く硝子!」

「チュイシュタユ」


 言いにくいよ!

 仕方がないのでミスティルの手に書いたり話したりしてフィガロギルマスに伝えてもらう。


「クリスタルガラス、というものらしいですよ。装飾品に使うもので天然石とは違うそうです」

「それでもですっ!天然石ではないのにこの美しさ、輝き、歪みのないカット!ああ、なんと美しいのでしょう」


 フィガロギルマスがうっとりとクリスタルビーズを見つめていた。


「こちらも何と可愛らしいのでしょう。こんなに沢山の形があるのですね?樹木や羽、月?これは星ですか?猫、犬、鳥、魚まであるのですね?こちらにはクリスタルガラスが嵌めてあって天然石よりも煌めいて素晴らしいです」

「こちらはチャーム、こちらはビジューと言う物で、装飾品作りに使われるようです」

「釦のデザインも素晴らしい。布地も滑らかで高品質。それとこれは何というものですかっ!」


 ブルブル震えるフィガロギルマス。


「これは………この私が見たこともありません。こんなに繊細で何とも美しい模様。素晴らしい以外の言葉が見つかりません」


 地球では中世頃から作られていたように思うんだけれど、フェリアでは作成されていなかったのね。ちなみに、フィガロギルマスに見せたのはギュピールレースのリボンとドイリーです。

 

「こ、これを全て購入させていただけますか?」

「え?あい、いいよ。わたち、売ゆ、だいじょぶ?」

「はい、もちろんです」


 まず食器類はそれこそ無数にあるものなので、食器そのものには意匠登録を受け付けていないらしい。

 ただし、特徴のあるデザインであれば意匠登録は出来るんだって。

 

 「でも」と言ってレースとビーズを指す。


「これらは商標登録と名称登録をいたしましょう」


 クリスタルガラスやレース自体の販売権、もしくは装飾品に使用する為の製作権がなければ違反となるよう商標登録し、偽物が出回るのを防いだ方が良いらしい。


「見たこともない、世界に二つとない品物は争いや犯罪、偽物の横行など起きやすいですからね」



 わかった、登録する。

 私が発明・製作したものじゃないから心苦しいけれど、争いも犯罪も横行してはならないからね!



「さて。こちらの商品名を決めなければなりません」

「クリスタルガラスではダメなのかい?」

「良いのですが…。漠然とした大きな括りになってしまうので、やはり名称を決めた方が良いでしょう」


 名称?うーん…困った。


「少しだけ時間をくれ」

「わかりました」


 私を中心に円陣を組む。

 鳳蝶丸に「お嬢の名前はお嬢の国でどんな意味になる?」と聞かれたので、父と母がつけてくれた名前の由来は細かい言い回しになるので、それとは別に、響きは"雪"の意味になると伝えた。


「それならば、その言葉に因んだ名前にすれば良いのでは?」

「しょっか!なや、しやゆち、しゅゆ」

「しやゆち?」

 鳳蝶丸の手に文字を書く。


「シ・ラ・ユ・キ、シラユキで合っているか?」

「しよい、ゆちて、意味」


 白い紙に再構成で[白雪]と漢字と、こちらの文字で[白い雪]という意味を表示する。


「これでどうだ?」

「白い雪という意味ですか。[シラユキ]と読むのですね?何とも響きが美しいです。こちらの文字は[サクラフブキ]と雰囲気が似ていますね?」

「同じ字形だと思うぞ」

「ええ、そのようです。ゆき殿らしい美しい文字だと思います。では、クリスタルガラスのビーズとこちらの……」

「レース、だそうだよ」

「ありがとうございます。こちらのレェスを[白雪]と言う名で商標登録し、所有権はゆき殿。鳳蝶丸殿、ミスティル殿、レーヴァ殿は販売及び製作権を登録いたします」


 ふう…。ややこしいことが起こる前に聞いておいて良かった!



「ところでうっかりしておりましたが、屋号の[サクラフブキ]カードを作成いたしますか?」

「ん?それは必要か?」

「必須ではありませんが、偽者が現れた時に皆さまが本物であることの証明となります」

「しょっかぁ」


 ハロハロのギルド長みたいに、この間数か月離れたあの国にいたのにどうやって来たんだ?何て言われる可能性もあるし……と、言ってみる。


 すると、そのカードは商業カードと別に作られるし、不必要な時は提示しなくても良い物で、何かトラブルが起こった時に自分達が本物の[桜吹雪]だと証明できるカードなんだって。


 そういう事ならば登録をしようかな。

 フィガロギルマスの言う通り、偽者が現れる可能性だってあるしね。


「とうよく、ちましゅ」

「ありがとうございます」


 何故か嬉しそうに笑顔を浮かべるフィガロギルマス。

 そして職員さんを再び呼んで書類を追加するよう指示をした。



「あの『サクラフブキ』の印を紙に出すことは出来ますか?」

「うん、出来ゆ。どちて?」

「紙に書かれたままの形をカードに入れられますよ」


 私達のロゴがあのエンボス加工的なカードになるなんて凄い!嬉しい!

 私は再び再構成で桜吹雪のロゴとその横に漢字で[桜吹雪]と表示した。


「この文字を真似するのは難しいと思いますから偽物もわかりやすいでしょう。では紙をお預かりしますね」





 しばらく待っていると各書類を持って職員さんが戻って来る。

 その他にも製作権等が売れた場合の売り上げを貯めておく口座も開設することになった。

 別の町の商業ギルドでもお金を下ろすことは出来ると言われ、口座の金額がわかる魔道具があるの?と聞いたら、口座専用の『文書通信』でやり取りするらしい。


 魔道具使うけれど意外に手作業だった!


 だから、口座を登録した商業ギルドでの入出金は手数料がかからないけれど、別支店でお金を下ろす時は『文書通信』代として手数料がかかるみたい。


 私達はお金を下ろすことがあったらミールナイトに戻ればいいかな?



 ミスティルとレーヴァに書類を書いてもらって手続きが完了。

 登録には数日かかるみたい。でもこれでアスナロリットさんに約束のハイチェアを卸せるからいいよね。


 査定の清算をするときまた来るので、その時に白雪ビーズと白雪レースの販売をすると約束して、今度こそフィガロギルマスにしばしの別れを告げた。




 商業ギルドで登録を済ませたのでもう一度アスナロリットさんのお店に行き、子供用のハイチェアを納品した。

 お安くしようと思ったのに辞退されてしまったよ。

 高級を名乗っているお店だし、良い物をそれに見合った値段で買い取りたいと言われ、結局3万エンで15脚販売しました。




 アスナロリットさんとの約束も果たせたし何だかスッキリした!

 ひと通り終わったのでそろそろ出かけようかな。

 古傷治療や査定の精算、屋号用のカード受け取り、あとダンジョンに入れる許可証(?)を貰いにミールナイトに戻ってくるけれど、しばらくは大丈夫だよね?



 今日はテントで寝ることにして、明日朝早くデリモアナに行こう。

 【虹の翼】のお姉さん達には挨拶したし、何かあれば共有に手紙を入れることになっている。



 良し!お出かけするぞー!おーーー!

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