第116話 めっちゃ短い3カ国行脚と、たこ焼きハァハァ
次はロストロニアンのテーブルへ。
周る順番が今ひとつ分からないけれど、この広場に来た遅い順にする。何かで偉い人が一番遅く来るって読んだことあるから良いよね?
「皆しゃん、いやったい、ましぇ」
深々と頭を垂れるエルフ族の皆さん。
「この度は突然訪問いたしまして申し訳ございません。御使い様にぜひともお逢いいたしたく訪問いたしました。国王陛下もご挨拶に伺いたいと申しておりましたが、所要にて国を空けられず、嫡子である
「あい。あにあと」
「また、スタンピードを止めていただき、深く感謝申し上げます」
「わたち、ちごと。いいのよ。あたたたい、食べて?」
「お嬢のするべきことだったから気にしないでくれ。それより、唐揚げをこのあと出すので揚げたての美味いうちに食べてくれ、とのことだ」
「お気遣い、ありがとう存じます」
次はサバンタリアのテーブル。
ロストロニアンの王子様達と同じような会話をしつつ、少し話しているうちに屋台スタッフ達がやって来る。
【虹の翼】ご家族の皆さんがガッチガチに固まっていた。
アスナロリットさんが優雅に跪くと、皆さんもそれに続く。
「突然の訪問すまぬな。どうか気にせず仕事をしておくれ」
シュレおじいちゃんがにこやかに笑って声をかけた。
「お目通りがかない光栄にございます。
「お目もじ失礼いたします。
「とても美味しいと評判を耳にした。我ら一同、楽しみにしているよ」
「ありがたきお言葉。ご期待に沿えるよう精進してまいります」
「さあ、もう立って、我らにかまわずとも良いぞ」
なかなか立ち上がらない皆さん。
鳳蝶丸が皆の所に行って、屋台に入るよう促した。
「そよそよ、戻ゆ。ゆっくい、食べてね」
偉い人エリアの皆さんは立ち上がって、胸に手を当てお辞儀をした。
私はテーブルに揚げたての唐揚げセットを適当に出し、領主さんに足りなかったら声をかけてと伝えて屋台に戻った。
「ね、ねえ、あの、綺羅びやかな集団は?」
ミクミクお姉さんが声を震わせている。
「ちょうちょうしゃま、あと、王子しゃま、しょえと、へんちょうはちゅ」
「教皇と王太子達と辺境伯御一行だな」
「ギャッ!」
一斉に皆が固まった。
「な、な、な、何で?」
「そんな偉い人と簡単に会えていいの?」
リンダママとミムミムママもガクガクと震えている。
何かごめんね?
「あっちは俺たちで対応するよ。お嬢さん達は心配しないでいいからね」
「レーヴァさん………」
「お嬢さんだなんて……」
「ン、ウン!」
ちょっとポーッとなった奥さん達に咳払いをする旦那さん達。
ウチのレーヴァがごめんなさい!喧嘩しないでね!
「王族など大したことはありません。そこらへんの砂粒と思えばいいんです」
ミ、ミスティルさん?
「とにかく通常通りで大丈夫だ。昨日のように適度に交代しながらたこ焼きを焼きまくる」
「おー!」×皆
「もう、今更だしアタシは驚かない!」
「
レーネ、エクレールお姉さん、もう既に驚いてるよ?
「父さん、母さん、ゆきちゃんの日常はこんな感じだから!」
「驚くだけ、損」
リンダ、ミムミムお姉さん。私の日常は違いますよ?
「あれだけの人物を集合させるなんて、流石ゆきちゃんだね」
そ、そうかな?
ソンナコトナイヨ、ローザオネシャン。
とにかく、今日も1日頑張るぞ!おー!
10時近く。既に長蛇の列が出来ている。
雨だけれど沢山の人が来てくれたよ。
ポールチェーンの長さを更に伸ばしておいて良かった!
広場に入ると雨が降っていないので、皆不思議そうに上を向いている。
私はリンダパパ達に、お客さんが出来るだけ雨の降っていないエリアに並べるよう、誘導をお願いした。
アスナロリットさんとレーヴァがたこ焼きを焼きだす。
一番前のガグルルさんが、楽しそうにたこ焼きの工程を眺めていた。
「そんな作り方見たことないな」
「本当に」
「
アスナロリットさんはガグルルさん達に声をかけられながら、賽の目に生地を切る。そして、クルクルっと転がして丸くしていった。
「曲芸みたいで面白えな」
「まん丸くて可愛らしい」
まん丸だから、何だか可愛く見えるよね?
ニコリと笑うアスナロリットさん。途端に高速でたこ焼きを回し始めた。
「おお!じょうじゅねえ。しゅごい!」
パチハチパチと拍手を送ると照れたように笑う。
「もうすぐ1回目の焼きが終わりますよ」
窓口はエクレールお姉さんとレーネお姉さんに任せ、私は単身、偉い人エリアに顔を出した。
皆さん丁度唐揚げを食べ終わったところだった。
「唐揚げ、大変美味しゅうございました」
「ええ。王族でさえ食したことのない美味なる食事だ、と聞いておりましたが真でございました」
「良たった」
ロストロニアン王子様達がうっとりと言った。
「我ら獣人は肉が好きな者が多いが、こんなに美味い肉は初めてだ」
「片方は……クルコッコの上位種だろうか?」
サバンタリアの王子様が後ろをチラリと見ると、控えていた人が大きく頷いた。
物品等の鑑定出来る人かな?
「どちらも美味しかったのですが、少し濃い色の方は独特な香りがして、大変美味しゅうございました」
「何という調味料ですか?」
枢機卿の人に醤油のことを聞かれた。うまく説明出来るかなあ。
「しょーゆ」
「シヨオウユ?」
「しょ・う・ゆ。しょーゆ」
「ショーユですね?」
「あい」
小皿に醤油を入れて差し出す。
「飲む、ちあう。ちょーい、ちゅたう」
「うん?飲んではいけないのですね?」
「うん」
切ったり混ぜたりする仕草をしながら、「ちょーい」と言ってみる。
「料理か調理ですか?」
「あいっ!」
そう!料理って言いたかった!
「赤いような茶色いような色ですが、何から出来ているのですか?」
「だいじゅ、お豆よ」
「ダイジュ、マメ………大豆ですね?」
「あい!だいじゅ、あゆ?」
「はい、あります。煮て食べたりしますよ」
「しょえ」
「舐めても?」
「どうじょ」
シュレおじいちゃんと枢機卿の皆さんが醤油に小指をチョンと付け舐める。
「ふむ。塩辛いが豊かな風味を感じますな」
「確かに。とても香りが良い」
この作り方は?と聞かれたけれど、詳細はさすがにわからない。
「だいじゅ、ムジ、みじゅ、塩、こーじ……?」
「大豆、ムジ…麦?!水、塩……コージ?」
「コージとは?」
「ちゅくいかた、わたなない。発酵しゅゆ」
「発酵とは、どのような状態でしょう?」
「うーん?わたなない」
「そうですか」
何かごめんね?
この世界の人達に発酵ってどう説明すればいいんだろう?
「ごめんしゃい」
「いえいえ、とんでもない!御使様のお持ちになる知識はとても勉強になります。研究してみます」
「あい、ダンバエ!」
「ダンバエ?」
「エイエイオー!」
「おー!」
シュレおじいちゃんと枢機卿さんたちが、私に付き合い拳を空に向かって上げてくれた。
そうこうするうち、執事さんたちがたこ焼きを買って戻ってくる。
「とても、あっちゅい。フーフーしゅゆ」
念の為、激熱だから火傷に注意と伝えておく。
あっ。
従者さんや侍女さんが、持ち込みのお皿にたこ焼きを並べ始めた。
配膳すると、皆さん半分に割ってめっちゃフーフーしている。
本来、王族が食べ物フーフーなんてすること無いだろうけれど、自分でやってみたいと挑戦してくれた。
それにしても………高級レストランが如く、フォークとナイフでたこ焼きを優雅に切る姿がなんとも………。
ま、まあ、本人がいいなら、いいかな?
「あちゅい、だいじょぶ?」
「冷ましながら食べているから大丈夫だ。庶民的な味と言っていたが、こちらも我々さえ食べたことのない美味なる食べ物だな」
獣人さんはすでに砕けた口調になっていた。
うんうん、それでいいよ。
「こちらはタコですか?」
「あい」
今度はエルフさん。
「噛めば噛むほど味わい深く、とても美味しいです」
「下しょい、大事」
「シタショイ?」
「タコ、しょのまま、生ぐちゃい。おいちい、しゅゆ」
「そのままだと生臭いので、美味しくする方法がある、と言うことですね?」
「あい」
「ゆき様の料理は沢山の工程を経て作られているのですね」
そこに鳳蝶丸がやって来た。
「俺達のストックも無くなりそうだ」
「わかた。じゃあね」
「はい。お忙しい中、ありがとう存じます」
鳳蝶丸抱っこで屋台に戻る。
外は雨にも関わらず、恐ろしい程長蛇の列が出来ていた。
私はすぐに箱と、鳳蝶丸達のマジックバッグにたこ焼きのストックを入れる。
そして、たこ焼きを焼いていたリンダ、ローザお姉さんと、私、鳳蝶丸、ミスティルが交代した。
生地を入れて、じっくり焼きながらタコ入れて、ネギや天かすや紅生姜入れて。
ほんのちょっとだけれど、私も千枚通しで賽の目にカットした。
鳳蝶丸が器用にクルクル丸くして、私も何度かクルクルさせてもらう。
だけれど、1歳児の小さな手では千枚通しが使えない。
私がやったものは生地の一部を傷付けてしまったので、焼けたら売り物から外してもらおう。
大人になったら、また屋台をやりたいな。
その時は自分で作りたいよ。
私が焼いたたこ焼きを鳳蝶丸が綺麗に丸めてくれたけれど、やっぱり売り物からは外してもらった。
「そ、そ、それ、ください」
ん?
私が作ったものを指して、鼻息荒い…ちょっと……かなり大人なお兄さんが言った。
「ハァハァ、可愛い、可愛いよ、ハァハァ、サクラフブキのゆき様!ハァハァ、ファンです!ハァハァ、ゆき様が手ずから焼いた、ハァハァ、その、貴重な、あああぁぁ!」
そしたら、鳳蝶丸が満面の笑みで私が焼いた一部傷ありのたこ焼きを自分の口に放り込んだ。
横から、後ろから手が伸びて、ミスティルとレーヴァもたこ焼きを食べ尽くす。
「申し訳ございません、お客様。わたしが焼いたたこ焼きをお渡しします」
口の端にソースが付いているのにとても美しいミスティルが、極寒な表情で棒読みの接客している。
「姫、ハァハァしている男には気をつけるんだよ?」
レーヴァは真面目な顔で私に注意を促した。
う、うん。気をつける…………ね?
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