第115話 屋台裏のキラキラ集団。キラキラキラキラ…

 少しして団体さんがやって来た。

 雨避けマントを目深に被っていて誰だか分からないけれど、青点だし、問題ある人達じゃ無いと思う。

 先頭を歩いていた人が跪いているギルド関係者に何かを言い、軽く手を振ると皆が立ち上がる。


 そして先頭の人達が空を見て、不思議そうに首を傾げていた。

 ギルド職員さんに何かを話しかけ、私達の方をチラリと見て頭を下げる仕草をする。


 その団体の1人がマントを外すと、領主さんだった。


 他の人もマントを外し、従者さん達がササッと受け取る。

 そして、団体さんの幾人かがたこ焼き列に並び、残りはこちらにやって来た。



 あの耳と尻尾は獣人さんだ!

 領主さんと市長さん、執事さん、従者さん達以外は獣人さんだった。

 あ、ライアン団長発見!



 先頭の獣人さんが跪こうとしたので鳳蝶丸が手で制す。すると手を胸に当て、深々と頭を下げた。


「御前を失礼いたします。わたくしはサバンタリア王が嫡子、スフィル・ワヒドゥ・サバンタリアと申します。お目にかかりましたこと、至上の喜びにございます」

わたくしは第3子、マシャ・サラサ・サバンタリアにございます」

わたくしは第5子、キーリク・ハンサ・サバンタリアにございます」

「はじめまちて、ゆちでしゅ。鳳蝶まゆ、ミシュチユ、イェーバ、でしゅ」

「ゆき、鳳蝶丸、ミスティル、レーヴァだ」


 またしても深々と頭を下げる王子様達。なので、傅かれるのは苦手だし普通にして欲しいと言ってみた。


「ライアンからそのようにお聞きしております。本当によろしいのでしょうか?」

「あい。いいよ」

「御使い様のお心遣い、感謝いたします。では恐れ多いのですが遠慮なくそうさせていただきます」


 緊張気味の表情に笑みを浮かべる王子様達。

 このままこうしているのもナンなので、領主さんに屋台裏の偉い人エリアに案内してもらった。




 少しすると領主さんがまた何処かへ行ったのでお出かけかなぁと思ったら、またしても集団を連れてきた。

 ギルド関係者さん達がまだ門のところにいるし、偉い人かな?



 その集団の皆さんが雨避けマントを取り去ると、今度は眩しっ!って思わず目を瞑ったくらいの美形、エルフの皆さんだった。

 あ!モッカ団長とピリカお姉さん!



 獣人さんの時と同じやり取りを経てまたしても屋台裏に向かってもらう。

 ちなみに第1王子のハールティア・ユクスィ・ロストロニアン、第3王子エレンティール・コルメ・ロストロニアン、公爵家嫡子エンローリア・ロストロニアンと言うことだった。


 ん?第3王子ならば、王子様が少なくとも3人はいると言うことだよね?何となくエルフ族は子供が少ないイメージだったんだけれど。

 気になったので後日鳳蝶丸に「エルフ族は長命だから子が生まれにくいと言うのは違うの?」と聞いたら、確かに生まれにくいけれどハイエルフ程じゃ無いんだって。

 あと、子ができにくいからか平民も重婚を良しとし、特に王族や高位の貴族は沢山の女性と結婚して子供を増やすんだって。

 女性同士で嫉妬しないの?と聞いたら、男女ともそれが当たり前だと思っていて、全く気にしていない様子なんだって。

 一夫多妻も一妻多夫もアリらしい。

 恋多き種族なんだね。す、凄い…。




 またまた領主さんが席を外し迎えに行ったのは、キラキラ青点集団のシュレおじいちゃん達。

 こちらは既に自己紹介してあるので軽い挨拶で終了です。


「シュエおじーたん、おはよ、ごじゃいましゅ」

「はい。おはようございます。本日はお招きいただきありがとう」


 ん?お招き?

 私は特にお招きしていないよ?


「あえ?」

「どうした?お嬢」

「んーん、だいじょぶ。あちや、どうじょ」



 ???

 私が頭の上に?をいっぱい飛ばしながら屋台に向かっていると、ガグルルさんから声がかかる。


「嬢ちゃん、ありゃなんだ?サバンタリアとロストロニアンの王族関係者、ウルトラウス教の教皇関係者に領主。すげーのばかり揃ってるな」

「わたち、わたなない。なじぇ?どちて?」

「招待したのが誰かはわからんが、スタンピードに兵を派遣した国だから声をかけたんだろう」

「獣人族とエルフ族の目的は我が主との顔合わせですね」

「教皇は神託があったと言っていたね。まあ、この国の関係者からも連絡がいったんじゃない?」

「ちょっと待て。嬢ちゃんは各国の要人が会いにくる地位にいるのか?」

「あ」「あ」「あ」


 鳳蝶丸達普通に喋っちゃったよ?

 私に説明してくれたんだろうけれど、ガグルルさんいたよ?



 …………うん、いいや。



 自ら発表はしないけれど、こんなに王族の人達が来ちゃったら隠しきれないよね?


「ガウユユしゃん、おともだち?」

「ん?」

「お嬢の友達でいてくれるか?」

「おうっ、もちろん!嬢ちゃんさえ良かったらな!そして、アンタらは飲み友達だと思っている!」


 ガグルルさんがガッハッハと笑う。

 飲み友達と言われて鳳蝶丸達が嬉しそうに笑う。


「あんたなら、また飲んでも良い」

「そうですね。まだ試していないお酒もありますし」


 やっぱり、ウチの家族と何気に打ち解けているよね?ガグルルさん。


「ドワーフ族は酒に強いからね。俺も仲間に入れて欲しいな」


 女性だけに優しいレーヴァも受け入れた。


「機会があったら飲もうや」


 ウキウキのガグルルさんからの飲み会のお誘い。


「おっいいな。いいか?お嬢」


 鳳蝶丸が嬉しそうに私に尋ねる。

 せっかく飲み友達が出来たんだし、家族達が楽しんでいる姿を見るのは嬉しい。

 もちろん、オッケーだよ!


 私は両手で大きな丸を作った(手が届いてないけれど)。


「ありがとな、お嬢」

「ありがとうございます」

「ありがとう、姫」

「いやあ、嬉しいよ。ありがとうな。あ、費用はちゃんと払うからな」


 ガグルルさんが律儀に申し出てくれた。費用は出さなくてもいいよ?


 鳳蝶丸達は、いつかどこかのタイミングで、お互いの都合が合う時飲み会をしようと約束していた。

 次にこの町に来る時にでも会えたらいいね?


 って、あれ?私の正体の話が無くなっている。ガグルルさん的には特に問題ないのかな?




 私達は一旦屋台へ。

 屋台裏の偉い人エリアを見ると、めちゃくちゃキラキラしていた。


「ゆき殿。お手を煩わせて大変申し訳ありませんが、飲み物を売ってくださいませんでしょうか?費用はわたくしがまとめてお支払いいたします」

「あい、いいよ」


 領主さんがホッとした顔をした。


「こえ、皆に、見しぇて」


 前に使った飲み物のメニューをいくつか出す。

 領主さんの執事さんが丁寧にお辞儀をして受け取り、オーダーを聞きに行った。


「あの。今更ですが、飲み物をお願いするなど失礼をいたしまして申し訳ありません」

「お嬢に不遜な態度を取らなければいい」

「ただし。嫌だと言ったことを強引に進めないよう注意しなさい」

「我が姫はとても寛大だけれど、俺達が否と思えば容赦しないからね」

「は、はい。肝に銘じます」

「でも、買う、いいよ」

「ありがとう存じます。あの、では、昨日の唐揚げはお売りいただけませんでしょうか?」

「庶民の味、いいの?」

「昨日の唐揚げも今日のたこ焼きも、わりと庶民の味だがいいのか?」

「はい。もちろんです」


 そうなの?

 じゃあ良いけど。



 屋台から出ると、皆さん一斉に立ち上がり頭を下げる。そんなに恭しくしなくても良いのに。

 仕方がないから挨拶しよう。


「おはよ、ごじゃいましゅ」


 皆さんが更に頭を深く下げた。


「頭、上げゆ。わたち、ふちゅう、いい」

「お嬢は畏まったことが好きじゃ無いから皆普通にしてくれ」

「主に無理強いしなければ良いです」

「さあ、座って、座って」


 レーヴァが言うと、皆さんやっと座ってくれた。



「ひとちゅ、わたち、屋台しゅゆ。皆しゃん、相手、出ちない」

「これからお嬢は屋台で忙しくなるからアンタ達の相手は出来ない。ここで飲食するのは良いが、たこ焼きは従者なりに並ばせて買ってくれ」


 皆さん何故か真剣な顔で頷いている。


「ひとちゅ、屋台、食べ物、庶民食べゆ。えやいちと、食べない」

「屋台で出す食べ物は庶民的な食べ物で、王族や貴族が口にするような食事ではありませんが、承知してください」

「承知しております」

「ひとちゅ、おしゃけ、やしゅいもの。こうちゅう、ちあう」

「酒は安価で買えるもの。今日は高級なものは出さないからね」

「御意のままに」



 う、うーん。いいのかな?

 …………ま、いいか。



「シュタッフ、来ゆまで、おはなち、しゅゆね」


 偉い人エリアに、打ち上げの時使ったテーブル(テーブルクロス付き)を出して、ビールサーバーと赤・白ワイン、ウイスキーと炭酸水、その他ソフトドリンク等を出す。


 すぐに執事長さん(たぶん)が来て、その他の従者や侍女さん達に指示を出す。

 鳳蝶丸が執事長さんにビールサーバーの使い方、美味しい注ぎ方を伝授して、あとはお任せにした。




 まずは教皇様……シュレおじいちゃんのところへ行く。


「シュエおじーたん」

「おお!ゆき様」

「しゃま、いなない」

「様はいらんと言っているぜ」

「では、ゆきちゃん」

「あい!」

「可愛いのう。孫の小さい頃を思い出すのう」


 シュレおじいちゃんが頭をゆっくり撫でてくれた。


「皆しゃん、いやったいましぇ」

「お逢いすることが出来て大変嬉しゅうございます」

「あい」


 お付きの人だと思っていた人達は、首席枢機卿や司祭枢機卿、つまり一番偉い人と次に偉い人達なんだって。


「御使い様にお声をかけていただけるとは、何たる至福」

「その可愛らしいお声は我らの福音」

「おお、神よ!」


 うーん……凄く恥ずかしいよ。


「皆しゃん、あにあと。シュエおじーたん、この間、あにあと」

「ああ、大丈夫ですよ。しかしあれは……ンッフッ。凄い天罰ですな」

「うん。楽ちい」

「楽しいですか。ハッハッハ」


 シュレおじいちゃんがまた頭を撫でてくれた。



 この時教会関係者達は、一見微笑ましいけれど、恐ろしい天罰だと思っていた。

 体が1時間動かなくなるのが魔獣の前だったら………。

 この小さな御使い様はやはり神の眷属なのだと改めて敬慕し、また怒らせてはならない存在だと畏怖するのだった。

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